40 / 57
手掛かりの1つ
肯定か否定か
しおりを挟む
「──《長》。何か学校でお変わりになったことはありますか?」
運転しながらバックミラーを覗き込みつつ、そう問い掛けた彼。
名を三園という白髪混じりの物優しげな雰囲気な彼は、本部への移動をするためのドライバーだ。かれこれ1週間近くお世話になっている。
「いや、特には無い。何で?」
「いやですねぇ……。最近、《雪月花》とのゴタゴタがありますでしょう? そのせいで武警の皆さん方にも危機が降り掛かってこないかなぁと思いましてね」
「お気遣いありがとうね。幸い、そんなことは無いよ。今現在は」
「それなら良かった。……彩乃様は如何でしょう?」
三園は俺との会話を終えると、対象を彩乃へと向けた。
「私は……ハッキリ言って、暇ね」
「「……暇?」」
「そう。特攻科の訓練もつまんないし、授業もつまんないし」
それは優秀すぎてつまらないのか、はたまた逆なのか。
だがコイツは特攻科の中では1番単位は取れているし、学年の中でも多い方だった気がするぞ。
ということは、前者か。俺の敵だな。
「贅沢な悩みでございますねー、《姫》」
「ぶち殺すぞワレ」
とまぁ、そんなくだらない話をしているうちに──車は、《仙藤》本部の敷地内へと入っていった。
いつも通りのロータリーが見え、レッドカーペットが見えて。
しかし、いつも居るべくハズの桔梗が……今日は居なかった。
「三園、桔梗が居ないんだが」
「桔梗様ですか? ……私は知りませんねぇ」
「ありがとう。降りるぞ、彩乃」
何やら言い知れぬ不安感を覚えた俺は、彩乃を連れて足早に本部へと入っていった。
◇
館内の状況を目の当たりにして、俺は何が起きているやらと可能性を組み立てる。
そこには、忙しなく動いている職員らの数々。彼ら彼女らは四方八方に散り散りと動いていて、その顔は焦りが見えていた。
──これほどの事態になるということは、食堂での追加メニューがエビチリになるかエビマヨになるかってのを揉めてる時ぐらいなのだが。
まぁ、実際あったし。いつもはそれほど平和ってことだ。
だが、今回は……その類のモノとは明らかに違う。だとすれば、考えられるのは、1つだけ。
「また事件、か」
そう呟き、彩乃を後ろに、より職員が多いと見られるところまで歩いていく。
すると、それに気が付いた職員の何人かが、壁を作るようにして俺たちの前へ立ちはだかった。
「お、《長》──如何致しましたか!?」
「それはこっちのセリフだ。何があった?」
確か、この先にあった部屋は──会議室だったか。
「おおかた、事件でも起きたんでしょう? 《仙藤》の皆々様方」
「だったら尚更、《鷹宮》の《姫》には大人しくして頂きたいモノです。こちらで対処致しますので、《長》らは自室にて──」
「じゃ、また後でな」
「ちょっと、《長》!?」
必死に引き留めようとする職員らを無視して、俺たちは足早に会議室の前へと向かう。
そして、その扉を勢いよく開け放ってから──開口一番。
「──諸君。これはどういうことだ?」
1番に視線が向くのは、奥に立っており、指示を出していたであろうと思しき我が秘書。
彼女は俺たちを見るなり、視線を鋭くして、
「……誰。《長》の耳にこの事案は入れるなと言ったハズですが」
明らかな異変は、既に見て取れていた。
1つ。あれだけの職員が総動員され、忙しなく自らの仕事をこなしていたこと。
2つ。普段使われるハズのないこの部屋が、使われていたこと。
3つ。この部屋に、《長》の側近──或いは、幹部レベルの人材が集められていること。
これだけの人間が動かざるを得ないということは、明らかに大惨事。
それも、以前のような生易しいモノじゃないことは、明確だ。
「──再度、問う。これは……どういうことだ?」
強く、威圧感のある声。そして、沈黙に耐えかねた彼ら彼女らが発した答えは──
「……分かりました。説明しましょう」
──肯定の意、であった。
~to be continued.
運転しながらバックミラーを覗き込みつつ、そう問い掛けた彼。
名を三園という白髪混じりの物優しげな雰囲気な彼は、本部への移動をするためのドライバーだ。かれこれ1週間近くお世話になっている。
「いや、特には無い。何で?」
「いやですねぇ……。最近、《雪月花》とのゴタゴタがありますでしょう? そのせいで武警の皆さん方にも危機が降り掛かってこないかなぁと思いましてね」
「お気遣いありがとうね。幸い、そんなことは無いよ。今現在は」
「それなら良かった。……彩乃様は如何でしょう?」
三園は俺との会話を終えると、対象を彩乃へと向けた。
「私は……ハッキリ言って、暇ね」
「「……暇?」」
「そう。特攻科の訓練もつまんないし、授業もつまんないし」
それは優秀すぎてつまらないのか、はたまた逆なのか。
だがコイツは特攻科の中では1番単位は取れているし、学年の中でも多い方だった気がするぞ。
ということは、前者か。俺の敵だな。
「贅沢な悩みでございますねー、《姫》」
「ぶち殺すぞワレ」
とまぁ、そんなくだらない話をしているうちに──車は、《仙藤》本部の敷地内へと入っていった。
いつも通りのロータリーが見え、レッドカーペットが見えて。
しかし、いつも居るべくハズの桔梗が……今日は居なかった。
「三園、桔梗が居ないんだが」
「桔梗様ですか? ……私は知りませんねぇ」
「ありがとう。降りるぞ、彩乃」
何やら言い知れぬ不安感を覚えた俺は、彩乃を連れて足早に本部へと入っていった。
◇
館内の状況を目の当たりにして、俺は何が起きているやらと可能性を組み立てる。
そこには、忙しなく動いている職員らの数々。彼ら彼女らは四方八方に散り散りと動いていて、その顔は焦りが見えていた。
──これほどの事態になるということは、食堂での追加メニューがエビチリになるかエビマヨになるかってのを揉めてる時ぐらいなのだが。
まぁ、実際あったし。いつもはそれほど平和ってことだ。
だが、今回は……その類のモノとは明らかに違う。だとすれば、考えられるのは、1つだけ。
「また事件、か」
そう呟き、彩乃を後ろに、より職員が多いと見られるところまで歩いていく。
すると、それに気が付いた職員の何人かが、壁を作るようにして俺たちの前へ立ちはだかった。
「お、《長》──如何致しましたか!?」
「それはこっちのセリフだ。何があった?」
確か、この先にあった部屋は──会議室だったか。
「おおかた、事件でも起きたんでしょう? 《仙藤》の皆々様方」
「だったら尚更、《鷹宮》の《姫》には大人しくして頂きたいモノです。こちらで対処致しますので、《長》らは自室にて──」
「じゃ、また後でな」
「ちょっと、《長》!?」
必死に引き留めようとする職員らを無視して、俺たちは足早に会議室の前へと向かう。
そして、その扉を勢いよく開け放ってから──開口一番。
「──諸君。これはどういうことだ?」
1番に視線が向くのは、奥に立っており、指示を出していたであろうと思しき我が秘書。
彼女は俺たちを見るなり、視線を鋭くして、
「……誰。《長》の耳にこの事案は入れるなと言ったハズですが」
明らかな異変は、既に見て取れていた。
1つ。あれだけの職員が総動員され、忙しなく自らの仕事をこなしていたこと。
2つ。普段使われるハズのないこの部屋が、使われていたこと。
3つ。この部屋に、《長》の側近──或いは、幹部レベルの人材が集められていること。
これだけの人間が動かざるを得ないということは、明らかに大惨事。
それも、以前のような生易しいモノじゃないことは、明確だ。
「──再度、問う。これは……どういうことだ?」
強く、威圧感のある声。そして、沈黙に耐えかねた彼ら彼女らが発した答えは──
「……分かりました。説明しましょう」
──肯定の意、であった。
~to be continued.
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。
黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。
道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる