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記憶の断片
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強烈な刺激を受けて数週間、仕事には支障なくプロジェクトは起動に乗り客先からも高い評価をもらっている。上司や部下、会社関係者からは以前より付き合いが悪くなっても好印象は続いている。それに安堵するのと同時にこれから面倒な付き合いがなくなると思うとスッキリする気分だ。
それに煌と会うこともあれからパタリと無くなり、あの日に別れ際聞こえた言葉は幻聴だったと警戒心も緩まって来る。
「プロジェクトも後半です。早めのスケジュールにしているので問題ないと思いますが、もし不安なことがあれば迅速に報告してください。もう少し頑張っていきましょう。」
客先からの評価や今後のスケジュールについて説明して朝のミーティングを終了する。
「相変わらず有能だな。都築さん。でも、気を張り過ぎるのも良くないぞ。」
「いつでも気を張っていますよ。私のような若輩者はそうでなければこの仕事を遂行できません。ところで、ここには何のご用ですか?」
初めて酒を飲んだ場所にいた片桐は開発部の会議室に堂々と乗り込んで来るのは彼が元は開発部の人間だったからだ。早々に向いてないことを悟り異動を希望したと上司から聞いた。会った時からあまり気が合わない可能性が高かったので私としては助かった。それに、営業としては稼ぎ頭なので、彼の選択も正しかったのだろう。酒の席は別として、親しまれる性格なので人気もある、らしい。
「都築さんの顔を見に来た・・・そんな顔をするなよ。なんか、最近愛想が良くないぞ。」
「普通の顔です。愛想を振りまく相手は選んでいますから。」
「あ、そう。冷たくされて悲しくなってきたな。」
シクシクと片桐は泣き真似をする。30に近い男性がそんなことをしても全く何かしようという気にはならない。よって、彼を放って戻ろうとしたのだけど、彼はそれを察知したのかすぐに追いかけて後ろをついて来る。
「都築さん、本当に悪かった。まさか、酒を飲んだことがないとは。考えてみれば、今までの飲み会でずっとソフトドリンクだったな。あの日はちゃんと帰れた?」
「帰れました。そんな世間話なら出てってください。私は忙しいんです。」
私は立ち止まり振り返って彼にしかめっ面を見せる。
「いや、それだけでもない。今日、客先のヒアリングがある。それで、プロジェクトリーダー、つまり、都築さんも来てほしいって向こうからの要望。」
「そんなこと、早く言ってください。」
私は彼をまた会議室に案内して詳細を聞こうとするが、彼が先に話し出してしまい彼に指導権を握られる。
「客先の印象として都築さんはとても良いから安心しろ。緊張することは全くないからな。俺もいるし。」
「そうですね。」
「心がこもっていないな。俺は挨拶回りの時もフォローをしていたはずだが。」
「その節はお世話になりました。」
確かに片桐にはお世話になったのでお礼を言う。
挨拶回りは部下も連れており彼は緊張しており客先に対して震えながらも名刺交換をしており名刺を落とした。それを片桐がカバーしたことで相手から不快を買うことがなかった。それにより、私だけでなくチーム全体は良いスタートを切れたのかもしれない。
「それは確かに感謝していますが、今は今日のヒアリングについて聞かせてください。」
無理やり話を切って本題に入らせる。力技ではあり彼はすぐに折れたのでやっとたどり着く。それから彼は詳細を話し出して今後のスケジュールを頭の中に思い浮かべる。少し修正が必要だけどヒアリングが会社の定時内で終えることができるので時間的にも問題ないことを確認できて安堵する。
「じゃあ、ヒアリングよろしく。都築さん。」
彼はどこか不適な笑みを浮かべる。
客先のヒアリングで問題ないことは分かり、チームメンバーにも良い報告ができることに安堵する。それと、プロジェクトが終了しても次のプロジェクトも依頼いただける可能性を客先が示したことに嬉しく思う。それはつまり、彼らが私たちのことを認めた一端だと思ったからだ。大手というネームバリューかもしれないけれど、それでも酷い対応であれば継続して依頼はされないと考えている。そのプロジェクトを任せてもらえるかはわからないが、チームの入れ替えはないと思っている。
「よかったな。都築さん。次も頼んだぞ。結構、規模が大きな案件になりそうだからな。」
「はい、今後も精進いたします。しかし、有能なメンバーなので問題ないと考えております。」
「そうだな。ちょうど定時だから直帰でいいぞ。ごはん行かないか?」
サラッと彼が誘ってくる。
あの時とは違い、誰とも飲食店に行かなくなったことで会社ではそういうことに関しては"冷たい女"と言われている。そのため、そんな誘いをかけられることはなくなったのだけど、そんな状況の中で平然と誘ってくる彼の面の皮の厚さに呆気にとられる。それも、彼は私がそうなった元凶である。
「いえ、行きません。私にも予定がありますから。」
「へえ、どんな?」
彼は距離を縮めてくるので彼から一歩距離を広げて目を彼から一瞬離して瞳を横にスライドさせたときに一瞬見えた人に私はゾッとする。彼とその一瞬で目が合ったような気がしたがすぐに目を離したのでどうなったのかわからないけれど、この場から早く離れたくなる。
「私の冷蔵庫には余った食べ物がありますから、腐らせるのはもったいないと思います。」
「なるほど。確かに、都築さんはいつも弁当だって言っていたな。」
「そうですね。」
外面をよくするには食べ物にも気を遣っている。元々、料理はしていたが出汁から全て自分で作る楽しさを知ってからはすっかり料理が楽しくなったので全く苦難はない。
「では、私はこれで。」
私は彼から離れようとしたが、すぐに腕を掴まれる。
「あの、何か?」
私は振り返り彼を見ると不服そうな顔をする。
「そんなに付き合いを悪くすることはないだろう。前は一応は付き合ってくれたのにな。」
「色々ありましたから。」
それをあなたが言うな、とはさすがに言えず、私は彼の手を振りほどく。片桐はまだ何か言いたそうにしているけれど、これ以上は彼に付き合うことができない。なぜなら、先ほど視線に映った彼の映像が頭から離れず頭の中でうるさいほどに警鐘を鳴らしているからだ。
「もう行きますよ。では、また会社で。」
私は軽く頭を下げて彼から離れようとするが、またも次は手を掴まれてそれを妨害される。いい加減に嫌になってきた私はもう彼のイメージが崩れているのでどうでもよくなったので彼に文句を言おうとするのだが。
キキーッ
ドンッ!
耳から頭に直接響くような高い音の後にすぐに襲ってくる衝撃
体全体に最後に強い振動が襲ってくる。
その後に陥る一瞬の静寂と人の悲鳴声
驚いていたり、知らないふりをしたり立ち尽くしていたり、それから、現場に駆け付ける人
それらを傍目に私はここに居る人とはおそらく全く異なることを考えている。
ビルのドアに突っ込んでいる車を見ながら意識などしていないのに、ただそう思う。
”ああ、これを私は知っている。”
何か頭にこびりついているものが目の前の光景と一瞬だけどつながった瞬間だった。
あれからどのようにして帰ったのかわからないけれど、家に着いたのは間違いない。気づけば自分の部屋に電気もつけず真っ暗闇の中で呆然と座っている。下から上がっている冷気が正座の足から冷やしてくるけれど、そんなことどうでもいい。
「私は何を忘れているんだろう。」
ビルのドアを突き破っている車を見た時に思い出せそうで思い出せない何かが頭の中にあることがわかる。私は記憶喪失になったことはないが、幼い頃の記憶は抜け落ちている可能性はある。人は忘れる生き物であり、小さい頃の記憶など忘れられない思い出しかないだろう。それとは別だと確信のようなものがある。
「あー!もう!」
私はやけくそに頭を両手で乱暴にかき混ぜる。それにも疲れるとベッドの上に頭をのせる。
「もう、いいや。」
思考停止
そんな言葉が似あうほどにただ意識を手放す。
それに煌と会うこともあれからパタリと無くなり、あの日に別れ際聞こえた言葉は幻聴だったと警戒心も緩まって来る。
「プロジェクトも後半です。早めのスケジュールにしているので問題ないと思いますが、もし不安なことがあれば迅速に報告してください。もう少し頑張っていきましょう。」
客先からの評価や今後のスケジュールについて説明して朝のミーティングを終了する。
「相変わらず有能だな。都築さん。でも、気を張り過ぎるのも良くないぞ。」
「いつでも気を張っていますよ。私のような若輩者はそうでなければこの仕事を遂行できません。ところで、ここには何のご用ですか?」
初めて酒を飲んだ場所にいた片桐は開発部の会議室に堂々と乗り込んで来るのは彼が元は開発部の人間だったからだ。早々に向いてないことを悟り異動を希望したと上司から聞いた。会った時からあまり気が合わない可能性が高かったので私としては助かった。それに、営業としては稼ぎ頭なので、彼の選択も正しかったのだろう。酒の席は別として、親しまれる性格なので人気もある、らしい。
「都築さんの顔を見に来た・・・そんな顔をするなよ。なんか、最近愛想が良くないぞ。」
「普通の顔です。愛想を振りまく相手は選んでいますから。」
「あ、そう。冷たくされて悲しくなってきたな。」
シクシクと片桐は泣き真似をする。30に近い男性がそんなことをしても全く何かしようという気にはならない。よって、彼を放って戻ろうとしたのだけど、彼はそれを察知したのかすぐに追いかけて後ろをついて来る。
「都築さん、本当に悪かった。まさか、酒を飲んだことがないとは。考えてみれば、今までの飲み会でずっとソフトドリンクだったな。あの日はちゃんと帰れた?」
「帰れました。そんな世間話なら出てってください。私は忙しいんです。」
私は立ち止まり振り返って彼にしかめっ面を見せる。
「いや、それだけでもない。今日、客先のヒアリングがある。それで、プロジェクトリーダー、つまり、都築さんも来てほしいって向こうからの要望。」
「そんなこと、早く言ってください。」
私は彼をまた会議室に案内して詳細を聞こうとするが、彼が先に話し出してしまい彼に指導権を握られる。
「客先の印象として都築さんはとても良いから安心しろ。緊張することは全くないからな。俺もいるし。」
「そうですね。」
「心がこもっていないな。俺は挨拶回りの時もフォローをしていたはずだが。」
「その節はお世話になりました。」
確かに片桐にはお世話になったのでお礼を言う。
挨拶回りは部下も連れており彼は緊張しており客先に対して震えながらも名刺交換をしており名刺を落とした。それを片桐がカバーしたことで相手から不快を買うことがなかった。それにより、私だけでなくチーム全体は良いスタートを切れたのかもしれない。
「それは確かに感謝していますが、今は今日のヒアリングについて聞かせてください。」
無理やり話を切って本題に入らせる。力技ではあり彼はすぐに折れたのでやっとたどり着く。それから彼は詳細を話し出して今後のスケジュールを頭の中に思い浮かべる。少し修正が必要だけどヒアリングが会社の定時内で終えることができるので時間的にも問題ないことを確認できて安堵する。
「じゃあ、ヒアリングよろしく。都築さん。」
彼はどこか不適な笑みを浮かべる。
客先のヒアリングで問題ないことは分かり、チームメンバーにも良い報告ができることに安堵する。それと、プロジェクトが終了しても次のプロジェクトも依頼いただける可能性を客先が示したことに嬉しく思う。それはつまり、彼らが私たちのことを認めた一端だと思ったからだ。大手というネームバリューかもしれないけれど、それでも酷い対応であれば継続して依頼はされないと考えている。そのプロジェクトを任せてもらえるかはわからないが、チームの入れ替えはないと思っている。
「よかったな。都築さん。次も頼んだぞ。結構、規模が大きな案件になりそうだからな。」
「はい、今後も精進いたします。しかし、有能なメンバーなので問題ないと考えております。」
「そうだな。ちょうど定時だから直帰でいいぞ。ごはん行かないか?」
サラッと彼が誘ってくる。
あの時とは違い、誰とも飲食店に行かなくなったことで会社ではそういうことに関しては"冷たい女"と言われている。そのため、そんな誘いをかけられることはなくなったのだけど、そんな状況の中で平然と誘ってくる彼の面の皮の厚さに呆気にとられる。それも、彼は私がそうなった元凶である。
「いえ、行きません。私にも予定がありますから。」
「へえ、どんな?」
彼は距離を縮めてくるので彼から一歩距離を広げて目を彼から一瞬離して瞳を横にスライドさせたときに一瞬見えた人に私はゾッとする。彼とその一瞬で目が合ったような気がしたがすぐに目を離したのでどうなったのかわからないけれど、この場から早く離れたくなる。
「私の冷蔵庫には余った食べ物がありますから、腐らせるのはもったいないと思います。」
「なるほど。確かに、都築さんはいつも弁当だって言っていたな。」
「そうですね。」
外面をよくするには食べ物にも気を遣っている。元々、料理はしていたが出汁から全て自分で作る楽しさを知ってからはすっかり料理が楽しくなったので全く苦難はない。
「では、私はこれで。」
私は彼から離れようとしたが、すぐに腕を掴まれる。
「あの、何か?」
私は振り返り彼を見ると不服そうな顔をする。
「そんなに付き合いを悪くすることはないだろう。前は一応は付き合ってくれたのにな。」
「色々ありましたから。」
それをあなたが言うな、とはさすがに言えず、私は彼の手を振りほどく。片桐はまだ何か言いたそうにしているけれど、これ以上は彼に付き合うことができない。なぜなら、先ほど視線に映った彼の映像が頭から離れず頭の中でうるさいほどに警鐘を鳴らしているからだ。
「もう行きますよ。では、また会社で。」
私は軽く頭を下げて彼から離れようとするが、またも次は手を掴まれてそれを妨害される。いい加減に嫌になってきた私はもう彼のイメージが崩れているのでどうでもよくなったので彼に文句を言おうとするのだが。
キキーッ
ドンッ!
耳から頭に直接響くような高い音の後にすぐに襲ってくる衝撃
体全体に最後に強い振動が襲ってくる。
その後に陥る一瞬の静寂と人の悲鳴声
驚いていたり、知らないふりをしたり立ち尽くしていたり、それから、現場に駆け付ける人
それらを傍目に私はここに居る人とはおそらく全く異なることを考えている。
ビルのドアに突っ込んでいる車を見ながら意識などしていないのに、ただそう思う。
”ああ、これを私は知っている。”
何か頭にこびりついているものが目の前の光景と一瞬だけどつながった瞬間だった。
あれからどのようにして帰ったのかわからないけれど、家に着いたのは間違いない。気づけば自分の部屋に電気もつけず真っ暗闇の中で呆然と座っている。下から上がっている冷気が正座の足から冷やしてくるけれど、そんなことどうでもいい。
「私は何を忘れているんだろう。」
ビルのドアを突き破っている車を見た時に思い出せそうで思い出せない何かが頭の中にあることがわかる。私は記憶喪失になったことはないが、幼い頃の記憶は抜け落ちている可能性はある。人は忘れる生き物であり、小さい頃の記憶など忘れられない思い出しかないだろう。それとは別だと確信のようなものがある。
「あー!もう!」
私はやけくそに頭を両手で乱暴にかき混ぜる。それにも疲れるとベッドの上に頭をのせる。
「もう、いいや。」
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