『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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終章

最終戦 Ⅳ

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──何で、コイツらがここに居る。どういう風の吹き回しだ?

傍目から見てもそう読み取れるであろう表情を浮かべる俺に、俺の数歩前へと、晴れてくる煙の中から現れた桔梗が……簡潔に答えた。


「……私たちが《長》の言うことを『はいはい、そうですね』って素直に聞くと思いますか? 《鷹宮》だって同じですよ。《雪月花》は──」
「……生憎、アタシたちは《仙藤》と《鷹宮》に呼ばれただけだから。いきなり監禁を解かれたら『部下を呼び揃えろ』なんて言われて。傍迷惑だわ」


武闘派異能者組織、《雪月花》。その《姫》である月ヶ瀬美雪も、後ろにずっと控えている部下を守るようにして、しかし、前線を維持する為にも……桔梗に並ぶようにして、現れた。
 相変わらずの気だるげな視線を、俺たちに向けながら。

結衣さんこそ唯一反応はないが、いつの間にか、彩乃の隣へと控えていた。
 ……まさか、こんな形で役者が揃うとは。最強と謳われる異能者組織。古来より継がれてきた異能者の系譜であり、俺たちでさえも苦戦した、武闘派組織が。

──煙も晴れてきた。清光の様子を窺い見る桔梗によると、どうやら、


「……無傷、ですか」
「どういうことだ、桔梗」
「自身には効果を与えない、完全敵対用範囲型爆発といったところでしょうかね。厄介ですよ」


故に、結界など破れているハズもない。逆にあれほどの時間を清光に与えたとなれば、かなりの数。張り直されたといってもいいだろう。
 
そう推理し、既に目視出来るほどにクリアになった視界の中に、清光を入れる。
 ……確かに、無傷だ。疲労の色こそ見えるものの、目立った外傷は無い。
 しかし、結界は変わっていないようだ。力を溜めているのか。

銃片手に、異能も使えるとなると、まだまだ健在か。面倒だな。
 そんな清光はズラリと現れた異能者組織の面々を見渡すと、特に《鷹宮》に於いては──


「まさか、こんな形で身内と手合わせすることになるとはな。皮肉なモノだ」
「生憎だけど、曾お祖父さま。私たちも貴方を相手にはしたくないの。分かっていただけないかしら」
「……確かに、事の発端は僕自身だ。裏に手を回したのも僕だ。だからといってソレは──避けられぬことではなかった」
「……どういう、こと?」


避けられぬこと。それは何を指している? 勿論、事の発端だ。
 彩乃が俺に出会うキッカケとなった、あの事件。俺が彩乃に強力するキッカケとなった、彩乃の口から語られた、あの事件。


「……清光。その話は逮捕してから、詳しく聞こう。それからだ。俺たちがを下すのは」
「どうにも、志津二くんは僕を捕まえたいようだね」
「ここ数ヶ月とお前を追ってきたんだ。ここまで来て引き下がれるかっ」


小さく瞬きをし、何やら思案した清光は──


「……良かろう。《紫苑》の統率者である僕に、どれほど抗えるのか。試してみようか」


言い、清光は自身の周りに幾重にも幾重にも結界を張り直していく。それは壁ともいえる厚さに達し、清光はその中で、銃を片手に立っていた。『来い』と目がモノを言う。

──よし、の本領発揮といきますか。あんな爺さんに負けてたまるかっての。

自身を鼓舞した俺は、桔梗らを後ろにして立ち、前線の統率者となる。
 そして、即座に命令を下していく。それは的確に、間違えのないように。
 読み間違えさえが、命取りになるのだから。


「隠蔽班は前線を守るように結界を張れ! 処理班は小隊を作り、あちらの結界の破壊及び確保に専念しろ!」
  

その言をしかと聞き止めた前衛勢力は、組織関係なく、持ち前のチームワークを存分に発揮して、結界を破壊しようと試みる。
 後衛勢力は、いつの間にか居た水無月彩を中心に、《開かずの小部屋》諸々の防護結界を駆使して、周辺の安全を確保していた。

しかし清光も、それを黙って見ているハズもない。
 あの結界は自身の攻撃は通すことが出来るのか、清光自身が放った各属性の弾幕を一切の抵抗なく抜けさせていく。

超速の如き速さで迫り来るソレに、前衛は冷静に対処していく。
 各属性を相殺するように弾幕を放ち、更に追い討ちを掛けるかのように、氷や岩の礫が飛来していく。

それらは全て結界によって阻まれるが、少なからずダメージを与えていることもまた、事実。
 そんな前衛で繰り広げられる戦いを横目に、月ヶ瀬美雪は己が周りに淡い光の粒子を纏わせていく。

……あの一撃か。一瞬にして大勢の敵対勢力を戦闘不能に出来る、神の裁きが如く稲妻。
 結界が破れた時のために準備しておくのか。周到だな。


「美雪。それが使えるのは1度だけだろう? 慎重に頼むぞ」
「……言われなくても。逆に、アンタこそ指示を出した方が良いんじゃないかしら」
「傍目、瞑想してるような女に言われたくはないな。……安心しろ。部下は信用してるし、アイツらも俺を信用している。何が言いたいかくらいは分かるハズだ」


──さて。と呟いた俺は、彩乃へとアイコンタクトを送り、前線勢力を拡大するために戦場のド真ん中へと飛び込んでいく。

彩乃や処理班が創り出した弾幕や礫の数々を《魔弾の射手》に適応させ、亀裂が入っているところを中心に結界の破壊を試みる。
 清光もそれに抗うように結界を重ねに重ねつつ、銃や異能で応戦してくる。
 それらは主に俺と彩乃に向かって飛来してくるが、隠蔽班がそれを許さない。

時折、美雪を狙った攻撃もあるが、やはり、隠蔽班の力ゆえに。

結界も残り数枚となったところで、ようやく清光が前線から飛び退き、俺たちと距離を置いた。
 それと同時に俺たちも清光から距離を置き、更なる攻撃の手段を口にする。


「──水球、圧縮」


俺の言葉に、処理班の『水』や『圧縮』系の異能者が集まる。
 掌から創造された不規則な水の泡は、圧縮されたことによって確りと質量を持った。それらが幾つも創られていく中、俺は次の手を出す。


「──焔槍、構え」


後、熱波が俺たちを襲う。その発生源は、紛れもない、処理班から。
 『発火』と『念動』の2つが組み合わさったそれは、まるでグングニルの如く、紅く燃え盛っていた。
 照準は今にも清光へと向けられ、放とうと思えばいつでも放てるだろう。

その凶器の切っ先を向けられた清光は、結界を補強し、相殺させるための術を異能によって創り出していく。

……なら、俺たち《異能者軍団》の矛と盾、《紫苑》の矛と盾──どちらが強いか、試してみようじゃないか。


「各員、攻撃準備。……水球、発射」


鋭い風切り音を響かせたそれらは、一直線に清光へと襲いかかる。
 圧縮された水球はレーザーの如く速さで貫き、防がれ、或いは相殺されたモノは泡沫のように霧散し、霧となり。
 しかし、それですら──読み通りだ。


「降らせ」
「…………?」


防御を無視した攻撃に、清光は僅かに眉を顰める。
 直後、俺たちと清光の頭上に雨雲が発生し──パラパラと、細かな雨を降らせた。火照っていた身体は、それらに冷やされるようで。

頬に付いた水滴を拭いながら、俺は清光へと告げる。美雪にも教えてやった、あの台詞を。
 

「──異能というのは、基本的に単一のことしか出来ない。これは、本家筋から離れた分家の人間に言えることだが……」


まぁ、いずれにせよ、


「限界は存在する。しかし、それぞれに有利な属性を組み合わせれば──その限界など、容易く超えることが出来る。分かるな?」
「……そういうことか。賢いな」
「お褒めに預かり、光栄だ」


どうやら今になって気が付いたらしいが、既に遅い。


「《紫苑》の統率者、鷹宮清光。攻撃は最大の防御とも言うが──まさか、ここで終わることはあるまいな?」


そして紡ぐは、たった一言。


「──放て」


焔槍は『圧縮』が解放された事により、ジェット噴射の如く飛来していく。
 そしてそれは、従来のモノとは全く異なる……言わば、致死性の暴力。たが、無惨にも、前面にある強固な盾によって防がれてしまう。


──だが、そんなものは余波に過ぎないのだ。これから始まる、終戦への。


直後、辺り一帯に爆発音が鳴り響く。永いようで、刹那の刻。

亀裂が入る音とともに、パリンッ。パリン、パリンッ。結界が一瞬にして破れていく音が、耳に届く。
 そして、最後の結界が破れたであろう時に。


「……待たせたわね」


美雪は伏せていた顔を上げ、静かに手を掲げる。


「──貴方には色々とお世話になった。恨みこそないけれど、これで終わりにしましょうか」


掲げられた手から、強力な電流の源となる『月』が形成されていく。
 それらは瞬く間に密度と質量を増していき、あの時よりも格段に効果はあるであろう稲光が、一閃。
 迷いなく清光のもとへと飛来し、防がせる暇すら与えず、蜘蛛の子を散らすように発動された。

霧や水の影響を受けて、通電率も上がったが故に、清光は立つことすらもままならない。
 鉄格子の床に手を着いて、荒い呼吸を繰り返す清光へと向けて、俺は銃を構える。照準は頭に定め、威嚇の意を示しながら、俺は告げた。


「──お前の負けだよ。鷹宮清光」 


告げると同時、隠蔽班による束縛結界が清光の周囲を覆い、身動きを取れなくする。
 チラリと彩乃に視線を寄越せば、彩乃は内ポケットから手錠を取り出し、金属音を響かせながら、清光のもとへと歩み寄った。
 それを、結衣さんが呼び止める。


「彩乃ちゃん、貴女が行くの?」
「大丈夫よ、結衣。私がケリをつける。これは私が引き起こしたことだからね」


小さく微笑んだ彩乃は、再び、清光のもとへと歩み寄る。


「……随分と成長したモノだね。君も」
「色々と大変だったけど──パートナーが出来たから、ここまで来れた。だから最後は、私自身が決める」


カチャリ、と無機質な音。なのに、何処か安堵したような、清光の顔があった。
 

「老兵は死なず、ただ消え去るのみ──とは言うが、こうして曾孫に捕えられるのもまた、一興なのかもしれんな」


ダグラス・マッカーサーの言葉を諳んじた清光は、およそ優しげな曾祖父といった笑みを浮かべ……銃と軍刀を地に捨て、投降した──。

──長かった戦いも、これにて終止符が打たれたのだ。


~to be continued.
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