俺にとってはあなたが運命でした

ハル

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理子の本音

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 瑞穂は理子に呼び出されて今後のことを聞かれていただけのはずだった。二人が会っていることを自分たちの家族が知るはずがない。理子が優希や晴哉に言うはずがなく、瑞穂も母に翔を迎えに行くように頼んだだけだった。

「何をしているって聞いている。」

 状況を把握しようと考えていたがそれを吹っ飛ばされるほどに低く冷たい声が聞こえた。瑞穂は晴哉の方を見ると見たことがないほどに怒っていた。その顔を見て冷や汗が出てきた。しかし、向かいに座っていた理子は固まることはないようで立ち上がり慌てて晴哉の方に駆け寄った。

「晴さん!ここを通っていたら浅野さんと偶然お会いしたのよ。だから、ここでお茶をしていて色々と話していたの。帰るのが遅くなるって連絡をしていたでしょ。」

 彼女は晴哉の腕を取って説明をした。そんな彼女を冷ややかに見ている晴哉が出す雰囲気がどんどん冷たくなっていた。それに気づいていないのかうるうるとした目で晴哉を見ている彼女がいた。晴哉は彼女の手を自分の腕から外させた。

「その話の内容はとても偶然会ってするようなものじゃなかったと思うけど。」
「何を言っているの?まさか話を聞いていたの?」
「そうだな。お前が過去の話を洗いざらい話していた時から。」
「「え?」」

 まさか会話を聞かれているとは瑞穂も思っておらず、それは彼女も同じようだった。その瞬間、媚びていた彼女は晴哉から初めて後ずさった。それを追ったのは瑞穂の方であり、彼女を追い詰めていた。

「あの日、お前を一目見た瞬間に確かに俺の本能が反応した。すぐにわかった、お前が俺の運命だと。」

 晴哉は平然とした顔をして最初に見た時の話をした。それに何を思ったのか嬉し気に理子は笑みを浮かべた。

「私もあなたのことを見れなかったけれど視線を見てすぐに気づいたの!あなたが運命だって。だから、その後何度か会いに来てくれたのよね。私が発情期になった時に一緒にいてくれたし、他のαの子供のことも気にかけてくれた。そんな優しいあなたが運命の番でよかったって思った。」
「そうだな、俺はお前に会いに行った。お前を見て確かめたかったから。」

 彼の目はどんどん虚ろになっていった。その目に目の前にいるはずの運命の番であるはずのΩを映していなかった。それを分かった彼女は青い顔をして顔を俯かせた。晴哉も別に彼女を見ているわけではなくただ前を見るようにしていた。

「そうしてわかった。そこで確信した。運命の番など俺には必要ないと。あの時、お前の家に行って生活環境を見てしまったから色々と手助けをする形になったけれど。それがお前に勘違いをさせてしまったきっかけだった。あの時、俺が直接手助けをしなければ俺は何も失うことはなかったんだ。お前にもこれまでの時間を無駄に使わせることもなかった。」
「何を言っているの?私の時間なんて。」
「でも、もうその必要はない。」

 嫌な予感がしたのか理子は下げていた顔を上げて晴哉を見て縋ろうとしたが、その両手を晴哉は振り払った。完全なる彼からの拒絶に彼女はもう固まった。

「この人に会いに行くといい。お前が求めるのは暮らしの確保だろう?その人が全て引き受けてくれるらしい。」

 晴哉は1枚の紙を理子に渡した。どんな人物かが書かれていることは予想できても内容までは分からなかったが、それを見た彼女の顔が喜びにあふれていたのでそう悪い人ではなかったらしい。

「あははははっ」

 狂ったように彼女が笑い出した。その奇妙な行動に瑞穂は恐怖を感じ、彼女は晴哉の方を見た。そこにいた彼女は舞台の主人公のようだった。ただし、狂気という言葉がその前に付く。

「本当にいいの?私はあなたの運命なのに。」
「あぁ。別に構わない。」
「あ、そう。この人を紹介してくれたから私はどっちでもいいけどね。優希も一緒に行くよ!」

 優希の手を引いて理子はさっさと店から出て行った。その足取りは軽く目的地を急いでおり、手を引かれている優希が足をもつれさせても気にしていなかった。そんな彼女の後ろ姿を見ていると、最初に抱いた彼女の印象は変わっていた。かわいく子どものような振舞いは彼女の計算だったのだとしたら、彼女は名女優だった。
 フッと瑞穂は周囲に気をやると今さらここが店内だと気づいて周囲から向けられる好奇な視線に瑞穂は絶えられなくなり、走ってきた翔を抱いて足早に店から出た。
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