上 下
43 / 57
手掛かりの1つ

決闘の刻──中編

しおりを挟む
「……行け」
「……行きなさい」


双方の発する声は同時。また、双方が率いる部下らが動くのも、同時だった。
 地を蹴る音が響き、それに続いて、


「グッ……!」
「カハッ…………」


苦悶の声が聞こえるは、我々《仙藤》の処理班から。 
 迷彩服の戦科部隊に倒されていく黒服たちは、1人、また1人と地に伏せていく。
 しかし、こちらも黙ってやられるワケにはいかない。これは、ほんの下調べに過ぎないのだから。


「各々、戦力差の確認は終わったな? なら──」


《仙藤》が代々と継ぎ重ねてきた、その対応力を見せてやろう。
 

3人1組スリーマンセルで隊を組め!」


予め用意しておいた、隊列の確認。しっかりと反映できているようだと感心してから、俺は辺りを見渡す。 
 見えるは、素早く移動をしている迷彩たち。《雪月花》も多対一は不利だと理解したのか、周囲の人員を集め、小隊を組んだ。


「チームを組んだだけで対抗したつもりか? 生憎だが、チームワークだけはこちらが上だ。各個撃破はお前らのお得意のようだが、こちらはチームワークに至っては右に出るモノは無いぞ?」
「ふぅん。随分と自信過剰ね。…………皆、扇形に組みなさい」


俺の嫌味を軽くあしらった美雪は、即座に纏まった小隊を大隊へと移行していく。
 それは、指揮官である彼女を守るように。倉庫前を扇形に囲んでいった。
 だが──だったな。
 そう心中でほくそ笑み、俺は更なる手を開示する。


「水球、圧縮」


俺の言葉に、処理班の『水』や『圧縮』系の異能者が集まる。
 掌から創造された不規則な水の泡は、圧縮されたことによって確りと質量を持った。それらが幾つも創られていく中、俺は次の手を出す。


「焔槍、構え」


直後、熱波が俺たちを襲う。その発生源は、紛れもない《仙藤》処理班から。
 『発火』と『念動』の2つが組み合わさったそれは、まるでグングニルの如く、紅く燃え盛っていた。
 照準は今にも《雪月花》へと向けられ、放とうと思えばいつでも放てるだろう。


「……全面防御」


その凶器の切っ先を向けられた彼女ら《雪月花》は、陣形を崩さぬまま、有り合わせのトタンや木片を集め、横の広い盾のように構えた。
 恐らくそれは、あちら側に『硬化』系統の異能者がいるあたり。見た目とは裏腹に、かなりの強度を誇るだろう。

なら、《仙藤》の矛と《雪月花》の盾──どちらが強いか、試してみようじゃないか。


「各員、攻撃準備。……水球、発射」


鋭い風切り音を響かせたそれらは、一直線に《雪月花》へと襲いかかる。
 圧縮された水球はレーザーの如く速さで貫き、防がれたモノは泡沫のように霧散し、霧となり。 


「降らせ」
「…………?」


彼女らの防御を無視した攻撃に、美雪は小首を傾げる。
 直後、頭上に雨雲が発生し──パラパラと、細かな雨を降らせた。
 頬に落ちたそれを拭いとった俺は、美雪へと告げる。


「異能というのは、基本的に単一のことしか出来ない」


だから、その力を最大限まで伸ばそうとする《雪月花》の指導方針は間違ってはいない。ただ、我々《仙藤》とはアプローチの仕方が違うだけで。
 まぁ、いずれにせよ、


「限界は存在する。しかし、それぞれに有利な属性を組み合わせれば──その限界など、容易く超えることが出来る」
「水……焔──っ、全面防御!!」
「……もう、遅い」


どうやら今になって気が付いたらしいが、既に遅い。
 前面にだけ防御を張る。……それが、仇となったな。


「武を担う《雪月花》。攻撃は最大の防御とも言うが──まさか、ここで終わることはあるまいな?」


そして紡ぐは、たった一言。


「──放て」


焔槍は『圧縮』が解放された事により、ジェット噴射の如く飛来していく。
 そしてそれは、従来のモノとは全く異なる……言わば、致死性の暴力。
 しかしそれは、前面にある強固な盾によって防がれてしまう。

──だが、そんなものは余波に過ぎない。

直後、辺り一帯に爆発音が鳴り響く。永いようで、刹那の時。
 防勢の異能者によって護られている俺たちの周囲で、トタンや金属片で創られた建物が次々と破壊されていく。
 残ったものは彼女らの背後にある、3階建ての校舎のみ。
 暫くして霧と煙の晴れたそれを見やれば、


「……効果覿面、だな」


直接の異能によって負傷した者と、先程の爆発に巻き込まれて負傷した者と。
 合わせれば8割方削れたであろうこの状況からは、どちらが優位かは言うまでもない。


「水蒸気爆発、ね……!!」
「ご名答」


腕で顔を覆い、額には僅かながら焦りの色が滲んでいる月ヶ瀬美雪。
 そして瓦礫と化した倉庫から飛び降り、苦々しく呻いた。
 呻きながらも──しっかりと、こちらに対峙してくる。


「水球と焔槍はブラフ。それで攻撃すると思わせておいて──本命は水蒸気爆発での、全体攻撃だ。一手で2回攻撃出来る。まさに一石二鳥」


個々の事象が単一のモノであるならば、それらを組み合わせてやれば良い。
 それはかつての人類がしてきた事であり──得意技だ。

水が非常に高温な物体と接触する事で急激に気化し、爆発する現象。それが水蒸気爆発。爆薬すら要らない、お手軽な攻撃手段。
 さて、今ので《雪月花》の残りは数百人と言ったところか。あの様子だともう戦闘不能だな。
 対して《仙藤》処理班は最初の戦闘で負傷したとはいえ、9割近く残っている。
  

「どうする、月ヶ瀬美雪。人数差は歴然、この状況を打開するには──」
「……たとえ人数不利だろうと、逃げはしないわ」
「……強気だねぇ。それが何時まで続くかな?」


未だこちらを睥睨する彼女。そこまでされても勝算があるのか、と気になるところだが……あるのだろうな。未だ『切り札』とやらが出ていないのだから。


「諸君、残りは任せた。1人残らず逃がすなよ」


俺はそう命令しつつも、頭の中に違和感を感じていた。だが、それが何なのかは分からない。
 彼女ら《雪月花》はこちらの作戦にはまり、大きく戦力を削がれた。これならあと数回焔槍を放てば終わるのだが……。


「……志津二、《雪月花》の数が少ない!」 


隣で叫ぶ彩乃の言葉を聞いて、違和感の正体が解った。
 ……なるほど。そういう、事かッ──!


「流石、天下の《鷹宮》ね。に気付くなんて」


俺がそれを理解すると同時、美雪が──いや。《雪月花》自体が、ジリジリと後ろへ後退している。
 傍目から見れば、撤退。だが、今回は直感的に分かる。


「全方位防御、最大! 何かが来るぞ!!」
 

そう警告する俺の視界に映るは、口元を大きく歪める美雪と、夜空に映える──1つの球体。
 黄金色のそれは、まるでもう1つの月のよう。焦れったいほどゆっくりと降下して、地上へと降り立とうとしている。
 そして確信とも言えぬ何かが、脳裏に走った。

……これが、《雪月花》の──美雪の、『切り札』だと。


「正義は、アタシたち《雪月花》。……神の裁きを受けなさい」


──直後、辺りは真昼の如き光に包まれた。


~to be continued.

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

AstiMaitrise

椎奈ゆい
ホラー
少女が立ち向かうのは呪いか、大衆か、支配者か______ ”学校の西門を通った者は祟りに遭う” 20年前の事件をきっかけに始まった祟りの噂。壇ノ浦学園では西門を通るのを固く禁じる”掟”の元、生徒会が厳しく取り締まっていた。 そんな中、転校生の平等院霊否は偶然にも掟を破ってしまう。 祟りの真相と学園の謎を解き明かすべく、霊否たちの戦いが始まる———!

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

青い祈り

速水静香
キャラ文芸
 私は、真っ白な部屋で目覚めた。  自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。  ただ、鏡に映る青い髪の少女――。  それが私だということだけは確かな事実だった。

俺の部屋はニャンDK 

白い黒猫
キャラ文芸
大学進学とともに東京で下宿生活をすることになった俺。 住んでいるのは家賃四万五千円の壽樂荘というアパート。安さの理由は事故物件とかではなく単にボロだから。そんなアパートには幽霊とかいったモノはついてないけれど、可愛くないヤクザのような顔の猫と個性的な住民が暮らしていた。 俺と猫と住民とのどこか恍けたまったりライフ。  以前公開していた作品とは人物の名前が変わっているだけではなく、設定や展開が変わっています。主人公乕尾くんがハッキリと自分の夢を持ち未来へと歩いていく内容となっています。 よりパワーアップした物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。 小説家になろうの方でも公開させていただいております。

処理中です...