24 / 94
第2章 おばあちゃんと化け猫
遠い記憶
しおりを挟む
立川さんは僕らにお茶を出してくれた。通された居間は昔ながらの和室で、部屋の一画には仏壇があった。そこには、優しい笑顔で笑うおじいさんが写っていた。立川さんの旦那さんだろうか。
お茶と一緒に出された茶菓子は、餡であんこを包み込んだ、繊細なつくりの和菓子だった。ノラさんはそれを、つまようじを使い上手に食べている。立川さんはそれを、楽しそうに見ている。
絵を描きに来たはずなのに、こんなに振舞ってもらっていいんだろうか。居心地悪そうにしてるのが伝わったのか、立川さんが優しく声をかけてくれる。
「どうぞ召し上がって。ノラちゃんが来た時はね、いつもこうやってお菓子を食べる事から始めるの」
「そうなんですね。このお菓子、すごく美味しいです」
「有難う。ノラちゃんグルメさんだから、買う時すごい厳選してるの」
立川さんの言葉に、「食い意地はってるみたいに言うな」とノラさんからツッコミが入ってくる。立川さんはそれにクスクス笑う。
一息つくと、絵を描く事になった。どこがいいか悩んだが、庭を背にした構図になった。立川さんは座椅子に座り、その膝の上でノラさんを抱えた。ノラさんは嫌がる事なく、すっぽりとおさまる。
「うふふ。嬉しいわぁ。こんな風に絵を描いてもらうなんて、はじめて」
「ブサイクに描くなよ」
「はい!」
俺は下敷きにしていい新聞紙をもらい、その上に画材を広げていく。そうして、キャンパスに色を置き始める。こうして向き合うと、立川さんの細さが際立つ。その姿に、遠い記憶が重なった。俺はその記憶を振り払いたくて、目の前の人物に話しかける。
「あの、立川さん」
「良かったら、下の名前で呼んで。皆からは、そめばあ、とか、そめさんって呼ばれてるの」
「あ、じゃあ、そめさんで。そめさんは、妖怪がいつから見えるようになったんですか?」
俺が尋ねると、「物心ついた時から」とそめさんは答えてくれた。
そうして、彼女が見てきた妖怪たちについて、話し始めてくれた。
お茶と一緒に出された茶菓子は、餡であんこを包み込んだ、繊細なつくりの和菓子だった。ノラさんはそれを、つまようじを使い上手に食べている。立川さんはそれを、楽しそうに見ている。
絵を描きに来たはずなのに、こんなに振舞ってもらっていいんだろうか。居心地悪そうにしてるのが伝わったのか、立川さんが優しく声をかけてくれる。
「どうぞ召し上がって。ノラちゃんが来た時はね、いつもこうやってお菓子を食べる事から始めるの」
「そうなんですね。このお菓子、すごく美味しいです」
「有難う。ノラちゃんグルメさんだから、買う時すごい厳選してるの」
立川さんの言葉に、「食い意地はってるみたいに言うな」とノラさんからツッコミが入ってくる。立川さんはそれにクスクス笑う。
一息つくと、絵を描く事になった。どこがいいか悩んだが、庭を背にした構図になった。立川さんは座椅子に座り、その膝の上でノラさんを抱えた。ノラさんは嫌がる事なく、すっぽりとおさまる。
「うふふ。嬉しいわぁ。こんな風に絵を描いてもらうなんて、はじめて」
「ブサイクに描くなよ」
「はい!」
俺は下敷きにしていい新聞紙をもらい、その上に画材を広げていく。そうして、キャンパスに色を置き始める。こうして向き合うと、立川さんの細さが際立つ。その姿に、遠い記憶が重なった。俺はその記憶を振り払いたくて、目の前の人物に話しかける。
「あの、立川さん」
「良かったら、下の名前で呼んで。皆からは、そめばあ、とか、そめさんって呼ばれてるの」
「あ、じゃあ、そめさんで。そめさんは、妖怪がいつから見えるようになったんですか?」
俺が尋ねると、「物心ついた時から」とそめさんは答えてくれた。
そうして、彼女が見てきた妖怪たちについて、話し始めてくれた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる