あやかし観光専属絵師

紺青くじら

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第5章 お猿と行く温泉旅行

ゲームをしましょう

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「……え」

 長などになりたくない。コテツ様は、そう言った。

「そもそも、長になるのはリテツかサテツで決まりです。父だって、僕に期待はしていません」

 物分かりが良いような発言だが、今それを言われたら困る。八矢の方を見て助けを求めたが、彼はただ首を傾けるだけだった。おいおい。

「そんな、大人みたいな事言わないで……コテツ様はまだ幼いですし、可能性は無限大ですよ」

 なんとかやる気になってもらおうとしたが、コテツ様は睨んできた。

「タカヒロさん。貴方、おいくつですか?」
「えっと、二十四ですが」
「僕は五十年生きてます」
「えっ!?」

 俺はコテツ様を凝視した。この小さい子供が? 五十歳?

「妖怪は人間より長生きな分、成長もゆっくりなんですよ」

 八矢が説明してくれた。

「そうなんですね。失礼しました。でも、えっと」
「もう良い」

 その言葉に、空気がピリッと凍りつく。発したのは、エンジ様だ。

「言うだけ無駄じゃ」
「で、でも……」

 俺は二人の顔を交互に見る。コテツ様は、怯えた顔をしている。

「ワシは金彩湯の前に行く。コテツ、お前はもう帰ってよいぞ」

 そう言うと彼の周りに煙が立ち込め、なくなった時には姿も消えていた。
 コテツ様の方を見ると、瞳をウルウルさせている。

「ち、父上のバカ~……!」

 山びこが聞こえるほどの、大きな声で泣き叫ぶ。俺は耳を手でおさえながら、どうしたもんかと思案した。大体、これは俺の仕事なのか。絵の仕事ではないし、観光の仕事かと言えば微妙だ。このままトンズラしようか。そう考える中、コテツ様は延々泣いている。
 俺は腰をかがめ、泣きじゃくるコテツ様の顔を覗き込んだ。

「……帰りますか?」

 尋ねると、コテツ様は首をブンブン横に振った。これじゃ完全に駄々っ子だ。

「では、ゲームをしましょう」
「しないって言ってる!」 
「そのゲームじゃありません。ピンク色の葉っぱを集めるゲームです」

 俺がそう言うと、コテツ様は目を少しこちらに向けてくれた。

「ここは、普通の場所ではないんですよね。植物も、普段僕が見てるものとは違う物があります」

 例えばコレ、と言って手近にある葉を拾う。葉は少しピンクがかっていた。

「こんな色の葉、初めて見ました。ぜひこれを、絵具の材料にしたい。手伝ってくれませんか?」
「一人でやりなよ」
「分かりました。では、探してみます。えーと、ないなー。さっきはあったのに」

 足元にもう一枚ある事に気づいていたが、わざとらしくキョロキョロ周りを見る。こうすれば、コテツ様が拾ってくれるかもと思ったからだ。だが、動く気配がない。
 やっぱり駄目か。まぁここで、じっと待っていても

「そこある!」

 コテツ様の声がしたと思うと、駆けてきてピンク色の葉を拾った。

「これ!」
「わぁ~すごいです、コテツ様!」
「あと、あっちにも!」

 そう言って走っていくコテツ様を、俺は追いかける。良かった、これで呆然と立ちっぱなしは免れた。

「タカヒロ、早く!」
「はい、今! てあれ、呼び捨て?」

 かくして、気分転換兼時間つぶしのピンクの葉探しが始まった。
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