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手掛かりの1つ

組織間交渉

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と言うワケで、翌日。休日ということで、その午後。俺たちは桔梗らを同行させ、《雪月花》──その、1番近い支部がある場所へと赴いた。
 着いた先は、GPSで現在位置を確認し、ここで間違いないとは確信しているのだが、


「……志津二。夕食の買い物に来たワケではないわよね?」
「……うん。違う」


あろうことか《雪月花》の支部は、とある街の裏路地。そこで経営されていた、八百屋だった。《仙藤》支部から数キロ離れただけの、ね。
 いや、何。ここ隣町ってレベルで近いんだけど。こんなに近くでドンパチ起こしたりするの?

それにしても、ここが本当にヤツらの支部なら……なかなかシビアな組織だな。資源は現地調達ってか。


「志津二、ここって八百屋さん──」
「だな。正確には隣に併設されている事務所、ではあるが」


彩乃らも流石に驚きを隠せない様子で、苦笑いだ。
 ……嘘じゃないのか? 八百屋、って。俺たちでさえ支部は何らかの中小企業なのに。


「兎にも角にも、行かなきゃ始まりませんよ。…………ごめんくださーい!」


桔梗はそう言うと事務所の方にテクテクと歩いて行き、扉が壊れんばかりの勢いでノックした。……扉に罪は無いぞ。


「──何よ?」


しばらくして出てきたのは、俺たちと同年代か、それより少し上くらいの女。
 茶髪で、背は彩乃よりも少しばかり大きいほどか。見るからに気だるげな雰囲気を放っているが、どうやら、この八百屋の店長らしい。
 

「和服が2人。そして見るからにお嬢様っぽいヤツが1人。……アンタたち、何者よ? 新手の宗教勧誘かしら? それならお断り──」
「違うわよっ!」


……まぁ、そう思われても可笑しくないが。
 そう苦笑しながら、俺は改めて自分の服装を見直す。
 《仙藤》の正装である和服に、あからさまに浮いている服装の彩乃。それが余計怪しく見えたのだろう。
 
はぁ、と軽く溜め息を吐いた桔梗は、すぐ様本題へと入る。
 

「《雪月花》、その関東支部ですね?」
「あぁ。なるほど、そういうことね」


女もそれだけで察したのか、眼光を鋭くして返してくる。敵対心剥き出しだ。


「《仙藤》……《鷹宮》の人間も居るのかしら? まぁ、いいわ。それでら私たちに何の用? 生憎こっちは自分たちの事で精一杯なの。帰って──」
「『鳳凰の火種』に用があるの。ソイツに会わせなきゃ帰んないから」
「……生意気な小童ね」


桔梗は話途中の女の言葉を遮り、こちらの要求だけを突き付ける。それに対し、女は小さく舌打ちをした。
 すると、この話し声を聞き付けたのか、


「隊長、どうしました?」
「いや、こっちで対応する。アンタたちは伝票整理を続けてなさい」


事務所の奥から数人の男女が出てきたのだが、女は邪魔だと言わんばかりに、それを即座に追い払った。
 そして、気だるげに身なりを軽く整えてから、


「《雪月花》・第4戦科部隊長の月ヶ瀬美雪つきがせみゆきよ」
「《仙藤》本部職員、桔梗よ」


互いに自己紹介。だが、握手する素振りは全くない。
 ……まぁ、ここは桔梗に任そうか。組織間のやり取りはそちらの方が何倍も詳しそうだし。


「で、まだ帰んないの? 自分の所の不始末くらい、自分で出来ないのかしら」
「元はと言えば襲撃したあなたたちが悪いんじゃないの?」
「部下の尻拭いすらも出来ないのねぇ。大規模造反を出した二大勢力の《仙藤》様?」


うわ、嫌味ったらしい。
 ってか。何時になったら終わるの?これ。
 湿度も高くて蒸し暑いし、日差しは否応なしに照ってくるし。日焼けしたくない。


「その件はとっくに解決済み。膿は定期的に出さないとね。……ここまでして『鳳凰の火種』に会わせないって事は──あなたたち全員が、襲撃事件に関わってるのかな?」


桔梗は嫌味をのらりくらりと躱し、かつ、自分の要求を突き付け続ける。
 それに対して美雪は、


「短絡思考。今は営業時間中よ? 仕事中にハイ会わせますよ、って言うバカがどこにいるのよ」


もちろん反論だな。だが、正論でもある。


「無茶は承知よ。被害が出ている以上、それは解決しないといけないの」
「こっちも仕事中なんで。アンタたちみたいにヒマじゃないから」
「……じゃあ、営業時間外なら良いのかしら?」
「襲撃事件の主犯と決め付けてるヤツらに、ノコノコ会わせると思うかしら?」


全く、話が進まない…………!!


「証拠は上がってんのよ。そこまでして庇うとするなら、第4戦科部隊が関わってると考えて良いかしら。今回の襲撃で1番怪しいのは『鳳凰の火種』。その隊のメンバーはあなたたちでしょう」
「さぁ、どうかしらねぇ?」


まさに、とりつく島もない。のらりくらりと相手の要求を躱し、自身の要求を突きつける。
 そして、美雪含む俺たちからも、剣呑な雰囲気が漂い始めた。


「そう簡単に帰るとは思わないでちょうだい」
「…………」


その一言に、美雪は……付き合いきれない、と言ったかのような顔をした。
 そして、俺たちを一瞥してから──ピシッ。と俺を指さして、


「……はぁ。んじゃあ、そこの男。お前、こっち向け」
「……ほう。月ヶ瀬美雪。俺に何の用かな?」


そう問えば、返ってきたのは俺の──いや、俺たちの、予想斜め上を行く言葉だった。


「決闘よ。アンタとアタシで闘って、アタシが買ったら《仙藤》・《鷹宮》は大人しく手を引く事」


……決闘、ねぇ。


「いいんじゃないか?別に。そうすれば文句の言い様はない」
「志津二!?」


その一言に、驚きを隠せない彼女らだが。
 ……じゃあ何だ。お前たちはこれ以外の方法での和解策があるのか? そう言外に告げてみせる。


「じゃあ、ルール説明。『場所と時刻はこちらが指定』。『その他一切の縛りは設けない』。『失神するか、降参するかでそちらの敗北とする』」


……なるほど。なるほど。その発言に、思わず口元が緩む。
 一切の縛りは設けない──つまり、何でもあり。
 そして、場所──地の利。自身に優位な場所を指定する。王道だな。

自身を優位な立場に置いた上での、完璧フリーなルール。
 《雪月花》側のハンデと考えれば、あちら側に勝算があるのは確かだ。


「分かった。本当にそういうことで、構わないな? 今なら取り消せるが」
「否、その必要はない。それに、アンタたちこそどうなのかしら? 怖気付いて逃げたりしないでしょうね?」
「バカを言え。……それに、今までの発言は録音済み。何かあったらこれを上層部に突き出すからな?」
「何とでもなさい」


呆れたように言う美雪だが、これで交渉成立だ。


「それ以外の条件はないのかな?」
「ないわよ。……。それだけよ」


そう言い残した美雪は、足早に事務所の奥へと消えていく。
 ……さて、こうした以上、俺たちが出来ることといえば、


「──作戦会議だ」


~to be continued.
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