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もう一度
しおりを挟むキィィーー。音とともに戸が動き中からしらゆきが顔を覗かせました。
「あなたは、だれ?」しらゆきは少年を見つめました。
誰という質問に少年は答えられませんでした。鏡はうまれてはじめての答えられない問いに戸惑い恐れを抱いて下を向いてしまいました。
しかし姫さまのことを想うと勇気が湧いてきてグッと顔を上げ、しらゆきに真摯に頼み込みました。
「僕は中で眠っておられる彼女に会いにきたのです。どうか話をさせてもらえませんか」
しらゆきは、少年の目から真剣さを受け止め中へと通しました。
キシキシと軋む床を進み、右と左から小人達の視線を浴びながら少しずつベッドへと歩み寄りました。
真っ白なシーツの上にはうつくしい、うつくしい人が冷たくなっていました。
その手に触れ、顔をよく眺めました。
ほんのりと色付いていた頬は見る影もなく生を失い、唇は薄い紫に染まっていました。
蝋人形のようになってしまったその顔に少年は笑いかけました。
「姫さま、姫さま。聞こえますか?」
問いかけは小屋の中に響き、しかし誰も答えることはありませんでした。
少年は、目に熱いものがこみ上げてくるのを感じました。熱い、熱いーー。血の滲む足よりも血の止まらない手の腹よりも、痛い熱さでした。
「姫さま、姫さま。僕は真実を語っていませんでした。姫さまは僕に尋ねてくれていたのに、僕は僕の真実を伝えてきませんでした」
いよいよ目は燃えるように熱くなり、今にも熱が流れ落ちていきそうになりました。少年は必死にそれをこらえ、声をかけました。
「もう一度だけでいい、僕に尋ねてくれませんか?」
ポタポターー。
抑えきれなくなった粒達が姫さまの頬に落ちていきました。
すると、なんということでしょう。その涙から光が溢れ出し姫さまの頬に色が戻ってきました。
唇は赤く、長いまつ毛が潤いそして蝋のようだった肌にはふっくらとした柔らかい表情が現れました。
重いまつ毛がゆっくりと持ち上がり、赤くうつくしい瞳が姿を見せました。
「……鏡よ、鏡。一番うつくしいのはーー」
「それは……姫さまです。僕にとっては何よりも、姫さまがうつくしい。一番、うつくしい」
その言葉を聞いた姫さまは優しく、夜に咲く月のように柔らかく笑ったーー。
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