仔犬ストーカー

崎矢梨斗

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「訊きたいことが、まだ残ってんの」
 ほらほらとデジカメを、リルには届かない位置でチラつかせる。
 頭1つ分背の高い響が相手では、到底勝ち目はない。リルは恨みがめしい上目遣いで響を見上げた。
 勝ち誇った眸を、響はリルへと向けてくる。
「学校のことは解った。講義の時間に詳しいのも、同じ大学なら調べようだってあるしな。でも俺のバイトにまで詳しいのはなんでだ?」
「響くんが友達と話してるの聞いたし。『昨日は帰りが1時過ぎて、寝たの3時だった』とか。場所も、あの居酒屋に行ったことあるし」
 行ったことがあるではなく、ほぼ連日通っているが正しい。
 リルの言葉にフムフムと、まあ納得はして響は頷いた。
「バイトのことも、じゃあ良しとしよう。けどな、休みの日の起きた時間や誘いの電話があったなんてのは? なんで知ってた?」
「だって響くん、朝起きたら真っ先にカーテン開けるし、あの日はすっごくイイ天気だったから窓も全開にして、携帯持って外見ながら話してたよ」
「―――……見てたのか?」
「うぁっ……えーと」
 はい、見てました。
 けっこう、いつでも見てます。
 シュンと項垂うなだれるリルを前に、響は胡乱うろんを細めた。
「……やっぱ消す」
 デジカメを操作する。リルは慌てて響の腕にしがみついた。
「わー! ダメ!! 全部消しちゃダメッ!!」
「全部って、どれだけ撮り貯めてんだよ!?」
「ちょっとだけ! 数枚だけ!」
「嘘つけッ! 待てよ、全部……ッ」
 消してやると叫び損ねた響の手の中で、デジカメが次々とスナップ再生。
 出るわ、出るわ、響の顔写真のオンパレードだ。
 アップから風景に霞むほど小さいもの、後姿に上半身、全身バッチリ写ったセミヌードまで。
「これはヤベーだろ」
 とある1枚で、響が顔を真っ赤に染めて項垂れた。
 いわゆるシャワーシーン。
 もちろん全裸だが、幸か不幸か下半身の際どい部分が死角となっている。
「お前、こんな写真なんに使う気だよ?」
「つ……使うって、なにも……」
「オカズにしたりしてんじゃねーよな?」
「オカズって……なに?」
「夜のオ・カ・ズ」
「……?」
 わざわざ強調して言う響の意図を完全に無視して、リルはキョトンと首をかしげた。
 マジボケか、天然か。
 ―――というより、本当に知らない。
 こと響に関しては、アイドル追っかけ気分のリルなのだ。
 そんなリルの態度に剥きになったのか、響が赤味の冷めない顔をグイと近づけてきた。
「ヌクぐらいはするだろ? 男なんだから」
「ヌクってなに?」
「こういうこと」
 あっという間もなく、リルの身体はラグマットの上に転がされた。その上に響の身体が伸し掛かってくる。
 荒っぽく手がリルの服を剥ぎ取った。
 上半身を顕わにされても、リルはキョトンと眸を丸くしたままだ。
「俺のだけじゃ不公平だから、お前のも撮っといてやるよ」
 写真の話しかと解った時には、デジカメを向けられフラッシュがたかれていた。
「良いアングル。わりとそそるよな」
 薄く笑う響は、今までリルが見たことのない表情をしている。
 ひどくセクシーなのだ。

 うわーん、デジカメぇ!
 シャッターチャンスなのにぃ!!

 まだこんなボケボケなことを思っているリルは、この時自分のおかれている状況を全く理解していなかった。
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