『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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二つの異能者組織

裏の存在

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「──お前、これはどういう事だ!?」
 

傾きかけた夕日が差し込む、オフィスの一室。オーク材の机に肘を乗せ、皮の椅子に腰掛けていた小太りの男は部屋に入ってきた細身の男を見るなり怒鳴り立てた。


「部下からの報告があった。……無傷、だと? 腕利きの殺し屋だというから雇ったというのに──ガキ一人捕まえることも出来ないのか!?」


彼らの今回の標的は、年端もいかない少年一人。だからこそ容易に捕獲が可能だと考えていた傍ら、結果は失敗に終わった。双方としても、それは予想外の出来事である。
 細身の男はスっと目を細め、塞いでいた口を開いた。


「……資料と事実に矛盾が生じていた。確かにあの少年は武装警察のようだが、記載されていた内容と実際での内容が異なっていた」
 「バカを言え。儂が得た情報に誤りがあるとでも言いたいのか?」
 「事実上、そうなる」


淡々と告げられる言葉に小太りの男は激昴しかけるが、次に発された細身の男の言葉によって、その動きが止まった。


此方こちらの認識している彼に関する情報は、武警だということ。それだけだ。……しかし、少年が銃を抜いた際、照準を定めていないにも関わらず、此方の足元へ威嚇射撃の為に発砲した」


馬鹿な──と、小太りの男の脳内に反逆の考えが過ぎる。それは、自身が耳にした情報と異なっていたが故に。自身が正しいと誇張していたが故に、だろう。
 呆然と口を開けている小太りの男を尻目に、細身の男は身を翻して、入ってきた扉の方へと歩いていく。そしてピタリと止まり、


「どのような能力かは知らぬが、これでは此方も迂闊に動けない。暫くは、偵察のための時間を頂こう」


静かに、闇へと身を消していった。







「……結果として、隠蔽工作は必要ないかと」
 「アタシもそれに同感ね。痕跡が残っていないのなら、する必要もないわ」


鷹宮家の応接間にて、俺たちは急遽、会議を開いていた。それは勿論、先程の襲撃の件である。
 
俺と彩乃、向かいには和服姿の桔梗と、スーツを着た黒髪ロングの女性──鷹宮結衣たかみやゆいさん。彩乃のはとこらしい──で、テーブルを介して話し合いを続け、たった今結論が出たところだ。

あの後帰宅した俺は、急遽桔梗に電話し、こちらに来るように告げた。
 俺の口から状況を説明された彩乃も同様に、結衣さんという本部の人間を呼んだのである。
 
本来こうやって異能者組織の人間同士が集まることはないのだが、今回は事態が事態。早急な対応が必要と見なし、今に至る。

通報を受けた双方の本部は、各々の隠蔽班──異能に関する隠蔽工作を主とする部隊──を現地に派遣し、俺を襲ったあの男の手がかりを探ろうと試みた。
 しかし、結衣さんの言うように、のである。

俺が使用したSAB弾の薬莢も、斬り裂いた街路樹の残骸も、投擲したナイフですら、そこには残っていなかったのだという。
 それはつまり、何も起こっていないのと同然であり、だからこそ、秘匿する必要性がないとの結論が出されたのだ。

そして、ヤツの狙いは俺。自分自身の立場に焦点を当てて考えれば、それは実に簡単な答えだ。
 
──《仙藤》という組織の本家筋であり、分家とは違い、詳細が秘されている人間。そして本家筋は、《長》を輩出するに当たっての最重要一族。《仙藤》という特殊な系譜の中での、更に特殊な家系。それが、本家筋である。
 だからこそ、狙われようにも、理由は事欠かない。
 
それに、「捕獲し、クライアントへと届ける」という言い草。
 そこから考慮すれば、あの男は実行犯で、アイツを従えている人間が少なくとも一人はいるってことか。
 
なら、何故俺を狙ったのか。それも、実に簡単な答え。
 本家筋の旨みなど、万能たる異能と《長》に他ならない。クライアントの望みは、おおかた異能か《長》の地位だろう。

────ならば、あの男らは、《仙藤》の反体制派だな。恐らく、クライアントを筆頭に集められていると考えていい。

まぁ、膿は定期的に排除するからそちらは後で対処するとして、問題はそこではない。
 俺が一番危惧すべきは、だろう。本家筋にせよ、《長》にせよ、どちらとも秘されるべき存在。故に、俺個人の情報を調べるのは、一人ではほぼ不可能に近い。

この場合の裏の存在はクライアントに当たり、ソイツが、実行犯である男に情報を流したのだろう。そこまでを知っているクライアントは、かなり《仙藤》の内部に浸透していると考えた方が妥当か。


「……桔梗」
 

今までずっと口を噤んでいた俺が口を開いたのに少し驚いた様子の桔梗だが、すぐに凛とした表情に戻ると、「……何ですか?」と答えた。
 俺は自分の決断に不備がないかを再度確認してから、端的に告げる。


「堂本充の件と同時進行になって悪いんだが、今回の件を先にして、男の素性とクライアントの素性を洗い出せ。本部の幹部全員にも情報は共有させろ」
 「……分かりました」


桔梗はこくり、と頷き、すぐさま仕事へ移るために部屋を後にする。結衣さんも用済みだと感じたのか、持ってきていた荷物を持って、席を立った。
 そして、その黒い髪と同色の瞳で俺を見据え、ぺこりと頭を下げて部屋を出ていく。
 部屋に二人取り残された俺たちには暫しの静寂が訪れるも、


「……夕食の準備、頼んだわよ」
 「……分かったよ。少し時間かかるけどな」


俺が出来ることは全てやった。だから後は、信頼出来る部下たちに任せるだけだ。


~to be continued.
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