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響が言ったとおりアパートはすぐ近くにあって、ものの5分とかからずバイクはその場所へと着いた。
「ここの2階」
メットを外しながら響が教える。
「う……うん」
知ってますとも言えず、リルは同じようにメットを外して建物を見上げた。
角から3つ目の部屋。さすがに入ったことはまだないけども。
入れちゃうんですか?
お招きいただけちゃうんですか、もしかして?
「部屋、散らかってっけど」
「あ……う、うん」
そんなの全然、気にもなんないです。
本当、全く。
夢にまで見た響くんの部屋なんですから!!
それもご本人様のお許しをもらって入れちゃうのだ。
足下はフワフワしちゃってるし、頭の中はお花畑。蝶がヒラヒラ舞踊ってるような、なんとも夢見心地だ。
「お邪魔します」
ペコリと律儀に頭を下げて、リルは靴を脱ぎ揃えて部屋に上がった。
雑誌が数冊無雑作に床へ置かれているほかは、想像したよりも綺麗に片付けられている。
キッチン、バス、トイレ付きの学生向けワンルーム。
ベッドに机、テレビにコンポ、それらが収まりよく配置され、中央にはラグマットとクッション。センス良く整えられた部屋だった。
「ちょっと待ってろ」
クッションの1つを手渡され、ラグマットの上にチョンと座ったリルに言い置いて、響は部屋に備え付けのクローゼットの中をあさりだす。
キョロキョロと部屋の中を隈なく見ていたリルは、ハタと自分の失敗に気づいた。
しまった! マイク持って来るんだったぁ~。
小型マイクだ。
なんに使うって、もちろん盗聴器を仕込んじゃうのだ。
部屋にあげてもらえるなんて、こんなチャンス2度とないかも知れないのに。
あうあうと胸の裡で咽び泣いていると、救急箱を手にした響がリルの元へ戻ってきた。
「どうした?」
「な……なんでも……」
「そっか?」
訝(いぶか)しみながらも、「なんでもないからイイか」と軽く息をつく。
そんな表情までカッコイイ!
心配させたり、気にかけてもらったり。
なんて勿体ないことなんでしょう。あうあう。
さらに咽び泣いているリルの様子にはあえて触れずに、響は手を差し出した。
「そっちの手、貸してみな」
「手ぇ?」
「なに驚いてんだよ。傷の手当するんだろ。ほら」
早くしろと差し伸べられる響の手に、リルはおずおずと自分の手を重ね置いた。
軽く引き寄せられる。
「うわわ」
「こら、逃げんなって。痛くしねーから」
真っ赤になって手を引っ込めようとしたリルの仕種を勘違いして、響がそんな風に言ってくる。
響の手当ては手際よく進む。
大人しくリルはされるがままになった。
「ここの2階」
メットを外しながら響が教える。
「う……うん」
知ってますとも言えず、リルは同じようにメットを外して建物を見上げた。
角から3つ目の部屋。さすがに入ったことはまだないけども。
入れちゃうんですか?
お招きいただけちゃうんですか、もしかして?
「部屋、散らかってっけど」
「あ……う、うん」
そんなの全然、気にもなんないです。
本当、全く。
夢にまで見た響くんの部屋なんですから!!
それもご本人様のお許しをもらって入れちゃうのだ。
足下はフワフワしちゃってるし、頭の中はお花畑。蝶がヒラヒラ舞踊ってるような、なんとも夢見心地だ。
「お邪魔します」
ペコリと律儀に頭を下げて、リルは靴を脱ぎ揃えて部屋に上がった。
雑誌が数冊無雑作に床へ置かれているほかは、想像したよりも綺麗に片付けられている。
キッチン、バス、トイレ付きの学生向けワンルーム。
ベッドに机、テレビにコンポ、それらが収まりよく配置され、中央にはラグマットとクッション。センス良く整えられた部屋だった。
「ちょっと待ってろ」
クッションの1つを手渡され、ラグマットの上にチョンと座ったリルに言い置いて、響は部屋に備え付けのクローゼットの中をあさりだす。
キョロキョロと部屋の中を隈なく見ていたリルは、ハタと自分の失敗に気づいた。
しまった! マイク持って来るんだったぁ~。
小型マイクだ。
なんに使うって、もちろん盗聴器を仕込んじゃうのだ。
部屋にあげてもらえるなんて、こんなチャンス2度とないかも知れないのに。
あうあうと胸の裡で咽び泣いていると、救急箱を手にした響がリルの元へ戻ってきた。
「どうした?」
「な……なんでも……」
「そっか?」
訝(いぶか)しみながらも、「なんでもないからイイか」と軽く息をつく。
そんな表情までカッコイイ!
心配させたり、気にかけてもらったり。
なんて勿体ないことなんでしょう。あうあう。
さらに咽び泣いているリルの様子にはあえて触れずに、響は手を差し出した。
「そっちの手、貸してみな」
「手ぇ?」
「なに驚いてんだよ。傷の手当するんだろ。ほら」
早くしろと差し伸べられる響の手に、リルはおずおずと自分の手を重ね置いた。
軽く引き寄せられる。
「うわわ」
「こら、逃げんなって。痛くしねーから」
真っ赤になって手を引っ込めようとしたリルの仕種を勘違いして、響がそんな風に言ってくる。
響の手当ては手際よく進む。
大人しくリルはされるがままになった。
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