83 / 94
第8章 破壊と守り
争う事なかれ
しおりを挟む
「よぉ、ヤイとムゴ」
聞き慣れたしゃがれた声が聞こえ、目を向けるとそこにエンジが立っていた。手には、彼の武器である長い鉄の棒を持っている。
「ずいぶん、派手にやってくれたようじゃのう」
彼らが通っていったあとには、城仕えの妖怪が所々に倒れていた。置物も割れて、粉々に砕けている。
「これはこれはエンジ様、お久しぶりでございます」
ムゴはにっこりと笑うが、ヤイは笑わない。ついこの間会った時に浮かべていた笑顔が、嘘のようだ。まるで感情も何もない、人形のようだ。
「ヤイ。お前はいいんか? こんなんして。天国の母さん、悲しんどるぞ」
エンジが首を傾げながら挑発的に尋ねると、ヤイはその眉をピクリと動かした。どうやら、感情が無くなった訳ではないらしい。
「親父の敵討ちなんて事はないじゃろ。お前たちは、あの男にとっては目の上のコブみたいなもんじゃったから」
その言葉には、表情は動かない。だが、目に怒りがともっていく。
「……私は、ムゴ様の考えに共感したんです」
ヤイはやっと口を開くと、そう答えた。
「あの人間を利用してまでする事か? 知らんかったんじゃろ、あいつは何も」
「さあ。言ってはいませんが、人間なんてどう利用してもいいでしょう」
ヤイは言いながら、タカヒロの事を思い浮かべる。あの馬鹿は、今頃気力を取り戻した頃だろうか。
一瞬考えて、笑う。関係ない。
どうせもう、会わない人間だ。
「エンジ様。どいてください。でないと、怪我をしますよ」
「はっ! どの口が言うか。ええか、後悔せぇ、よ!」
エンジはそう言うと、棒を振り回す。風が巻き上がり、強い圧がヤイたちの体にのしかかる。
「はんっ! 参ったー……!?」
言いながら、エンジは倒れ込んだ。強い風が、彼の体に返ってきたからだ。エンジは痛みに倒れながら、ムゴたちを見る。彼の手には、赤と青が混じった色をした球がある。
「……なんじゃ、それ」
「妖力を吸う球です。長い間たくさんの妖力をこの球に溜め込んだ事で、これ自体が妖力を蓄え、放出する術を覚えました。放出する時少し力を足すだけで、その力は倍にもなります」
ムゴはそう言うと、エンジの腹をける。彼の悲痛な叫びが響く。
「ムゴ様、先を急ぎましょう」
「この男を殺してからにしよう」
「ムゴ様! すでにこの男は動ける体ではありません、私たちの目的は鬼神です」
ヤイの強い制止に、ムゴはため息をつき足をエンジからどかす。エンジは強く咳き込む。
「行きましょう」
エンジは視界が薄れていく中で、進路に進む中、こちらを一瞬振り返ったヤイの姿を見た。
聞き慣れたしゃがれた声が聞こえ、目を向けるとそこにエンジが立っていた。手には、彼の武器である長い鉄の棒を持っている。
「ずいぶん、派手にやってくれたようじゃのう」
彼らが通っていったあとには、城仕えの妖怪が所々に倒れていた。置物も割れて、粉々に砕けている。
「これはこれはエンジ様、お久しぶりでございます」
ムゴはにっこりと笑うが、ヤイは笑わない。ついこの間会った時に浮かべていた笑顔が、嘘のようだ。まるで感情も何もない、人形のようだ。
「ヤイ。お前はいいんか? こんなんして。天国の母さん、悲しんどるぞ」
エンジが首を傾げながら挑発的に尋ねると、ヤイはその眉をピクリと動かした。どうやら、感情が無くなった訳ではないらしい。
「親父の敵討ちなんて事はないじゃろ。お前たちは、あの男にとっては目の上のコブみたいなもんじゃったから」
その言葉には、表情は動かない。だが、目に怒りがともっていく。
「……私は、ムゴ様の考えに共感したんです」
ヤイはやっと口を開くと、そう答えた。
「あの人間を利用してまでする事か? 知らんかったんじゃろ、あいつは何も」
「さあ。言ってはいませんが、人間なんてどう利用してもいいでしょう」
ヤイは言いながら、タカヒロの事を思い浮かべる。あの馬鹿は、今頃気力を取り戻した頃だろうか。
一瞬考えて、笑う。関係ない。
どうせもう、会わない人間だ。
「エンジ様。どいてください。でないと、怪我をしますよ」
「はっ! どの口が言うか。ええか、後悔せぇ、よ!」
エンジはそう言うと、棒を振り回す。風が巻き上がり、強い圧がヤイたちの体にのしかかる。
「はんっ! 参ったー……!?」
言いながら、エンジは倒れ込んだ。強い風が、彼の体に返ってきたからだ。エンジは痛みに倒れながら、ムゴたちを見る。彼の手には、赤と青が混じった色をした球がある。
「……なんじゃ、それ」
「妖力を吸う球です。長い間たくさんの妖力をこの球に溜め込んだ事で、これ自体が妖力を蓄え、放出する術を覚えました。放出する時少し力を足すだけで、その力は倍にもなります」
ムゴはそう言うと、エンジの腹をける。彼の悲痛な叫びが響く。
「ムゴ様、先を急ぎましょう」
「この男を殺してからにしよう」
「ムゴ様! すでにこの男は動ける体ではありません、私たちの目的は鬼神です」
ヤイの強い制止に、ムゴはため息をつき足をエンジからどかす。エンジは強く咳き込む。
「行きましょう」
エンジは視界が薄れていく中で、進路に進む中、こちらを一瞬振り返ったヤイの姿を見た。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
晴明さんちの不憫な大家
烏丸紫明@『晴明さんちの不憫な大家』発売
キャラ文芸
最愛の祖父を亡くした、主人公――吉祥(きちじょう)真備(まきび)。
天蓋孤独の身となってしまった彼は『一坪の土地』という奇妙な遺産を託される。
祖父の真意を知るため、『一坪の土地』がある岡山県へと足を運んだ彼を待っていた『モノ』とは。
神さま・あやかしたちと、不憫な青年が織りなす、心温まるあやかし譚――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる