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第2章 おばあちゃんと化け猫
人とあやかし
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「本当にありがとう。大切にするわ」
そめさんは何度もお礼を言った。俺はただそれに、お辞儀を返す事しか出来なかった。
「こちら、額に入れますね」
「まぁ、重ね重ね、すみません」
ヤイさんは絵を受け取ると、額に入れる。それは青色の額だった。以前烏杜さん、田貫さんの時は濃ゆい赤だった。てっきりその一種だけだと思っていたが、絵の雰囲気で変えてるのだろうか。
「じゃあ、僕らはこれで。積もる話もあるでしょうから、あとはお二人で」
ヤイさんの言葉に、慌てて片付け玄関に向かう。そめさんがノラさんを抱え、見送りに来てくれた。
「本当に、有難うございました」
そめさんが頭を下げるのに合わせ、ノラさんも小さく動いた気がした。僕たち二人もお辞儀をして、家を出る。外は少し強い風が吹いていた。二人の間に、会話はない。
「すまなかったね」
ヤイさんに話しかけられ、そちらを振り向く。彼は前を向いたまま、話し続けた。
「今日は、観光とは言えないんだが。旧友に頼まれたものだから」
「いえいえ。俺はただ絵を描くだけですし。それに、良かったです。あんなに喜んでくれて」
また会話はなくなった。俺は気になる事を聞いてみる。
「あの。ノラさんって、そめさんのこと」
「慕ってるだろうね」
「やっぱり! そうなんですね」
言葉はぶっきらぼうだったが、そめさんに抱えられた姿や、やり取りの雰囲気からそうかなとは思っていた。
「そめさんはどうなんですかね。あ、でも旦那さんがいたのか」
「妖と人だからね。そういうものの対象ではないんだよ」
そうなのかな。確かに、人間同士の絆とは違うのかもしれない。
「これは本日のお代」
公園まで来ると、ヤイさんは封筒を差し出した。俺はそれを受け取るのに、少しためらう。
「どうした?」
「いや、あの……いくら入ってるんですかね?」
「今回も三万だ。不満かい? なら」
「わーっ違います! 逆です、逆! あの、貰いすぎかなと思いまして……今回はいいですよ!」
俺がそう言うと、ヤイさんは少し目をつりあげ、封筒をより前に差し出した。
「気にするな。私が君の腕をかっているんだから」
「……有難うございます」
結局受け取ってしまった。ヤイさんは微笑むと、背を向け歩き始めた。
本当は、もっと気になった事があった。そめさんを一目見た時から、感じていた事。
そめさん、具合悪いんですか?
でもそれは、聞けなかった。
風が葉を揺らす。そうして一つの葉が、足元に落ちてきた。
そめさんは何度もお礼を言った。俺はただそれに、お辞儀を返す事しか出来なかった。
「こちら、額に入れますね」
「まぁ、重ね重ね、すみません」
ヤイさんは絵を受け取ると、額に入れる。それは青色の額だった。以前烏杜さん、田貫さんの時は濃ゆい赤だった。てっきりその一種だけだと思っていたが、絵の雰囲気で変えてるのだろうか。
「じゃあ、僕らはこれで。積もる話もあるでしょうから、あとはお二人で」
ヤイさんの言葉に、慌てて片付け玄関に向かう。そめさんがノラさんを抱え、見送りに来てくれた。
「本当に、有難うございました」
そめさんが頭を下げるのに合わせ、ノラさんも小さく動いた気がした。僕たち二人もお辞儀をして、家を出る。外は少し強い風が吹いていた。二人の間に、会話はない。
「すまなかったね」
ヤイさんに話しかけられ、そちらを振り向く。彼は前を向いたまま、話し続けた。
「今日は、観光とは言えないんだが。旧友に頼まれたものだから」
「いえいえ。俺はただ絵を描くだけですし。それに、良かったです。あんなに喜んでくれて」
また会話はなくなった。俺は気になる事を聞いてみる。
「あの。ノラさんって、そめさんのこと」
「慕ってるだろうね」
「やっぱり! そうなんですね」
言葉はぶっきらぼうだったが、そめさんに抱えられた姿や、やり取りの雰囲気からそうかなとは思っていた。
「そめさんはどうなんですかね。あ、でも旦那さんがいたのか」
「妖と人だからね。そういうものの対象ではないんだよ」
そうなのかな。確かに、人間同士の絆とは違うのかもしれない。
「これは本日のお代」
公園まで来ると、ヤイさんは封筒を差し出した。俺はそれを受け取るのに、少しためらう。
「どうした?」
「いや、あの……いくら入ってるんですかね?」
「今回も三万だ。不満かい? なら」
「わーっ違います! 逆です、逆! あの、貰いすぎかなと思いまして……今回はいいですよ!」
俺がそう言うと、ヤイさんは少し目をつりあげ、封筒をより前に差し出した。
「気にするな。私が君の腕をかっているんだから」
「……有難うございます」
結局受け取ってしまった。ヤイさんは微笑むと、背を向け歩き始めた。
本当は、もっと気になった事があった。そめさんを一目見た時から、感じていた事。
そめさん、具合悪いんですか?
でもそれは、聞けなかった。
風が葉を揺らす。そうして一つの葉が、足元に落ちてきた。
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