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プロローグ

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目の前の少女は小刻みに震えながら私の婚約者の腕を絡ませている。
その婚約者も少女をかばい、左隣の筋肉馬鹿と右隣のIQ3の天才魔術師が私の指摘に噛みついた。
「ひどいです。平民も貴族も平等ですよ。そんなひどい物言いで国民を虐げるなんてひどいです。ねえランドルフ様」
「あぁミーヤは優しい子だな。お前もミーヤの三分の一のやさしさがあればよかったんだがな。この冷血女は……」
「本当だ。不愛想で愛想がないし、金ばかりに執着する汚い女だ」
「ミーヤはかわいいな。僕があんなやつやっつけてあげるね」
それぞれ、言いたい放題言っているのを右から左に受け流し、扇で口を隠し建物の装飾を眺めていた。
いやいや、あまりにもテンプレ悪役令嬢ものじゃないかと扇で仰ぎ、あの高そうな壺はどこの工房の作品だろうかと思案した。
といってもこの物語の記憶はないため、攻略本もなく完全に情報がないといううわけだ。
だが、こいつらが現状の敵であることだけがわかる。
さてどうしようかとため息をつく。
「ねえきいてるの?」
「聞いていないわ。礼節もない人と話すことはしないの」
「貴様!礼節がないのは貴様だろ」
「まあ、格下貴族から声をかけるのはマナー違反なのを知っていて言ってるんです?まぁ、少し前まで庶民だったのだから知らないのもしょうがないわね。これからしっかり覚えていきなさい」
扇で口を隠し、ぎろりと少女を睨むと、少女はびくりとわざとらしく体を揺らし再び私の婚約者の腕に抱き着いた。
私は彼ら無視し、その場を後にした。後方から何か罵声が飛んできたが綺麗な姿勢で廊下を歩いていく。

自宅に戻ると執事長が父が機嫌悪そうに私を待っているそうだ。
落ちつた色合いの大きな扉を開け、眉間に手を当てている父がいた。
「父上、あなたの愛娘マーニーが帰ってきましたよ」
「何が愛娘だ。第二王子との関係が悪化についてどうかと思うが」
「まあ、我がマクラクラン家は何事も完璧をもって良しとするが家訓でしょう。父上私に任せてください」
「……わかった何か考えがあるようだな。だが、成果がでなかったら私が介入するぞ」
冷めきった紅茶をすする父上を一瞥し部屋をでる。

そして自分の部屋へ戻り、下女に温かいレモンティーと小粒なチョコレートを用意させた。
「といっても何も考えてないのよね」
そう、我が家訓の完璧をもって良しとするが、そもそも何も考えていなかった。
チョコレートを一つ食べ、頭にエネルギーを巡らせる。
「あいつも筋肉馬鹿もアホ魔術師も顔だけはいんだよな……。女にだらしないことを除けば……」
いや、自分の立場の分からないアホも追加だ。
さてと、一つだけ私はあまりにも抽象的な作戦を考えた。

「男どもはしっかり躾けてからつかってあげないとね」
お母様が私に何度も言った言葉を思い出し、机の引き出しの中にある乗馬鞭を手にとり、おもむろに近くの壁を叩く。
乾いた皮と風を切る音がし、外から下女と騎士が入ってきた。
「マーニー様大きい音がしましたが、大丈夫でしょうか」
「えぇ大丈夫よ。鞭の調子を確かめていたの」
「あっそうなんですね、あっマーニー様」
私の一番信頼できる下女のリリーは、丁寧に結ばれた赤毛をゆらし顔をかわいらしく赤くしメイド服の裾を握りしめた。
同じく我が家の騎士団のロイドは、私のお付きの騎士である。
がっちりと筋肉がつまっていながら、目元涼しげなグレーアイに黒い長い髪は後ろで結ばれている。
リリーよりも露骨ではないが、その目は情欲がうかがえる。
まったく騎士のくせに欲しがりだと思い、私はリリーに新しいヒールの靴を用意させた。
リリーとロイドに裸で尻を向けるようにいい、私はその尻に向けて鞭をふるった。

リリーとロイドの欲を発散させた後、二人はぐったりと私のソファに上半身をうずめていた。
下半身はだらんと床に投げ出していた。
「さて、お気に入りを可愛がってあげたら、頭がすっきりしたわ。とりあえず情報がないと何にもできないわね」
情欲の余韻を味わい、まどろんでいたリリーの顎に手を滑らせ、だらしなく舌を出しているリリーに舌を絡ませる。
唾液が垂れることを厭わずリリーの赤い舌をもてあそぶ。
「リリー、お願いがあるの。ミーヤ・リンベルのこと調べてもらっていいかしら。なぜ庶民から貴族の養子になった理由とかね。
隠れてこそこそ工作する必要もないわ。堂々と私の名前で調べてもらって結構。どうせ、あのアホ魔術師の索敵に引っかかるでしょうしね」
リリーは小さく了承の言葉を紡ぐとぐったりと力尽きた。
私は、すっかり冷えて渋くなってしまった紅茶を体に流しこんだ。
「そうね。最初の獲物はあいつにしましょう。その索敵能力はめんどくさいわ。こっちのものにしたら楽だしね」
楽しみとばかりに汚れてしまった鞭を磨いた。
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