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第四話
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一目惚れだった。何とか友達と言える関係になったものの、過去のトラウマからあと一歩を踏み出すことができなかった。そうこうしている間に、久恵に彼氏ができたことを知った。言いようのない喪失感に襲われたが、だからと言って自分がどうこうできたわけでもないだろうと納得するしかなかった。
その後、3ヶ月もしないうちに別れたと言う話を耳にした。再びチャンスが巡ってきたかのように思えたが、どうしても告白する勇気が出なかった。
指を咥《くわ》えて眺めている間に、すぐさま久恵に新しい彼氏ができた。久恵の器量なら当然だろう。グズグズしていた自分に腹を立てたが、またも1ヶ月かそこいらで破局したと言う。女子の中には、久恵は男を取っ替え引っ替えする尻軽女だと陰口を叩く人もいた。そんなはずはないと思い、それとなく本人に聞いてみた。
「うーん、何て言ったらいいのかな?性格の不一致?ちょっと違うかな、えーと、そうジグソーパズルみたいな感じ」
「ジグソーパズル?」
「そう、凸凹の数が同じでも合わせてみたら少し違くてピッタリハマらなかったてことかしら」
久恵の言っている意味がよくわからないまま月日が流れた。
そして四年生の夏、ついに久恵に告白する決意が固まった。高校時代のトラウマが消えたわけではないけど、就職も内定していたし、単位もほとんど取っている。こっぴどく振られたとしても、その時は学校に行かなければいいだけだという保険があった。
そういった計画を知ってか知らずか、意外にも久恵はあっさりOKの返事をくれた。
嬉しかった。
自分にも恋する権利があるのだと認められた気分になった。それから久恵と過ごす日々は過去のトラウマを消し去るに足る充実したものだった。むしろあの辛かった出来事はこの出会いに必要なプロセスだったんだとさえ思えた。
久恵もまた、パズルのピースがピッタリハマったと言ってくれた。
これからもずっと、久恵と一緒にいられると思っていた、思っていたのに。悔しくて涙が流れた。
気付けば駅の前にいた。
「マコトー!」
背後から息を切らして久恵が駆け寄ってきた。
「もう、いきなり飛び出しちゃうんだもん」必死に呼吸を整えようとしながら久恵は言う。
「ごめん、居た堪れなくなってつい」
「いいの、こっちこそごめんなさい。うちの親が酷いこと言って。私、怒っておいたから。お父さんも言いすぎたって言って謝ってたよ。でも、やっぱり今はちょっと難しいみたい」
「そうみたいだね」
「諦めないで。私も頑張って両親説得するから。でも、その間はあまり刺激したくないから、今までみたいに会えないかもだけど」
「わかった」
久恵と全く会わなくなったわけではない。でも、久恵と過ごす時間はこれまでのような恋人と呼べるようなものではなく、ただの友達に降格してしまったかのように感じさせられ、かえって辛かった。
日に日に憔悴していくその姿を見かねて、母がどこかから縁談を持ってきた。母には全てを話している。久恵の両親の話をした時は、普段謝ってばかりいる母が、あなたにももっと相応しい人がいるはずよと珍しく声を荒《あら》らげた。我が子をなじられたのが余程腹に据えかねたのだろう。
半ば無理矢理渡されたお見合い写真は、明らかに母の理想で選んだ人だった。
「好みじゃ無い」そう言って写真を突き返す。そもそも好みとかそういうことでは無い。久恵以外と一緒になるなんて考えられない。
「またあなたはそんなこと言って。自分が振られた時はこの世の終わりみたいに落ち込んでいたのに、そんなふうに断るならあなたを振った子と同じじゃない」
ど正論に返す言葉が見つからなかった。
「ほら、お母さんカラオケ教室通ってるでしょ。同じ教室の方なんだけどね、この牧原さ
んていい方よ。あなたと同じIT系の仕事をしてるって言ってたから話もあうと思うのよ。とにかくお母さんの顔を立てると思って一回でいいから会ってみなさい」
「わかったよ」
その後、3ヶ月もしないうちに別れたと言う話を耳にした。再びチャンスが巡ってきたかのように思えたが、どうしても告白する勇気が出なかった。
指を咥《くわ》えて眺めている間に、すぐさま久恵に新しい彼氏ができた。久恵の器量なら当然だろう。グズグズしていた自分に腹を立てたが、またも1ヶ月かそこいらで破局したと言う。女子の中には、久恵は男を取っ替え引っ替えする尻軽女だと陰口を叩く人もいた。そんなはずはないと思い、それとなく本人に聞いてみた。
「うーん、何て言ったらいいのかな?性格の不一致?ちょっと違うかな、えーと、そうジグソーパズルみたいな感じ」
「ジグソーパズル?」
「そう、凸凹の数が同じでも合わせてみたら少し違くてピッタリハマらなかったてことかしら」
久恵の言っている意味がよくわからないまま月日が流れた。
そして四年生の夏、ついに久恵に告白する決意が固まった。高校時代のトラウマが消えたわけではないけど、就職も内定していたし、単位もほとんど取っている。こっぴどく振られたとしても、その時は学校に行かなければいいだけだという保険があった。
そういった計画を知ってか知らずか、意外にも久恵はあっさりOKの返事をくれた。
嬉しかった。
自分にも恋する権利があるのだと認められた気分になった。それから久恵と過ごす日々は過去のトラウマを消し去るに足る充実したものだった。むしろあの辛かった出来事はこの出会いに必要なプロセスだったんだとさえ思えた。
久恵もまた、パズルのピースがピッタリハマったと言ってくれた。
これからもずっと、久恵と一緒にいられると思っていた、思っていたのに。悔しくて涙が流れた。
気付けば駅の前にいた。
「マコトー!」
背後から息を切らして久恵が駆け寄ってきた。
「もう、いきなり飛び出しちゃうんだもん」必死に呼吸を整えようとしながら久恵は言う。
「ごめん、居た堪れなくなってつい」
「いいの、こっちこそごめんなさい。うちの親が酷いこと言って。私、怒っておいたから。お父さんも言いすぎたって言って謝ってたよ。でも、やっぱり今はちょっと難しいみたい」
「そうみたいだね」
「諦めないで。私も頑張って両親説得するから。でも、その間はあまり刺激したくないから、今までみたいに会えないかもだけど」
「わかった」
久恵と全く会わなくなったわけではない。でも、久恵と過ごす時間はこれまでのような恋人と呼べるようなものではなく、ただの友達に降格してしまったかのように感じさせられ、かえって辛かった。
日に日に憔悴していくその姿を見かねて、母がどこかから縁談を持ってきた。母には全てを話している。久恵の両親の話をした時は、普段謝ってばかりいる母が、あなたにももっと相応しい人がいるはずよと珍しく声を荒《あら》らげた。我が子をなじられたのが余程腹に据えかねたのだろう。
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「ほら、お母さんカラオケ教室通ってるでしょ。同じ教室の方なんだけどね、この牧原さ
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