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繁華街での揉め事なんて日常茶飯事で、だから常なら気にも留めないとこなのに。
この時ばかりは違った。
キャンキャンと喚くおばさんと、年の若いおまわりさん。そんなふたりに行く手を阻まれ困惑しているのは、あろうことかリルのお目当て『響 京』その人だったのだ。
こっそり影から見守るなんてできっこない。
彼が、あの響 京が、引ったくり犯の濡れ衣を着せられようとしているのだから。
最近この辺りでは引ったくりが何度もあって、背格好が彼によく似ているというのだ。
「3日前に私の鞄もひったくったのよ!」
この男がやったに違いないと、おばさんは言い張る。
「あんただったわよ。間違いないわッ」
バイクで、メットをかぶった、黒のライダージャケットの男。
だからさっさと盗った物を返しなさいと、おばさんは言うのだが。
そんなはずないでしょう!?
藤谷リルは、もういてもたってもいられなくなった。
だってだって、あの響くんがだよ、引ったくりなんてそもそもするはずないじゃない!
女の子が川に落とした麦藁帽子、取りに行ってあげちゃうような人なんだよ。
足下に擦り寄ってきた野良猫なんか、笑顔で抱き上げちゃうような人なんだから。
それにおばさん、メットかぶったっていう男の顔、ちゃんと見たわけ?
響くんみたいなハンサムさん、そんじょそこらにちょっといないよ!?
なのにおばさんの言葉を真に受けて、おまわりさんは響を連れて行こうとしている。
「詳しいことは交番で聞くから」
「でも俺、引ったくりなんてやってねーし、ここにだって来たの久しぶりで……」
「こらこら、抵抗すると君の立場が悪くなるだけだぞ」
「いや、俺、本当に違うから」
このままじゃおまわりさんに連れて行かれてしまう。
リルは慌てた。大慌てで物陰から飛び出し、思いっきりこけて手とか擦りむいたりしたけど、そんなことに構っちゃいられない。
「待ってください!」
わたわたと駆けて行って、おまわりさんの腕にしがみついた。
「違います、本当に! 響くんは引ったくりなんてやってないです!」
だってだって、ここに来たのが久しぶりだって言ったのは本当だし。3日前だって……。
「このレンタル屋さんに来たのは2週間ぶりだし、ずっとバイトで駅3つ向こうの居酒屋さんに夕方5時から深夜1時まで行ってたんですよ。3日前だって行ってました」
「夕方5時からなんでしょ? 私が引ったくりにあったのは午後3時頃よ」
それみたことかと得意そうなおばさんに、負けじとリルも声を張り上げる。
「3日前なら午後から休講になったから大学を出たのは1時半で、それから4時まで友達とカラオケに行ってました。ここから駅4つ向こうの『エコカラ』ってお店です」
「5日前にも……」
おまわりさんも参戦。ところがこれにもあっさりリルは答える。
「5日前なら大学が休みだったから朝11時まで寝てて、友達から呼び出されてランチとその後映画で3時半まで。そこから別の友達とも合流してバッティングセンターで5時半まで。そのまま呑みに行ったから帰りは深夜の2時でした」
なるほどと反論もできず黙ってしまうふたりを前に、リルは得意満面。
唯一疑いの眼差しを向けたのは響だ。
「おい、お前、なんでそこまで俺のこと知ってる?」
なんだか剣呑な眼差し。
睨まれリルは冷や汗をかいた。
「えーと、その……」
助け舟だったはずなんですが。
あ、あれれ??
この時ばかりは違った。
キャンキャンと喚くおばさんと、年の若いおまわりさん。そんなふたりに行く手を阻まれ困惑しているのは、あろうことかリルのお目当て『響 京』その人だったのだ。
こっそり影から見守るなんてできっこない。
彼が、あの響 京が、引ったくり犯の濡れ衣を着せられようとしているのだから。
最近この辺りでは引ったくりが何度もあって、背格好が彼によく似ているというのだ。
「3日前に私の鞄もひったくったのよ!」
この男がやったに違いないと、おばさんは言い張る。
「あんただったわよ。間違いないわッ」
バイクで、メットをかぶった、黒のライダージャケットの男。
だからさっさと盗った物を返しなさいと、おばさんは言うのだが。
そんなはずないでしょう!?
藤谷リルは、もういてもたってもいられなくなった。
だってだって、あの響くんがだよ、引ったくりなんてそもそもするはずないじゃない!
女の子が川に落とした麦藁帽子、取りに行ってあげちゃうような人なんだよ。
足下に擦り寄ってきた野良猫なんか、笑顔で抱き上げちゃうような人なんだから。
それにおばさん、メットかぶったっていう男の顔、ちゃんと見たわけ?
響くんみたいなハンサムさん、そんじょそこらにちょっといないよ!?
なのにおばさんの言葉を真に受けて、おまわりさんは響を連れて行こうとしている。
「詳しいことは交番で聞くから」
「でも俺、引ったくりなんてやってねーし、ここにだって来たの久しぶりで……」
「こらこら、抵抗すると君の立場が悪くなるだけだぞ」
「いや、俺、本当に違うから」
このままじゃおまわりさんに連れて行かれてしまう。
リルは慌てた。大慌てで物陰から飛び出し、思いっきりこけて手とか擦りむいたりしたけど、そんなことに構っちゃいられない。
「待ってください!」
わたわたと駆けて行って、おまわりさんの腕にしがみついた。
「違います、本当に! 響くんは引ったくりなんてやってないです!」
だってだって、ここに来たのが久しぶりだって言ったのは本当だし。3日前だって……。
「このレンタル屋さんに来たのは2週間ぶりだし、ずっとバイトで駅3つ向こうの居酒屋さんに夕方5時から深夜1時まで行ってたんですよ。3日前だって行ってました」
「夕方5時からなんでしょ? 私が引ったくりにあったのは午後3時頃よ」
それみたことかと得意そうなおばさんに、負けじとリルも声を張り上げる。
「3日前なら午後から休講になったから大学を出たのは1時半で、それから4時まで友達とカラオケに行ってました。ここから駅4つ向こうの『エコカラ』ってお店です」
「5日前にも……」
おまわりさんも参戦。ところがこれにもあっさりリルは答える。
「5日前なら大学が休みだったから朝11時まで寝てて、友達から呼び出されてランチとその後映画で3時半まで。そこから別の友達とも合流してバッティングセンターで5時半まで。そのまま呑みに行ったから帰りは深夜の2時でした」
なるほどと反論もできず黙ってしまうふたりを前に、リルは得意満面。
唯一疑いの眼差しを向けたのは響だ。
「おい、お前、なんでそこまで俺のこと知ってる?」
なんだか剣呑な眼差し。
睨まれリルは冷や汗をかいた。
「えーと、その……」
助け舟だったはずなんですが。
あ、あれれ??
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