『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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手掛かりの1つ

異能者組織《雪月花》

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「──どうしたものかねぇ」
「ん、何が?」


翌日の放課後。リビングで誰にともなく呟く俺に、ポッキーを小動物の如く食べていた彩乃が疑問の声を漏らした。


「昨日の、支部襲撃事件だよ」


帰り道にも、夕食の最中にもずっと考えていた、今回の事件。俺は……《長》は、どう動くべきなのか。


「……厄介なんだよなぁ」


何が厄介かって? というのは、今回の事件と前回までの相違点があるワケだ。
 それ即ち、


「本家筋に、本部に被害がない。それが問題なんだよ」


いくら反勢力だろうが、他の異能者組織だろうが、《仙藤》という組織に敵対行為を働いたのは事実。
 ──だが、直接的被害を負っていない。 

本部に、深刻なダメージがないのだ。支部の襲撃事件は珍しいとは言われているが、本部に被害がないのもまた、稀有である。
 だったら何で、俺たちを狙わずに支部を狙ったのか? 本来の目的は何なのか? もっと他にやりようがあっただろうに。

このことは、同被害を受けた《鷹宮》にも言える。

直接的被害がないとはいえ、この先どうなるのかというのは検討も付かない。
 双方の組織がどんな形であれ弱体化すれば、安全性は揺らぐだろう。
 もちろん、《長》や《姫》である俺たちの身も危うい。

しかし。しかし、だ。
 少なからず関係がある支部だと分かっていても、婉曲的に火の粉が降りかかるかもと分かっていても──なかなか動けない。要するに、危機感がないんだ。

だが、今回は前回までとは違い、最初から結衣さんや彩といった優秀な部下も動いている。そして、それが与える安心感は大きいワケで。
 まぁ、今の俺が出来ることは、


「せいぜい、部下の朗報を待つくらいか」


──ピン、ポーン……。


「ほら、噂をすれば。……応接間でいいか?」
「勿論」
「どうも」


俺は短く会話を交わしつつ、足早に玄関に向かい、鍵を開ける。
 そこに居たのは、予想通りの部下。桔梗であった。
 彼女は俺を見るなり険しい顔付きになると、


「……これを」


手に持っていた厚い封筒を渡してきた。そして、俺の1番欲していた情報を口にする。


「支部の襲撃事件──その主犯者が分かったわ」
 

それは書類に書かれていたものと同じ内容で。


「異能名は、『鳳凰の火種』」


早口に要点だけを抜き出して言った結衣さんは──


「その所属は──」


──今、1番聞きたくないワードを口にした。
 あってほしくない可能性を、明確に突きつけてきた。


「──日本の北端、北海道に拠点を置く異能者組織……雪月花せつげっか







「支部を襲撃した犯人の1人。名前は……まぁ、別にいいですよね」


資料となる紙をぽいっと投げ置く桔梗。本来なら俺が読むべく資料をペラペラと流し読みする彩乃。
 そんな軽い雰囲気の中、桔梗は説明を続けていく。


「身内なら気兼ねなくやれたんですが、面倒なのは、コイツの所在」
「北海道を本拠地とする異能者組織、《雪月花》か。そちら側は盲点だったな。てっきり関西辺りかと読んでいたんだけど」


言ってしまえば、全国に異能者組織はある。だが、それなりの力を持つ組織は西日本辺りに集中していたため、我々の庭となる東日本はあまり警戒していなかった。
 ……それにしても、


「厄介な事この上ないな」
「そうですね」


二重の意味を持って呟いたそれに、桔梗は大きく頷いた。


「……《長》」
「嫌だ」


何かを言う前に、俺は彼女を咄嗟に制す。何故なら、

「どうせ《長》として雪月花との交渉会談に行けって言うんでしょ?」
「……くっ」


顔を悔しそうに歪める桔梗からしても、図星らしい。
 としても、ただ単に行きたくないワケじゃない。これには、れっきとした理由がある。


「──《仙藤》の最高権力者にして、最終決定権を持つ、《長》。だから俺が会談に行けば、それだけで大きな抑止力になる。相手への威圧になる」
「……分かってるじゃないですか」
「でも、な。思い出してみろ。《長》が《長》たる前提を」


そう。


「そもそも。大前提として、《長》は秘されている存在だよね?」
 
 
そして、


「これは長だけじゃなく本家にも言えるワケだ。だから本来、《長》や本家が接する『関係者』というのは直属の部下や本部の職員くらい」


身内である本部ですらこれだけなのだから。他組織に関しては、


「他組織や外部になんて、《長》は──絶対に、姿を現さない。しかし、存在するとなるだけで、絶対的な抑止力にも成りうる」


他組織と、《仙藤》。それらが共通して持つものは、『異能』。組織が違えどプロセスは同じ。
 故に、万能と呼ばれる《長》はどの組織でも──畏怖と畏敬の念を持って接される。


「だから俺が外部に出る必要性はない。そもそも、こちらにメリットがないだろうに」


今どき《長》を狙おうなんて命知らずはいないだろうが、昔は何でも。歴史的に見れば、トップに立つ者は狙われるのが常だった。それによって周りに危害が加わったり、な。


「表にその姿を出さずとも、存在だけで畏れられる存在。ならばノコノコと行かずとも平気だろう」


1番は、身内を守るため。


「いつ何時、身内が取引材料に使われるか、もっと言及すれば、殺されるか分からない。それを抑止する上の《長》という地位と権利だ」


と言っても、組織間の話し合いとなれば。数十年単位でしか起こらないレアなイベントだろうな。このウェーブに乗るか、否か。
 数秒考え込んだ俺は顔を上げ、1つの案を口にする。


「本当は行きたくないんだが。渋々、やむを得ず、仕方なく──だ」
「何様ですか」
「《長》様ですが何か」


なんて事をしてる場合じゃない。
 暫しの沈黙の後、俺は1つ、指を立てた。それが、桔梗の目にしかと留まったところで、俺は口を開く。


「この条件を呑んでくれなければ、俺は行かないからね。まず、1つ」


──交渉だ。


「彩乃が同行する事。俺は後ろで傍観してるから」
「なっ……!?」


ずっと資料を読んでいた彩乃を無視して、俺は2つ目の指を立てる。


「公に出たくないのも、目立ちたくないのも変わらない。だから俺は、保護者として行く」


即ち、


「俺を《長》として利用しない事。決定権を俺に委ねない事。決して、《長》と悟られないように」
「…………仰せのままに、《長》」

ホントに、渋々。不承不承。
 桔梗と彩乃は同意して。要件を済ませた部下は、一礼をしてリビングから抜けていったのだった。


~to be continued.
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