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第4章 神社とご老人
年の暮れ
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「おかえり~」
呼び鈴を鳴らすと、母と父が笑顔で出迎えてくれた。夏には帰ったが、久しぶりに見る顔にホッとする。
「ただいま」
十二月二十九日。
バイトも終わり、年末年始は実家で過ごす事にした。
「駅でバスから帰るんは大変やったやろ。迎えに行く言うたのに」
「荷物バッグ一つだけだし、待ってるの寒いじゃん」
「コタツつけてるから入り。あったかいよ」
「わーありがと! あったけぇ~」
一人暮らしの部屋はコタツがないから、久しぶりの温もりに感動を覚える。そこに、にゃ~と鳴き声が聞こえた。
「ニョロ、ただいま」
実家で飼ってる猫の名は、ニョロ。父いわく、白くてニョロニョロ動くからだそうだ。俺が高校入ってぐらいから飼い出した猫だが、あまり俺には懐いていない。今挨拶しても、首をふいっと向ける。
「ニョロ、少し太った?」
「年々丸くなっとるのぅ。母さんはほら、少し痩せたじゃろ」
父の問いに、母を見る。特に変わりなく、ぷっくりしてる気がする。
「何キロやせたの?」
「聞いて驚きなさい。夏から2キロも痩せたのよ!」
「2キロかーじゃあ全然分からないや」
「まっ! 2キロ痩せるのって、すごい大変なのよ!」
そんな取り留めない話をやんや喋り合う。やっぱり、実家は落ち着く。
「タカヒロ、就職の方はどうだ?」
昼飯を食べて一息つくと、大掃除を始めた。父はそんな中、窓を拭きながら尋ねてくる。
「あ~……ごめん、まだ決まってない……」
俺はモップをかけながら、フローリングに目線を落とし答える。世間は好景気だと言う中で、ちゃんと就職先を決めてれてないのは居心地が悪い。自分がいろいろ、選り好みしてる面も否定できないからだ。
「そうか~。まぁ大丈夫だろ、タカヒロなら。今もちゃんと働いとるしな」
「バイトだけどね」
「今のお店でずっと働いててもいいんじゃない。お母さんあの店好きだな。美味しいし、ほら、社員さんも皆いい人だし」
「飲食は大変だぞぉ」
「どの仕事も大変よ~」
二人のやり取りを俺はぼんやりと聞く。父も母も優しい。優しいから有り難くも、やっぱり申し訳ない。
「特に、あの人名前なんて言ったかしら。髪を後ろで縛ってて」
「恵理さん?」
俺が答えると、母さんは「そうそう、恵理さん!」と弾む声で言った。
「すごい美人さんよね。歳上って言ってたけど、そんなに違わないんでしょ?」
「なんか話逸れてない? 言っとくけど何もないからね?」
俺が牽制すると、母さんは「ちっ、ないのか」と残念そうに呟いた。
「タカヒロは今彼女いないんか?」
「いないけど」
父さんが話を広げてきた。まずい。就活の話も嫌だが、恋愛話なんてもっと嫌だ。大体親とこんな話、普通しないんじゃないか?
「誰かいい子いないのー?」
「いないよ、そんな子……」
言いながら、ツバキさんの顔が頭をよぎった。そういえば、あれ? 俺って、告白されたのか?
「……いるのか」
「あらぁ! ね、ね、どんな子」
「じゃあ俺モップ終わったから、自分の部屋少し片付けるわ! 実家に届いた荷物の整理とかあるし!」
俺はそう言ってダッシュで部屋に逃げる。しゃがみこみ、深い息をつく。
「なーにしてんだろ、俺……」
ツバキさんの顔と共に、ヤイさんの顔がよぎった。ツバキさんは、俺がヤイさんと知り合いだという事を知らなかった。まぁ、そういう事もあるだろう。知り合いが知らず他の知り合いと繋がってる事は、よくある事だ。
でも、ヤイさんの方は?
俺がツバキさんと知り合いである事を、知らなかったんだろうか。
あの日公園で会ったのは、偶然だったんだろうか。
「……偶然、だよな……?」
俺はその問いの答えを知らない。
ヤイさんともツバキさんとも、あの日を最後に会っていない。ツバキさんとシフトは被らなかったし、ヤイさんはどうしてるかも分からない。
年の暮れが近づく中。
俺は自分の未来を、想像できていない。
呼び鈴を鳴らすと、母と父が笑顔で出迎えてくれた。夏には帰ったが、久しぶりに見る顔にホッとする。
「ただいま」
十二月二十九日。
バイトも終わり、年末年始は実家で過ごす事にした。
「駅でバスから帰るんは大変やったやろ。迎えに行く言うたのに」
「荷物バッグ一つだけだし、待ってるの寒いじゃん」
「コタツつけてるから入り。あったかいよ」
「わーありがと! あったけぇ~」
一人暮らしの部屋はコタツがないから、久しぶりの温もりに感動を覚える。そこに、にゃ~と鳴き声が聞こえた。
「ニョロ、ただいま」
実家で飼ってる猫の名は、ニョロ。父いわく、白くてニョロニョロ動くからだそうだ。俺が高校入ってぐらいから飼い出した猫だが、あまり俺には懐いていない。今挨拶しても、首をふいっと向ける。
「ニョロ、少し太った?」
「年々丸くなっとるのぅ。母さんはほら、少し痩せたじゃろ」
父の問いに、母を見る。特に変わりなく、ぷっくりしてる気がする。
「何キロやせたの?」
「聞いて驚きなさい。夏から2キロも痩せたのよ!」
「2キロかーじゃあ全然分からないや」
「まっ! 2キロ痩せるのって、すごい大変なのよ!」
そんな取り留めない話をやんや喋り合う。やっぱり、実家は落ち着く。
「タカヒロ、就職の方はどうだ?」
昼飯を食べて一息つくと、大掃除を始めた。父はそんな中、窓を拭きながら尋ねてくる。
「あ~……ごめん、まだ決まってない……」
俺はモップをかけながら、フローリングに目線を落とし答える。世間は好景気だと言う中で、ちゃんと就職先を決めてれてないのは居心地が悪い。自分がいろいろ、選り好みしてる面も否定できないからだ。
「そうか~。まぁ大丈夫だろ、タカヒロなら。今もちゃんと働いとるしな」
「バイトだけどね」
「今のお店でずっと働いててもいいんじゃない。お母さんあの店好きだな。美味しいし、ほら、社員さんも皆いい人だし」
「飲食は大変だぞぉ」
「どの仕事も大変よ~」
二人のやり取りを俺はぼんやりと聞く。父も母も優しい。優しいから有り難くも、やっぱり申し訳ない。
「特に、あの人名前なんて言ったかしら。髪を後ろで縛ってて」
「恵理さん?」
俺が答えると、母さんは「そうそう、恵理さん!」と弾む声で言った。
「すごい美人さんよね。歳上って言ってたけど、そんなに違わないんでしょ?」
「なんか話逸れてない? 言っとくけど何もないからね?」
俺が牽制すると、母さんは「ちっ、ないのか」と残念そうに呟いた。
「タカヒロは今彼女いないんか?」
「いないけど」
父さんが話を広げてきた。まずい。就活の話も嫌だが、恋愛話なんてもっと嫌だ。大体親とこんな話、普通しないんじゃないか?
「誰かいい子いないのー?」
「いないよ、そんな子……」
言いながら、ツバキさんの顔が頭をよぎった。そういえば、あれ? 俺って、告白されたのか?
「……いるのか」
「あらぁ! ね、ね、どんな子」
「じゃあ俺モップ終わったから、自分の部屋少し片付けるわ! 実家に届いた荷物の整理とかあるし!」
俺はそう言ってダッシュで部屋に逃げる。しゃがみこみ、深い息をつく。
「なーにしてんだろ、俺……」
ツバキさんの顔と共に、ヤイさんの顔がよぎった。ツバキさんは、俺がヤイさんと知り合いだという事を知らなかった。まぁ、そういう事もあるだろう。知り合いが知らず他の知り合いと繋がってる事は、よくある事だ。
でも、ヤイさんの方は?
俺がツバキさんと知り合いである事を、知らなかったんだろうか。
あの日公園で会ったのは、偶然だったんだろうか。
「……偶然、だよな……?」
俺はその問いの答えを知らない。
ヤイさんともツバキさんとも、あの日を最後に会っていない。ツバキさんとシフトは被らなかったし、ヤイさんはどうしてるかも分からない。
年の暮れが近づく中。
俺は自分の未来を、想像できていない。
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