あやかし観光専属絵師

紺青くじら

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第8章 破壊と守り

争う事なかれ

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「よぉ、ヤイとムゴ」

   聞き慣れたしゃがれた声が聞こえ、目を向けるとそこにエンジが立っていた。手には、彼の武器である長い鉄の棒を持っている。

「ずいぶん、派手にやってくれたようじゃのう」

   彼らが通っていったあとには、城仕えの妖怪が所々に倒れていた。置物も割れて、粉々に砕けている。

「これはこれはエンジ様、お久しぶりでございます」

   ムゴはにっこりと笑うが、ヤイは笑わない。ついこの間会った時に浮かべていた笑顔が、嘘のようだ。まるで感情も何もない、人形のようだ。

「ヤイ。お前はいいんか?   こんなんして。天国の母さん、悲しんどるぞ」

   エンジが首を傾げながら挑発的に尋ねると、ヤイはその眉をピクリと動かした。どうやら、感情が無くなった訳ではないらしい。

「親父の敵討ちなんて事はないじゃろ。お前たちは、あの男にとっては目の上のコブみたいなもんじゃったから」

   その言葉には、表情は動かない。だが、目に怒りがともっていく。

「……私は、ムゴ様の考えに共感したんです」

   ヤイはやっと口を開くと、そう答えた。

「あの人間を利用してまでする事か?   知らんかったんじゃろ、あいつは何も」
「さあ。言ってはいませんが、人間なんてどう利用してもいいでしょう」

   ヤイは言いながら、タカヒロの事を思い浮かべる。あの馬鹿は、今頃気力を取り戻した頃だろうか。

   一瞬考えて、笑う。関係ない。
   どうせもう、会わない人間だ。

「エンジ様。どいてください。でないと、怪我をしますよ」
「はっ!   どの口が言うか。ええか、後悔せぇ、よ!」

   エンジはそう言うと、棒を振り回す。風が巻き上がり、強い圧がヤイたちの体にのしかかる。

「はんっ!   参ったー……!?」

   言いながら、エンジは倒れ込んだ。強い風が、彼の体に返ってきたからだ。エンジは痛みに倒れながら、ムゴたちを見る。彼の手には、赤と青が混じった色をした球がある。

「……なんじゃ、それ」
「妖力を吸う球です。長い間たくさんの妖力をこの球に溜め込んだ事で、これ自体が妖力を蓄え、放出する術を覚えました。放出する時少し力を足すだけで、その力は倍にもなります」

   ムゴはそう言うと、エンジの腹をける。彼の悲痛な叫びが響く。

「ムゴ様、先を急ぎましょう」
「この男を殺してからにしよう」
「ムゴ様!   すでにこの男は動ける体ではありません、私たちの目的は鬼神です」

   ヤイの強い制止に、ムゴはため息をつき足をエンジからどかす。エンジは強く咳き込む。

「行きましょう」

   エンジは視界が薄れていく中で、進路に進む中、こちらを一瞬振り返ったヤイの姿を見た。
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