『平凡』を求めている俺が、チート異能を使ったりツンデレお嬢様の執事になるのはおかしいと思うんだが

水無月彩椰

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二つの異能者組織

志津二と執事とお嬢様

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俺はリビングのソファーにゴロンと寝転がり、掛け布団を掛けてから、薄闇の中で天井を仰ぎ見る。
 結論から言えば──決めた。彩乃の執事になる事に、な。
 
別に邪な思いがあって決めたワケじゃない。俺の気持ちを一押ししたのは、アイツが切り札として出した黒い影の存在だ。
 ……この件は明日辺りにでも言うことにしよう。アイツの喜ぶ顔が見れそうだ。

だが、一つ。一つだけ問題がある。


「あの野郎、ホントに泊まりやがって……」


夕食の後にご令嬢様は俺宅の風呂を不法占拠し、テレビを独占し、挙句、「志津二のベッド貸して。寝るから」と宣った。ここはお前の家じゃないぞ。今すぐにでも戻れ。
 
てなワケで、俺宅にはご令嬢様がお泊まりなうです。だから俺はソファーでおやすみなさいしてます。

……とまぁ、こんな具合に彩乃への憤りは有り余っているワケだが。それも俺が執事になるまでの暫しの辛抱。頑張れ、俺。キチンと執事生活送れよ。
 その他にも明日の俺への言伝をつらつらと頭の中に浮かべているうち、いつの間にか睡魔に襲われて深い眠りについてしまったのであった。






「……は?」


目覚めてからの第一声がコレである。恐らく日本でも俺一人しかいないんじゃなかろうか。
 ──なんて馬鹿なことを言ってる余裕はない。この『は?』は直感的に異変を察した時の『は?』だ。

その根拠として、真上──いつもなら天井があるハズなのだが──を見れば、純白のレース付きの天蓋があった。
 
軽く首だけを上げて辺りを見渡せば、俺の寝室にはないハズのソファーや大型テレビ、冷蔵庫などの家電が揃っている。シャンデリアまで付いてるぞ。
  ここが誰の家かは知らないが、窓から差し込む光と壁に掛けてある時計で、朝の七時だということは理解出来た。


「何だよ、これ……」


不満を露わにした声で呟きつつ起き上がろうとする。が──如何せん、右腕が持ち上がらない。まるで、何かにみたいに。
 まぁ、必然的に視線はそちらに向かうワケだな。何事かと人は確認する。俺も例外ではない。

首を動かした先である俺の視界に入ってきたのは、いつの間にか掛けていた純白の毛布と、一人の女の子。そして俺は、コイツに見覚えがある。
 ……いや、『ある』なんてモンじゃない。昨日まで一緒にいた、鷹宮彩乃本人なのだから。そして俺を固定している何かは、パジャマ姿の彩乃の腕だ。
  
どうやら寝ているらしく、俺の腕を掴んだまま動かない。
 ということは、ここはコイツの部屋ってことになるが……。

兎にも角にも、この状況をなんとかしなければ。
 だが……ヤバいな、これ。結構ガッチリと掴まれてるぞ。抜け出ようにも抜け出せない。
 
……仕方ない。起きてもらうか。そうでもしないと事が進まなそうだからな。


「おい、起きろー。どういうことだ? これ」


掴まれている片腕を無視して、もう片方の腕で彩乃の肩を揺さぶる。
 そして返ってきたのは、苦悶に近い呻き声……のような何か。


「んぅ……あと五分だけ…………」
「ないない」


ご定番ですね。はい。じゃあ本題に入りますよー。


「いいから起、き、ろ! どういうことだって聞いてんだよ!」


彩乃の耳を掴んで、鼓膜が破れようとケセラセラくらいの気持ちに変化した俺は──叫ぶ。とにかく叫ぶ。すぐにでもここから逃げ出したい。
 だが彩乃は耳を塞ぐでもなく逆ギレするでもなく、欠伸混じりで悠然と、


 「ふわぁ……あれ、起きたの。おはよう。それで──気に入ってもらえたかしら? その服は」
 「……服?」


開口一番がそれか? 変なこと言うなぁ。服なんてパジャマしか着てないだろ──と思いながら視線を自分の身体へと向ければ、いつの間にか着せられていた黒の執事服が、そこにはあった。

……しかもご丁寧にブルーライトカットメガネまで胸ポケットに入ってるし。内ポケットには帯銃用のホルスターまで装着されてるしで。用意のいいこと。
 それを確認してから、俺は静かに顔を上げる。
  

「……おい。これってさ」
 「うん?」
 「誰が着せた?」
 「私だけど」
 「って言うことはさ──」
 

と一拍置いてから、俺は告げる。

「お前、俺の服を脱がしたろ? お前が服を着せたってことは、そういうことだ」
 「……………………あ」


当たり前のことなのに、それに気が付いていない天然お嬢様。
 しかも女が男の服を脱がして着せるとか。抵抗ないのか。普通は逆だろ。
 そんなお嬢様は数秒フリーズにした後、わなわなと手を震わせてからベッドの下に手を伸ばして、


「あ、あれは不可抗力よ! 不可抗力っ!」
 「不可抗力もなにも、俺がお前の執事になるってことはまだ言ってないぞ」
 「うるさいっ!!」


──パンっ!


迷いもせずに、隠していたらしいデリンジャーを俺の足元目掛けて撃ってきた。
 ……っていうか、明らかに逆ギレだろ。それ。俺は悪くないぞ。


「いいから。制服は何処だ? 学校行かなきゃならないんだよ。それに朝食も済ませないといけないし」
 「制服はそれ執事服よ! 今日からそれがあなたの制服! もちろん、二十四時体制でっ!!」


ビックリマーク一つにつき一発の頻度で銃弾を俺目掛けて撃ってくる女の執事にはなりたくない。コイツがいくら可愛かろうと。
 だが、ここは我慢の時だ。俺よ。銃弾の嵐を掻い潜り、コイツの要望を全て聞きとめた先に俺の望むモノは待っているのだから。
 
だから俺は、仕方なしに従う姿勢を示すことにした。そうでもしないと命が危うい。

「はぁ…………。

 ──承知致しました、お嬢様。この仙藤志津二、未熟ながら努めさせて頂きます」


大きな溜め息の後、恭しく頭を下げて、俺は告げた。
 

~to be continued.
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