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二つの異能者組織
令嬢様のお頼み事
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「あなた、私の執事にならないかしら?」
「嫌だ」
「即、答っ……!?」
当たり前だろが。誰が好き好んで今日会ったばかりのロリの執事になんかなるか。丁重にお断りさせてもらうぞ。
……が。まさか断られるとは思っていなかったらしい彩乃は「うぐぐ……」と唸り、拳を握り締めて突っ立っている。
……いい機会だ。聞くだけ聞いて、即効立ち退いてもらおう。
「それを伝えるためだけにここに来たのか、御足労なこった。……なぁ? 異能者組織の《鷹宮》さんよ」
そう皮肉混じりに言えば、彩乃は僅かに笑みを称え、返す。その言い草には、遠回しな肯定の意があった。
「これは単に私があなたに興味があるだけよ。《鷹宮》に次ぐ二次勢力──仙藤一族の、本家筋にね」
「……へぇ、気付いてたのか。それ以前に、何処で調べがついた?」
俺が仙藤一族の血筋だということは、こちら側の人間なら苗字を見れば一目で分かることだ。何せ、《仙藤》は《鷹宮》に次ぐ勢力と人員を持つ異能者組織なのだから。
だから《仙藤》と《鷹宮》は日本全域を牛耳っている異能者組織として、古来から名を馳せている。
──しかし。しかし、だ。
異能者組織の大元である本家筋は、基本的に表舞台に姿を出さない。若しくは、組織の本部に手を回して情報を隠蔽するのが鉄則である。だから、俺が本家筋だと知る者はいない……ハズなのだ。組織内でも本部という高い位置に座する人間でなければ。
その事実をコイツが知っていた。となると、
「……幹部レベルの人間だな。お前」
何処の異能者組織でもそうだが、分家筋の上には極々限られた人員で構成された『本部』と呼ばれる機関が存在する。本部には最高管理者がおり、男なら《長》と、女なら《姫》と呼ばれている。
が、彼らの大抵の職務──協定締結や組織間の会談──は秘書や幹部が受け持つため、その存在さえ怪しいとされているのだ。
位が高いほど与えられる機密情報は多い。それ故に、《長》らが有する情報は数限りない。
それこそ自己の存在を秘匿させるために政府の人間を抱き込み、弱みを握って、己が存在を世間に公表させぬようにしている。
黒いと言われればお終いだが、これも致し方ないものなのだ。
「さぁ、それはどうかしらね。……とにかく、私の要求を受け入れなさい。勿論、タダでとは言わないわよ」
「……タダ云々という以前に、俺はやらないって言ってるだろ。無意味だ。帰れ」
コイツはいつまでここに留まるつもりだろうか。正直言って、迷惑極まりない。
敵意剥き出しの俺に彩乃は臆する素振りも見せず、睥睨するようにこちらを見詰めている。
そして愉快そうに口を歪めてから、
「あなたが、今朝起こした猥褻行為。アレを公表しても良いのかしら?」
「それは……困る。というか、何で俺が執事なんだよ。本職の人間でも雇えばいいだろ」
ヤバい。コイツに弱みを握られていた。断るに断れないぞ。……ってか、あれは不可抗力だというのに。分からないヤツだな。
としても、流石にこれが教師の耳に入れば単位削減は免れないだろう。ここは大人しく従うべきか。
「執事=パートナーよ。あなたは私のパートナー。だから執事」
「執事は下僕だと思うが」
「う、うるさいっ! とにかく、私の見合った条件が適用されているのがあなたなの! だからあなたが私の執事になるの!」
「俺が執事になるかはどうでもいいんだが、ついでとして条件を教えろ」
言いながら、俺はソファーへと移動する。彩乃も後ろをちょこちょことついてきて、ポフン、と隣へ座った。馴れ馴れしいなぁ。
そして彼女は指折々と数え、その条件とやらを告げる。
「条件は……まぁ、一言で言うなら、強い人ね」
「……はぁ?」
思わず声が出てしまう。……何? 強い人──だと?
「どう考えても俺はその内に該当してないと思うんだが」
「嘘よ。だってあなた、入学時は総合でSランクだったでしょっ! 特攻科と狙撃科の両方で! しかも異能レベルはⅤ!」
嬉々として告げる彩乃だが、俺はそれに驚きを隠せないでいた。
……コイツ、ここまで知っていたのか。──否。これを知っているのは普通のこと。資料を探れば分かることだ。
だが、俺が仙藤一族の本家筋だと知られていたのが異常だったのだ。
ここ、武警高の入試は二種類ある。一つは、頭脳試験。筆記テストだ。
そしてもう一つは、実戦。異能と身体能力を駆使した模擬戦である。学園都市の傍らにひっそりと佇んでいる工事途中の現場で、それは行われた。
ルールは簡単。点々と配置された入学希望者たちを、自分の力で倒すだけ。武器は自分が持っている銃剣類のみ。
俺は言われた通りに襲い掛かってくる面々らを倒し続けた。それこそ『魔弾の射手』を駆使したり、とある一人と一人を闘うように仕向けたり。
そして──監察官の役目を担っていた教務課の数人をも、不意打ちながら倒してしまったのだ。
その戦闘能力を評価されて、一年次はSランクだった。しかし今現在でDランクとなってしまったのには、少しばかりワケがある。
「それは──昔の話だろ。今はDランクの底辺だ。今と昔は違う」
「それも嘘ね。みんなから向けられる視線が嫌で、わざとランクを落としたに違いないわ。あなたはそういう人間。全部情報科に聞き入れて、教務課でも調べたもん。嘘吐きさんだね」
……情報科、身内を売ったな。コイツにどんな弱みを握られたんだ。
だが、幸か不幸か、それが今ここで必要とされているのだ。彩乃が俺を執事にするために。詳細は知らないけど。……受け入れれば地獄。断っても地獄。後がな
い。
──なら、逆に考えるんだ。コイツの執事になってあげてもいいさ、と。
「あ、言っておくけど。私はあなた以外に雇おうとしている人間はいないわよ。家事全般諸々、全てあなたに任せるから」
俺が執事になることを前提として話を続けていく彩乃に、衝動的にベレッタのセーフティーを外しそうになる。
……ごめん。決意した早々に心が折れそう。この子の執事を出来る気がしないわ。
~to be continued.
「嫌だ」
「即、答っ……!?」
当たり前だろが。誰が好き好んで今日会ったばかりのロリの執事になんかなるか。丁重にお断りさせてもらうぞ。
……が。まさか断られるとは思っていなかったらしい彩乃は「うぐぐ……」と唸り、拳を握り締めて突っ立っている。
……いい機会だ。聞くだけ聞いて、即効立ち退いてもらおう。
「それを伝えるためだけにここに来たのか、御足労なこった。……なぁ? 異能者組織の《鷹宮》さんよ」
そう皮肉混じりに言えば、彩乃は僅かに笑みを称え、返す。その言い草には、遠回しな肯定の意があった。
「これは単に私があなたに興味があるだけよ。《鷹宮》に次ぐ二次勢力──仙藤一族の、本家筋にね」
「……へぇ、気付いてたのか。それ以前に、何処で調べがついた?」
俺が仙藤一族の血筋だということは、こちら側の人間なら苗字を見れば一目で分かることだ。何せ、《仙藤》は《鷹宮》に次ぐ勢力と人員を持つ異能者組織なのだから。
だから《仙藤》と《鷹宮》は日本全域を牛耳っている異能者組織として、古来から名を馳せている。
──しかし。しかし、だ。
異能者組織の大元である本家筋は、基本的に表舞台に姿を出さない。若しくは、組織の本部に手を回して情報を隠蔽するのが鉄則である。だから、俺が本家筋だと知る者はいない……ハズなのだ。組織内でも本部という高い位置に座する人間でなければ。
その事実をコイツが知っていた。となると、
「……幹部レベルの人間だな。お前」
何処の異能者組織でもそうだが、分家筋の上には極々限られた人員で構成された『本部』と呼ばれる機関が存在する。本部には最高管理者がおり、男なら《長》と、女なら《姫》と呼ばれている。
が、彼らの大抵の職務──協定締結や組織間の会談──は秘書や幹部が受け持つため、その存在さえ怪しいとされているのだ。
位が高いほど与えられる機密情報は多い。それ故に、《長》らが有する情報は数限りない。
それこそ自己の存在を秘匿させるために政府の人間を抱き込み、弱みを握って、己が存在を世間に公表させぬようにしている。
黒いと言われればお終いだが、これも致し方ないものなのだ。
「さぁ、それはどうかしらね。……とにかく、私の要求を受け入れなさい。勿論、タダでとは言わないわよ」
「……タダ云々という以前に、俺はやらないって言ってるだろ。無意味だ。帰れ」
コイツはいつまでここに留まるつもりだろうか。正直言って、迷惑極まりない。
敵意剥き出しの俺に彩乃は臆する素振りも見せず、睥睨するようにこちらを見詰めている。
そして愉快そうに口を歪めてから、
「あなたが、今朝起こした猥褻行為。アレを公表しても良いのかしら?」
「それは……困る。というか、何で俺が執事なんだよ。本職の人間でも雇えばいいだろ」
ヤバい。コイツに弱みを握られていた。断るに断れないぞ。……ってか、あれは不可抗力だというのに。分からないヤツだな。
としても、流石にこれが教師の耳に入れば単位削減は免れないだろう。ここは大人しく従うべきか。
「執事=パートナーよ。あなたは私のパートナー。だから執事」
「執事は下僕だと思うが」
「う、うるさいっ! とにかく、私の見合った条件が適用されているのがあなたなの! だからあなたが私の執事になるの!」
「俺が執事になるかはどうでもいいんだが、ついでとして条件を教えろ」
言いながら、俺はソファーへと移動する。彩乃も後ろをちょこちょことついてきて、ポフン、と隣へ座った。馴れ馴れしいなぁ。
そして彼女は指折々と数え、その条件とやらを告げる。
「条件は……まぁ、一言で言うなら、強い人ね」
「……はぁ?」
思わず声が出てしまう。……何? 強い人──だと?
「どう考えても俺はその内に該当してないと思うんだが」
「嘘よ。だってあなた、入学時は総合でSランクだったでしょっ! 特攻科と狙撃科の両方で! しかも異能レベルはⅤ!」
嬉々として告げる彩乃だが、俺はそれに驚きを隠せないでいた。
……コイツ、ここまで知っていたのか。──否。これを知っているのは普通のこと。資料を探れば分かることだ。
だが、俺が仙藤一族の本家筋だと知られていたのが異常だったのだ。
ここ、武警高の入試は二種類ある。一つは、頭脳試験。筆記テストだ。
そしてもう一つは、実戦。異能と身体能力を駆使した模擬戦である。学園都市の傍らにひっそりと佇んでいる工事途中の現場で、それは行われた。
ルールは簡単。点々と配置された入学希望者たちを、自分の力で倒すだけ。武器は自分が持っている銃剣類のみ。
俺は言われた通りに襲い掛かってくる面々らを倒し続けた。それこそ『魔弾の射手』を駆使したり、とある一人と一人を闘うように仕向けたり。
そして──監察官の役目を担っていた教務課の数人をも、不意打ちながら倒してしまったのだ。
その戦闘能力を評価されて、一年次はSランクだった。しかし今現在でDランクとなってしまったのには、少しばかりワケがある。
「それは──昔の話だろ。今はDランクの底辺だ。今と昔は違う」
「それも嘘ね。みんなから向けられる視線が嫌で、わざとランクを落としたに違いないわ。あなたはそういう人間。全部情報科に聞き入れて、教務課でも調べたもん。嘘吐きさんだね」
……情報科、身内を売ったな。コイツにどんな弱みを握られたんだ。
だが、幸か不幸か、それが今ここで必要とされているのだ。彩乃が俺を執事にするために。詳細は知らないけど。……受け入れれば地獄。断っても地獄。後がな
い。
──なら、逆に考えるんだ。コイツの執事になってあげてもいいさ、と。
「あ、言っておくけど。私はあなた以外に雇おうとしている人間はいないわよ。家事全般諸々、全てあなたに任せるから」
俺が執事になることを前提として話を続けていく彩乃に、衝動的にベレッタのセーフティーを外しそうになる。
……ごめん。決意した早々に心が折れそう。この子の執事を出来る気がしないわ。
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