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第6章 願うのは君との一瞬
たった一つの理由
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「ヤイ、あの子をどうするつもりだ?」
タカヒロに会う前。ノラに会うと、彼はそう尋ねてきた。
「なんの事だい?」
「今日、彼は疲れて見えた」
「知人が亡くなったばかりなんだ。無理もない」
俺がそう答えると、ノラはじっとこっちを見つめてきた。俺は変わらず笑い返す。
「なんならお前も参加するかい? 歓迎するよ」
誘うと、首を振った。
「しない。俺は、ここにいる。そめが居たこの場所がいい」
「彼女はもういないだろう。君も人間らしくなったな」
これ以上の話し合いは無意味だ。俺は背を向ける。
「ヤイ。俺は、お前の方が人間のように見える」
その言葉に睨み返すと、彼は少し怯みながらも真っ直ぐにこっちを見て告げる。
「悪い意味じゃない。なぁ、お前が俺とそめの所にタカヒロを連れて来たのは、優しさだろ? お前も本当は」
「ノラ。私は妖怪だよ。心も、なにもかも」
ゲンナリする。今まで彼は、こんな事言わなかったのに。そめさん以外には、関心がなかったくせに。
「俺が君たちの絵を彼に描かせたのは、たった一つの理由だ。それ以外に、何もない」
今度こそ迷わず歩き出す。
彼はその背に、「後悔するぞ!」と叫んできた。
タカヒロと会い家に帰ると、ツバキはいなかった。
バイトだろう。テーブルの上に、メモが残されていた。夕食に肉じゃがを用意してるらしい。いらないって言っても用意してくる。
まったく、どこまでも人間のように振る舞おうとする。
普通の人間になりたいツバキと、普通の人間にはなりたくないタカヒロ。俺が手出ししなくても、すぐに駄目になったかもしれない。こんな面倒な事、しないで良かったのではとも思う。
人間なんかと、関わりたくなかった。あいつに関わったのは、ツバキがバイトの面接を受けたからだ。人間に関わろうとしたあいつに、教えないといけない。人間なんて、卑屈な生き物だという事を。
まぁ結果として、良かったかもしれない。あいつは勝手に自滅してるし、同時に念願も達成できそうだ。
部屋に帰ろうとしたところで、携帯電話が鳴った。かけてくる相手は一人しかいない。ツバキにも教えていないその電話は、その人と話すためだけにある。
「もしもし」
『どうだ? 調子は。順調か?』
「はい、とても。まだ完全ではありませんが、順調に染まっています。その時は近いかと」
部屋に着き、戸を開く。黒い棚を開けたそこには、赤色と青色が混じった水晶球がある。
『そうか。ヤイ。お前には、苦労をかけるな』
「とんでもありません」
労いの言葉に俺は首を振り、いつもの言葉を口にする。
「すべては、ムゴ様のために」
タカヒロに会う前。ノラに会うと、彼はそう尋ねてきた。
「なんの事だい?」
「今日、彼は疲れて見えた」
「知人が亡くなったばかりなんだ。無理もない」
俺がそう答えると、ノラはじっとこっちを見つめてきた。俺は変わらず笑い返す。
「なんならお前も参加するかい? 歓迎するよ」
誘うと、首を振った。
「しない。俺は、ここにいる。そめが居たこの場所がいい」
「彼女はもういないだろう。君も人間らしくなったな」
これ以上の話し合いは無意味だ。俺は背を向ける。
「ヤイ。俺は、お前の方が人間のように見える」
その言葉に睨み返すと、彼は少し怯みながらも真っ直ぐにこっちを見て告げる。
「悪い意味じゃない。なぁ、お前が俺とそめの所にタカヒロを連れて来たのは、優しさだろ? お前も本当は」
「ノラ。私は妖怪だよ。心も、なにもかも」
ゲンナリする。今まで彼は、こんな事言わなかったのに。そめさん以外には、関心がなかったくせに。
「俺が君たちの絵を彼に描かせたのは、たった一つの理由だ。それ以外に、何もない」
今度こそ迷わず歩き出す。
彼はその背に、「後悔するぞ!」と叫んできた。
タカヒロと会い家に帰ると、ツバキはいなかった。
バイトだろう。テーブルの上に、メモが残されていた。夕食に肉じゃがを用意してるらしい。いらないって言っても用意してくる。
まったく、どこまでも人間のように振る舞おうとする。
普通の人間になりたいツバキと、普通の人間にはなりたくないタカヒロ。俺が手出ししなくても、すぐに駄目になったかもしれない。こんな面倒な事、しないで良かったのではとも思う。
人間なんかと、関わりたくなかった。あいつに関わったのは、ツバキがバイトの面接を受けたからだ。人間に関わろうとしたあいつに、教えないといけない。人間なんて、卑屈な生き物だという事を。
まぁ結果として、良かったかもしれない。あいつは勝手に自滅してるし、同時に念願も達成できそうだ。
部屋に帰ろうとしたところで、携帯電話が鳴った。かけてくる相手は一人しかいない。ツバキにも教えていないその電話は、その人と話すためだけにある。
「もしもし」
『どうだ? 調子は。順調か?』
「はい、とても。まだ完全ではありませんが、順調に染まっています。その時は近いかと」
部屋に着き、戸を開く。黒い棚を開けたそこには、赤色と青色が混じった水晶球がある。
『そうか。ヤイ。お前には、苦労をかけるな』
「とんでもありません」
労いの言葉に俺は首を振り、いつもの言葉を口にする。
「すべては、ムゴ様のために」
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