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飲み会と思わぬ遭遇
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瑞穂は日本支社に来て現状を把握しオックスが自分を適任と言った理由が日本語スキルだけでないことを理解した。どこまでも地味で解決してもあまりプラスにならない仕事を母国の人達なら決してイエスと言わないだろう。瑞穂が今まで担当しているプロジェクトだって、ここで問題となっているものよりは世間で注目を集めるものばかりだっただろう。子持ちで定時上がりの瑞穂にならと、オックスは期待をして辞令を出したのかもしれない。
「これが日本人というか、自分の良いところだと思おう。」
上司の無茶ぶりに対してたいていのことに”イエス”と答えて、求められた以上のことを成果としてきた瑞穂は他の社員が断るようなプロジェクトも頷いてきたからこそ、あの一流企業でプロジェクトリーダー補佐として認められてきた。競争率が激しく、それこそ会社の中はαばかりが集まっていたエリート集団だった。別に募集要項に第二次性の指定はないのだが、自然と就職試験を突破してくるのはそういう人ばかりになっており、瑞穂は運がよかっただけだ。だから、今回の仕事もほどほどに気合を入れて始めた。
「中井さん、このスケジュールを皆さんに回してください。今後はこれに従うようにしてエラー事例を減らしていきます。もし、どこかに厳しい点があれば言ってください。私は皆さんのスキルレベルを今までの人事評価でしか知りませんのでそれを元に作成しました。だから、もし、スキルレベルにギャップがあればおっしゃってください。」
「わかりました。」
男性は部屋から出て行った。
本社から来た瑞穂は問題解決グループの統括のような立場になり、中井はメンバーの代表のようだった。彼も見るからにαであるが、瑞穂からフェロモンを感じないことと第二次性を公表しないのが会社の方針なので中井には知られていないからか、あまり嫌な顔をしていなかった。
「さて、やりますか。」
問題になっている部分がいつ頃に解決できるか、のめどが立ったところで、スキルアップ教育の日程を組んだ。教育など経験は皆無なので面白そうな資料を自分なりに作成し、AIも活用して自主学習できるシステムの構築を始めた。あくまで、テスト段階なのでシステムの構築は社員サイトの中にある一部にテスト専用の場所があるので、そこで実施した。テスト対象は色んなスキルレベルの何人かをピックアップして受講してもらおうと考えた。
瑞穂はそれから問題解決のスケジュール進捗を確認しつつ自主学習システムの構築を進めた。それらは順調に行き、1カ月で問題解決は無事に済んだようだ。
「中井さん、ご苦労様でした。」
「いいえ、私たちは浅野さんのスケジュール通りに進めただけです。お礼を言うのはこちらの方です。浅野さんがいなければ、どうなっていたかわかりません。」
「いいえ、あなたが皆さんをまとめていたからですよ。調和を取れていたのはあなたのおかげです。ありがとうございました。」
ようやく問題が解決したことで中井の顔色が明るかった。彼なりに不安を抱えていたの違いない。年齢の割に管理職を得ているのは異例の出世だと社内の噂で聞いた。与えられた部屋からほとんど出ない瑞穂でも聞こえるほどに男女関係なく中井の話をしていた。そんな彼がこんなに瑞穂の指示に従ってくれたことが不思議でありながらありがたいことだった。
「そこで、浅野さん、実は問題もだいぶ解決しましたし、時間に余裕ができましたので、今後の活力回復の為に飲み会をしたいのです。浅野さんのご都合はいかがですか?」
「え?私、ですか?」
それは突然の誘いだった。向こうでは相談があるときに上司に対して夕食を誘ったり、愚痴を言い合ったり交流を広げる場として同期たちとの食事会や休日にバーベキューやキャンプなどのイベントに誘われたりする機会はあった。もちろん、家族同伴可。しかし、こんな風に課全員を誘った大勢の飲み会と称される場は用意されたことが瑞穂にはなかったし、誘われることがほとんどなかったので瑞穂は驚いてしまった。そんな反応をされれば、相手が困惑するのは当然であり、現に中井も誘ったことを悪かったかのようにとらえてしまい、顔色が悪くなってしまった。それに慌てて瑞穂は出て行こうと後ずさる彼を止めた。
「行かせていただきたいです!誘われると思っていなかったので驚いただけなんです。」
「・・・・・・。」
気まずい空気が流れた。
ここからどう瑞穂は発言すればいいのか迷っていると、中井は噴き出したように笑い涙目になった目元を指で拭うしぐさをした。
「では、日時と場所は後ほどメールで連絡させていただきます。」
「えっと、はい。ありがとうございます。」
にこやかに出て行く中井を見送って瑞穂はホッと一息ついた。
「びっくりした。」
瑞穂は椅子に全身預けて座りお茶を一口飲む。そうして、落ち着いたところで笑顔が抑えきれずに喜びがはじけてしまった。
「初めての食事!周囲とコミュニケーションを取るチャンスだ。」
瑞穂は拳を突き上げた。
元々、今回のプロジェクトに関わったメンバーとは話の機会を設けてスキルレベルをチェックしようと思っていた。ただ、面談するには時間がなかったのでその機会を得られないことに歯がゆさが残っていた。スキル表を確認すればいいのだけど、それだけでは現実とのギャップを見落としてしまうリスクが大きいので避けたかった。今回、瑞穂がテストとして作成する育成用のシステムにテスタする相手を選択する上でそれは重要事項だったので、こんな風に向こうから降ってきたことに対して瑞穂は歓喜しかわかなかった。後日、メールで飲み会の日時と場所の連絡が回ってきたので、内容を確認し母に謝りながらその日の翔に関する世話を任せた。翔は何でも自分のことをできるようになったし、家では母が一緒にいてくれるのだが、お迎えや外出は母がついて行かなければならないため彼女に頼むとすぐに了承の返事が来た。子供好きの母はよっぽどの用事、冠婚葬祭がなければ断ることはない。
「今回の危機回避の祝いと今後の発展を願って、乾杯!」
男性の発声によって飲み会が始まった。初めてきた居酒屋と呼ばれるお店には他にもサラリーマン集団がいて、ここがオフィス街であることを物語っていた。瑞穂でも知っている社名がずらりと並ぶような街なので飲み会の人数もそれぞれ多いことは予想がつき、案の定30人ほどになった瑞穂たちも目立つことはなかった。
「浅野さんは向こうの生活が長いんですか?」
瑞穂は本社からの派遣なので遠巻きにされるかと心配したが、男女関係なく社員が話しかけてきて、彼らが気になったのはやはり同じ国籍の瑞穂の過去だった。
「4年ぐらいですね。大学が向こうでそれからずっと向こうで暮らしています。」
「へえ、家族で一緒に住んでいるんですか?」
「いいえ、母は日本にいた頃から住んでいる家に住んでいます。向こうは父がいるので父と一緒に住んでいるんです。息子もまだまだ小さくて手がかかる年頃ですから。」
「そういえば、お子さんがいたんですよね。」
中井が思い出したように言った。子供がいることは社員情報に記載があるため、瑞穂と社員の橋渡し役を担っていた彼が知っていることはおかしくなかった。
「はい。向こうでずっと生活していたのでこちらに来て苦労を掛けるかと思ったのですが、子供はたくましいみたいで楽しく過ごしているみたいです。」
「そうなんですか?」
彼らが一斉に視線を向けたのは瑞穂の手だった。空っぽの左手に疑問を持ったようで男性が瑞穂を見た。プライベートなどないようにがつがつ質問を投げかけてくるので困った。
「結婚はしていないんですか?」
「学生でしたからね。それに、今後保障されているわけではないのに、一緒になってはくれませんよ。」
あはははっと瑞穂は軽く笑った。あの時、晴哉は保障ではないけれど、運命の番という絶対に裏切らない存在と出会ったことでそういう意味の保障を得た。瑞穂とは決してないものであり、この先、瑞穂は絶対に会うことがないものだった。
「僕からも皆さんに質問をしたいのですが、皆さんは仕事が楽しいですか?」
瑞穂の質問で場が変な空気になるかと発言した瞬間思ったのだが、日本支社の社員はそんなことを気にしていないようで異端ない返答をしてきた。お酒の力があるからか、瑞穂に対して取り繕った答えを全くしていない様子に瑞穂はこの場でよかったと改めて思い、一緒に答えてくれている中井にそっと目をやり感謝の為に小さく手話をした。中井が大学時代に手話クラブに入っていたことを彼のエントリーシートを見て知ったから。瑞穂は全てを知っているわけではなかったが、父に会いに来た人の中で難聴の男性がいて彼から少しだけ教わったから簡単なものはできた。お酒で少し顔が赤かったから中井に伝わっているかわからなかったので、瑞穂は後日彼に言葉で感謝しようと決めた。
あっという間の二時間だった。最後まで話は盛り上がり瑞穂は色んなことを聞くことができたから満足した。明日が休日だからか、二次会にも足を運ぶ人が多かったが、さすがに子持ちの瑞穂はそれを断り帰路についた。
都会は明るくいつまでも人の騒がしさにあふれていた。涼しさの空気がすぐに人の熱気に変わる道にあまり慣れないながらも歩いて駅に向かった。その途中で電話が鳴ったために瑞穂は脇道にずれて立ち止まり電話を取った。あまり歩きながら電話をすることに慣れておらず、向こうで何度かして一度鞄から物をすられたことがあったから、それからはこうして立ち止まることにしていた。
「オックスさん、そちらももう定時過ぎているのではないですか?」
『ミズホ、定時で帰れる器用なやつはお前ぐらいだ。私にとっては日が変わるまでに帰れたらいいかな、ぐらいだからな。』
「そうですか。」
相手は上司であるオックスだ。彼には定期的に報告を上げているので電話をする必要がないのだが、こうして電話をしてきたことに瑞穂は慌てた。しかし、オックスの声音がいつもと変わらないどころか、少し弾んでいる様子なので悪い方向ではないことを察し肩の力が少しだけ抜けた。
「それで、何ですか?」
『ミズホ、今回の件、よくやってくれた。スピード解決だったようで日本の会社からの信頼を勝ち取れているようだ。一年とは言ったがこれだけ早く解決してくれるなんて思わなかった。感謝する。』
「私一人の力ではありません。日本支社のみんなが頑張ってくれたおかげです。彼らのレベルはあなたが思っているよりは高いようです。」
『そうかもな。まあ、いい。教育の方はどうなっている。最近、お前が作った新しい教育システムのテスターは見つかったか?』
「候補はだいたい目星がつきました。一年で帰りますから、私の椅子は確保しておいてください。」
『ああ、分かっている。問題ないし、お前の評価は私以上に上が高く見積もっているようだ。このまま今回の出向を成功させれば、出世の話も出てくるだろう。』
「子供が小さいので残業はできませんからあまり嬉しくはありませんね。」
『そんなことを言うのはお前ぐらいだ。まあ、いい。今後も頼んだぞ。』
「はい、わかりました。」
電話を終えて褒められたから気分が良くなり人ごみの中に行く余裕ができた。
「晴さん!大丈夫!?」
突然、女性の声とともにガラスが割れる音が聞こえた。こんなこと向こうでは日常茶飯事だったのだが、日本ではあまり体験したことがなかったからか驚いて視線を向けると、さらに驚いた。
「晴哉さん。」
瑞穂は決して会わないと誓ったはずの相手がそこにいた。それも地面に座り込んでおりその背を女性に支えられていた。
「なに、喧嘩?」
「αどうしのΩの取り合いじゃない?」
道を歩いていた人たちが足を止めてコソコソと話し出した。確かに晴哉と相対して今にも殴りかかりそうなほどに興奮している男性はαだった。そして、支えている女性はΩであり以前見かけた女性と重なった。
優希の母親であり、晴哉の運命の番
同じ番ならΩとして幸福なのは運命の番だろう。
だから、優希の母親が晴哉を選んだことに納得できた。
「運命の番のそいつがいなくて寂しいって理子、言ったよな?それなのに、結局は運命の番とかいう迷信のそいつを選ぶのかよ!?俺を遊んだのか!?え?発情期に俺のところまで来たってのによ!」
「違うわ!発情期の時にあなたが近くにいただけよ。私が止めてって言ったのにやめなかったのはあなたの方よ!そんな勘違いで晴さんになんてことをしたの!」
「発情期のΩが傍にいたらαは我慢できなくなるんだよ!そんなこと、Ωのお前ならわかることだろうが。それに、止めてなんてお前は言わなかっただろう!最後には気持ちいいって何度も言ったじゃないか。」
あまり他人に聞かせられない話を赤裸々と言い合う二人の姿に瑞穂は呆れた。しかし、その話に興味深々となり、だんだん野次馬は増える一方だ。こういう夜の街ではこんな言い合いが人の感心を引く。それにしても、この場面で晴哉が何もしないことに瑞穂は驚いて彼の方を見ると、彼はただ顔を俯かせていた。散らばっているガラスには血がついていないし、地面にもその痕跡はなかったので血が出るほどの事件ではないのだが、彼は運命の番に裏切られたことにショックを受けて動くことができないことに瑞穂は気づいた。そして、番になっていないことに瑞穂は気づいた。優希の母、理子には首に防止器具である黒いネックが巻かれていたのだ。何がどうなっているのか瑞穂にはわからないが、少し離れた場所には少し大きくなった優希もいたので、彼を守る為にも瑞穂が仲介に向かった。
「Hi,What do you doing(ハイ、あんた何しているの?)」
一応、出張中のアメリカ人を装うことにしたので英語で尋ねてみると男性は目を見開いていた。そこで彼が英語を話せないことに気づき、瑞穂は自分の失敗に気づいた。それから、スマホを出して翻訳アプリを立ち上げてみようよしたら、男性に殴り掛かられたので瑞穂は一歩後ろに下がると彼はそのまま地面に倒れ込んだ。顔から落ちたように見えて瑞穂は彼の怪我具合を心配になったがすぐに起き上がって走って行ってしまった。瑞穂は首をかしげたつつ、振り返り晴哉たちの方を見た。数年ぶりに会った晴哉が顔をあげてまっすぐに瑞穂を見ていた。彼の顔を見て怪我は無さそうだったので手を振った。
「Bye!God Bless on your life!(バイ!あなたの人生に幸あらんことを!)」
瑞穂はそう言って走り去った。周囲の目を気にしている暇はなく人の間をかき分けて瑞穂は駅まで走った。
「ただいま。疲れた。」
玄関で座ってしばらく動けなかった。久しぶりに見た晴哉の顔を思い出し胸が高鳴った予感がした。
「気のせい、気のせい。早く風呂に入って寝よ。明日はうんと翔と遊ぼう。」
瑞穂はとっとと風呂場に向かった。
「これが日本人というか、自分の良いところだと思おう。」
上司の無茶ぶりに対してたいていのことに”イエス”と答えて、求められた以上のことを成果としてきた瑞穂は他の社員が断るようなプロジェクトも頷いてきたからこそ、あの一流企業でプロジェクトリーダー補佐として認められてきた。競争率が激しく、それこそ会社の中はαばかりが集まっていたエリート集団だった。別に募集要項に第二次性の指定はないのだが、自然と就職試験を突破してくるのはそういう人ばかりになっており、瑞穂は運がよかっただけだ。だから、今回の仕事もほどほどに気合を入れて始めた。
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「さて、やりますか。」
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瑞穂はそれから問題解決のスケジュール進捗を確認しつつ自主学習システムの構築を進めた。それらは順調に行き、1カ月で問題解決は無事に済んだようだ。
「中井さん、ご苦労様でした。」
「いいえ、私たちは浅野さんのスケジュール通りに進めただけです。お礼を言うのはこちらの方です。浅野さんがいなければ、どうなっていたかわかりません。」
「いいえ、あなたが皆さんをまとめていたからですよ。調和を取れていたのはあなたのおかげです。ありがとうございました。」
ようやく問題が解決したことで中井の顔色が明るかった。彼なりに不安を抱えていたの違いない。年齢の割に管理職を得ているのは異例の出世だと社内の噂で聞いた。与えられた部屋からほとんど出ない瑞穂でも聞こえるほどに男女関係なく中井の話をしていた。そんな彼がこんなに瑞穂の指示に従ってくれたことが不思議でありながらありがたいことだった。
「そこで、浅野さん、実は問題もだいぶ解決しましたし、時間に余裕ができましたので、今後の活力回復の為に飲み会をしたいのです。浅野さんのご都合はいかがですか?」
「え?私、ですか?」
それは突然の誘いだった。向こうでは相談があるときに上司に対して夕食を誘ったり、愚痴を言い合ったり交流を広げる場として同期たちとの食事会や休日にバーベキューやキャンプなどのイベントに誘われたりする機会はあった。もちろん、家族同伴可。しかし、こんな風に課全員を誘った大勢の飲み会と称される場は用意されたことが瑞穂にはなかったし、誘われることがほとんどなかったので瑞穂は驚いてしまった。そんな反応をされれば、相手が困惑するのは当然であり、現に中井も誘ったことを悪かったかのようにとらえてしまい、顔色が悪くなってしまった。それに慌てて瑞穂は出て行こうと後ずさる彼を止めた。
「行かせていただきたいです!誘われると思っていなかったので驚いただけなんです。」
「・・・・・・。」
気まずい空気が流れた。
ここからどう瑞穂は発言すればいいのか迷っていると、中井は噴き出したように笑い涙目になった目元を指で拭うしぐさをした。
「では、日時と場所は後ほどメールで連絡させていただきます。」
「えっと、はい。ありがとうございます。」
にこやかに出て行く中井を見送って瑞穂はホッと一息ついた。
「びっくりした。」
瑞穂は椅子に全身預けて座りお茶を一口飲む。そうして、落ち着いたところで笑顔が抑えきれずに喜びがはじけてしまった。
「初めての食事!周囲とコミュニケーションを取るチャンスだ。」
瑞穂は拳を突き上げた。
元々、今回のプロジェクトに関わったメンバーとは話の機会を設けてスキルレベルをチェックしようと思っていた。ただ、面談するには時間がなかったのでその機会を得られないことに歯がゆさが残っていた。スキル表を確認すればいいのだけど、それだけでは現実とのギャップを見落としてしまうリスクが大きいので避けたかった。今回、瑞穂がテストとして作成する育成用のシステムにテスタする相手を選択する上でそれは重要事項だったので、こんな風に向こうから降ってきたことに対して瑞穂は歓喜しかわかなかった。後日、メールで飲み会の日時と場所の連絡が回ってきたので、内容を確認し母に謝りながらその日の翔に関する世話を任せた。翔は何でも自分のことをできるようになったし、家では母が一緒にいてくれるのだが、お迎えや外出は母がついて行かなければならないため彼女に頼むとすぐに了承の返事が来た。子供好きの母はよっぽどの用事、冠婚葬祭がなければ断ることはない。
「今回の危機回避の祝いと今後の発展を願って、乾杯!」
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「浅野さんは向こうの生活が長いんですか?」
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あっという間の二時間だった。最後まで話は盛り上がり瑞穂は色んなことを聞くことができたから満足した。明日が休日だからか、二次会にも足を運ぶ人が多かったが、さすがに子持ちの瑞穂はそれを断り帰路についた。
都会は明るくいつまでも人の騒がしさにあふれていた。涼しさの空気がすぐに人の熱気に変わる道にあまり慣れないながらも歩いて駅に向かった。その途中で電話が鳴ったために瑞穂は脇道にずれて立ち止まり電話を取った。あまり歩きながら電話をすることに慣れておらず、向こうで何度かして一度鞄から物をすられたことがあったから、それからはこうして立ち止まることにしていた。
「オックスさん、そちらももう定時過ぎているのではないですか?」
『ミズホ、定時で帰れる器用なやつはお前ぐらいだ。私にとっては日が変わるまでに帰れたらいいかな、ぐらいだからな。』
「そうですか。」
相手は上司であるオックスだ。彼には定期的に報告を上げているので電話をする必要がないのだが、こうして電話をしてきたことに瑞穂は慌てた。しかし、オックスの声音がいつもと変わらないどころか、少し弾んでいる様子なので悪い方向ではないことを察し肩の力が少しだけ抜けた。
「それで、何ですか?」
『ミズホ、今回の件、よくやってくれた。スピード解決だったようで日本の会社からの信頼を勝ち取れているようだ。一年とは言ったがこれだけ早く解決してくれるなんて思わなかった。感謝する。』
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一応、出張中のアメリカ人を装うことにしたので英語で尋ねてみると男性は目を見開いていた。そこで彼が英語を話せないことに気づき、瑞穂は自分の失敗に気づいた。それから、スマホを出して翻訳アプリを立ち上げてみようよしたら、男性に殴り掛かられたので瑞穂は一歩後ろに下がると彼はそのまま地面に倒れ込んだ。顔から落ちたように見えて瑞穂は彼の怪我具合を心配になったがすぐに起き上がって走って行ってしまった。瑞穂は首をかしげたつつ、振り返り晴哉たちの方を見た。数年ぶりに会った晴哉が顔をあげてまっすぐに瑞穂を見ていた。彼の顔を見て怪我は無さそうだったので手を振った。
「Bye!God Bless on your life!(バイ!あなたの人生に幸あらんことを!)」
瑞穂はそう言って走り去った。周囲の目を気にしている暇はなく人の間をかき分けて瑞穂は駅まで走った。
「ただいま。疲れた。」
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