『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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手掛かりの1つ

詭弁か、否か──

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「……遅い」

アタシは《鷹宮》・《仙藤》に指定した場所に、周囲に部下を配置させておいて待っていた。さすがに罠を疑いはするだろうが、いくら待てどアイツらは来ない。まさか本当に怖気付いたんじゃあるまいか? と思うほどに。

地の利も、アタシの異能に大きく影響する天候すらも、味方している。負ける気はしない。
 ……確認も兼ねて、再度辺りを見回す。

ここはとある地区のグラウンド。周囲には木々で囲まれているが、背丈が高くないため、閉塞感はさほど感じられない。むしろ真上からの日差しが鬱陶しいくらいだ。

さっきから入口付近に目を凝らしているのに、罠を疑うような偵察員すら見当たらない。
 ──卑怯? 何とでも言いなさい。これが、アイツらが承諾した内容なのだから。文句は言えまい。

……約束の時刻まであと数分。本当に遅れてきたら、それを取引材料にでもして―と考えていた、次の瞬間。


「隊長っ!!!」


指示を出すまで動かなかったはずの部下が、いきなり飛び出してアタシを地面へと押し倒した。突然の出来事に身体がついていけず、見える景色はスローモーションへと変わる。

そんな中。反転した視界に映るは、今まで背後にあった数キロも離れたビル。その、屋上。そこに、誰かが居たような気がしたのだ。
 目視する事は適わない距離。それなのに、アタシには誰かが居て──笑みをたたえているように見えた。

──まるで、死神の如く。

それを理解した瞬間、その鎌がアタシの眼前を通過した。そして、時間は元の速度に戻り……視界は、暗転した。







「──もう目が覚めたのか。美雪」
「死ぬかと思った……!」

彩を除いた《仙藤》・《鷹宮》だけを後ろに連れて、俺は地面に座り込んでいる月ヶ瀬美雪へと声をかける。
 あのビルから歩いて数十分。ここが、本来指定されていた待ち合わせ場所だ。
 美雪は俺たちに気付くとその目を細め、敵対心剥き出しで睨み付けてくる。


「……自分たちが卑怯だとは思わないのかしら」
「何とでも言ってくれて結構。……だが、これはお前たちが出した条件だ。『失神するか、降参するかで敗北』ってね」
「そんな──詭弁よ!」
「……詭弁でも良い。これ、お前らが言ってた音声データだ。これをもう1回聞いてから言うんだな」


未だふらつく美雪の足元に、俺は1つのUSBメモリを投げる。


「音声データに加え、お前の部下が言った場所の指定諸々──全てがここに記されている。証拠も十分。確かに気絶して、失神したよな?」


大口径と謳われるバレット狙撃銃。更に、対物ライフルである、それ。
 それを使って頭部ギリギリのラインで脳震盪を起こさせようとしたのだが──どうやら、上手く働いてくれなかったらしい。
 

「お前が無傷でいられるのは、部下のお陰だろう? よーく感謝するんだね」


それが何故かと問われれば、部下が異変にいち早く気付き、対応したから。
 俺の放った銃弾が、躱された事。探知系の異能かは分からないが……。


「伏兵を隠していたと言うのに、詭弁とは。おこがましいとは思わないかな?」
「あれは……何かのとき用に、よ」


ふむ。矛盾はない。あの条件の中に、伏兵は使用不可とはなかったから。
 ……しかし、


「あの言葉のトリックに、俺が気付いてないとでも思ったのか?」
「っ……!」


──『アンタとアタシの闘い』。
 その意味をもう一度脳内で反芻した美雪は、悔しそうに唇を噛む。


「つくづく日本語ってのは難しいんだ。ニュアンス1つで、全く別の意味の言葉に変えてしまえる。……この言葉の中に、『2人だけ』という単語は入っていないだろう?」


俺も最初は勘違いしていた。頑なに使われなかった、数を制限する言葉。


「すっかり騙されたよ。あの状況、流れ、ニュアンス……あれだけで、あたかも『2人だけの決闘』だと思わせられる」
「…………」


黙ったまま口を開かない美雪。それは肯定か否定か定かではないが、終わりまで聞こうと言うのか。


「伏兵に加え、やはりここにも罠があったね」


言い、それを蹴ってみれば、顔を歪める美雪。
 辺りの砂より少し明るいそれは、恐らく美雪の用意した罠。まともに当たらなくて良かったよ。

……普通に行けば、罠と伏兵が。かと言ってこちらが伏兵を連れて赴けば、難癖を付けられるであろう。真っ向勝負では負け確。
 だからここで、


「お前の作戦が一役買ってくれたんだ」
「アタシの作戦、が?」


そう。


「常軌を逸した、その作戦。だから俺もそれを逆手に取らせてもらったよ。遠距離狙撃をする事で、ね」


最低限、互いに決闘をしなければと思っていたその心理を逆手に、敢えて遠距離から攻撃したワケだ。
 罠にしても、自信のあるものを用意していたんだろう。それなのに、


「それなのに、この結果だ。時刻も場所も、全て決めさせてあげたがね」


でも、本当に。


「本当に、助かったよ。お前が『2人だけ』なんていう言葉を伏せていてくれて。だからこそ俺は、狙撃なんていう決闘らしからぬ事を出来た」


美雪は、確かに策士だろう。だが、詰めが甘かったね。最後はガチガチに固めるモノだよ。


 「あの言葉を『フェアな決闘』という意味で言っていたのなら、伏兵……それに罠なんて──その意味すら持っていないよな?」


逆に、美雪が何でもありのはっちゃけた闘いを望んでいたのなら。それはそれで、


「俺の行動を責める事は出来まいな?」


前者なら不正行為と見なされ、後者なら駄々をこねているとしか見えない。故に、『嘘を付いた』としか糾弾出来なくなったワケだ。
 さぁ、そんなところで。


「どうする、月ヶ瀬美雪。こっちはお前が不正を働いた以上、力づくでも聞き出せるけど?」
「……増援?」
「さぁ、それは分からないね」


それに、と俺は美雪に笑いかけ、


「ここが《仙藤》のお膝元──本拠地っていう事を忘れてないかな? 第4戦科部隊の規模は幾らだ? 小隊か、中隊か、大隊か?」
「…………」


俺たちに真っ向勝負で挑んでも勝てないのは、美雪も目に見えているだろう。だからこそ、彼女は今回の決闘を挑んだワケだ。
 美雪は小さく溜息をつくと、その口を開いた。


「……分かった、話すわよ。アタシたちがアンタらの支部を襲った理由は──」


紡がれた言葉は短く、だがそれは。
 ──今の俺の頭を悩ませるのに、十分すぎる意味を持っていた。


~to be continued.
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