財閥のご令嬢の専属執事なんだが、その家系が異能者軍団な件について

水無月彩椰

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異戦雪原

~我がクラスの団結力が異常すぎる~

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「―アーベルの総和公式......ね。∑k=1nakbk=Anbn-∑k=1n-1Ak(bk+1-bk)っと」

「......志津二、何よそれ」

リビングで調べておいた数学の問題を解いていた時、理科の課題をしていたお嬢様がこちらを覗き込んできた。

そろそろ中間テストという事で、『ここの範囲はテストに出すかんなー』とグロックを抜きつつ言った理科担当・須田先生の一言でお嬢様は凍りつき、館に着いてから必死に勉強していたのだが......

......その集中力は僅か15分しか働かなかった。
如何にデスクワークが出来ないかが分かるでしょ?

で、俺はテスト範囲の課題を殆ど終わらせたから。今はスマホで調べた数学の問題をやってる。数学オリンピックだっけ?その問題をね。

「うわ......リサー、リサー。志津二が頭おかしくなってるんだけど!何この記号の羅列」

失礼だろ、おい。

「如何致しま......あぁ。なるほど」

「なるほどって何だ。あと悟ったような顔しないでね?」

お嬢様に呼ばれて駆け足でやって来たリサだが、ノートに書き込まれた記号の羅列を見た直後に何かを悟ったらしく、ニコニコ顔で直立不動。

何なのこのメイド。怖い。

「こんな問題より、銃に関するヤツとかないのかねぇ。跳弾の際の物理エネルギーとか、入射角反射角とか」

「須田先生に聞きなさいよ。......ねぇリサ、あんた大丈夫?さっきから直立不動だけど」

「ほっといて構わないと思いますが。しばらくすれば治るんじゃ―じゃない。お嬢様、続きの問題解いて!テストで赤点取ってもいいんですか?」

何とかお嬢様をソファーに座らせ、リサを我に帰らせ、後はリサに任せ、俺は自室に戻ったのだった。



「......どうなんだろうな」

自室の椅子に腰掛け、小さく呟く。
その発言の意味を振り返りながら。

―異能を所持していない、前代未聞の長。それでありながら、銃や剣術の腕は学園でもトップクラス。

ハッキリ言って、入学当初は舐められていただろう。異能を持たない、無能だと。
だがそのレッテルも何時しかなくなり。異能を持たないが為の、万能と呼ばれるようになった。

拳銃・狙撃銃における銃技は狙撃科で培った技術。
剣術や最近覚え始めた柔術や体術は嫌だと思いつつもお嬢様と一緒に通った、特攻科で。

だがそれは、異能者相手に通用するのか?
久世の時はお嬢様と協力して解決した。

だが。

お嬢様がいなければ、俺は何も出来ないんじゃないのか?目には目を歯には歯を、と言うように。

―異能者には、異能者を。

ただの人間が、万能と呼ばれるような異能者に適うはずがない。全国には『鷹宮』以外の異能者もいる。だが、その力は測り知れないワケで。

「今出来る事を......だな」

悩んでいてもしょうがない。
俺は今出来る事をすべきだろうな。ここは持ち前の楽観さで吹き飛ばそう。

そう決意し、俺はリビングへと戻った。





翌日、3時間目の数学の授業。数学教室で担任である九十九先生がいつも通り穏やかに授業をしている途中。

「......はぁ」  

俺は隣の席にいるお嬢様の清々しい寝顔を見て、小さく溜息をついた。いや、1番後ろだからって安心しすぎだよ。そしていつかのような狸寝入りではなく、マジ寝だ。

「......すー」

―全く、本当に全教科赤点取っても知りませんからね?自業自得......と言いたいところだが、そんな事があるとは鷹宮家のプライドが許さん。

だからと言ってお嬢様を起こすのも可哀想なので、(我ながら甘い。ものすごく甘い)俺だけでも板書しておこう。そして後でみっちり教えこもう。

......なんで九十九先生気付かないの?後ろって見やすいんじゃないの?天然なの?......天然だわ。

「だからってさ―」

『うん?』

「―何で君たちがこっちを見ているのですか?いくらお嬢様が人間国宝級に愛らしく可愛いと言えど、今は授業中ですよ?」

さっきからキョロキョロとこっち向いて。
お嬢様が可愛いのは分かるが、所有権は俺にあるからね。

『ずっと鷹宮さんの寝顔を見てたお前が言うなよ......』

「だが、貴様らがお嬢様の寝顔を見ていい理由にはならん」

「やべぇ、志津二が貴様らとか言い出したぞ......」

「キレる寸前じゃん。誰?地雷踏み抜いたヤツ」

「1番初めに後ろ向いたヤツかな?」

と言ってクラス中が振り返ったのは―俺の席の斜め前。お嬢様の前の席。 ......そう。

「え、私が?」

俺をジト目で見ていた天然娘、神凪鈴莉。

『だって1番初めに志津二の方向いたしね』

「え、っと......確かに彩乃ちゃんを起こそうとして後ろ向いたけど―徐々に釣られて後ろ向いたのはみんなじゃん!」

『鷹宮志津二様、コイツが主犯です!』

「主犯、って事は貴様らも含めるが」

『コイツが犯人です!』

手のひら返し早いなー。

やけに団結力が高い我がクラスと、鈴莉さん。責任の押し付け合いのため、交わされる声に遠慮はなく。

「......あれ、志津二くん。何で私の頬に手を?しかもそれってガバメントだよね?」

「しかし、だ。鈴莉」

『......志津二が覚醒し始めた!?』

うるせぇ。

俺は右手で鈴莉の手を抑え、左手にガバを握る。向けた先は、鈴莉の眉間。......あ、俺左利きだから。

「お嬢様が寝てる前で騒いでいいとは言ってない。故に、然るべき処置を撮ってもらう」

「......あ、あのー。そろそろ授業終わっちゃうよ?」

「うるせぇ」

「ひっ............!?」

今までになく怯えている鈴莉だが、そんな事は関係ない。これは罰。致し方ないのだ。

俺は全ての感情を抜いた無表情で、ガバメントの引き金に指を掛ける。

「―志津二くん、ここ教室だよ!?我を忘れるにも程があるよ!?」

ンな事は分かってる。だがここは異能者が集まる学校。異能やドンパチなんて日常茶飯事だ。

「あ、あの......私!志津二くんが人を撃つような人じゃないって信じてるよ?だから銃を下ろして?」

「そう。なら、俺もお前が騒ぐような人じゃないと信じてる。ねぇ、鈴莉......?」

「ダメだコイツ、早く何とかしないと......!彩乃ちゃんを想うあまり、頭のネジが―!」

『―っ、あとは任せた!!!』

我がクラスの人間は終業のチャイムと共に、3秒足らずで逃げて行ってしまった。団結力というか―そもそも、3秒で奥のヤツらまで逃げるとかバケモノかよ......。

「......ハァ。お嬢様、起きてください」

俺は銃をホルスターにしまい、お嬢様を起こす。
鈴莉さん?逃げちゃったよ。騒ぎに乗じて。

「―朝?」

「じゃないです。4時間の授業に行きますよ」

「ふぁい......」

寝ぼけ眼をこすりつつ立ち上がるお嬢様。
俺はそれを見つつ、次の授業の用意をするためにお嬢様と教室へと戻ったのだった。


~Prease to the next time!
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