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二つの異能者組織
状況確認《プロローグ》Ⅰ
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「──そろそろか」
腕時計の文字盤を見、時間を確認してから隣にいる彩乃へと声をかける。
「しっかりと準備しておけよ? お前は関係ないとはいえ、この場に同席する人間なんだからな」
「……分かってるけど。ホントに大丈夫なの? それも、自分から時間と場所を全部指定しておいて」
「大丈夫だ。敢えて周囲に影響が出ない時間を選んだんだし、何より──」
彩乃の問いに簡潔に返し、再度辺りを見渡す。既に月も高く昇った刻、俺たち二人は閑散とした中、佇んでいた。
折しも今夜は満月。それが及ぼす影響は大きく、深夜とはいえ灯りは要らない程だ。
そんな天然のスポットライトに照らされる舞台は──武警高から少し離れたグラウンド。普段なら生徒で埋め尽くされているであろうこの場所も、今となっては人っ子一人いない。
そんな静寂に包まれるグラウンドに音も無く入ってきた者の影を捉えた俺は、隠しもせず口の端を歪ませる。
「クライアントの要望は、どんな形であれ──自身が疑問視している内容をちらつかされれば、来ざるを得ない。どっちにしろ、受け入れなければならないモノなんだよ」
「やはり、少年に関する新たな情報というのは……虚偽だったか」
十メートルほどの距離をとって相対した、俺とその男。彼は笑う俺を見るやいやな、手にしていた短刀を握りしめた。
……そう。俺が使ったのは、超古典的手段。地の利、時の利を指定して自身を有利な状況に置いた上での、罠。
更に、クライアント──《仙藤》反体制派の一人を拘束し、ソイツを通じて、この男に電話をかけさせて虚偽の情報を伝達させた。
無論、そこで依頼を撤回させてやっても良かったのだが──コイツは、知りすぎたんだ。俺たちのことを。故に、唯では置いておけない。
「ご苦労さま。分かっていながらも、態々『罠』とやらに掛かってくれてね」
言い、俺は直前に報告された資料の内容を諳んじる。
「……久世颯。元《仙藤》分家筋異能者であり、現はぐれ異能者」
淡々と告げられるそれにも、久世は一切の表情を持たない。いつまでその表情が続けられるかな──と内心嘲笑いながらも、表には出さずに続けていく。
「異能の開花が少しばかり遅く、高校でやっと、『消失』を発現。しかし能力の制御が不確実だったために、建物の基盤崩壊事故で友人を亡くす」
続く一言で、久世の鉄面皮が完璧に剥がれ切った。
「事後、能力の暴走を恐れ、《仙藤》を抜ける。そこから後に空白期間が存在していたが、暗殺者として活動していることが判明」
「…………」
「事故によるメンタルカウンセラーからの証言だ。『消失』故に、対象を消すということで制御を行ってきたらしいな。自身を、何かを消すための存在として見ている傾向あり、と。無論、今はマスターしているようだが」
「貴様、何処でそれを──」
そこまでの調べがついているとは思ってもいなかったのだろう。初めて眉を顰め、資料を諳んじる俺へと問いかけてくる。
「《鷹宮》には劣るとはいえ、二大勢力と謳われる《仙藤》を舐めてもらっちゃあ困る。アンタを囲ってた人間がクライアントの他にも数人いたようだが、そんなモノ、俺たちの前では無に等しい」
異能が分かれば、後はマスターデータで検索するだけ。その数人が必死になって消していたらしいが、《仙藤》にしてみれば、復元などは容易い。
そう茶目っ気満々で言ってやると──久世は、何かを納得したように眉間に皺を寄せたまま頷き、
「……そうか。まさか、クライアントの危惧していた事態が起こったとはな」
「……ほう? 何だ」
「《長》に、この件が露見したというワケか」
それを踏まえた上で、だ。
「理解が早くて何より。《長》にこの件が露見したとなれば、お前も、クライアントの身も危ういが……どうする?」
「人気のない場に連れ出してくれたのなら、それは此方にとっての好機だ。元より依頼の撤回など、考えてもいない」
カラン、と短刀の鞘を地に落とし、体勢を低くする。俺もそれに合わせるようにして、有り合わせのナイフの刃を開いた。
「《長》による介入が始まったとなれば、それは此方にとっての悪事。……なら、一刻も早く依頼を完遂するまでだ」
──成程。第一印象の通り、コイツは機械的だ。あくまでも打ち込まれたプロット通り動く、と。それ以外は、以上でも以下でもない、と。
また、と久世は口を開き、
「やはり、貴様の異能は対象物の定点地への射出と見て取れる。此方の異能とは相性が悪い故に、反抗さえしなければ命までは取らない」
「おや、どうにも舐められてるようで。……でも、ここにいる女を置いて退くことは出来ないんだなぁ」
「なら、それ相応の対応を施すまで。情けは掛けぬ」
「元から情けなんて要らねぇよ。お前の対象は俺だろう? ……なら──」
俺は、俺の役割を果たしてやろうじゃないか。
「かかって来い。久世颯」
~to be continued.
腕時計の文字盤を見、時間を確認してから隣にいる彩乃へと声をかける。
「しっかりと準備しておけよ? お前は関係ないとはいえ、この場に同席する人間なんだからな」
「……分かってるけど。ホントに大丈夫なの? それも、自分から時間と場所を全部指定しておいて」
「大丈夫だ。敢えて周囲に影響が出ない時間を選んだんだし、何より──」
彩乃の問いに簡潔に返し、再度辺りを見渡す。既に月も高く昇った刻、俺たち二人は閑散とした中、佇んでいた。
折しも今夜は満月。それが及ぼす影響は大きく、深夜とはいえ灯りは要らない程だ。
そんな天然のスポットライトに照らされる舞台は──武警高から少し離れたグラウンド。普段なら生徒で埋め尽くされているであろうこの場所も、今となっては人っ子一人いない。
そんな静寂に包まれるグラウンドに音も無く入ってきた者の影を捉えた俺は、隠しもせず口の端を歪ませる。
「クライアントの要望は、どんな形であれ──自身が疑問視している内容をちらつかされれば、来ざるを得ない。どっちにしろ、受け入れなければならないモノなんだよ」
「やはり、少年に関する新たな情報というのは……虚偽だったか」
十メートルほどの距離をとって相対した、俺とその男。彼は笑う俺を見るやいやな、手にしていた短刀を握りしめた。
……そう。俺が使ったのは、超古典的手段。地の利、時の利を指定して自身を有利な状況に置いた上での、罠。
更に、クライアント──《仙藤》反体制派の一人を拘束し、ソイツを通じて、この男に電話をかけさせて虚偽の情報を伝達させた。
無論、そこで依頼を撤回させてやっても良かったのだが──コイツは、知りすぎたんだ。俺たちのことを。故に、唯では置いておけない。
「ご苦労さま。分かっていながらも、態々『罠』とやらに掛かってくれてね」
言い、俺は直前に報告された資料の内容を諳んじる。
「……久世颯。元《仙藤》分家筋異能者であり、現はぐれ異能者」
淡々と告げられるそれにも、久世は一切の表情を持たない。いつまでその表情が続けられるかな──と内心嘲笑いながらも、表には出さずに続けていく。
「異能の開花が少しばかり遅く、高校でやっと、『消失』を発現。しかし能力の制御が不確実だったために、建物の基盤崩壊事故で友人を亡くす」
続く一言で、久世の鉄面皮が完璧に剥がれ切った。
「事後、能力の暴走を恐れ、《仙藤》を抜ける。そこから後に空白期間が存在していたが、暗殺者として活動していることが判明」
「…………」
「事故によるメンタルカウンセラーからの証言だ。『消失』故に、対象を消すということで制御を行ってきたらしいな。自身を、何かを消すための存在として見ている傾向あり、と。無論、今はマスターしているようだが」
「貴様、何処でそれを──」
そこまでの調べがついているとは思ってもいなかったのだろう。初めて眉を顰め、資料を諳んじる俺へと問いかけてくる。
「《鷹宮》には劣るとはいえ、二大勢力と謳われる《仙藤》を舐めてもらっちゃあ困る。アンタを囲ってた人間がクライアントの他にも数人いたようだが、そんなモノ、俺たちの前では無に等しい」
異能が分かれば、後はマスターデータで検索するだけ。その数人が必死になって消していたらしいが、《仙藤》にしてみれば、復元などは容易い。
そう茶目っ気満々で言ってやると──久世は、何かを納得したように眉間に皺を寄せたまま頷き、
「……そうか。まさか、クライアントの危惧していた事態が起こったとはな」
「……ほう? 何だ」
「《長》に、この件が露見したというワケか」
それを踏まえた上で、だ。
「理解が早くて何より。《長》にこの件が露見したとなれば、お前も、クライアントの身も危ういが……どうする?」
「人気のない場に連れ出してくれたのなら、それは此方にとっての好機だ。元より依頼の撤回など、考えてもいない」
カラン、と短刀の鞘を地に落とし、体勢を低くする。俺もそれに合わせるようにして、有り合わせのナイフの刃を開いた。
「《長》による介入が始まったとなれば、それは此方にとっての悪事。……なら、一刻も早く依頼を完遂するまでだ」
──成程。第一印象の通り、コイツは機械的だ。あくまでも打ち込まれたプロット通り動く、と。それ以外は、以上でも以下でもない、と。
また、と久世は口を開き、
「やはり、貴様の異能は対象物の定点地への射出と見て取れる。此方の異能とは相性が悪い故に、反抗さえしなければ命までは取らない」
「おや、どうにも舐められてるようで。……でも、ここにいる女を置いて退くことは出来ないんだなぁ」
「なら、それ相応の対応を施すまで。情けは掛けぬ」
「元から情けなんて要らねぇよ。お前の対象は俺だろう? ……なら──」
俺は、俺の役割を果たしてやろうじゃないか。
「かかって来い。久世颯」
~to be continued.
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