あやかし観光専属絵師

紺青くじら

文字の大きさ
上 下
11 / 94
第1章 たぬきさんとパンケーキ

かげ

しおりを挟む
 電車に乗りやって来たのは、若い女性に人気のパンケーキ店。店内は白い壁と茶色の家具をベースにしており、シンプルな作りだ。
 平日だからか、そんなに待たずに入れた。

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」

 店員が満面の笑顔を浮かべ尋ねてくれる。ヤイさんもそれに笑顔で答えた。

「四人です」
「四名様ですね。では、こちらのお席へどうぞ」

 案内されたテーブルは四人がけだが、少し大きめのテーブルで椅子も座り心地がいい。荷物を置けるよう、床にカゴが置かれている。
 テーブルも綺麗にセッティングされていて、砂糖などが入ってる小物は可愛い小人が描かれている。店内の隅々にその小人や観葉植物が置かれていて、どこか癒される。
 店員の接客も良いし、なるほど。さすが人気店だ。

「タカヒロ、何にする?」

 ヤイさんに聞かれ、我にかえる。接客業のバイトをしてるせいか、ついつい変な目で見てしまう。

「えーとじゃあ、チョコバナナのを」
「飲み物は?  セットに出来るみたいだけど」
「カフェオレにします」
「分かった。すみません」

 ヤイさんは目が合った店員に声をかけ、四人分の注文を伝えていく。その姿がなんともスマートで、惨めさも忘れただ尊敬の眼差しを向ける。
 バイト中は社交度を上げれるが、日常生活ではどうしても縮こまってしまう。

「楽しみだわぁ」
「な! メニュー見ると俄然テンション上がるなぁ」

 田貫さんご夫婦はとても楽しそうだ。奥さんはこの店一番人気のたくさんの苺とホイップクリームが乗ったパンケーキ、旦那さんはくるみが練りこまれたパンケーキを頼み、ヤイさんはデザートプレートを頼んだ。

 しかし……周りを見ると、やはり女性やカップルが多い。この四人は周りから見たらどんな風に見えるんだろうか。気になり周りを見ると、チラチラ女性がこちらを見てる事に気づく。

 やっぱり悪目立ちしてるのか……
 俺が不安に思ってると、ヤイさんと田貫の旦那さんが頼まれたアイスコーヒーが運ばれてきた。

「ありがとうございます」

 受け取る時ヤイさんが笑顔で礼を言うと、店員さんは少し緊張した様子でお辞儀した。それで周りの視線の原因に気づく。

「旦那、気にする事ないですよ。旦那も魅力的ですよ」

 俺の思考に気づいたのか、いつのまにか肩に乗ってた八矢が慰めてくる。いや、べつに何も気にしてないんだが。

「ヤイくん、どう? 今の生活はもう慣れた?」

 田貫さんの奥さんが、ヤイさんに尋ねる。どうやら客であり、知り合いでもあるらしい。

「なかなか。でも今、こうして自分でも出来る事を見つけて、頑張っていこうと思えてます」

 その言葉に、ヤイさんを見る。彼の表情は、変わらない。穏やかに笑っている。
 でも、気のせいだろうか。

 一瞬、陰が見えた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

人魚の餌

いんげん
キャラ文芸
むかし、むかし。 流刑地に生まれた女の子が、親友の女の子と仲良く、暮らしていました。 しかし、島出身の悪い男が戻ってきて、問題を起こします。 女の子は、餌にされて、海のもくずになりそうでした。 運良く、誰かに助けられ、無人島に辿り着き……。 無人島の住人(異形の者)と、女の子の恋の物語です。 人が死んだり(モブ、悪役)ちょっと妖しい表現があったりします。人面魚とかも出てきます。

処理中です...