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二つの異能者組織
万物創造《オムニア・クリアート》
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必死の逃走の後、何とか鷹宮家まで辿り着くことが出来た俺たちだが──
「ほら、志津二くん。嫌がってないで腕見せて下さいよ。治療が出来ないじゃないですか」
「いや、しなくていい。確かに救護科から人員を要請したとはいえ、どうしてDランクのお前が来た。せめてAを呼べと言ったはずだが」
「まぁ、志津二。医療班の人間が来ただけでも感謝しなよ。ほら、皐月。やっちゃって」
「ちょ、痛い痛い痛い! 待てって!!」
皐月と呼ばれた茶髪セミロング少女は、彩乃が突き出した俺の腕の裾を捲りながら「うわー」とか「痛そー……」とか呟いている。事実、痛いんだよ。だから早く終わらせろ。
そのままジロジロと傷口を眺め、治療の結論を付けられたらしい皐月は、顔を上げて疑問の声を漏らす。
「ふむ……そんなに傷は深くないですね。というか、何で切り傷なんて負ってるんですか? 特攻科の模擬戦ですか?」
「……まぁ、そんなところだ」
視線を僅かに逸らしながら、語尾を濁す。
下手に事を公にするよりは、秘匿しておいた方が良いだろう。それに、関係ない人間を巻き込んでもアレだしな。
ふぅん、と呟いた皐月は医療器具を出し、傷口の消毒へと入っていく。消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に当てると同時、彼女自身の手も傷口を覆うようにして翳した。
紡、と手の平から発された光は、一件何の効力も持たないように見えた。しかし、
「……思ったよりは痛くないな。麻酔効果か? これ」
「えぇ、そうです。簡単な止血と麻酔、傷口を塞ぐ程度の治癒異能ですけどね」
「それでも今は役に立つんだから、万々歳よ。ありがとね」
えへへ、と嬉しそうに笑いながら、治癒作業を淡々と進めていく皐月。ガーゼを貼る作業も含めてものの数分で終わってしまい、予想よりも早い解散となった。
皐月に礼を言ってから玄関先まで二人で見届け、中に入ってから、直ぐに俺はスマホを手にする。その相手は、
「──桔梗、例の男からの襲撃を受けた。今すぐに学園都市内の全域を封鎖しろ! 今ならまだ間に合う!」
『……交戦したのなら、医療班は?』
「そこは問題ない。こっちで対処した。とにかく今は、学園都市内の封鎖と、男の洗い出しだ」
『了解しました』
迅速な対応に、返答。ウチのお嬢様にもこれくらい出来て欲しいところだが──と隣の彩乃を見つつ、リビングへと向かっていった。
◇
「──万物創造……?」
「そう。それが私の異能名」
リビングに戻って夕食を済ませ、食休みの最中となった今。そんな中、彩乃は自身の異能名を俺に明かしたのだ。
突然のことに何の意図があるのかと問えば、彼女はさぞ当たり前とも言うように告げた。
「……いや、別にね? 一応パートナーだから、相手の事くらい知っておいた方がいいかなーって思ったから。志津二の異能は『魔弾の射手』でしょ? そこは知ってるよ。前に噂になってたから」
「まぁ、お前のその気遣いは有難いが……どんだけ広まってんだよ、俺の異能」
一躍有名人だったもんねー、と笑いながら言う彩乃を見て、少しばかり心が和む。
……コイツ、こんな状況なのに顔色一つ変えず、寧ろいつもより和気藹々としているようにも見えるぞ。元来、そういう性格なんだろうな。俺としては付き合いやすい性格の人間だ。
口の端が緩まるのを感じながら、俺は彩乃の異能──万物創造について気になったことを聞いてみた。
「なぁ、それって弾幕とか色々創り出してたが……《万物創造》っていうくらいだから、物体とかも創れるのか?」
「良いところに目をつけたじゃない。……結論から言えば、創れるよ。『万物創造』は、原子分子を融合、または分離させたりして物体を創り出すの。それに必要なのは自分の知識と脳内設計図だけだから、これはこういうモノ、って覚えちゃえば、創造は可能ね。治癒も出来るよ」
……ま、マジか。俺より使い勝手良いな、《万物創造》。まさに万能と言うに相応しいだろう。
「でも、デメリットもあるんだよ。高性能なモノを創れる反面、一度に多くは創れないの。創ろうとすると、脳に負荷が掛かるからね」
「まぁ、そこは俺も同じだ。『魔弾の射手』も、そんなに多くは定義出来ない。せめて数十個だな」
一口に万物と呼ばれる異能は、無尽蔵にメリットを供給してくれるワケではない。使い勝手が良い異能ほど、大きなデメリットが存在するのである。
それが、本家筋の異能者が抱える大きな問題であり、避けられない事態である。
「んで、二つ名が『万物創造の錬金術師』……か。実質、錬金術師みたいなモンだけどな。媒体は金属じゃなくて微粒子だけど」
「『錬金術師』ってのは語弊があるわよね。私は魔術師じゃないもん」
「異能者も魔術師もそんなに変わりないかもしれないぞ、事実上」
「それもそうかー……」
面白げに笑みを零しながらソファーに背を預け、「さて」と立ち上がった彩乃。何だろうか、と疑問に思えば、その答えは直ぐに。
「家事、手伝おっか? 最近あんたばっかりにやらせてたからね。たまには私もやろっかなー、って」
「……ハッキリ言って、助かる。いつもそうだと良いんだが。それと給料も求む」
「ダメよ。法律で十五歳未満の雇用禁止だもん」
「俺は十六だぞ」
「…………ダメ。ダメって言ったらダメっ!」
ピシャリ。断固として金を寄越さないらしい彩乃は、半ばキレ気味に俺の手を叩いてきた。……地味に痛いぞ、これ。
というか、労働基準法違反っていうなら初めから本職雇え──と思ったのだが、彩乃が俺を指名したのは、また別の理由だったな。
──なら、頑張りましょうか。コイツに、最後まで付き合ってやろう。
~to be continued.
「ほら、志津二くん。嫌がってないで腕見せて下さいよ。治療が出来ないじゃないですか」
「いや、しなくていい。確かに救護科から人員を要請したとはいえ、どうしてDランクのお前が来た。せめてAを呼べと言ったはずだが」
「まぁ、志津二。医療班の人間が来ただけでも感謝しなよ。ほら、皐月。やっちゃって」
「ちょ、痛い痛い痛い! 待てって!!」
皐月と呼ばれた茶髪セミロング少女は、彩乃が突き出した俺の腕の裾を捲りながら「うわー」とか「痛そー……」とか呟いている。事実、痛いんだよ。だから早く終わらせろ。
そのままジロジロと傷口を眺め、治療の結論を付けられたらしい皐月は、顔を上げて疑問の声を漏らす。
「ふむ……そんなに傷は深くないですね。というか、何で切り傷なんて負ってるんですか? 特攻科の模擬戦ですか?」
「……まぁ、そんなところだ」
視線を僅かに逸らしながら、語尾を濁す。
下手に事を公にするよりは、秘匿しておいた方が良いだろう。それに、関係ない人間を巻き込んでもアレだしな。
ふぅん、と呟いた皐月は医療器具を出し、傷口の消毒へと入っていく。消毒液を染み込ませたガーゼを傷口に当てると同時、彼女自身の手も傷口を覆うようにして翳した。
紡、と手の平から発された光は、一件何の効力も持たないように見えた。しかし、
「……思ったよりは痛くないな。麻酔効果か? これ」
「えぇ、そうです。簡単な止血と麻酔、傷口を塞ぐ程度の治癒異能ですけどね」
「それでも今は役に立つんだから、万々歳よ。ありがとね」
えへへ、と嬉しそうに笑いながら、治癒作業を淡々と進めていく皐月。ガーゼを貼る作業も含めてものの数分で終わってしまい、予想よりも早い解散となった。
皐月に礼を言ってから玄関先まで二人で見届け、中に入ってから、直ぐに俺はスマホを手にする。その相手は、
「──桔梗、例の男からの襲撃を受けた。今すぐに学園都市内の全域を封鎖しろ! 今ならまだ間に合う!」
『……交戦したのなら、医療班は?』
「そこは問題ない。こっちで対処した。とにかく今は、学園都市内の封鎖と、男の洗い出しだ」
『了解しました』
迅速な対応に、返答。ウチのお嬢様にもこれくらい出来て欲しいところだが──と隣の彩乃を見つつ、リビングへと向かっていった。
◇
「──万物創造……?」
「そう。それが私の異能名」
リビングに戻って夕食を済ませ、食休みの最中となった今。そんな中、彩乃は自身の異能名を俺に明かしたのだ。
突然のことに何の意図があるのかと問えば、彼女はさぞ当たり前とも言うように告げた。
「……いや、別にね? 一応パートナーだから、相手の事くらい知っておいた方がいいかなーって思ったから。志津二の異能は『魔弾の射手』でしょ? そこは知ってるよ。前に噂になってたから」
「まぁ、お前のその気遣いは有難いが……どんだけ広まってんだよ、俺の異能」
一躍有名人だったもんねー、と笑いながら言う彩乃を見て、少しばかり心が和む。
……コイツ、こんな状況なのに顔色一つ変えず、寧ろいつもより和気藹々としているようにも見えるぞ。元来、そういう性格なんだろうな。俺としては付き合いやすい性格の人間だ。
口の端が緩まるのを感じながら、俺は彩乃の異能──万物創造について気になったことを聞いてみた。
「なぁ、それって弾幕とか色々創り出してたが……《万物創造》っていうくらいだから、物体とかも創れるのか?」
「良いところに目をつけたじゃない。……結論から言えば、創れるよ。『万物創造』は、原子分子を融合、または分離させたりして物体を創り出すの。それに必要なのは自分の知識と脳内設計図だけだから、これはこういうモノ、って覚えちゃえば、創造は可能ね。治癒も出来るよ」
……ま、マジか。俺より使い勝手良いな、《万物創造》。まさに万能と言うに相応しいだろう。
「でも、デメリットもあるんだよ。高性能なモノを創れる反面、一度に多くは創れないの。創ろうとすると、脳に負荷が掛かるからね」
「まぁ、そこは俺も同じだ。『魔弾の射手』も、そんなに多くは定義出来ない。せめて数十個だな」
一口に万物と呼ばれる異能は、無尽蔵にメリットを供給してくれるワケではない。使い勝手が良い異能ほど、大きなデメリットが存在するのである。
それが、本家筋の異能者が抱える大きな問題であり、避けられない事態である。
「んで、二つ名が『万物創造の錬金術師』……か。実質、錬金術師みたいなモンだけどな。媒体は金属じゃなくて微粒子だけど」
「『錬金術師』ってのは語弊があるわよね。私は魔術師じゃないもん」
「異能者も魔術師もそんなに変わりないかもしれないぞ、事実上」
「それもそうかー……」
面白げに笑みを零しながらソファーに背を預け、「さて」と立ち上がった彩乃。何だろうか、と疑問に思えば、その答えは直ぐに。
「家事、手伝おっか? 最近あんたばっかりにやらせてたからね。たまには私もやろっかなー、って」
「……ハッキリ言って、助かる。いつもそうだと良いんだが。それと給料も求む」
「ダメよ。法律で十五歳未満の雇用禁止だもん」
「俺は十六だぞ」
「…………ダメ。ダメって言ったらダメっ!」
ピシャリ。断固として金を寄越さないらしい彩乃は、半ばキレ気味に俺の手を叩いてきた。……地味に痛いぞ、これ。
というか、労働基準法違反っていうなら初めから本職雇え──と思ったのだが、彩乃が俺を指名したのは、また別の理由だったな。
──なら、頑張りましょうか。コイツに、最後まで付き合ってやろう。
~to be continued.
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