『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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手掛かりの1つ

組織間対談

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「ほら、《長》の側近さん。この惨状はどういった経緯で?」


俺は足をパタパタと振っている幼女の肩を軽く叩き、問いかける。
 イヤホンをして携帯ゲームをしている彼女は、どうやら俺たちが来たことに気が付いていなかったらしい。
 そんな幼女は俺の顔を見るなり、イヤホンを耳から抜いて、ぺこりとお辞儀した。そして一言、


「……申し訳、ございません」
「いや、何も怒ってやしないよ。冗談めかして言っただけだ。気にしなくていい」


前髪と首元で綺麗に揃えられたぱっつんお下げに、紅紫に近い色味の瞳。神社の巫女を彷彿とさせる和風を羽織ってはいるが、誰がやったのか、ロリ風に改造を施されている。

この幼女──水無月彩みなづきあやは、俺の側近であり、隠蔽班の班長。
 班長ということはつまり、《仙藤》本部に3人存在する幹部の1人でもあり。
 そんな彼女へと、桔梗は笑いながら告げる。


「……彩。お茶、4人分ね」
「かしこまり、ました」


パタパタと振袖を揺らして部屋から出ていく彩を見届けた俺は、最奥にある机と備え付けの皮椅子に腰掛けた。ギィ、と軋む音が鳴る。
 その隣には、側近──俺のである桔梗が、定位置に着いた。

これは、《長》が客人を迎え入れる際の体制。本来ならば彩も交えてやるのだが……生憎、席を外しているからな。
 肘を突いて手を組み、俺はソファーに座っている彩乃へと視線を向け、口を開く。それは短く、しかし、伝えるのには十分な言葉。


「──さて。改めて挨拶しようか、《鷹宮》の《姫》。……ようこそ、異能者組織《仙藤》へ」







彩が運んできたお茶を1口飲み、俺は本題へと入る。


「今回、彩乃をここに呼んだのは他でもない。幾つかの目的があったが故に、だ。薄々と勘づいているとは思うが……分かるな?」
「堂本充の件、でしょ?」
「ご名答」


小さく呟く彩乃のその姿からは、一種の諦めすら感じられる。まぁ、それもそのハズだ。国内の2大異能者組織と謳われる《鷹宮》と《仙藤》の情報網を持ってしても、あの男の所在は分からなかったのだから。
 ──しかし、しかし、だ。分からなかったのは仕方無いとしても、


「彼の存在が分からないということには、こちらも動けない。警察や武警にも情報が無い──いや、それだと語弊があるな。のなら、裏がいると考えて良い」


というのも、


「堂本充、という人間自体は、日本で暮らしている人間だろう? なら、役所に個人情報が掲載されているハズだ。しかしこちらで調べた限り、それは全て無くなっている。彼自身がやるとは到底思えない。なら、第三者だ」


初めにお前が鷹宮家で告げたことを思い出してみろ、と俺は続ける。
 彩乃は暫し考えると、ふと思い出したかのように顔を上げた。


「堂本充本人が、お父様を殺すために仕向けられた人間……」


──そう。それが、重要。


「堂本充を裏で操っている第三者がどのような意図でお前の父親を殺めようと決断したかは分からないが、少なくとも、秘匿されるべく情報をデリート出来るほどの権力を持っている人間と考えて間違いない。それも──」


俺たちのような、《》と同等の存在。
 ……そう結論付けてから、俺は隣にいる桔梗へと視線を移す。


「桔梗。聞いた通り、彼自身に関する情報は──無いに等しい。それは分かり切っていることだろう? なら、視野を広げろ。個人ではなく、異能者組織自体に焦点を当てての情報捜索だ。これの期間は問わない」
「……分かりました」


公の人間で情報を完璧に秘匿するのは至難の業だ。なら、必然的に対象は変わる。表から、社会の裏に浸透した者へと。
 ──思考が一区切りしたところで、俺は小さく溜息を吐き、話題を変えた。


「……彩乃、次の話だ。これも間接的には堂本充に関係することだが──《仙藤》と《鷹宮》間のを考えている」
「……条約、って?」


どういうことだと言わんばかりに小首を傾げる彩乃を見、俺は苦笑しつつ補足の説明を入れる。この件は既に桔梗らに伝えてあるため、後は彼女自身の承諾を得なければならない。


「簡単に言えば、協力関係を持とう、ってことだ。こちらは《鷹宮》に依頼されて、情報捜索を協力しているのだし、次はこちらが《鷹宮》に何かを依頼するかもしれない。その際の手続きを円滑に進めるための手段の1つさ」


本来、国内外の各々の異能者組織には『不干渉協定』なるモノが結ばれている。それは必要以上の接触を拒むと同時に、組織間のトラブルを防ぐ防護壁とも成り得るモノだ。
 しかし、双方の《長》、もしくは《姫》が承諾すれば、互いに友好関係を築くことが可能になる。それこそ、組織間対立にも利用できるワケだ。
 
今の俺にそんな意図はないが、いつ起こるとも分からない。その時を見据えて、結んでおいても損は無いだろう。
 彩乃は俺の説明を聞き終えると、考える仕草も見せず、即答で返してくる。


「あ、おっけー。結ぼ? 損は無いでしょ?」
「そう来るとは思ってたが、まさか即答とは思わなかったぞ……」


まさかの決断の速さに、桔梗も彩も苦笑い。
 ──だが、これで俺がやりたいことは終えられた。細かい作業は、桔梗にでも任せよう。


「契約書への記載は、桔梗。お前に任せたぞ。最低限でも、署名と判子だけ貰えばいいから」
「承知しました。……では、彩乃様。こちらへ」


返事をするやいやな、桔梗は即座に彩乃を呼び、彩も連れて別室へと移動を始める。1人部屋に残された俺は、することもないので、


「勉強、するかぁ……」


ふと、中間テストの結果が宜しくなかったことを思い出す。
 現実逃避したい衝動に駆られるが、偏差値40の武警校で底辺レベルの学力は不味いだろう。せめて復習でもしなければ。

……人生なんて、クソゲーかもしれない。


~to be continued.
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