『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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肯定か否定か

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「──《長》。何か学校でお変わりになったことはありますか?」


運転しながらバックミラーを覗き込みつつ、そう問い掛けた彼。
 名を三園みそのという白髪混じりの物優しげな雰囲気な彼は、本部への移動をするためのドライバーだ。かれこれ1週間近くお世話になっている。


「いや、特には無い。何で?」
「いやですねぇ……。最近、《雪月花》とのゴタゴタがありますでしょう? そのせいで武警の皆さん方にも危機が降り掛かってこないかなぁと思いましてね」
「お気遣いありがとうね。幸い、そんなことは無いよ。今現在は」
「それなら良かった。……彩乃様は如何でしょう?」


三園は俺との会話を終えると、対象を彩乃へと向けた。


「私は……ハッキリ言って、暇ね」
「「……暇?」」
「そう。特攻科の訓練もつまんないし、授業もつまんないし」


それは優秀すぎてつまらないのか、はたまた逆なのか。
 だがコイツは特攻科の中では1番単位は取れているし、学年の中でも多い方だった気がするぞ。
 ということは、前者か。俺の敵だな。


「贅沢な悩みでございますねー、《姫》」
「ぶち殺すぞワレ」


とまぁ、そんなくだらない話をしているうちに──車は、《仙藤》本部の敷地内へと入っていった。
 いつも通りのロータリーが見え、レッドカーペットが見えて。
 しかし、いつも居るべくハズの桔梗が……今日は居なかった。


「三園、桔梗が居ないんだが」
「桔梗様ですか? ……私は知りませんねぇ」
「ありがとう。降りるぞ、彩乃」


何やら言い知れぬ不安感を覚えた俺は、彩乃を連れて足早に本部へと入っていった。







館内の状況を目の当たりにして、俺は何が起きているやらと可能性を組み立てる。
 そこには、忙しなく動いている職員らの数々。彼ら彼女らは四方八方に散り散りと動いていて、その顔は焦りが見えていた。

──これほどの事態になるということは、食堂での追加メニューがエビチリになるかエビマヨになるかってのを揉めてる時ぐらいなのだが。
 まぁ、実際あったし。いつもはそれほど平和ってことだ。

だが、今回は……その類のモノとは明らかに違う。だとすれば、考えられるのは、1つだけ。


「また事件、か」


そう呟き、彩乃を後ろに、より職員が多いと見られるところまで歩いていく。
 すると、それに気が付いた職員の何人かが、壁を作るようにして俺たちの前へ立ちはだかった。


「お、《長》──如何致しましたか!?」
「それはこっちのセリフだ。何があった?」


確か、この先にあった部屋は──だったか。


「おおかた、事件でも起きたんでしょう? 《仙藤》の皆々様方」
「だったら尚更、《鷹宮》の《姫》には大人しくして頂きたいモノです。こちらで対処致しますので、《長》らは自室にて──」
「じゃ、また後でな」
「ちょっと、《長》!?」


必死に引き留めようとする職員らを無視して、俺たちは足早に会議室の前へと向かう。
 そして、その扉を勢いよく開け放ってから──開口一番。


「──諸君。これはどういうことだ?」


1番に視線が向くのは、奥に立っており、指示を出していたであろうと思しき我が秘書。
 彼女は俺たちを見るなり、視線を鋭くして、


「……誰。《長》の耳にこの事案は入れるなと言ったハズですが」


明らかな異変は、既に見て取れていた。
 1つ。あれだけの職員が総動員され、忙しなく自らの仕事をこなしていたこと。
 2つ。普段使われるハズのないこの部屋が、使われていたこと。
 3つ。この部屋に、《長》の側近──或いは、幹部レベルの人材が集められていること。

これだけの人間が動かざるを得ないということは、明らかに大惨事。
 それも、以前のような生易しいモノじゃないことは、明確だ。


「──再度、問う。これは……どういうことだ?」


強く、威圧感のある声。そして、沈黙に耐えかねた彼ら彼女らが発した答えは──


「……分かりました。説明しましょう」


──肯定の意、であった。


~to be continued.
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