『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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二つの異能者組織

告白と吐露

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本来なら祝砲が上がっていてもおかしくないハズの鷹宮家は、今までにないほどの重い静寂に包まれていた。
 その内の一つは俺の肩に寄りかかるようにして眠っている桔梗だから良しとして、問題は、彩乃と結衣さんがこちらをガン見してくることだ。


「あの……桔梗、寝ちゃったんで。俺も寝てきて良いか?」
「…………」


グラウンドでの後始末を終えたところに、彩乃が「ちょっと話があるんだけど、来てくれるかなぁ?」と結衣さんら諸共強制帰宅されたのが、およそ二十分前の出来事。
 それからずっと、不動のこの状態である。

ねぇ、その沈黙止めてもらっていい? せめて何か言って? 結衣さんもさ、じっと俺の方ばかり睨み付けてないでこの剣呑な空気をぶち壊してくれる?
 といった俺の心の叫びが天に届いたのか、


「……あ、メリケンサック」


ふと、床にポロッと創造されたそれを見て、結衣さんが呟く。
 ……ねぇ、暴発だよね? いや、暴発でもメリケンサックは出ないか。
 彩乃はサディスティックな笑みを浮かべながら、それをポンポンと自身の手のひらに打ちつけ出す。


「まさか、それで俺に拷問しようなどとは……?」
「そこはあんたの返答次第かなぁ」


うわ、お怒りですよお嬢様。どうしましょ。
 だからといってこれ以上は俺が耐え切れない。正直言うと、眠いんでさっさと寝たい。


「……分かったよ、話せばいいんだろ」
「「最初からそうすれば良かったのに」」 
「盛大にハモリやがってこの野郎」


しかも、これみよがしに二人して目薬さしやがって。だったら最初から自分で言い出せよって話。
 ……まぁ、いつかは言わなければならない内容ではあったのだから、遅かれ早かれとして。


「で、あんたが《長》なのね?」
「あぁ。時期が来たら言っておこうかとも思ったんだが、如何せん発言の中にヒントが多すぎたからな。気が付いてたろ?」
「まぁ、マスターデータの話が出た辺りからね。何となく勘づいてた」


それに、と彩乃は付け加える。


「『魔弾の射手』は指定と定義の双方を併せ持ってる、っていうのも、大きなヒントかなー。かなーり分かりやすい問題だったけどね」


そう笑いながら言う彩乃。
 ……まぁ、それは俺の方にも言える話ではあるんだが。


「だとしたら、俺も一つ考察を。……単刀直入に言うが、お前は《鷹宮》の──《姫》だろ?」
「…………」


沈黙というのは、果たして否定か肯定か。


「会長である鷹宮清十郎の娘、《万物創造》、マスターデータ、結衣さんとの関わり。これらの立場、人員等を有するお前は、《姫》に他ならない。……違うか?」


それもこれも、ヒントが多すぎたんだ。お互いな。
 そう言外に告げてみせれば、彩乃は嬉しそうに口の端を歪ませて、


「そう、正解っ! お互いにあからさまなヒントだけど、ね」
「まぁ、今更それが何だって話だよな。パートナーだし」


二人で笑いながら、俺は思い出す。久世との一件は解決したが、まだ解決していないもう一件があることを。


「……そうだ、堂本充の件についてだが、結論から言わせてもらう」


そう前置きして、俺は彩乃と結衣さんに、《仙藤》側が調べたことを告げた。
 マスターデータを使用したが、手がかり一つ見つからなかったことを。そもそも、マスターデータの中に堂本充という人間が存在しなかったことを。

それを聞いた彩乃は暫し考えるようにして顔を伏せると、


「……やはり、一筋縄じゃいかないわね」


ゲームで負けた子供のように、苦笑いして言った。俺も、それに曖昧な笑みで返す。

──まぁ、とにかく。俺は今出来ることをやるだけだ。
 
堂本充の情報が入らないのなら、別のことに励むだけ。果報は寝て待て、とも言うしな。
 ここ暫くは履修科目を受けられてなかったから、そこで単位を取り返すのもいいだろう。


「果報は寝て待て、だ。今は俺たちの出来ることをするだけだな」
「……そうね」


~This chapter is End.
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