俺にとってはあなたが運命でした

ハル

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うまくいったらしい

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 菜桜からメールが来て、約束していた日に会えなくなった、という内容であり、そこには、どこか覚悟を感じ、瑞穂は一言”わかった”とだけ何も知らないふりをして返事をした。しかし、スマホを握って祈った。

「嵯峨家が隣人でいさせてください。」

 それしか瑞穂にはできなかった。
 窓からずっと隣の家を見ていた。お昼を少し過ぎた時、先日見た白髪の男性が入って行ったのを確認し体に緊張が走った。

「頑張れ。」

 瑞穂は今修羅場であろう嵯峨のみんなにエールを送った。

「みーくん!お客さんが来たわよ!」

 菜桜たちのことで頭がいっぱいだったのに、母に呼ばれて驚いた。家に瑞穂の客が来るのは初めてであり、母の声は少しトーンが高く彼女のテンションが高いことはわかった。
 瑞穂は階段を下りると玄関のところに手を上げて軽く挨拶してきた晴哉がいた。

「晴哉さん!?」
「よお、瑞穂。いや、今日の予定なくなったから、お前の家からあいつらの様子でも見ようかと思ってさ。お前、隣の家だったから。」
「いや、それはいいんだけど。」
「じゃ、上がってくださいね。みーくん、お茶と昨日いただいたカステラがあるから持って行ってね。」

 母はスキップしながらキッチンの方に向かった。初めて息子の友達が来たと思ってはしゃいでいる。

「ごめん、母さん、ちょっとテンション高くなってて。」
「いや、別に謝ることじゃないだろ。歓迎された方が嬉しいぞ。」
「そうですか。あ、部屋は階段を上がった突き当たりの部屋だから。」
「それは入っていいってことか?」
「?先に入っててくれないと待たせるから。」

 
 何かおかしなことでもあったのか不安になったけど、晴哉は階段を上がって行った。誰かが来たことがないので、瑞穂にはどうしたらいいのか分からなくて不安だった。

「みーくん、はい、カステラ。お茶は温かいのにしておいたわよ。」
「ありがとう。なんか、カステラ多くない?」
「初めて来たみーくんの友人なんだから、これくらいは当然よ。」

 何が当然なのか、瑞穂には分からなかったが渡されたお盆を持って部屋に入った。

 晴哉はベッドの上に座ってぼーっとしていた。小さいテーブルや勉強机はあるが、彼が座るスペースはベッドの上しかなかったかもしれない。床に座っていた方が瑞穂が気まずくなってしまうので、そこに座ってくれて瑞穂は安心した。

「母さんが多めにカステラを用意したんだけど気にしないで。食べられるだけでいいから。」
「ありがとう。なんか悪いな。」
「別にいいよ。」

 晴哉は早速カステラに手を伸ばし、「うまいな。」と言った。瑞穂は彼の隣からベッドに上がって窓の方に体を寄せた。

「晴哉さんが来る少し前、多分彰彦さんのお父さんが入ったと思う。白髪のαの雰囲気をバチバチ出す人。」
「あの人で間違いないな。それにしても、αの雰囲気って何だ?」
「なんかオーラみたいな感じ、かな。」
「それは俺や彰彦にもあるのか?」

 晴哉を見ながら彰彦も思い浮かべて少し考えてから首を縦に振った。

「そうだね。そんなに強くないけど。」
「それは瑞穂からすれば俺に抵抗がないってことか?」
「そうだね。」
「そうか。」

 晴哉が身を乗り出して距離が詰まっていることに気づいて彼から離れる為に窓の方を見た。

「菜桜さん、大丈夫かな。」
「大丈夫だろう。」

 晴哉は全く心配していなかった。瑞穂より嵯峨家のことを良く知っている彼が先日から変わらない様子だった。

「どうして晴哉さんは余裕のなの?」
「そりゃ、あそこには理人がいるからな。」
「理人が?」

 大人の話だったので、ここで子供の名前が出てくるとは思わなかった。晴哉はお茶を飲んでリラックスしていた。

「彰彦と菜桜は付き合っている時、その先に進むとは思えない関係だった。特に、菜桜は運命の番だから彰彦と会っていたような印象で、彰彦の想いを知っていたからこそよりチグハグな二人に見えた。」

 瑞穂はなんとなくそんな予想をしていた。菜桜の話を少し聞いていたし、彰彦が少しそんなことを漏らしていたからだ。異種間結婚はお互いに全く違った道を歩んで来た二人がお互いを理解し合うことの連続なのだろう。
 晴哉が急に瑞穂の頭を撫でた。それに驚いて晴哉を見ると、彼は笑っていた。

「そんな二人を今のように結びつけたのが理人だ。彼があの二人の距離を変え、想い合う関係にしたんだ。そんな理人がいれば、大丈夫だ。」

 瑞穂は晴哉の力強い言葉と理人のことを知っているからか、説得された気がした。
 それから、1時間ほど経った頃にやっと嵯峨家から人が出て来た。入って行った時とは違い、4人揃って見送っていた。

「おっ、うまく行ったようだな。でも、彰彦は不服そうだ。」

 その様子を晴哉は笑っていた。しかし、彰彦の父親に抱かれた理人は嬉しそうだったので、瑞穂は安心してカーテンを閉めた。

「晴哉さん、夕飯はどうするの?」

 これ以上見ているのは失礼に思えたので、話題を変えた。

「夕飯は食べに行くか?」
「何を食べるの?あんまり高いところはちょっと無理だけど。」
「俺がそんな高級に行くように見えるか?」
「うん、見える。」

 晴哉はガックシとなっていた。
 瑞穂から見れば彼は高級料理を食べる姿が容易に想像できた。

「俺はそんな高級レストランに行ったことはほとんどない。」
「へぇ、そうなんだ。」

 瑞穂は何も言わなかった。

「よし、じゃ、肉でも食べに行くか?連れて行くぞ。」

 なんか急にやる気になった晴哉について瑞穂は行った。肉はステーキでもハンバーグでも瑞穂は好きだった。今日は気を揉んでいたから、空腹だったので晴哉の誘いに乗った。
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