仔犬ストーカー

崎矢梨斗

文字の大きさ
上 下
3 / 8

*3*

しおりを挟む
 響が言ったとおりアパートはすぐ近くにあって、ものの5分とかからずバイクはその場所へと着いた。
「ここの2階」
 メットを外しながら響が教える。
「う……うん」
 知ってますとも言えず、リルは同じようにメットを外して建物を見上げた。
 角から3つ目の部屋。さすがに入ったことはまだないけども。

 入れちゃうんですか?
 お招きいただけちゃうんですか、もしかして?

「部屋、散らかってっけど」
「あ……う、うん」
 そんなの全然、気にもなんないです。
 本当、全く。

 夢にまで見た響くんの部屋なんですから!!

 それもご本人様のお許しをもらって入れちゃうのだ。
 足下はフワフワしちゃってるし、頭の中はお花畑。蝶がヒラヒラ舞踊ってるような、なんとも夢見心地だ。
「お邪魔します」
 ペコリと律儀に頭を下げて、リルは靴を脱ぎ揃えて部屋に上がった。
 雑誌が数冊無雑作に床へ置かれているほかは、想像したよりも綺麗に片付けられている。
 キッチン、バス、トイレ付きの学生向けワンルーム。
 ベッドに机、テレビにコンポ、それらが収まりよく配置され、中央にはラグマットとクッション。センス良く整えられた部屋だった。
「ちょっと待ってろ」
 クッションの1つを手渡され、ラグマットの上にチョンと座ったリルに言い置いて、響は部屋に備え付けのクローゼットの中をあさりだす。
 キョロキョロと部屋の中をくまなく見ていたリルは、ハタと自分の失敗に気づいた。

 しまった! マイク持って来るんだったぁ~。

 小型マイクだ。
 なんに使うって、もちろん盗聴器を仕込んじゃうのだ。
 部屋にあげてもらえるなんて、こんなチャンス2度とないかも知れないのに。

 あうあうと胸の裡でむせび泣いていると、救急箱を手にした響がリルの元へ戻ってきた。
「どうした?」
「な……なんでも……」
「そっか?」
 訝(いぶか)しみながらも、「なんでもないからイイか」と軽く息をつく。

 そんな表情までカッコイイ!

 心配させたり、気にかけてもらったり。
 なんて勿体ないことなんでしょう。あうあう。
 さらに咽び泣いているリルの様子にはあえて触れずに、響は手を差し出した。
「そっちの手、貸してみな」
「手ぇ?」
「なに驚いてんだよ。傷の手当するんだろ。ほら」
 早くしろと差し伸べられる響の手に、リルはおずおずと自分の手を重ね置いた。
 軽く引き寄せられる。
「うわわ」
「こら、逃げんなって。痛くしねーから」
 真っ赤になって手を引っ込めようとしたリルの仕種を勘違いして、響がそんな風に言ってくる。
 響の手当ては手際よく進む。
 大人しくリルはされるがままになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

23時のプール

貴船きよの
BL
輸入家具会社に勤める市守和哉は、叔父が留守にする間、高級マンションの部屋に住む話を持ちかけられていた。 初めは気が進まない和哉だったが、そのマンションにプールがついていることを知り、叔父の話を承諾する。 叔父の部屋に越してからというもの、毎週のようにプールで泳いでいた和哉は、そこで、蓮見涼介という年下の男と出会う。 彼の泳ぎに惹かれた和哉は、彼自身にも関心を抱く。 二人は、プールで毎週会うようになる。

淫らな粒は次々と押し込まれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

青年は淫らな儀式の場に連行される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

雄牛は淫らなミルクの放出をおねだりする

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...