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第5章 お猿と行く温泉旅行
おもてなし
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俺が烏杜さんからもらった願い草の種。それをヤイさんは危険な物だと言った。
だけど今俺の目の前にあるのは、紫の小さな花だった。
「なんだ、ヤイさん。願い草、とてもかわいい花じゃないですか」
俺の言葉に、ヤイさんは何も返さない。いつもの事だ。
「絵具の準備は隣の間でしてくれ。材料は揃えてる」
「はいっ」
隣の間は、百合の間だった。俺は乳鉢で花をすりつぶし、それを液体に加え絵の具にしていく。その工程の中で、何か胸がざわつく感覚があった。俺はその感覚に疑問を抱きながらも、絵具を作っていく。
できたそれは、元の花より少し黒ずんだ色になったが、その分絵に使いやすそうな色になった。俺は箱にしまう。その時ちょうど、廊下がざわついた。
「来たのかな」
俺は戸を開け、廊下に出ようとした。その瞬間、眼前を何かが通り過ぎる。
「ひっ!」
間一髪で避けたそれは、矢だった。廊下の壁に刺さったそれを凝視する。人生で矢を射られそうになった事などない。驚いていると、ケタケタ笑う声が聞こえた。
「兄ちゃん! あいつビビってるよ!」
「あー惜しかったなー」
その姿は、人間とも猿とも言える、なんとも奇妙な姿だった。髪が生える箇所には猿のような毛が生えているが、目鼻顔立ちは人間のようだ。服は赤い小袖を身につけている。背丈は幼稚園か、小学校入りたてくらいだ。
「ほら、コテツ! お前もやってみろよ!」
「い、いいよ僕は……」
さっき笑っていた子たちの影から、もう一人出てきた。他の二人と容姿は似ているが、気が弱そうでオドオドしている。
「ちぇっ、つまんねぇ。人間様へのもてなしがなってねぇぞ。なぁ、父ちゃん!」
「ああ! コテツ。お前はサテツ、リテツを見習え」
その声は、廊下の先、玄関の方から聞こえた。トキさんが側にぴったりと寄り添っている。
二メートルを超えるほどの長身に、赤い鎧をまとったその姿も、人間と猿を混ぜたような風貌だ。
「エンジ様、お待ちしておりました」
「おぅヤイ。久しぶりじゃのう」
この人がエンジ様。会ってすぐに、強い人だと分かった。そのオーラ、体格、どれも俺は敵わない。
目が合うと、微笑まれた。
「よう人間。今日は、せがれをよろしくな」
だけど今俺の目の前にあるのは、紫の小さな花だった。
「なんだ、ヤイさん。願い草、とてもかわいい花じゃないですか」
俺の言葉に、ヤイさんは何も返さない。いつもの事だ。
「絵具の準備は隣の間でしてくれ。材料は揃えてる」
「はいっ」
隣の間は、百合の間だった。俺は乳鉢で花をすりつぶし、それを液体に加え絵の具にしていく。その工程の中で、何か胸がざわつく感覚があった。俺はその感覚に疑問を抱きながらも、絵具を作っていく。
できたそれは、元の花より少し黒ずんだ色になったが、その分絵に使いやすそうな色になった。俺は箱にしまう。その時ちょうど、廊下がざわついた。
「来たのかな」
俺は戸を開け、廊下に出ようとした。その瞬間、眼前を何かが通り過ぎる。
「ひっ!」
間一髪で避けたそれは、矢だった。廊下の壁に刺さったそれを凝視する。人生で矢を射られそうになった事などない。驚いていると、ケタケタ笑う声が聞こえた。
「兄ちゃん! あいつビビってるよ!」
「あー惜しかったなー」
その姿は、人間とも猿とも言える、なんとも奇妙な姿だった。髪が生える箇所には猿のような毛が生えているが、目鼻顔立ちは人間のようだ。服は赤い小袖を身につけている。背丈は幼稚園か、小学校入りたてくらいだ。
「ほら、コテツ! お前もやってみろよ!」
「い、いいよ僕は……」
さっき笑っていた子たちの影から、もう一人出てきた。他の二人と容姿は似ているが、気が弱そうでオドオドしている。
「ちぇっ、つまんねぇ。人間様へのもてなしがなってねぇぞ。なぁ、父ちゃん!」
「ああ! コテツ。お前はサテツ、リテツを見習え」
その声は、廊下の先、玄関の方から聞こえた。トキさんが側にぴったりと寄り添っている。
二メートルを超えるほどの長身に、赤い鎧をまとったその姿も、人間と猿を混ぜたような風貌だ。
「エンジ様、お待ちしておりました」
「おぅヤイ。久しぶりじゃのう」
この人がエンジ様。会ってすぐに、強い人だと分かった。そのオーラ、体格、どれも俺は敵わない。
目が合うと、微笑まれた。
「よう人間。今日は、せがれをよろしくな」
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