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《紫苑》
事態の進展
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「焦っている……か」
《長》の部屋で、独りごちて呟く。
「……確かに、焦ってるのかもな」
胸の中に生まれた、言い知れぬ不安感。
俺の推理が本当なら、これから立ち向かうであろう者は、かなりの強敵。
しかし、それがただの思い過ごしという点も否めない。
だから、焦っている。
数ヶ月前。鷹宮邸で彩乃から告げられた、父親の死の真相。
俺はそれに協力すると約束し、そのための伝達を上手く進めるために、《鷹宮》と協力関係さえ持った。
だから、アイツにとっても俺にとっても、この件は他人事じゃない。
いずれ──俺たち自身の手で、裁きを下すことになる。
組織の最高責任者として。そして、武装警察の端くれとしても。
「……《紫苑》」
月ヶ瀬美雪と井納欽造からの情報から、流出者の所在は十分すぎるほどに分かった。
──《鷹宮》に深く関係している人物。少なくとも、本部には在しているレベル。
それでいて、《紫苑》という名の組織に属している。
はぐれ者なのか、はたまた……反乱分子の1人なのか。故に、隠れ家とやらを持っているのだろう。
──堂本充と少なからず関係を持っている人物。井納欽造の証言では、2人は知人だと言っていた。
……可笑しい。俺の推理なら、美雪の言う通り。その流出者は堂本充と同年代だ。
なのに、何故。20代の男だと井納欽造は告げた?
証言と俺の推理とで、些か読み違いが生じている。
それが人為的なモノだとしたら? ヤツ自身が、素性を明かさぬよう、別人を装っているのだったら?
……考えれば考えるほど、分からなくなる。
だが、今。俺たちがやるべきことは、とある1つを指し示している。
「……彩乃。俺、決めた」
「……うん」
「お前との約束はキチンと守るさ。だから、少々荒事に首を突っ込まなきゃならないらしい。それも、《鷹宮》という組織の」
──否。《鷹宮》を相手にする、というよりかは、
「《鷹宮》の中の、とある1人。それを相手にしなきゃならない」
◇
バシャバシャと水しぶきが跳ねる音と、辺りから聞こえてくる笑い声。
ここ、武警高の対水戦特訓用プールで──俺は、周りから少し離れた場所の椅子に腰掛けていた。
何故ここに居るかと問われれば、普段授業で使うハズのプールが破壊されたからだ。
というのも、特攻科顧問の四宮那月。どうやらアイツが原因らしい。
特訓の最中にRPGの発射訓練をしたというのだが、その軌道が有り得ない方に飛んでいき、何やかんやあってプールが壊れたのだそうだ。
勿論やる気など無いので、俺含め過半数は、見学なうである。
(しても、馬鹿げたことするよなぁ……)
そう心中で毒吐けば、人混みの中からトコトコとこちらに歩いてくる2人の少女。
プールというシチュエーションに反して、俺同様に武警高の制服を着ている彼女ら。
1人は茶髪ロングヘアの神凪鈴莉だからいいとして、もう1人は──
「や、雫か。久しぶりだな。1年の時の狙撃科の実戦以来か」
「……お久しぶりです」
小さくお辞儀をした、蒼髪でボブカットの少女。小柄な彩乃と同じくらいに背の低い彼女は──片山雫。
狙撃科の麒麟児として校内でも名を馳せており、《百発百中の狙撃手》と言われれば、彼女に他ならない。
その理由としては彼女の異能にあるのだが、確か──『身体強化』といったか。
それで視力を上げている……という話を、本人から聞いたことがあるぞ。
「珍しいな、お前が雫と一緒にいるなんて」
「暇そうにしてたから、すずりんが呼んできちゃいましたー!」
「俺のとこに来ても何も無いぞ。とはいっても、まぁ……こっちも暇だしな。ちょうど良かった」
流石に水深8mという馬鹿げたプールで泳ぎたくない。
そう苦笑いしながら告げれば、やたら辺りが騒がしくなってきた様子。
見れば、入口付近に人が群がっている。その中から出てきたのは──
「はいはーい、どいてー! どいてー!」
スク水を着て、何かを持っている少女。名札には『平賀彩葉』と、ネームペンで書かれていた。
実は、俺の持っているベレッタのバースト改造を施してくれたのは、彼女である。
装備科のSランクで、その技量と苗字から、かの平賀源内の子孫ではないかと噂されているほどだ。
そんな彼女は持っていた何かをプールに浮かべ、手にしていたコントローラーを構える。
プールに浮かべたそれは、全長1mほどの船。
……あぁ、確か見覚えがある。伊400という、第二次世界大戦中の潜水空母だ。
だが、戦時中に行方不明になってしまい、未だに見つかっていないのだとか。
俺はそんな彼女らを横目で見つつ、
「そういえば、彩乃は?」
「んー、私は知らないなぁ。ここにも来てないし、医務室とかじゃない? 夏風邪とか。……雫ちゃんは? 何か知ってる?」
「……私も、特には」
夏風邪、ねぇ。アイツが風邪ひくってのも珍しいが。
ちと、メールでも送ってみるかな──と思い、スマホを取り出す。
するとそこには、メール着信が1件入っていた。……どうやら、話題に上がっていた彩乃かららしい。
「『体調崩した。医務室で寝てくる』……か。ホントに体調崩したのかよ、アイツ」
「あ、スマホ貸してっ!」
と言いながら半ば興奮気味に俺からスマホを取り上げた、すずりんこと鈴莉。
彼女は物凄い速さで何かを入力していくと、『o(`・ω´・+o)』の如く顔をしてから、迷いなく送信しやがった。
……あれ。何か嫌な予感がするぞ。あの顔からして。
冷や汗を頬に伝わせつつ、メールの内容を見れば──思わず、凍り付いた。
『体調、大丈夫か? あまり無理しないほうがいいぞ。拗らせたらたまらないからな。
……そうそう、これは余談なんだが、どうやら来週土曜に学園都市全域で夏祭りやるらしい。良ければ一緒に行くか? 浴衣も用意してあるから』
……マズイ。マズイぞ、これ。
アイツが見たらどんな返答が来るか──場合によっては、行動を起こすか俺には理解不能だ。
「おい、何だよこれっ!」
「え? いいじゃーん。カップルでしょ? てっきり話はつけてあると思ったのに。その様子じゃ、まだだったのかなぁー?」
「うるせぇっ!!」
「うわっ!?」
ニヤニヤしながら俺をイジる鈴莉にどうしようもない怒りが募り、せめてもとプールの中に突き落としてやる。
そして再度本文を読み直し、
「どうすんだよ、これ……」
と、1人呟くのだった。
~to be continued.
《長》の部屋で、独りごちて呟く。
「……確かに、焦ってるのかもな」
胸の中に生まれた、言い知れぬ不安感。
俺の推理が本当なら、これから立ち向かうであろう者は、かなりの強敵。
しかし、それがただの思い過ごしという点も否めない。
だから、焦っている。
数ヶ月前。鷹宮邸で彩乃から告げられた、父親の死の真相。
俺はそれに協力すると約束し、そのための伝達を上手く進めるために、《鷹宮》と協力関係さえ持った。
だから、アイツにとっても俺にとっても、この件は他人事じゃない。
いずれ──俺たち自身の手で、裁きを下すことになる。
組織の最高責任者として。そして、武装警察の端くれとしても。
「……《紫苑》」
月ヶ瀬美雪と井納欽造からの情報から、流出者の所在は十分すぎるほどに分かった。
──《鷹宮》に深く関係している人物。少なくとも、本部には在しているレベル。
それでいて、《紫苑》という名の組織に属している。
はぐれ者なのか、はたまた……反乱分子の1人なのか。故に、隠れ家とやらを持っているのだろう。
──堂本充と少なからず関係を持っている人物。井納欽造の証言では、2人は知人だと言っていた。
……可笑しい。俺の推理なら、美雪の言う通り。その流出者は堂本充と同年代だ。
なのに、何故。20代の男だと井納欽造は告げた?
証言と俺の推理とで、些か読み違いが生じている。
それが人為的なモノだとしたら? ヤツ自身が、素性を明かさぬよう、別人を装っているのだったら?
……考えれば考えるほど、分からなくなる。
だが、今。俺たちがやるべきことは、とある1つを指し示している。
「……彩乃。俺、決めた」
「……うん」
「お前との約束はキチンと守るさ。だから、少々荒事に首を突っ込まなきゃならないらしい。それも、《鷹宮》という組織の」
──否。《鷹宮》を相手にする、というよりかは、
「《鷹宮》の中の、とある1人。それを相手にしなきゃならない」
◇
バシャバシャと水しぶきが跳ねる音と、辺りから聞こえてくる笑い声。
ここ、武警高の対水戦特訓用プールで──俺は、周りから少し離れた場所の椅子に腰掛けていた。
何故ここに居るかと問われれば、普段授業で使うハズのプールが破壊されたからだ。
というのも、特攻科顧問の四宮那月。どうやらアイツが原因らしい。
特訓の最中にRPGの発射訓練をしたというのだが、その軌道が有り得ない方に飛んでいき、何やかんやあってプールが壊れたのだそうだ。
勿論やる気など無いので、俺含め過半数は、見学なうである。
(しても、馬鹿げたことするよなぁ……)
そう心中で毒吐けば、人混みの中からトコトコとこちらに歩いてくる2人の少女。
プールというシチュエーションに反して、俺同様に武警高の制服を着ている彼女ら。
1人は茶髪ロングヘアの神凪鈴莉だからいいとして、もう1人は──
「や、雫か。久しぶりだな。1年の時の狙撃科の実戦以来か」
「……お久しぶりです」
小さくお辞儀をした、蒼髪でボブカットの少女。小柄な彩乃と同じくらいに背の低い彼女は──片山雫。
狙撃科の麒麟児として校内でも名を馳せており、《百発百中の狙撃手》と言われれば、彼女に他ならない。
その理由としては彼女の異能にあるのだが、確か──『身体強化』といったか。
それで視力を上げている……という話を、本人から聞いたことがあるぞ。
「珍しいな、お前が雫と一緒にいるなんて」
「暇そうにしてたから、すずりんが呼んできちゃいましたー!」
「俺のとこに来ても何も無いぞ。とはいっても、まぁ……こっちも暇だしな。ちょうど良かった」
流石に水深8mという馬鹿げたプールで泳ぎたくない。
そう苦笑いしながら告げれば、やたら辺りが騒がしくなってきた様子。
見れば、入口付近に人が群がっている。その中から出てきたのは──
「はいはーい、どいてー! どいてー!」
スク水を着て、何かを持っている少女。名札には『平賀彩葉』と、ネームペンで書かれていた。
実は、俺の持っているベレッタのバースト改造を施してくれたのは、彼女である。
装備科のSランクで、その技量と苗字から、かの平賀源内の子孫ではないかと噂されているほどだ。
そんな彼女は持っていた何かをプールに浮かべ、手にしていたコントローラーを構える。
プールに浮かべたそれは、全長1mほどの船。
……あぁ、確か見覚えがある。伊400という、第二次世界大戦中の潜水空母だ。
だが、戦時中に行方不明になってしまい、未だに見つかっていないのだとか。
俺はそんな彼女らを横目で見つつ、
「そういえば、彩乃は?」
「んー、私は知らないなぁ。ここにも来てないし、医務室とかじゃない? 夏風邪とか。……雫ちゃんは? 何か知ってる?」
「……私も、特には」
夏風邪、ねぇ。アイツが風邪ひくってのも珍しいが。
ちと、メールでも送ってみるかな──と思い、スマホを取り出す。
するとそこには、メール着信が1件入っていた。……どうやら、話題に上がっていた彩乃かららしい。
「『体調崩した。医務室で寝てくる』……か。ホントに体調崩したのかよ、アイツ」
「あ、スマホ貸してっ!」
と言いながら半ば興奮気味に俺からスマホを取り上げた、すずりんこと鈴莉。
彼女は物凄い速さで何かを入力していくと、『o(`・ω´・+o)』の如く顔をしてから、迷いなく送信しやがった。
……あれ。何か嫌な予感がするぞ。あの顔からして。
冷や汗を頬に伝わせつつ、メールの内容を見れば──思わず、凍り付いた。
『体調、大丈夫か? あまり無理しないほうがいいぞ。拗らせたらたまらないからな。
……そうそう、これは余談なんだが、どうやら来週土曜に学園都市全域で夏祭りやるらしい。良ければ一緒に行くか? 浴衣も用意してあるから』
……マズイ。マズイぞ、これ。
アイツが見たらどんな返答が来るか──場合によっては、行動を起こすか俺には理解不能だ。
「おい、何だよこれっ!」
「え? いいじゃーん。カップルでしょ? てっきり話はつけてあると思ったのに。その様子じゃ、まだだったのかなぁー?」
「うるせぇっ!!」
「うわっ!?」
ニヤニヤしながら俺をイジる鈴莉にどうしようもない怒りが募り、せめてもとプールの中に突き落としてやる。
そして再度本文を読み直し、
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と、1人呟くのだった。
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