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第4章 神社とご老人
やっぱり
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「どうしたんだい。信じられないものでも見たような顔をして」
ヤイさんはそう言って首をすくめる。飄々としたその様子は、出会った時から変わらない。
「……もう来ないかと、思ってました」
「どうして?」
「だって、全然来なかったじゃないですか」
「年末だったからね。新しい話もないし、君も帰省していたんだろう? ツバキが言ってたよ」
確かにツバキさんには雑談で言っていたかもしれない。考えてみれば、最後に会ってからそんなに経ってない。自分は何を気にしていたんだろう。
「妖怪も年末は忙しいんだよ。あちらの世界はずっとお祭り騒ぎさ」
「そう……なんですか」
「入ってもいいかい?」
言われ、まだ玄関である事に気付いた。慌てて「どうぞ」と迎え入れる。
「有難う」
「寒くないんですか? そんな格好で」
彼の姿は着物一枚。羽織もなく、足は下駄だ。
「妖怪だからね」
「ツバキさんはコート着てましたよ」
「人間に化けてる時はね、そうしないと目立つから」
言われてみれば、ヤイさんも人間に化けた時はダウンを着ていた。
「まぁ、あいつは人間界に溶け込もうと必死だからね。時々ズレているけど。ジャージを着たりね」
「ジャージ? ああ、そういえば初めて会った時着てましたね」
「面接に行った時、ジャージ姿で出勤していた人を見たらしい」
勇也だろうか。彼は基本、ジャージが多い。べつにジャージでもいいが、ツバキさんは最近はパーカーなど簡単な服装で来るようになった。
「今はジャージは着て行かず、服は恵理さんという人を参考にしてるそうだ」
「ああ、俺たちのリーダーですからね。女性だし、参考にするのは普通じゃないですか」
「そうかな。私はあいつのそういう人目を気にする所が嫌いだね。人間のようで」
その言葉は、蔑みの音を含んでいた。場の空気が冷たくなるのが嫌で、明るく話しかける。
「今ちょうど、夕飯食べようと思ってたんです。良ければ一緒に食べませんか?」
「いいのかい?」
「はい。今から作りますね。適当に座っててください」
俺はそう言って、台所に向かう。ヤイさんはカーペットが敷かれた床に座り、俺が付けっ放しにしていたテレビを見る。
「……願い草、育ててるんだね」
「え? はい」
ヤイさんの視線の先には、烏杜さんからもらった願い草の種を植えた鉢があった。
「普段そういうの育てないんですけど、ヤイさんがやめた方がいいって言うから逆に気になって」
「反抗的だね」
「でも、全然芽が出ないんです。それって、どんなのが咲くんですか?」
俺の問いに、返事は返ってこなかった。教えるつもりはないらしい。期待もしてなかったし、まぁいい。
「出来ましたよ」
チャーシューと海苔をトッピングした味噌ラーメンが出来上がり、ヤイさんの元に持っていく。
「おいしそうだね」
「後輩がくれたんです」
「へぇ、慕われてるね」
「違いますよ、シフト代わったんで。あいつ変に義理堅いんで」
麦茶を差し出して、自分も座る。二人で手を合わせ、食べ始める。
「知ってる。ツバキが騒いでた。君とイブ一緒だとかなんだかで」
その言葉に、知らず箸の手が止まる。ヤイさんはそれに気付き、顔をあげた。俺は流した方がいいとは思いつつ、ヤイさんの目を見た。
「やっぱり、俺の事知ってたんですね」
ヤイさんはそう言って首をすくめる。飄々としたその様子は、出会った時から変わらない。
「……もう来ないかと、思ってました」
「どうして?」
「だって、全然来なかったじゃないですか」
「年末だったからね。新しい話もないし、君も帰省していたんだろう? ツバキが言ってたよ」
確かにツバキさんには雑談で言っていたかもしれない。考えてみれば、最後に会ってからそんなに経ってない。自分は何を気にしていたんだろう。
「妖怪も年末は忙しいんだよ。あちらの世界はずっとお祭り騒ぎさ」
「そう……なんですか」
「入ってもいいかい?」
言われ、まだ玄関である事に気付いた。慌てて「どうぞ」と迎え入れる。
「有難う」
「寒くないんですか? そんな格好で」
彼の姿は着物一枚。羽織もなく、足は下駄だ。
「妖怪だからね」
「ツバキさんはコート着てましたよ」
「人間に化けてる時はね、そうしないと目立つから」
言われてみれば、ヤイさんも人間に化けた時はダウンを着ていた。
「まぁ、あいつは人間界に溶け込もうと必死だからね。時々ズレているけど。ジャージを着たりね」
「ジャージ? ああ、そういえば初めて会った時着てましたね」
「面接に行った時、ジャージ姿で出勤していた人を見たらしい」
勇也だろうか。彼は基本、ジャージが多い。べつにジャージでもいいが、ツバキさんは最近はパーカーなど簡単な服装で来るようになった。
「今はジャージは着て行かず、服は恵理さんという人を参考にしてるそうだ」
「ああ、俺たちのリーダーですからね。女性だし、参考にするのは普通じゃないですか」
「そうかな。私はあいつのそういう人目を気にする所が嫌いだね。人間のようで」
その言葉は、蔑みの音を含んでいた。場の空気が冷たくなるのが嫌で、明るく話しかける。
「今ちょうど、夕飯食べようと思ってたんです。良ければ一緒に食べませんか?」
「いいのかい?」
「はい。今から作りますね。適当に座っててください」
俺はそう言って、台所に向かう。ヤイさんはカーペットが敷かれた床に座り、俺が付けっ放しにしていたテレビを見る。
「……願い草、育ててるんだね」
「え? はい」
ヤイさんの視線の先には、烏杜さんからもらった願い草の種を植えた鉢があった。
「普段そういうの育てないんですけど、ヤイさんがやめた方がいいって言うから逆に気になって」
「反抗的だね」
「でも、全然芽が出ないんです。それって、どんなのが咲くんですか?」
俺の問いに、返事は返ってこなかった。教えるつもりはないらしい。期待もしてなかったし、まぁいい。
「出来ましたよ」
チャーシューと海苔をトッピングした味噌ラーメンが出来上がり、ヤイさんの元に持っていく。
「おいしそうだね」
「後輩がくれたんです」
「へぇ、慕われてるね」
「違いますよ、シフト代わったんで。あいつ変に義理堅いんで」
麦茶を差し出して、自分も座る。二人で手を合わせ、食べ始める。
「知ってる。ツバキが騒いでた。君とイブ一緒だとかなんだかで」
その言葉に、知らず箸の手が止まる。ヤイさんはそれに気付き、顔をあげた。俺は流した方がいいとは思いつつ、ヤイさんの目を見た。
「やっぱり、俺の事知ってたんですね」
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