『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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二つの異能者組織

エンカウントは突然に

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情報科学部棟の一室にて、俺はいつものように堂本充らに関する情報を探していた。
 しかし……やはりというか、何と言うか、だが──


「めぼしい情報はなし、か……」
 

ここ数日、彩乃の情報のみならず、情報科にも頻繁に出入りして情報を漁っていたのだが、やはりについては疎いようだ。公に流出している情報ならまだしも、個人特定──それも、情報一つ残していない者の──はあまりにも現実的ではない。
 
無いものを探すなど、雲を掴むような話に他ならないが──やるとは言った以上、ベストは尽くさせてもらうか。

さて、と椅子を回転させて出口へと身体を向ける。それと同時に、扉が開いた。
 俺に用があるのは、せいぜい彩乃くらいだろう──と、ふと思った。それは間違っていなかったのだが、今回はもう一人ついてきたようだ。


「彩乃、に……鈴莉もか。どうした、二人して」
 「あのねー、彩乃ちゃんから情報探しに手伝って欲しいって言われたから、私も一緒についていったんだよ。それが一区切りついたから、彼氏さんのところに行こう、ってなって」

身振り手振りを交えて楽しそうに言うコイツは、神凪鈴莉かんなぎすずり。俺と同じクラスの人間で、周りから見ても、少しばかり天然なのだ。
 風体は茶髪のセミロング、と至って何処にでもいるような子に見えるが、俺と同じ、情報科Aランクの実力の持ち主である。

……てか、誰が彼氏さんだコラ。カップル成立した覚えはないぞ。


「志津二、情報の件はどうだった?」
 「いんや、何にも。めぼしいモノはなかったぞ」
 「そっかぁー……」


期待の色すら見せない声で、一応と俺に確認を行う彩乃。
 しかし俺の返答を聞き、「やっぱりかー」と言ったような顔になった。どことなく、金髪ロングの髪もしゅんと項垂れているように見える。
 
鈴莉はそんな彩乃を見て元気づけようとしたのか、必死に俺にアイコンタクトで「慰めてやれ!」的な視線を送ってくる。自分でやれや。
 仕方ないので俺は彩乃の肩にポン、と手を置き、


「ま、まぁ……俺が言うのも何だが、そんなに焦らなくてもいいと思うぞ。果報は寝て待て、とも言うしな。それに──」


と言ったところで彩乃の耳元に口を寄せ、奥にいる鈴莉に聞こえないよう、無声音で告げた。読唇もされないように、僅かに唇を隠しながら。


「マスターデータでの捜索も頼んである。今はそれに頼るしかない」
 「……分かった」
 

静かに答えた彩乃はくるり、と身を翻すと、俺の手を掴んで、


「じゃあ、そろそろ帰ろっか。……鈴莉、今日はありがとね。お疲れ様」


情報科学部棟を、後にしたのだった。







「──貴様が、仙藤志津二か」

帰路に着く途中だった。突如出てきた、あの男と鉢合わせたのは。
 人気の少ない裏通り。彩乃とは別に行動していた俺は、ソイツから見れば無防備に過ぎなかったのだろう。
 
そして俺自身も、油断していた。まさか、標的にされているとは思いもしなかったのだから。
 電柱の柱に背を預けて問う男へ向けて、俺は端的に返す。


「……だとしたら、何だ?」
 「大人しく、捕まってもらおう。そして、クライアントへと貴様を届ける」


何を馬鹿なことを──と毒吐きながら、俺は周辺を見渡す。
 人気もなく、まさに襲撃にはうってつけの場所。住宅街として家は建ち並んでいるものの、人が外に出てくるような気配もない。
 
さて、この状況。どうしたものか──と思案していると、一瞬の隙を見抜いたかのような動作で、男は何かを俺目がけて投擲した。

空の朱色の光に反射するそれは、一本のナイフ。何処にでも売っているような、極々普通のモノだ。しかしそれは、使う者の力量によって、致死性の暴力ともなる。

すんでのところで上体を反らして回避した反動を利用して、ベレッタをクイックドローして威嚇射撃のために一発、発砲する。運良く消音器サプレッサーを付けていたため、発砲音は心配する必要がない。

足元に撃ち込まれた銃弾に男が警戒したのを確認して、俺は別の手で持っていた銃弾をチェンバーに込め、再度発砲する。

着弾してからゆっくりと煙を上げたそれは、SAB弾と呼ばれている特殊な銃弾だ。
 属性を持つ異能を銃弾の中にある火薬に反映させたモノで、非常に高いコストと時間を要する。装備科のSランクでさえ作るのは困難とされており、それ故に、一発一発が非常に高価な代物だ。
 
だが、身に危険が迫っている今。価格云々などという戯言は言ってられない。

煙が蔓延する前に、俺は男の動きを封じようと更なるアクションを起こした。
 煙の向こうに薄らと見える男が何かを成す前に、俺はヤツが初めに投擲したナイフを手に取り、思い切り振りかぶる。
 
視界はほぼ封じられているといっても過言ではないのだから、これを避けるのは至難の業だろう。

SAB弾が完璧に煙幕としての効果を発揮したのを確信してから、俺は脇道へと逸れるように駆けていく。時々経路を誤魔化すこともしながら、男から距離をとり、鷹宮家へと向かっていった。

──さて、あのナイフは俺の手から離れた瞬間、ライフル弾が如く速度で飛来するだろうが、それはあの男には知り得ないところ。
 倒木と、ナイフ。ヤツはそれら二つを同時に処理しなければならないため、確実に隙が生まれる。俺が狙ったのは、そこだった。


~to be continued. 
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