俺にとってはあなたが運命でした

ハル

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間近で見た彼の運命

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 晴哉と定期的に会社の社内とはいえ会うことになって週末を迎え、奈桜たちに翔を連れて会いに行った。保育園であまり仲が良い子ができないのか、翔から特定の名前が出ることはなかったが、理人や香奈の名前は奈桜たちに会う前日から良く出ていたので彼らとは相性がよかったらしい。
 奈桜たちと会ったのはアスレチックがあるテーマパークであり、翔のことを理人と香奈に任せると二人は翔とともにアスレチックに向かって一目散に駆けて行った。それを見送ってから奈桜と彰彦とともに飲み物を飲みながら子供の様子が見られるテラスに移動した。
 奈桜と彰彦に晴哉と会ったことや社内で会うことになったことを話すと彼らは知っていたらしく困った顔をしていた。

「実は少し前に晴さんから聞いていたんだよ。瑞穂君と再会したって。うちに来てそれはもう興奮したように。」
「そうなんですか?」
「うん。先に俺らが会っているって言うのは言いにくくて黙っていたんだけど。」
「なんかすみません。」

 奈桜が気まずい思いをしたことに瑞穂は謝った。しかし、そのおかげでプライベートで会うことを避けられている気がしたので瑞穂は感謝していた。

「あの人は本当に何を考えているのかわからないんですよね。運命の番を見つけたのにその相手を番にしていないみたいですし。」
「そうなんだ。俺らはそのあたりのことまでは知らないんだよ。ただ、運命の番は見つけたってしか聞いていないからね。あの頃みたいに定期的に会うっていうのも、彰彦さんが事務所を辞めてから無くなったうえに、彰彦さんが以前のように晴さんに連絡をすることがなくて。晴さんも理人や香奈に誕生日プレゼントを贈ってくれるけど、自分で持ってくることがないから会うことは本当にないよ。」
「それは独り身ではなくなったからではないですか?」
「そうなの?」

 番ではなくても一緒に暮らしていると思い込んでいた瑞穂は至極当然のように放った言葉に奈桜の方が首を傾げた。その答えをくれたのは関係が希薄になったが晴哉の友人位置にいる彰彦だった。

「あいつは一人住まいだ。たまに、相手に頼まれて夕食を食べに行くぐらいだからな。優希君が理人にそのことを少しだけ言っていたらしい。」
「ゆぅくんと仲が良いんだね。この間、あまりそうじゃないみたいなことを言っていた気がしたのでよかったです。」
「本当にあまり話さないのは間違いない。その話をしたのは偶然帰りの時間が重なって一緒に途中まで帰ることになった時に優希君が言ったようだ。母親が番になりたいって迫った時に晴哉がやんわりと断ったらしい。そういうのに振り回されたくないからって。」

 彰彦の話に瑞穂は開いた口がふさがらなかった。それは奈桜も同じようで驚愕していた。

「じゃあ、発情期は?確か、優希君のお母さんって発情期が重い人だったと思うんだけど。」
「さあ、その時は相手をするんじゃないか?そこまでは知らない。だけど、瑞穂君が見たその道端の一件から察するにそうでもないのかもな。あいつ、仕事を詰め込んでいるらしいから。事務所の所長が心配して電話をかけてきたことがあった。」

 その経緯はなんとなく想像がついた。

「というか、聞き流していたけれど、彰彦さんって事務所を辞めたってことは無職っ!?」

 最後まで言うことがなく彰彦から叩かれてしまった。くわっとすごい顔をして彼が威嚇してきて軽く頭を小突かれた。

「そんなわけがあるか!家業を継ぐために家の会社に入ったんだ。今は法務部にいるから。」
「そうなんですか。家に入るのを口実に仕事をしていないのかと思いました。」
「奈桜や子供たちの笑顔があってこその我が家だから、そんな貧しくなるようなことをするか!というか、俺が辞めたら奈桜が働きに出て俺が寂しいわ!!」

 彰彦の奈桜に対する愛は変わらないらしい。奈桜が働いていたことは知っていたし、子供を妊娠したのを機に辞めたことは知っていたが、彰彦があまり外に行ってほしくないから提案したことを瑞穂は知った。

「奈桜さん、少しは働きたいって思わないの?理人や香奈も大きくなって手がかからなくなってきたし。」
「そうだね。時間ができたら前勤めていた会社に再雇用してもらおうとは思っているけど。なんか、人手不足らしいから。」
「そうなんだ。よかったよ。」

 奈桜は意外とちゃっかりしていたらしい。今でも前の会社の人と連絡を取り合っていていつでも戻ってきていいよ、と言われているようだ。彼には彼なりの人脈があり、だからこそ彰彦の無茶ぶりにも対応できるのだろう。しかし、彼の隣で捨てられた子犬ような目を向けている彰彦がいる限り、いつ会社に戻れるかわからない。

「彰彦さん、情報をありがとう。それを知っても、俺はもうあの人とはあまり一緒にいないようにするよ。」
「あいつは運命よりもお前のことを・・・。」
「いいんだよ。あの日、俺とは終わっているんだから。過去を忘れてあの人には前に進んでほしい、俺の願いはただそれだけ。」
「そうか。瑞穂君がそれで後悔しないなら俺はもう何も言わない。元々、こうなった原因はあいつの浮気にあるからな。」
「俺も味方だよ。確かに、俺たちの前ではっきりと浮気って晴さんが言ったからね。」

 その時の彰彦さんの顔が怖かったんだよ、と奈桜は眉を八の字にして言った。瑞穂はその光景を思い浮かべてしまい体を震わせた。晴哉はそんなことになると思わないような人ではないのだが、当時は急な自分の変化に対応できなかったのかもしれない。

「また、晴さんのことで何かあったら言ってね。もし、嫌なことがあればうちに来てくれていいから。彰彦さんが止める。」
「あいつのことに関しては少しは俺に責任があるからな。」

 彰彦はため息を吐いていたが、菜桜が言った通り壁の役割は果たすのだろう。瑞穂は心強い味方を得て翔と一緒に彼らと別れた。

 晴哉と休憩スペースで時間を潰していると、彼に電話がかかり、彼は席を外した。すぐに戻ってきて平然とお茶を飲み始めたが、さっきチラッ見えた着信名は明らかに女性だったので気になった。

「大丈夫でしたか?もう時間も時間なので忙しいなら行ってください。」
「いや、何でもない。急ぎじゃないから後でかけ直せばいい。」

 スマホをポケットにしまった晴哉は瑞穂を見た。こうして会うのはまだ二回目だけど、その間に彼が瑞穂から視線を外すことはなく、まるで監視されているようで居心地は悪かった。しかし、それを注意したところであまり効果はなかったので、たった数十分のことだと瑞穂が折れた。

「社長の話を受ける気はないのか?」

 晴哉が話題にするのは休憩スペースとはいえ職場なので世間話や仕事の機密になっていない部分の話だが、彼は支社長の提案に対する瑞穂の返答を何より気にしていた。

「ありません。」
「はっきり言うんだな。」
「即答しなければいけない時もあります。」

 以前の瑞穂なら悩んでいたかもしれないが、今の彼は数ヶ月後に日本を出ることしか考えておらず、それをすぐに答えられる自分に成長していた。

「これ以上は邪魔だろうからもう行く。今日はエントランスホールまで見送ってくれないか?」
「いいですよ。ただ、もう一人つけてもいいですか?私とあなたが一緒にいると余計なことを勘ぐる人が出てくるかもしれません。」
「どんなことだ?」

 晴哉は面白そうに笑顔になっていた。どんな返答を期待しているのか瑞穂にはなんとなくわかるが、そんなことではない。

「本社の社員と支社の担当弁護士であれば、機密情報に関する問題があるので、そのタッグだと思われかねません。」
「っそんなことはないだろう。」
「傍目から見ればおかしい組み合わせなのは確かです。チームメンバーには話していますが、それ以外は何も知りません。」
「どこまで話したんだ?」

 中井にも他のメンバーにも話した内容などほんの一部だ。しかし、把握しなければ気がすまないのか、晴哉は瑞穂の手をつかんで催促を示した。

「今度のプロジェクトの弁護士なので、話をしていることだけですよ。あと、過去に少しだけ面識があった程度は話しました。」
「そうか。」

 瑞穂の説明に晴哉は安堵より残念な雰囲気を纏わせた。過去を話したら立場が悪くなるはずなのに、晴哉が何を考えているのか瑞穂には全く分からなかった。

 とりあえず、中井がいたので彼を伴って晴哉を見送った。

「遠月弁護士、また来月。」
「浅野さんと会うのもあと数回ですね。また、お会いしましょう。」

 そう言った晴哉を瑞穂は頭を下げて見送った時、

「晴さん!」

 と、嬉しそうな女性の声が聞こえた。その女性を見てすぐに晴哉の運命の番だと気づいたのは一度振り返ってこちらを見た彼女の雰囲気と似ていたのと晴哉の体がビクッと緊張を走らせたからだ。可愛らしい顔立ちで少し子供のような人であり、以前彼の弟である尚哉から聞いていたかつての彼女たちとは対極に位置する人だった。
 この場に彼女がいるのは不思議ではないのだが、服装がフォーマルではなく買い物に来たようなラフなものだったので瑞穂は疑問に思った。
 彼女、優希の母は晴哉の腕を離さないように両手で掴んだ。それを晴哉はすぐに離させて顔をしかめた。

「なぜここにいるんだ?ここは客先の前だ。」
「そんな冷たいことを言わないでください。今日はもう仕事が終わりって聞いたから一緒に帰ろうと思って来たんです。優希も晴さんが来るのを楽しみにしていて。」

 晴哉の疑問は当然だが彼女には冷たく当たったようだった。彼女は見た目通りの精神年齢らしい。彼女が涙を流してしまい、晴哉は慌てて彼女の背を押した。

「分かったから早く行くぞ。では、浅野さん、中井さん、失礼します。」

 背を押されながら歩く彼女は一瞬瑞穂の方を振り返った時に睨みつけられた気がしたけど勘違いと思いたい。
 大変だな、と瑞穂は晴哉に対して同情した。そして、それは隣にいた中井も同じだったようで苦笑いで見送っていた。

「遠月弁護士も大変ですね。」
「そうですね。」

 その気持ちを社内で堂々と言った。他人にあれこれ言わなければ問題はないだろう。
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