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序章 妖怪に出会いました
三万でいかがでしょう
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「お、お客さんに会うんですか!?」
「そうですよ」
男は何を聞くんだと言わんばかりに、不思議そうに首を傾げた。以前は心安らいだその仕草も、不安材料でしかない。
「待ってください! 俺はまだやるなんて一言も……!」
「ええですから、今からは職場体験です」
「た、体験!?」
「人間界にはそのような期間を設ける事が多いと聞いてます。ましてや今回は特殊な職ですから、正式契約の前に必要かと思いまして」
彼の言葉にあやうく頷きかけた。いや待て。
「……俺、貴方の名前も知らないんですが……」
「おや失礼しました。私の名前はヤイと申します。観光会社を営んでおります」
「観光会社?」
「はいそうです」
ヤイさんはそう言って、懐から一枚のパンフレットを取り出してきた。三つ折りにされたそのパンフレットには、「あやかし観光」というロゴマークが押印されていて、見出しに「人間界ドキドキ旅!」と描かれていた。
「今妖の間では、人間界への旅行がブームでして」
「はぁ……」
俺は夢でも見てるんだろうか。
前回見た時はどこか神秘的に見えた男は、今となっては胡散臭さしかない。
彼の話ではこうだ。
この世には様々な世界があって、彼は妖怪界からこの世界に来ている。彼ら妖怪たちの中では人間界に遊びに行くことは一種のステータスになっているそうだ。
「ですが妖怪が一気に来ると秩序が乱れますから、私ら観光会社が仕切らせて頂いています」
「はぁ、なるほど……それで、似顔絵はなんで?」
「妖怪はカメラには写りませんから、自分が人間界に来た思い出を写真では残せません。そこで、似顔絵ならどうかと思ったんです」
彼はそこまで言うと、タカヒロの方を真っ直ぐに見る。
「貴方は妖怪を見る力があり、画力も申し分ない。最高の人材です」
その賞賛に一瞬心が傾くが、答える前に我にかえる。こんな怪しい話、首を突っ込むべきじゃない。
「申し訳ないんですが、俺は帰り」
「もちろん本日も給料は出します。三万でいかがでしょう」
「やります」
言った後で激しく後悔した。でもだって三万円。一日朝から晩まで働いても、そんな金はたまらない。
苦悩の表情を浮かべる俺に、ヤイさんは宥めるように肩を叩く。
「安心なさい。人間界に来れる妖怪は金持ちばかりです。食には困っていません」
より不安が増した。
「それではそろそろ参りましょう。客を待たせてはいけません」
ヤイさんはそう言うと、下駄をカランカランと鳴らし歩き出す。俺も悩みつつその後に続いた。
「この歩道橋の上で待ち合わせです」
ヤイさんはそう言って階段を上がっていく。車道には車が何台か通っていき、歩道にも人がまばらにいる。
「あの、いつもこんな夜遅いんですか」
「いえ、いつもではありません。今回は旅行者の希望で夜なのです」
「へぇ……」
「あ、いらっしゃいました」
俺はその言葉につばを飲み込む。一体どんな妖怪なのか。いきなり口を開けて来たらどうしよう。
「今日はよろしくお願いします」
しかしそこにいたのは、礼儀正しくお辞儀するカラスだった。
「そうですよ」
男は何を聞くんだと言わんばかりに、不思議そうに首を傾げた。以前は心安らいだその仕草も、不安材料でしかない。
「待ってください! 俺はまだやるなんて一言も……!」
「ええですから、今からは職場体験です」
「た、体験!?」
「人間界にはそのような期間を設ける事が多いと聞いてます。ましてや今回は特殊な職ですから、正式契約の前に必要かと思いまして」
彼の言葉にあやうく頷きかけた。いや待て。
「……俺、貴方の名前も知らないんですが……」
「おや失礼しました。私の名前はヤイと申します。観光会社を営んでおります」
「観光会社?」
「はいそうです」
ヤイさんはそう言って、懐から一枚のパンフレットを取り出してきた。三つ折りにされたそのパンフレットには、「あやかし観光」というロゴマークが押印されていて、見出しに「人間界ドキドキ旅!」と描かれていた。
「今妖の間では、人間界への旅行がブームでして」
「はぁ……」
俺は夢でも見てるんだろうか。
前回見た時はどこか神秘的に見えた男は、今となっては胡散臭さしかない。
彼の話ではこうだ。
この世には様々な世界があって、彼は妖怪界からこの世界に来ている。彼ら妖怪たちの中では人間界に遊びに行くことは一種のステータスになっているそうだ。
「ですが妖怪が一気に来ると秩序が乱れますから、私ら観光会社が仕切らせて頂いています」
「はぁ、なるほど……それで、似顔絵はなんで?」
「妖怪はカメラには写りませんから、自分が人間界に来た思い出を写真では残せません。そこで、似顔絵ならどうかと思ったんです」
彼はそこまで言うと、タカヒロの方を真っ直ぐに見る。
「貴方は妖怪を見る力があり、画力も申し分ない。最高の人材です」
その賞賛に一瞬心が傾くが、答える前に我にかえる。こんな怪しい話、首を突っ込むべきじゃない。
「申し訳ないんですが、俺は帰り」
「もちろん本日も給料は出します。三万でいかがでしょう」
「やります」
言った後で激しく後悔した。でもだって三万円。一日朝から晩まで働いても、そんな金はたまらない。
苦悩の表情を浮かべる俺に、ヤイさんは宥めるように肩を叩く。
「安心なさい。人間界に来れる妖怪は金持ちばかりです。食には困っていません」
より不安が増した。
「それではそろそろ参りましょう。客を待たせてはいけません」
ヤイさんはそう言うと、下駄をカランカランと鳴らし歩き出す。俺も悩みつつその後に続いた。
「この歩道橋の上で待ち合わせです」
ヤイさんはそう言って階段を上がっていく。車道には車が何台か通っていき、歩道にも人がまばらにいる。
「あの、いつもこんな夜遅いんですか」
「いえ、いつもではありません。今回は旅行者の希望で夜なのです」
「へぇ……」
「あ、いらっしゃいました」
俺はその言葉につばを飲み込む。一体どんな妖怪なのか。いきなり口を開けて来たらどうしよう。
「今日はよろしくお願いします」
しかしそこにいたのは、礼儀正しくお辞儀するカラスだった。
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