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第8章 破壊と守り
言いたい事はそれだけか
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「あ、貴方が、この世界を作った人、いや、妖怪ですか……?」
「そうなるな」
目の前の小さい角を持った少年は、淡々と答えた。その風貌とは違い、言葉や態度に貫禄がある。薄い笑みを浮かべ、首を傾げながら尋ねてきた。
「お前は、ただの人間だよな」
「はっはい!」
「何故、反逆者に加担した?」
「えっなんでって……」
言われて言葉に詰まる。なんでだったか?
「俺、絵を描く仕事がずっとしたくて……でも自信なくて、ただウジウジ生きてたんです。そんな時に、ヤイさんが俺の絵を褒めてくれて。で、絵を描く仕事に誘われて」
妖怪の絵を描くなんて、はじめは信じれなかったけど。でも皆、喜んでくれて。
「つまり、いい様に利用されたと。そんな奴が、何故ここに来た? 助けるためか?」
「違います! 俺は、止めに来たんです! ヤイさんを。彼が今こんな事をしてるのは、俺のせいだから」
俺が、はじめに断ってれば。途中で止めていれば。この計画が、完成する事はなかったはずだ。
「でも、説得するのにも限界があります。だから鬼神様に、お願いしたい事があって来ました」
「なんだ」
手に汗がにじむ。でも早く言わないと。ヤイさんたちが、すぐに来てしまう。
「妖界のまわりの結界を、これから先も無くしてほしいんです」
その言葉に、鬼神様の顔から笑みが消えた。眉を寄せ、こちらを見ている。良くない気配が漂ったので、慌てて訂正する。
「結界をなくすだと?」
「いや、すみません! 言い過ぎました! 妖たちが自由に行き来できるようにしてほしいんです!」
「なぜ?」
「俺は、人間界に来る妖たちを見てきました! 皆、もっと長く来たり、もっと気楽に来たいんじゃないかと思うんです。でも今の状態じゃ、一日以上この場所を離れたら、もう中に入れてもらえないんですよね? そんなの、あんまりじゃないかと思うんです」
まるで、鎖で囲まれたみたいに。彼らは自由に行けない。
「束縛してる訳じゃない。出て行く者は、止めない」
「違うんです! そうじゃなくて、出て行っても、迎えるようにしてほしいんです! 俺は今実家を出てますけど、たまに帰ると安心しますし……皆、この世界が好きなんです。だから」
ガン!と重くて強い音が響く。見ると、鬼神様の棍棒が振り落とされていた。床に穴が空いている。
「言いたい事はそれだけか? 人間」
「ひっ! え、えっと、あの」
「簡単に言うな。我ら妖が人間に受けた屈辱を、何も知らないで」
「え」
鬼神様の表情を見る。そこには、怒りと、蔑みと、他にもなにか感情が見えた。
「お前をここに招いたのは、お前と、反逆者たちに分からせる為だ」
棍棒が、床から持ち上げられ、振り上げられる。
「お前たちは、妖界に足を踏み入れるべきじゃないとな」
「そうなるな」
目の前の小さい角を持った少年は、淡々と答えた。その風貌とは違い、言葉や態度に貫禄がある。薄い笑みを浮かべ、首を傾げながら尋ねてきた。
「お前は、ただの人間だよな」
「はっはい!」
「何故、反逆者に加担した?」
「えっなんでって……」
言われて言葉に詰まる。なんでだったか?
「俺、絵を描く仕事がずっとしたくて……でも自信なくて、ただウジウジ生きてたんです。そんな時に、ヤイさんが俺の絵を褒めてくれて。で、絵を描く仕事に誘われて」
妖怪の絵を描くなんて、はじめは信じれなかったけど。でも皆、喜んでくれて。
「つまり、いい様に利用されたと。そんな奴が、何故ここに来た? 助けるためか?」
「違います! 俺は、止めに来たんです! ヤイさんを。彼が今こんな事をしてるのは、俺のせいだから」
俺が、はじめに断ってれば。途中で止めていれば。この計画が、完成する事はなかったはずだ。
「でも、説得するのにも限界があります。だから鬼神様に、お願いしたい事があって来ました」
「なんだ」
手に汗がにじむ。でも早く言わないと。ヤイさんたちが、すぐに来てしまう。
「妖界のまわりの結界を、これから先も無くしてほしいんです」
その言葉に、鬼神様の顔から笑みが消えた。眉を寄せ、こちらを見ている。良くない気配が漂ったので、慌てて訂正する。
「結界をなくすだと?」
「いや、すみません! 言い過ぎました! 妖たちが自由に行き来できるようにしてほしいんです!」
「なぜ?」
「俺は、人間界に来る妖たちを見てきました! 皆、もっと長く来たり、もっと気楽に来たいんじゃないかと思うんです。でも今の状態じゃ、一日以上この場所を離れたら、もう中に入れてもらえないんですよね? そんなの、あんまりじゃないかと思うんです」
まるで、鎖で囲まれたみたいに。彼らは自由に行けない。
「束縛してる訳じゃない。出て行く者は、止めない」
「違うんです! そうじゃなくて、出て行っても、迎えるようにしてほしいんです! 俺は今実家を出てますけど、たまに帰ると安心しますし……皆、この世界が好きなんです。だから」
ガン!と重くて強い音が響く。見ると、鬼神様の棍棒が振り落とされていた。床に穴が空いている。
「言いたい事はそれだけか? 人間」
「ひっ! え、えっと、あの」
「簡単に言うな。我ら妖が人間に受けた屈辱を、何も知らないで」
「え」
鬼神様の表情を見る。そこには、怒りと、蔑みと、他にもなにか感情が見えた。
「お前をここに招いたのは、お前と、反逆者たちに分からせる為だ」
棍棒が、床から持ち上げられ、振り上げられる。
「お前たちは、妖界に足を踏み入れるべきじゃないとな」
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