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合コン?
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会社においてプロジェクトの始まりが一番忙しい。何事も土台に手がかかるのは同じであり、逆にきちんとそれを作らなければ後で崩れてしまう。後のことを考えると、多忙も仕方ないと思えてくる。
それもやっと過ぎてメンバーへの業務の振り分けができ、やっと機能したチームに内心安堵する。プロジェクトが始まっても数週間はメンバーの中でもスキルがまだ整っていない方には概要を読んでもらうしかない。そのため、不満そうな顔や座ったまま器用に眠っている様を見かけた。振り分けができない自分の責任だと思えたので、なるべく早く業務を渡せるように残業もしたが、それも数週間のことだ。
今では、残業する時もあるけどそれほど多くなく、最初に詰めておいたので順調に最後のテストまで来ている。
「都築さん、テストできました。確認お願いします。」
「分かったわ。それじゃ、先に次のタスクしておいてくれる?」
「了解です。」
テスト実施メンバーから上がってくる結果の確認作業に追われている。ただ、優秀なメンバーばかりなので問題がない。そのため、定時帰宅が可能なことに安堵する。
なぜなら、今日は湊君の最新話がアップされ、湊君の話題が載った雑誌が発売されるから。彼の姿を見るためならやる気も出る。
しかし、その希望はすぐに消え去る。
「都築さん!」
名前を呼ばれたので振り返ると見たことがない女性社員だ。可愛い雰囲気があり周囲の反応から愛されるアニメだとヒロインのような人だ。
ちなみに、湊君の相手はツンデレで容姿は可愛いではなくクールであり、たまにデレる瞬間が私をキュンッとさせる。
「何かな?」
帰宅しようと席を立ったところなのでちょうど良く普通に用事を聞いただけなのだが、なぜか相手は目をウルウルさせている。ぶりっ子が入っているらしく、苦手な相手である。こういう相手は周囲を味方につける術を心得ている。
「飲み会に行きませんか?今日、開発部と総務部で合同の飲み会をするんです。よろしければ参加しませんか?」
私たち開発部は確かに以前から他の課との交流の少なさを問題視されており、改善のために交流を開催してきた。
それを思い出して、目の前の彼女が男性が話題にする可愛い社員だと気付き、名前は名札から楠だと分かる。
「ダメですか?」
ウルウル目を上目使いしてさらに相手から承諾を得ようとする様はまさに天性のものだ。それに、周囲からの好感もあり雰囲気は了承一択である。私もこんなところでせっかく築いたキャリアウーマン像を壊したくない。内心は面倒であり、ショックでもあるのだけど。
「いいわよ。ただ、そんなに遅くまでは無理だけどいいかな?」
「はい!もちろんです!一次会で時間も2時間なのでそんなに遅くなりませんよ!」
花がほころぶような笑顔だ。本当に周囲に花が咲いているように見え感心してしまう。
「都築さんー!」
呆けていたようで名前を呼ばれて自分を奮い立たせる。まだ就業時間なので固まっている場合ではない。
仕事を終えて、楠から指定された洒落たスペイン居酒屋に入る。残業せずに帰るはずが、途中でミスが見つかり修正していたら15分遅刻した。
「遅れてごめんなさい。」
「都築さん!お疲れ様でーす!」
案内された部屋に入ると幹事らしい楠が席に案内してくれる。昼間の印象とは異なり気遣いができる方だったようだ。
「何を飲みますか?」
「ウーロン茶を。」
「えー、お酒じゃないんですか?」
「うん、飲めないの。」
「へぇ、そうですか。」
前言撤回
やっぱり、性格に難アリらしい。
ウーロン茶を受け取り一口飲んで一息つく。
改めて、室内を見ると男女が同数、それも全員20代の若い世代だ
”合コン"という2文字が浮かび、内心首を傾げる。確かに、見たことがある開発の社員がいるのだが、これはどう見ても目的が異なる。それに、男性の方は全員チラチラと私に視線をくれながら気まずそうにしている。そのうちの1人は今日問題を発覚した部分の担当だった。
問題をそのままにして帰った理由がこれだったと気付く。ただ、開発の職場であれだけ騒いでいたのに気づかなかったのは彼の落ち度だ。おかげで、彼はこの会を楽しむ気持ちではないだろう。
「都築さん、自己紹介お願いします。もう他のみんなは終わったんです。」
楠に促されて簡単に名前とよろしくと伝える。半分は顔見知りで、全員同じ会社の人間なので十分だと思うのだが、一瞬静まるような雰囲気になるのは理解ではない。
「自由に話して。」
気を取り直し楠が声をかけると私以外の女性陣が男性陣に話しかける。
完全にハブられた私だけど気にしない。この部屋に入った時からそんな感じがあったからだ。女性陣は相手に不快感を与えない適度なメイクしかしない私と違い、楠と他のメンバーは渋谷に出かけてギャルに紛れても遜色ないほどのバッチリメイクである。明らかに部類が異なるだろう。
時間制限があるのとコースの運ばれて来るスペイン料理と飲み放題のソフトドリンクで暇を潰す。ここで彼らの話に実りがあれば少しは違ったのだけど、ただの飲み会でそんなことはない。
先に帰ろうか、と思い一度トイレに立つ。
「都築さん?何をしてるの?」
トイレから出ると声をかけられ、そこには煌が若干拗ねた様子で立っている。毎回、タイミングが良いのは偶然かと疑うほどだけど渡りに船だ。彼に自然と詰め寄ってしまう。
「煌君、今から帰れる?」
「うん。帰れるけど。俺の質問に答えて。」
話題を変えずに煌からも距離を詰められ、気づけば壁ドンされる。湊君がしたのは見たことがあるけど、実際にされると落ち着かないので要望を続ける。
「じゃ、この後外で落ち合わない?今抜けたいんだよね。」
「分かった。俺も帰るよ。」
いまいち私の意図を読めない彼だが、一度は納得して手を下ろす。
部屋に戻ると中から不快な会話がされていたが、気にせずに扉を開けて楠に
「ごめん、もう抜けるわね。今日は誘ってくれてありがとう。」
と伝え、会費を手渡す。お礼を言われると人は拒絶をしにくくなる。
そのまま急ぎ足でお店を出ると煌が立っている。金髪だから夜だとさらに目立つ彼を見つけるのは簡単だ。
「お待たせ。」
「待ってないよ。」
何も言わなくても電車に乗るために駅に向かう。
「それで、何をしてたの?」
「飲み会かな?」
「なんで疑問なの?」
煌は正確にツッコミ、私も思わず納得する。
「いや、だって飲み会に誘われて行ってみたら20代の社員が男女同数ずついれば、ただの飲み会かと聞かれれば答えに詰まるのよね。」
「合コン?」
「そうとも言うかもしれない。まあ、私はただの人数合わせだったみたいだけど。私はお人形と一緒よ。空気ではないだけマシね。」
私は自分で言っていて虚しくなる。煌が隣にいないことに気づいたのは、立ち止まった彼から1メートルほど進んだ後だ。
「どうしたの?」
振り返って彼に尋ねると、彼は私を睨みつけるように見る。怒っていることはわかるが、何に対してかはわからない。
「どうしてそんなことを言うの?」
「私、何か煌君が怒るようなことを言った?」
私の返答は間違っていたのか、煌は距離を一気に詰める。
「自分を卑下するような言い方だ。そんな会ならすぐに抜けて来れば良かったんだ!」
「これも円滑な人間関係を作るためよ。社会人にはたまに我慢を強いられる時があるの。」
声を荒げる彼を落ち着かせるように私は諭すと諦めたように顔をそむけて
「あ、そう。」
と返す。
彼の言いたいことはわかるし正直私の気持ちは高揚している。その時に手を握られて一気に心臓の動きが上がり体温が上昇する。
「このまま帰せないからうちに連れてく。ちょうど明日は週末だから。」
彼はそう言って呆然とする私の手を引いてく。私の頭の中は状況が読み込めないまま、それでも彼について行く。
彼の家に向かう途中でコンビニに湊君ポスターを見かけ
"かっこいい”
なんて思ってしまった。
それもやっと過ぎてメンバーへの業務の振り分けができ、やっと機能したチームに内心安堵する。プロジェクトが始まっても数週間はメンバーの中でもスキルがまだ整っていない方には概要を読んでもらうしかない。そのため、不満そうな顔や座ったまま器用に眠っている様を見かけた。振り分けができない自分の責任だと思えたので、なるべく早く業務を渡せるように残業もしたが、それも数週間のことだ。
今では、残業する時もあるけどそれほど多くなく、最初に詰めておいたので順調に最後のテストまで来ている。
「都築さん、テストできました。確認お願いします。」
「分かったわ。それじゃ、先に次のタスクしておいてくれる?」
「了解です。」
テスト実施メンバーから上がってくる結果の確認作業に追われている。ただ、優秀なメンバーばかりなので問題がない。そのため、定時帰宅が可能なことに安堵する。
なぜなら、今日は湊君の最新話がアップされ、湊君の話題が載った雑誌が発売されるから。彼の姿を見るためならやる気も出る。
しかし、その希望はすぐに消え去る。
「都築さん!」
名前を呼ばれたので振り返ると見たことがない女性社員だ。可愛い雰囲気があり周囲の反応から愛されるアニメだとヒロインのような人だ。
ちなみに、湊君の相手はツンデレで容姿は可愛いではなくクールであり、たまにデレる瞬間が私をキュンッとさせる。
「何かな?」
帰宅しようと席を立ったところなのでちょうど良く普通に用事を聞いただけなのだが、なぜか相手は目をウルウルさせている。ぶりっ子が入っているらしく、苦手な相手である。こういう相手は周囲を味方につける術を心得ている。
「飲み会に行きませんか?今日、開発部と総務部で合同の飲み会をするんです。よろしければ参加しませんか?」
私たち開発部は確かに以前から他の課との交流の少なさを問題視されており、改善のために交流を開催してきた。
それを思い出して、目の前の彼女が男性が話題にする可愛い社員だと気付き、名前は名札から楠だと分かる。
「ダメですか?」
ウルウル目を上目使いしてさらに相手から承諾を得ようとする様はまさに天性のものだ。それに、周囲からの好感もあり雰囲気は了承一択である。私もこんなところでせっかく築いたキャリアウーマン像を壊したくない。内心は面倒であり、ショックでもあるのだけど。
「いいわよ。ただ、そんなに遅くまでは無理だけどいいかな?」
「はい!もちろんです!一次会で時間も2時間なのでそんなに遅くなりませんよ!」
花がほころぶような笑顔だ。本当に周囲に花が咲いているように見え感心してしまう。
「都築さんー!」
呆けていたようで名前を呼ばれて自分を奮い立たせる。まだ就業時間なので固まっている場合ではない。
仕事を終えて、楠から指定された洒落たスペイン居酒屋に入る。残業せずに帰るはずが、途中でミスが見つかり修正していたら15分遅刻した。
「遅れてごめんなさい。」
「都築さん!お疲れ様でーす!」
案内された部屋に入ると幹事らしい楠が席に案内してくれる。昼間の印象とは異なり気遣いができる方だったようだ。
「何を飲みますか?」
「ウーロン茶を。」
「えー、お酒じゃないんですか?」
「うん、飲めないの。」
「へぇ、そうですか。」
前言撤回
やっぱり、性格に難アリらしい。
ウーロン茶を受け取り一口飲んで一息つく。
改めて、室内を見ると男女が同数、それも全員20代の若い世代だ
”合コン"という2文字が浮かび、内心首を傾げる。確かに、見たことがある開発の社員がいるのだが、これはどう見ても目的が異なる。それに、男性の方は全員チラチラと私に視線をくれながら気まずそうにしている。そのうちの1人は今日問題を発覚した部分の担当だった。
問題をそのままにして帰った理由がこれだったと気付く。ただ、開発の職場であれだけ騒いでいたのに気づかなかったのは彼の落ち度だ。おかげで、彼はこの会を楽しむ気持ちではないだろう。
「都築さん、自己紹介お願いします。もう他のみんなは終わったんです。」
楠に促されて簡単に名前とよろしくと伝える。半分は顔見知りで、全員同じ会社の人間なので十分だと思うのだが、一瞬静まるような雰囲気になるのは理解ではない。
「自由に話して。」
気を取り直し楠が声をかけると私以外の女性陣が男性陣に話しかける。
完全にハブられた私だけど気にしない。この部屋に入った時からそんな感じがあったからだ。女性陣は相手に不快感を与えない適度なメイクしかしない私と違い、楠と他のメンバーは渋谷に出かけてギャルに紛れても遜色ないほどのバッチリメイクである。明らかに部類が異なるだろう。
時間制限があるのとコースの運ばれて来るスペイン料理と飲み放題のソフトドリンクで暇を潰す。ここで彼らの話に実りがあれば少しは違ったのだけど、ただの飲み会でそんなことはない。
先に帰ろうか、と思い一度トイレに立つ。
「都築さん?何をしてるの?」
トイレから出ると声をかけられ、そこには煌が若干拗ねた様子で立っている。毎回、タイミングが良いのは偶然かと疑うほどだけど渡りに船だ。彼に自然と詰め寄ってしまう。
「煌君、今から帰れる?」
「うん。帰れるけど。俺の質問に答えて。」
話題を変えずに煌からも距離を詰められ、気づけば壁ドンされる。湊君がしたのは見たことがあるけど、実際にされると落ち着かないので要望を続ける。
「じゃ、この後外で落ち合わない?今抜けたいんだよね。」
「分かった。俺も帰るよ。」
いまいち私の意図を読めない彼だが、一度は納得して手を下ろす。
部屋に戻ると中から不快な会話がされていたが、気にせずに扉を開けて楠に
「ごめん、もう抜けるわね。今日は誘ってくれてありがとう。」
と伝え、会費を手渡す。お礼を言われると人は拒絶をしにくくなる。
そのまま急ぎ足でお店を出ると煌が立っている。金髪だから夜だとさらに目立つ彼を見つけるのは簡単だ。
「お待たせ。」
「待ってないよ。」
何も言わなくても電車に乗るために駅に向かう。
「それで、何をしてたの?」
「飲み会かな?」
「なんで疑問なの?」
煌は正確にツッコミ、私も思わず納得する。
「いや、だって飲み会に誘われて行ってみたら20代の社員が男女同数ずついれば、ただの飲み会かと聞かれれば答えに詰まるのよね。」
「合コン?」
「そうとも言うかもしれない。まあ、私はただの人数合わせだったみたいだけど。私はお人形と一緒よ。空気ではないだけマシね。」
私は自分で言っていて虚しくなる。煌が隣にいないことに気づいたのは、立ち止まった彼から1メートルほど進んだ後だ。
「どうしたの?」
振り返って彼に尋ねると、彼は私を睨みつけるように見る。怒っていることはわかるが、何に対してかはわからない。
「どうしてそんなことを言うの?」
「私、何か煌君が怒るようなことを言った?」
私の返答は間違っていたのか、煌は距離を一気に詰める。
「自分を卑下するような言い方だ。そんな会ならすぐに抜けて来れば良かったんだ!」
「これも円滑な人間関係を作るためよ。社会人にはたまに我慢を強いられる時があるの。」
声を荒げる彼を落ち着かせるように私は諭すと諦めたように顔をそむけて
「あ、そう。」
と返す。
彼の言いたいことはわかるし正直私の気持ちは高揚している。その時に手を握られて一気に心臓の動きが上がり体温が上昇する。
「このまま帰せないからうちに連れてく。ちょうど明日は週末だから。」
彼はそう言って呆然とする私の手を引いてく。私の頭の中は状況が読み込めないまま、それでも彼について行く。
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