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5話
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~会場を後にして~
会場を出てすぐ、私は手を振り払う。目の前の悪魔という呼称がお似合いの男、誠也はへらへらと笑っている。その笑顔をゆがませたいって思ってしまうのは私の性格の悪さからか。
「こういうことをしていたら嫌われますよ?」
と、私が言うと、彼は肩をすくめる。
「一回ぐらい嫌われたい。でも、残念ながら、こういう性格でも人気が出るんだ。」
「ええっと、私はいま、容姿の自慢をされました?」
と、私が彼の言葉に即答すると、彼は一瞬キョトンとした顔をしてから、すぐに笑いだす。涙を目にためてそれを指で拭う。笑い上戸であることは先ほど知ったのでもう驚かない。
「本当に、今まで見なかったタイプだよ。これまでいろんな女子と話してきたけど、君みたいな子は初めてだな。おとなしそうなのに、そんなに物をはっきり言うタイプ。」
「もともと、おとなしくはないですね。どちらかと言えば、これは鍛えられてこうなりました。感情は表に出すタイプですよ。」
私の言葉が信じられないように彼は目を丸くする。
彼の反応に私も頷く。自慢じゃないが、今までそんな風に言われたことはないし、なんなら、感情が出なさ過ぎて大人相手にも恐怖を与えたほどだ。そんな私の顔はもはやホラーレベルと言ってもいいだろう。
「それじゃあ、私はここで。そこの地下鉄で多分帰れますし。明日から私を連れてきた女子への対応とか考えないといけませんから。」
私はすぐ近くの地下鉄の駅入り口を指して言う。
実際、私は上京して日が経っていないから、この時指していた電車で自宅に帰ることができたかは正直自身がないただ、この目の前の男といるよりは迷って交番に駆け込んだ方が何倍もマシだ。それに、今はお腹が満腹で夜ご飯は最悪抜いてもお腹が減らない自信しかない。
「いいや、送っていくよ。車で送るって言ったよね?それに、この後は一緒にどこか行くって言ったじゃないか。約束は守る主義なんだ。」
「いいえ、それは拒否します。」
「王様ゲームの王様の命令は絶対なのでそれは却下です。」
なんと!?
あんなただのクジ引きのようなゲームにそんなルールがあったなんて、私は知らない。私は騙された人の信条がこの時実感する。こんなに心が追い付かない事象は初めてで、一瞬言われた言葉が頭に入ってこないことが不思議な感覚だ。簡単に人が騙されることがわかる。
私は働かない頭を叱咤して状況を整理する。
今回はお金ではなく、ただの行動だ。そして、幸運にも外で逃げるには絶好の状態だ。それに、私は足には自信があり、高校の時、学校で一番足が速かったし、学校を代表して出た陸上の1000mで全国2位と実力があり、折り紙付きだ。だから、私はスポーツ万能らしい彼にも足で負ける気がしない。今は拘束もされていない。男子には力ではかなわないことは先ほどのことでもうわかっている。それは避ける方向で行くなら、今、この瞬間に回れ右して一目散に近くの交番まで走ることが最善だろう。
私が逃亡を図っていることを知らない誠也は固まる私ににっこりと笑いかける。
「車はすぐそこだし、これから回るところはそんなに遠い場所でもないよ。それに、全部おごりだからね。お金とか気にしないで。あと、時間は門限あるならそれまでに送り届けるよ。」
なんて、酔っているように説明は続く。
私はそれを後目に意思を固めるとすぐに行動に移す。小さいころから行動力だけは一人前あり、両親も祖父母もそれには手を焼いていたが、途中で剣道をしこみ始めたことでそういうところは改善された。ただ、私の中で優先順位があって、剣道より好きなことへの行動が優先度が低かっただけだ。
それでも、剣道始めて5年かけて彼らに仕込まれたことはいまも体に染みついているが、ここはそれから解放されるのに絶好の機会だろう。
勝手に判断した私は回れ右して全速力で近くの地下鉄の方ではなく、地上の駅ビルが見える方向まで走っていく。人が比較的少ない時間だったことが幸いして、少し俯きがちで走っていても人とぶつかることはなく私は無事にビルの方に着く。
「ここまで来れば大丈夫。」
と言って、膝に手をついて呼吸を整える。
すると、先ほど視線をそらしてすでに見えない人物が目の前にいるのだから、私は思わず後ろに飛びのく。
「そんなに驚くことはないと思うけど。幽霊でもなんでもないし。」
と、誠也はさも当然に言う。
彼はニコリと笑って私との距離を詰める。
「ひどいな。こんな風に逃げた人なんて今までいなかったよ・・・・でも、良いものだね。」
と、彼が言った瞬間、私の背に悪寒が走る。
変な性癖に目覚めさてしまったかも、と私は一瞬頭によぎったがそれを無視する。こんな数時間で変わることは絶対にないだろう。
「さて、良い感じに運動できたね。じゃあ、行こうか。あいつからはそろそろ離れたいって思っていたけど、君に逢わせてくれたことには感謝しなくちゃね。」
と、彼はニコリと笑う。
あいつっていうのが誰を指すかなんて一目瞭然だ。
私は今後のことを考えるとため息しか出ない。ただ、目の前の男の相手をすることと、例の女性を相手にするのとを天秤にかけた場合、前者の方に軍配が上がってしまう。
私はだから困っているのだ。
会場を出てすぐ、私は手を振り払う。目の前の悪魔という呼称がお似合いの男、誠也はへらへらと笑っている。その笑顔をゆがませたいって思ってしまうのは私の性格の悪さからか。
「こういうことをしていたら嫌われますよ?」
と、私が言うと、彼は肩をすくめる。
「一回ぐらい嫌われたい。でも、残念ながら、こういう性格でも人気が出るんだ。」
「ええっと、私はいま、容姿の自慢をされました?」
と、私が彼の言葉に即答すると、彼は一瞬キョトンとした顔をしてから、すぐに笑いだす。涙を目にためてそれを指で拭う。笑い上戸であることは先ほど知ったのでもう驚かない。
「本当に、今まで見なかったタイプだよ。これまでいろんな女子と話してきたけど、君みたいな子は初めてだな。おとなしそうなのに、そんなに物をはっきり言うタイプ。」
「もともと、おとなしくはないですね。どちらかと言えば、これは鍛えられてこうなりました。感情は表に出すタイプですよ。」
私の言葉が信じられないように彼は目を丸くする。
彼の反応に私も頷く。自慢じゃないが、今までそんな風に言われたことはないし、なんなら、感情が出なさ過ぎて大人相手にも恐怖を与えたほどだ。そんな私の顔はもはやホラーレベルと言ってもいいだろう。
「それじゃあ、私はここで。そこの地下鉄で多分帰れますし。明日から私を連れてきた女子への対応とか考えないといけませんから。」
私はすぐ近くの地下鉄の駅入り口を指して言う。
実際、私は上京して日が経っていないから、この時指していた電車で自宅に帰ることができたかは正直自身がないただ、この目の前の男といるよりは迷って交番に駆け込んだ方が何倍もマシだ。それに、今はお腹が満腹で夜ご飯は最悪抜いてもお腹が減らない自信しかない。
「いいや、送っていくよ。車で送るって言ったよね?それに、この後は一緒にどこか行くって言ったじゃないか。約束は守る主義なんだ。」
「いいえ、それは拒否します。」
「王様ゲームの王様の命令は絶対なのでそれは却下です。」
なんと!?
あんなただのクジ引きのようなゲームにそんなルールがあったなんて、私は知らない。私は騙された人の信条がこの時実感する。こんなに心が追い付かない事象は初めてで、一瞬言われた言葉が頭に入ってこないことが不思議な感覚だ。簡単に人が騙されることがわかる。
私は働かない頭を叱咤して状況を整理する。
今回はお金ではなく、ただの行動だ。そして、幸運にも外で逃げるには絶好の状態だ。それに、私は足には自信があり、高校の時、学校で一番足が速かったし、学校を代表して出た陸上の1000mで全国2位と実力があり、折り紙付きだ。だから、私はスポーツ万能らしい彼にも足で負ける気がしない。今は拘束もされていない。男子には力ではかなわないことは先ほどのことでもうわかっている。それは避ける方向で行くなら、今、この瞬間に回れ右して一目散に近くの交番まで走ることが最善だろう。
私が逃亡を図っていることを知らない誠也は固まる私ににっこりと笑いかける。
「車はすぐそこだし、これから回るところはそんなに遠い場所でもないよ。それに、全部おごりだからね。お金とか気にしないで。あと、時間は門限あるならそれまでに送り届けるよ。」
なんて、酔っているように説明は続く。
私はそれを後目に意思を固めるとすぐに行動に移す。小さいころから行動力だけは一人前あり、両親も祖父母もそれには手を焼いていたが、途中で剣道をしこみ始めたことでそういうところは改善された。ただ、私の中で優先順位があって、剣道より好きなことへの行動が優先度が低かっただけだ。
それでも、剣道始めて5年かけて彼らに仕込まれたことはいまも体に染みついているが、ここはそれから解放されるのに絶好の機会だろう。
勝手に判断した私は回れ右して全速力で近くの地下鉄の方ではなく、地上の駅ビルが見える方向まで走っていく。人が比較的少ない時間だったことが幸いして、少し俯きがちで走っていても人とぶつかることはなく私は無事にビルの方に着く。
「ここまで来れば大丈夫。」
と言って、膝に手をついて呼吸を整える。
すると、先ほど視線をそらしてすでに見えない人物が目の前にいるのだから、私は思わず後ろに飛びのく。
「そんなに驚くことはないと思うけど。幽霊でもなんでもないし。」
と、誠也はさも当然に言う。
彼はニコリと笑って私との距離を詰める。
「ひどいな。こんな風に逃げた人なんて今までいなかったよ・・・・でも、良いものだね。」
と、彼が言った瞬間、私の背に悪寒が走る。
変な性癖に目覚めさてしまったかも、と私は一瞬頭によぎったがそれを無視する。こんな数時間で変わることは絶対にないだろう。
「さて、良い感じに運動できたね。じゃあ、行こうか。あいつからはそろそろ離れたいって思っていたけど、君に逢わせてくれたことには感謝しなくちゃね。」
と、彼はニコリと笑う。
あいつっていうのが誰を指すかなんて一目瞭然だ。
私は今後のことを考えるとため息しか出ない。ただ、目の前の男の相手をすることと、例の女性を相手にするのとを天秤にかけた場合、前者の方に軍配が上がってしまう。
私はだから困っているのだ。
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