仔犬ストーカー

崎矢梨斗

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 響の見下ろす眸と視線が絡んだ瞬間、リルは安堵を覚えて大きく息を吐いた。
 身体から自然と力が抜ける。
「リル」
 もう1度呼ばれた。
 返事はできなくて、代わりにリルはしがみつく手に力をこめた。
「好……き……」
 ようようにそれだけを伝える。
 聞こえたに違いない。
 それまでとは違う荒々しさで、リルの身体は突き上げられた。
 強い力で腰を縫いとどめられ、なんども突き上げられる。
「あっ……あうッ、……く……ん、んん」
 次々と全身を駆け巡る快感の波にリルは翻弄される。
「ヤッ、……あ……っ……」
 嫌々と首を振るが許してもらえない。
 どうしようもなく感じた。
 最奥を穿つモノがズルリと引き抜かれ、また奥を目指し絡みつく襞を掻き分けてくる。
 快感へ揺れる腰へ容赦なく叩きつけられる熱情に、リルは息も絶え絶えになった。
「……くっ……あ……っ……、あ……」
 揺さぶられ声をあげる。
 長い時間をかけ嬲られた身体は力を失い、されるがままに快感を引き出されていく。
「ダメ……、……もう……」
 堪らないとリルは訴えた。
 切羽詰ったような息が響の咽喉から漏れる。
 限界が近いのだ。
 早いピッチで突き上げられる。
 いっそう深い部分を抉られた瞬間に、ガクガクと全身を波立たせてリルは果てていた。
 同時に中で熱いモノが放たれる。
 響もまた達したのだと、朦朧もうろうとする意識の中でリルは幸福感とともに感じていたのだった。



   × × × × ×



 バイトを終えた響が、居酒屋の裏口から出てきた。
 深夜とあって人通りは少ない。
 周りの店はほとんど閉まっていたし、間もなく最終電車がきてしまうような時間だ。
 酔ったサラリーマンやコンパを終えた学生が時折ふらふらと通り過ぎていく。そんな時間だった。
 店を出た響はぐるりを見渡す。
「―――リル」
 暗闇の向こうへ、不意に声をかけた。
「いるんだろ? 出てこいよリル」
 しばらくすると物陰からちょこんと、小さな頭が顔を覗かせる。
「早く来いって。のんびりしてたら最終電車逃しちまう」
 おいでと促すように差し伸べられた手に、駆け寄ったリルはくすぐったそうにはにかんで、自らの手を重ねた。
 今日は響が電車を使ったから、当然リルも電車だ。
 ふたりの関係がかなり縮まったとは言え、やっていることは相変わらずのリルだった。
「ここのバイト期間があと少しで終わりだからさ、次は昼間だけのバイトにしてみるかな」
 響が言う。リルはその表情をキョトンと見上げ、首を傾けた。
「どうして?」
「夜中までバイトで講義受けてなんてのは正直キツイし、レポートなんかも遅れるしな。それに……」
 響はクスリと笑んで、見上げてくるリルの額をちょんと小突いた。
「夜中にお前が独りで暗がりをうろちょろしてるなんて、危なっかしくてさ。バイトどころじゃなくなりそうだ」
 突かれた額を手で押さえ、リルは真っ赤になる。
 本気だか冗談だか、全くもって解らないけど。
「ヤベ! マジで最終電車来ちまうよ。走るぞリル」
 ギュッと握られた手を、コクンと頷き握り返して。
 他よりも数段明るい駅の構内へ向かって、ふたりは全速力で駆けていくのだった。



          **END**
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