野獣に餌付けしてしまったらしい

ハル

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お父さんとお母さん、継母の顔

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 日本を満喫して長いと思っていたバカンスももう最終日になっている。明日は昼に帰りの飛行機に乗るので動けるのは今日しか残っていない。懐かしいものをたくさん食べた。あの日、父から料理を教えてもらったという人のお店を皮切りに、煌はどれくらい調べたのかわからないけど本当にあれから小さなお店から大きなお店まで連れて行かれた。そこで出会った父の弟子という人たちはたまにネットで見かける人もいて、どういう経緯で父が出会ったのかをいつか聞いてみたいと思った。

「伊月、今日はお前を連れて行きたいところがある。」
「わかった。」
「行く場所は内緒だけどな。」
「それはいつもだよ。」

 日本に帰ってから煌が行く場所は全て私の過去であり、家族と関係が深い場所ばかりなので、今回もその類であることは予想がついたが、車に乗ってからアイマスクをされたのは初めてだ。彼が隣に乗り、私の手をずっと握っていたので不安は一切なく、光が目に入らないからか眠さが襲ってきて意識を飛ばす。

「伊月、起きないとキスするぞ。」

 という衝撃的な言動で目が覚めるとは思っていなかった。
 目を開けるとそこにはもうすぐ唇をつけそうなぐらいの至近距離に彼の顔があり、私は驚いて起き上がり低い車の天井に頭をぶつける。

「そんなに慌てなくてもいいだろう。いくら経験しても慣れないな。」

 慌てた私を見て煌は笑いながらもぶつけた私の頭をなでる。

「たんこぶはできていないと思う。」

 そう言った後、彼の視線は私を通り過ぎて窓の方を見る。

「降りるぞ。お前がその痛みを忘れるかもしれない。」

 彼に言われて車から降りる。
 私が見たのは学校だ。保育園と併設されており、今も使われているようで子供たちの声で活気がある。しかし、ここから見える限り、その人数は建物に対してずいぶんと少ないと思われ、あまり普段は分からないけれど少子化を実感させられる。

「いつまでもここにはいられないから入るぞ。お前に見せたいものはこの中だ。」
「ここって何?」
「歩きながら話す。」

 煌は私の手を取り歩きだす。少しずつ歩きながら彼は色々と話しだす。

「ここは俺たちが通っていた保育園と学校だ。俺たちが住んでいた家はもう別の人のものになっているから行けないが、ここが残っていて俺は良かったと思う。」
「私たちが通っていた学校?私の記憶にある学校とは違って良い場所。畑とかもしていたの?」

 中には入れないのか校舎の外を回っていて、その途中にあった小さな畑が目に入り興味を惹かれる。煌も立ち止まって頷く。

「ああ、伊月はしていたな。俺はその前にいなくなった。お前はいつも土をつけていて父さんも母さんも苦笑していた。お前はその土を自分で手洗いで落として二人に自慢げに振舞っていた。」
「そんなことをしていたんだ。」

 彼から聞く過去は今と違っておてんばで考えられないような行動をしていたようだ。

「伊月、行くぞ。」

 彼に言われたままに進む。

 それから、倉庫に行ったと思えば出してきたのはスコップだ。それには疑問が思い浮かぶが、彼は楽しそうにスコップを持っているので聞くことができない。それから、彼は少し進んだ並木のうち一本の木の根の付近を掘り始める。

「何しているの?」
「それは見てからの楽しみだ。」
「ここ、学校の土地だけど掘ってもいいの?」
「ああ、許可は取ってある。」

 彼は色々準備をしていたらしい。
 ただ見ているだけも嫌だったので倉庫からスコップを出そうとしたら

「あったぞ!」

 と声がして慌てて彼が持ち上げた箱を見た。
 古いことはすぐにわかるほどに錆びており、蓋に描かれているのは昔一度だけ見たヒーロー戦隊だった。それは、私の記憶の中で、姉のようになりたいと決めて捨てたはずのものだった。

「好きか?」
「昔は好きだったけど・・・・。」
「ハハッ。」

 私の言葉は煌のおかしそうに笑う声で遮られる。私は彼を見ると彼は下を手で示しているのでその方を見ると私はいつの間にか彼が持っていた古い箱を持っている。それに驚いて固まってしまう。

「開けないのか?」

 彼に言われて私はゆっくりと箱を開ける。

 箱の大きさに似合わず入っていたのはヒーロー戦隊の絵がついている封筒が入っている。その封筒を取り封筒を開いて中身を取る。

「写真?」

 そこに映っていたのは二人、若い男性と女性。幸せそうに肩を寄せ合って映る二人の姿はとても幸せそうだ。彼らを見たことがないけれど引っ掛かる部分がある。

「お前の両親だ。」

 彼に言われて腑に落ちる。母と思われる女性の顔を鏡で見る自分の顔に似ている。これは言ったら良くないかもしれないけれど、似る方が父の方であれば異性からモテていたのかもしれないと思わないでもない。母はおっとりしているような雰囲気が漂っている。

「もう一枚見てみろ。」

 彼に言われて初めてもう一枚写真があってみると、幼い子供が二人と父と違う女性の顔がある。

「煌と煌のお母さん。」
「母と俺は似ているだろう?」
「うん、似ている。私もお母さんに似ているんだ。」

 家族の顔がくっきりと思い浮かべられるようになった瞬間だ。煌から父と母、煌の母のことを聞いていたけれど、全く想像できずどこか他人事のようだった。しかし、これでやっと私は自分のことと聞けるようだ。私はその二枚の写真を抱きしめる。

「お父さん、お母さん、そして、煌のお母さん。私、やっとあなたたちに会えた。」

 引っ掛かりは晴れ、それに安堵の涙が流れる。
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