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二つの異能者組織
最悪で災厄
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『世の中がおかしくなったのではない。あなたが昔より不幸になったのだ』なんて言葉を聞いたことがある気もするが、いい迷惑だよ。勝手に不幸体質にされてたまるか。
そんな不幸な俺は仕方なしに自転車のカゴに鞄を放り込み、ギアを三速にしてから勢いよく漕ぎ始める。
近所の古書店を過ぎ、大型ショッピングモールの前を通り。その向こうに見えるのは、東京湾とビル群の数々だ。
……ここ、学園都市・タレントゥムは、南北二キロ東西一キロの人工浮島である。
そして、ここ全体が武装警察育成機関なのだ。
武装警察とは、凶悪化する犯罪に対抗すべく組織された、新たな国家資格だ。SITとはまた違い、彼等よりも荒っぽい仕事を受け持つ。
武警免許を取得すれば警察に準ずる活動を可能とされ、それを受け持っている武警高は、民間からの依頼が絶えない。
というのも、武警は犯罪が起きた時に直行する他、様々な仕事を受け持っているのだ。猫探しから護衛まで。……つまり、便利屋である。
ただ一つ警察と違う点というのは──金で動くことだろうか。
しかし、それはとある一面。表の顔に過ぎない。学園都市の裏の顔は、異能者育成機関だということ。
異能者というのは、文字通り異端の者。異端の力を有した者を指す。現時点で、日本人口に対する異能者の割合は、三割程度だと言われている。
武警がSITよりも荒事を担当するのは、これが理由である。
異端の力を持つ故に、万能と称され、政府から数々の活躍を期待される。これが、武警の現状だ。
そして、我らが武警高の真実と同様に、異能者の存在も秘匿されている。それは何故か?
──人智の域を越えし力を有している人間がいると情報が出回れば、それは瞬く間に拡散される。大きな混乱状態に陥るだろう。
それを防ぐための防護壁となっているのが、学園都市の表の顔──武警育成機関と、最先端科学技術研究。その総本山だ。
医学や科学諸々に精通した学者が集い、日夜研究が成されている。
人々はその面からここを《科学都市》と呼んでいるようだが。
そんな学園都市の中枢部でもある武警高では、一般科目ともう一つ、半強制的に履修科目を受けさせられる。これが武警高の裏の顔だ。
履修科目は個々の持つ異能の系統によって決めることが出来る。
例えば、今横を過ぎたのが──俺が在籍している、情報科と通信科。そして、装備科の学科棟だ。それぞれ情報と通信技術に関する諸々、装備などの改良法を学ぶ。
といっても異能はほぼ関連せず、面倒臭がり屋が入る傾向が多いな。比較的穏便な学科だ。
だが、装備科では科学者との共同研究で最先端技術を組み込んで備品快活を行っているという話も聞いており、完璧にやる気のない人間だけではないらしい。
その先には救護科があり、主に回復系の術式を使って、怪我や病気などの治癒を早めるなどの活動をしている。
もう少し自転車を走らせると、俺が在籍している特攻科と狙撃科の学科棟が見えてきた。
こういう戦闘が関わる学科では、己の異能と身体能力がモノを言う。だから、個々の差が出来やすい学科なのだ。
……このペースなら、なんとか始業式には間に合いそうだな。
そう安堵して、体育館へと続く門の道──連絡橋の手前──で右折しようとした時、数十メートル先に誰かが見えたような気がした。直後、
ヒュッ──
という微かな風切り音の後、
──パァンっ!!
と、何かが爆ぜるような音が俺の背後数メートルで聞こえた。
自転車をドリフト気味にターンさせてから降り、状況の確認を試みる。
見えたのはアスファルトの上に舞い立つ白煙と、そこから這い出てくるかのように起き上がった、人ならざる何か。形が歪んだ、蠢く黒い影。
「……ッ!」
いつの間にっ……!? と考えるヒマもなく。
ゆ
っくりとこちらに近付いてくるナニカに対して、俺は反射的にベレッタを抜き、頭部と思しき場所に照準を合わせる。
そして、躊躇いなく引き金を引いた。
乾いた発砲音と共に銃口から射出されたパラベラム弾は、右螺旋回転を維持したまま空気を切り裂いていく。
狙いと寸分違わずの場所に銃弾は行き着き、一瞬にて貫通したのだが──
「何、だと……!?」
予想外の結果に、思わず驚愕の声が漏れる。
黒い影は、倒れようともせず、退こうともせず、ただただこちらに歩み寄ってくるだけだったのだ。
すると不意に、為す術もない俺を嘲笑うかのような声が聞こえてきた。
「ソレに鉛玉なんかは効かないわよ。少なくとも、あなたじゃ手も足も出ない」
音の発信源的に、恐らくは直前の爆発の一人者。振り返れば、少し先に学園の制服をまとった一人の女の子がいた。
人形のように整った顔立ちで、少しばかり幼さは感じるものの──どことなく、威圧感を感じる。
肩までかかっている金髪に、吸い込まれそうなほどに澄んだ群青色の瞳。背丈は百五十……にも満たないだろう。恐らくは学園の中等部の生徒か。にしてはやけに高飛車な態度だな。
「──見てなさい」
その子は短く告げて虚空に手をかざすと、何をせずとも魔法陣を展開させた。
淡白い光を放っている粒子らは段々と集結していき、やがて一つの小さな球となる。
口の端を僅かに上げた彼女は手を前に突き出すようにすると、その球を自身の手から解放させた。
──刹那。
それは細長いレーザーへと一変し、先程と同様の風切り音が耳の傍を伝った。背後から爆発音が聞こえる。
振り向けば、一瞬にしてあの影は姿を消していた。
銃を片手に呆然と立っている俺に対して、彼女はチラチラとこちらを観察するように眺めてから先程まで黒い影がいた場所を指差して言った。
「ねぇ。あなた、アレが見えたの?」
「あ、あぁ……。見えた、って言うよりかは、前から見えてたっていう方が正しいかな」
「ふーん……」
そう。俺には“視えていた”のだ。あの黒い影が。
しかしそれが俺以外には“視えていない”と理解したのが、確か小学校低学年の頃だったか。
物心ついた時から、俺の眼にはそれが視界内で蠢いていた。毬藻のような形もあれば、人型のモノや手の形をしたようなモノまであった。
それを見る度に、俺は両親に言ったのだ。
『ねぇ、あそこにフワフワしてる黒いのがいる』と。
初めは冗談と思って面白がっていた両親も、段々とそれを聞く度に俺を制止するようになった。終いには『それを友達に言うんじゃないよ』とも言われた。
それからは黒い影を見かけても何も言わずにいたのだが……。この女の子の言い草と一連の行動は、あの黒い影を“視認できている”と考えていいだろう。
「……うん? 見えてた? それって──」
彼女はそこまで言い終えると、暫し考えるような仕草を見せてから、ビシっ! と俺を指さした。そして、
「──少し、確かめさせてもらうわよっ!」
叫ぶが早いか、一瞬にして手をかざし魔法陣を展開させた彼女は、先程とは違い幾つもの弾幕を生み出していく。
放たれたそれらは、まるで意思を持っているかのように弧を描いてこちらへと肉薄してくる。
『確かめさせてもらう』という言葉の意味が理解できないが、まずは目の前の事態を解決させることが最優先だろう。
──仕方がない。やむを得ず、だからな。
胸中で溜息を吐きながら、ベレッタのグリップを力強く握りしめ、自身の異能を適応させる。
刹那、眼前で起こっている光景がスローモーションへと変わった。
一見して静止している弾幕を迎え撃つために、俺はベレッタを左から右へと横薙ぎにフルオートで撃つ。
狙いはそれぞれの弾幕。その、中枢部分。核だ。
光の粒子が集まって一つの核になり、それに付着するようにして様々な粒子が集まってくるのを、俺は見逃していなかった。
だから、それさえ壊せば──
「……やるじゃない、意外と」
「それはどうも」
霧散した、弾幕だったモノを見据えながら目の前の女の子は言う。
白い八重歯を覗かせて笑ったのも束の間に、彼女はフラっと前屈みに倒れたかと思うと──何処からか取り出した日本刀を片手に持ち、こちらに突き出してきたのだ!
一瞬の出来事に反応が遅れ、彼女の攻撃を許す形になってしまう。
肩に向かって突き出されたそれをすんでのところで回避したはいいが、彼女自身も歩を止めることができずに俺にぶつかってしまった。
体格差があるとはいえ、運動を持った物体に突進されれば静止しているのは困難である。
俺も例に漏れず、刀を持ったままの彼女に多い被さられるような形で背中をアスファルトの床に打ち付けてしまった。
片方の腕は銃を持っているせいで塞がっており、もう片方だけを受け身のために伸ばす。そして頭を打たないように顎を引いたのだが──どうやら、それがいけなかったらしい。
「…………っ」
……この状況を理解するのに十秒近くを要した。そして理解すると同時、頭が真っ白になってフリーズを起こす。
ちろちろと頬をくすぐってくる彼女の髪と、鼻腔を刺激する甘い香り。
視界は塞がれているが、顔には水まんじゅうのような柔らかい感触があった。
それを退けようと手を伸ばした、直後──
「~っ!?」
悲鳴とも言えぬ何かが彼女の口から発され、瞬時に自分の犯した事の重大さを理解する。
これってどう考えても……胸! ですよね!! やったぁ!!! この感触、永久保存決定っ!!!!
じ ゃ な く て。
どうする、この状況。女の子に多い被さられ、挙句、胸を触ったと。
……早々に逃げないと、殺られる。
幸いなことに彼女はフリーズしているようだから、そっと抜け出せば問題ないだろう。
寝返りをうつようにして、そっと……そっと……。よし、上手く抜け出せたぞ。後はこのまま知らぬ顔して登校だ。遅刻確定だけどな。
というか今ので気が付いたんだが、名札を見る限りこの女の子──鷹宮彩乃というらしい──は、高等部二年の生徒らしい。この背丈で同学年かよ。ロリだろ。
と思いながらも、高鳴る鼓動と下腹部のブツを抑えつつ自転車にまたがる。
今になって意識が戻ったらしい彩乃は既に数十メートル先にいる俺の自転車のタイヤ目掛けて持っていたらしい拳銃を発砲してきたが、残念。射程外だ。
っていうか、危機一髪だったな。あの至近距離で発砲されたら危なかった。
それにしても、鷹宮……か。何処かで聞いたことのある名だな。割りと有名な企業だったような気がするぞ。
「今度会ったら、その身体に──風穴開けてやるわよっ!!」
背中に降り掛かる彩乃の叫び声を無視して、俺は学園の敷地内まで自転車を走らせる。
────そう。これが、俺たちの始まりである。
学園内最強異能者と謳われる『万物創造の錬金術師』と、『照準貫通の銃使い』の異名を持つ俺との、最悪で災厄な出逢いだった。
~to be continued.
そんな不幸な俺は仕方なしに自転車のカゴに鞄を放り込み、ギアを三速にしてから勢いよく漕ぎ始める。
近所の古書店を過ぎ、大型ショッピングモールの前を通り。その向こうに見えるのは、東京湾とビル群の数々だ。
……ここ、学園都市・タレントゥムは、南北二キロ東西一キロの人工浮島である。
そして、ここ全体が武装警察育成機関なのだ。
武装警察とは、凶悪化する犯罪に対抗すべく組織された、新たな国家資格だ。SITとはまた違い、彼等よりも荒っぽい仕事を受け持つ。
武警免許を取得すれば警察に準ずる活動を可能とされ、それを受け持っている武警高は、民間からの依頼が絶えない。
というのも、武警は犯罪が起きた時に直行する他、様々な仕事を受け持っているのだ。猫探しから護衛まで。……つまり、便利屋である。
ただ一つ警察と違う点というのは──金で動くことだろうか。
しかし、それはとある一面。表の顔に過ぎない。学園都市の裏の顔は、異能者育成機関だということ。
異能者というのは、文字通り異端の者。異端の力を有した者を指す。現時点で、日本人口に対する異能者の割合は、三割程度だと言われている。
武警がSITよりも荒事を担当するのは、これが理由である。
異端の力を持つ故に、万能と称され、政府から数々の活躍を期待される。これが、武警の現状だ。
そして、我らが武警高の真実と同様に、異能者の存在も秘匿されている。それは何故か?
──人智の域を越えし力を有している人間がいると情報が出回れば、それは瞬く間に拡散される。大きな混乱状態に陥るだろう。
それを防ぐための防護壁となっているのが、学園都市の表の顔──武警育成機関と、最先端科学技術研究。その総本山だ。
医学や科学諸々に精通した学者が集い、日夜研究が成されている。
人々はその面からここを《科学都市》と呼んでいるようだが。
そんな学園都市の中枢部でもある武警高では、一般科目ともう一つ、半強制的に履修科目を受けさせられる。これが武警高の裏の顔だ。
履修科目は個々の持つ異能の系統によって決めることが出来る。
例えば、今横を過ぎたのが──俺が在籍している、情報科と通信科。そして、装備科の学科棟だ。それぞれ情報と通信技術に関する諸々、装備などの改良法を学ぶ。
といっても異能はほぼ関連せず、面倒臭がり屋が入る傾向が多いな。比較的穏便な学科だ。
だが、装備科では科学者との共同研究で最先端技術を組み込んで備品快活を行っているという話も聞いており、完璧にやる気のない人間だけではないらしい。
その先には救護科があり、主に回復系の術式を使って、怪我や病気などの治癒を早めるなどの活動をしている。
もう少し自転車を走らせると、俺が在籍している特攻科と狙撃科の学科棟が見えてきた。
こういう戦闘が関わる学科では、己の異能と身体能力がモノを言う。だから、個々の差が出来やすい学科なのだ。
……このペースなら、なんとか始業式には間に合いそうだな。
そう安堵して、体育館へと続く門の道──連絡橋の手前──で右折しようとした時、数十メートル先に誰かが見えたような気がした。直後、
ヒュッ──
という微かな風切り音の後、
──パァンっ!!
と、何かが爆ぜるような音が俺の背後数メートルで聞こえた。
自転車をドリフト気味にターンさせてから降り、状況の確認を試みる。
見えたのはアスファルトの上に舞い立つ白煙と、そこから這い出てくるかのように起き上がった、人ならざる何か。形が歪んだ、蠢く黒い影。
「……ッ!」
いつの間にっ……!? と考えるヒマもなく。
ゆ
っくりとこちらに近付いてくるナニカに対して、俺は反射的にベレッタを抜き、頭部と思しき場所に照準を合わせる。
そして、躊躇いなく引き金を引いた。
乾いた発砲音と共に銃口から射出されたパラベラム弾は、右螺旋回転を維持したまま空気を切り裂いていく。
狙いと寸分違わずの場所に銃弾は行き着き、一瞬にて貫通したのだが──
「何、だと……!?」
予想外の結果に、思わず驚愕の声が漏れる。
黒い影は、倒れようともせず、退こうともせず、ただただこちらに歩み寄ってくるだけだったのだ。
すると不意に、為す術もない俺を嘲笑うかのような声が聞こえてきた。
「ソレに鉛玉なんかは効かないわよ。少なくとも、あなたじゃ手も足も出ない」
音の発信源的に、恐らくは直前の爆発の一人者。振り返れば、少し先に学園の制服をまとった一人の女の子がいた。
人形のように整った顔立ちで、少しばかり幼さは感じるものの──どことなく、威圧感を感じる。
肩までかかっている金髪に、吸い込まれそうなほどに澄んだ群青色の瞳。背丈は百五十……にも満たないだろう。恐らくは学園の中等部の生徒か。にしてはやけに高飛車な態度だな。
「──見てなさい」
その子は短く告げて虚空に手をかざすと、何をせずとも魔法陣を展開させた。
淡白い光を放っている粒子らは段々と集結していき、やがて一つの小さな球となる。
口の端を僅かに上げた彼女は手を前に突き出すようにすると、その球を自身の手から解放させた。
──刹那。
それは細長いレーザーへと一変し、先程と同様の風切り音が耳の傍を伝った。背後から爆発音が聞こえる。
振り向けば、一瞬にしてあの影は姿を消していた。
銃を片手に呆然と立っている俺に対して、彼女はチラチラとこちらを観察するように眺めてから先程まで黒い影がいた場所を指差して言った。
「ねぇ。あなた、アレが見えたの?」
「あ、あぁ……。見えた、って言うよりかは、前から見えてたっていう方が正しいかな」
「ふーん……」
そう。俺には“視えていた”のだ。あの黒い影が。
しかしそれが俺以外には“視えていない”と理解したのが、確か小学校低学年の頃だったか。
物心ついた時から、俺の眼にはそれが視界内で蠢いていた。毬藻のような形もあれば、人型のモノや手の形をしたようなモノまであった。
それを見る度に、俺は両親に言ったのだ。
『ねぇ、あそこにフワフワしてる黒いのがいる』と。
初めは冗談と思って面白がっていた両親も、段々とそれを聞く度に俺を制止するようになった。終いには『それを友達に言うんじゃないよ』とも言われた。
それからは黒い影を見かけても何も言わずにいたのだが……。この女の子の言い草と一連の行動は、あの黒い影を“視認できている”と考えていいだろう。
「……うん? 見えてた? それって──」
彼女はそこまで言い終えると、暫し考えるような仕草を見せてから、ビシっ! と俺を指さした。そして、
「──少し、確かめさせてもらうわよっ!」
叫ぶが早いか、一瞬にして手をかざし魔法陣を展開させた彼女は、先程とは違い幾つもの弾幕を生み出していく。
放たれたそれらは、まるで意思を持っているかのように弧を描いてこちらへと肉薄してくる。
『確かめさせてもらう』という言葉の意味が理解できないが、まずは目の前の事態を解決させることが最優先だろう。
──仕方がない。やむを得ず、だからな。
胸中で溜息を吐きながら、ベレッタのグリップを力強く握りしめ、自身の異能を適応させる。
刹那、眼前で起こっている光景がスローモーションへと変わった。
一見して静止している弾幕を迎え撃つために、俺はベレッタを左から右へと横薙ぎにフルオートで撃つ。
狙いはそれぞれの弾幕。その、中枢部分。核だ。
光の粒子が集まって一つの核になり、それに付着するようにして様々な粒子が集まってくるのを、俺は見逃していなかった。
だから、それさえ壊せば──
「……やるじゃない、意外と」
「それはどうも」
霧散した、弾幕だったモノを見据えながら目の前の女の子は言う。
白い八重歯を覗かせて笑ったのも束の間に、彼女はフラっと前屈みに倒れたかと思うと──何処からか取り出した日本刀を片手に持ち、こちらに突き出してきたのだ!
一瞬の出来事に反応が遅れ、彼女の攻撃を許す形になってしまう。
肩に向かって突き出されたそれをすんでのところで回避したはいいが、彼女自身も歩を止めることができずに俺にぶつかってしまった。
体格差があるとはいえ、運動を持った物体に突進されれば静止しているのは困難である。
俺も例に漏れず、刀を持ったままの彼女に多い被さられるような形で背中をアスファルトの床に打ち付けてしまった。
片方の腕は銃を持っているせいで塞がっており、もう片方だけを受け身のために伸ばす。そして頭を打たないように顎を引いたのだが──どうやら、それがいけなかったらしい。
「…………っ」
……この状況を理解するのに十秒近くを要した。そして理解すると同時、頭が真っ白になってフリーズを起こす。
ちろちろと頬をくすぐってくる彼女の髪と、鼻腔を刺激する甘い香り。
視界は塞がれているが、顔には水まんじゅうのような柔らかい感触があった。
それを退けようと手を伸ばした、直後──
「~っ!?」
悲鳴とも言えぬ何かが彼女の口から発され、瞬時に自分の犯した事の重大さを理解する。
これってどう考えても……胸! ですよね!! やったぁ!!! この感触、永久保存決定っ!!!!
じ ゃ な く て。
どうする、この状況。女の子に多い被さられ、挙句、胸を触ったと。
……早々に逃げないと、殺られる。
幸いなことに彼女はフリーズしているようだから、そっと抜け出せば問題ないだろう。
寝返りをうつようにして、そっと……そっと……。よし、上手く抜け出せたぞ。後はこのまま知らぬ顔して登校だ。遅刻確定だけどな。
というか今ので気が付いたんだが、名札を見る限りこの女の子──鷹宮彩乃というらしい──は、高等部二年の生徒らしい。この背丈で同学年かよ。ロリだろ。
と思いながらも、高鳴る鼓動と下腹部のブツを抑えつつ自転車にまたがる。
今になって意識が戻ったらしい彩乃は既に数十メートル先にいる俺の自転車のタイヤ目掛けて持っていたらしい拳銃を発砲してきたが、残念。射程外だ。
っていうか、危機一髪だったな。あの至近距離で発砲されたら危なかった。
それにしても、鷹宮……か。何処かで聞いたことのある名だな。割りと有名な企業だったような気がするぞ。
「今度会ったら、その身体に──風穴開けてやるわよっ!!」
背中に降り掛かる彩乃の叫び声を無視して、俺は学園の敷地内まで自転車を走らせる。
────そう。これが、俺たちの始まりである。
学園内最強異能者と謳われる『万物創造の錬金術師』と、『照準貫通の銃使い』の異名を持つ俺との、最悪で災厄な出逢いだった。
~to be continued.
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