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才媛酒宴編
幕間:何等分の百合
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私の名前はリコリス=ラプラスハート。
ちょっとその辺にはいない完全無欠の超絶美少女だ。
私は今、旅路の途中に見つけた温泉に浸かりながら、あることでとってもとっても悩んでいる。
アルティのケツぶっ叩きてぇなぁ。
それはもう尻がブルンブルン揺れるくらい。
真っ赤になるくらい。
わかってる。わかってるって。
そんなことをすれば間違いなくコキュられると。
女の子に暴力を振るわないのが私の信条なんだけど…
「ふぅ、この温泉気持ちがいいですね。ちょっと熱いですけど」
目の前でプリップリしてんだもん真っ白いのがよぉ。
何これ天使の羽か?楽園に実った果実か?
柔らかそ…いや柔らかいよ?んでおいしいよ?知ってるもん。
触ったことも舐めたことも顔を埋めたこともあるもん。
でもな。
「あひぃぃぃ!♡」
って泣かせたいんだよ。それはもう昇天するかの如きいい声で。
ムラムラしてるかって?してるよ?年中。
「隣失礼しますね」
「くるしゅうない」
くっそマジでいいケツしてんな。
なんっ…とか合法的にケツ叩けないかな…
うーーーん…
リコが何かとてつもなく険しい顔をしている。
いつになくアンニュイな…けどリコのマジメな顔…とてもいいです!
こんなに真剣に…きっととんでもなく難しいことを考えているのでしょう。
百合の楽園の未来や、わ、私との将来について、とか…
も、もう!リコってばもう!
心配しなくても私は一生あなたの…
「~~~~!!」
なんか急にバタバタし始めたぞこいつ。
発情してんの?求愛行動か?
なんかもう、コキュられるのを覚悟でストレートにケツ叩かせてってお願いしてみようかな。
んーそれもアリっちゃアリだけど…
はーーーーいっそアルティからお尻叩いてくださいってお願いしてこないかな。
見れば見るほどキレイな顔ですね…
これは確実に高尚なことを考えています。
ま、まさか…わわ、私たちの子どもについて、とか…
はわわわわ!
こ、子ども…え?子ども?それは何度かそういうことも致してはいますし…間違いなく相思相愛ですからはわわわわぁ!
ま、まずは女の子から…
それで、立って歩けるようになった頃に、寂しくないよう弟か妹を…
それからさささ、三人目なんか…
「キャー!ハレンチです!」
「痛ぁ!!なにを以てビンタしたのお前!!」
「す、すみません…」
はしたないこのこの上ない…
けど、リコがこんなに悩んでいるんです…
それに応えるのが私の…役目です!
煩悩がダダ漏れたのかと思った…
くっそなんかエロい顔しやがって。
もうこうなったら実力行使で…
「リコ」
「ひゃい?!」
「なんで声裏返ったんですか?」
「こ、声くらい裏返るだろ!な、なんだ?どした?」
「あ、いえ。何か悩んでいるようだったので、その」
「?」
「わ、私…いいですよ!」
…………ほへ?
「リコがその気なら…その…いつでもいいっていうか」
「マジで?」
「も、もちろん正式な段階を踏んでからのつもりではいますよ?!でも…やっぱりリコを優先してあげたいというか…つまり、その…私もシてほしくある、というか。常日頃から考えてはいたというか…」
「マジで?!!いいの?!!(ケツ叩いても)」
「は、はい!!いいです!!(生殖行為しても)」
願いって通じる~!
日頃の行いの勝利!
やったぁぁぁぁ!
「アルティ、心の底からお前で良かったと思ってる。運命を感じてるよ」
「は、はいっ…。じゃあ早速、ドロシーの薬を…」
「薬?!いやそこまで鬼畜なつもりはないが?!!」
「え、いやでも使わないと…(子ども出来なくないですか?)」
「バカか(薬使うケツ叩きなんて未知のジャンルすぎて知らんわ)!いくら無茶なお願いだとしても、お前の身体を案じない私じゃないぞ!」
「リコ…」
「そんなもの使う必要ない(ケツ叩くだけだから)。わかるな?」
「愛があれば…ですか?」
「ん?あ、うん。うん?愛?」
愛はある。うん。間違いなく。
「じゃあ、いい?」
「こっここでですか?!!いきなり…というか、外…」
「我慢出来ない。はやく」
「はい…!」
「そこの岩に手付けて。お尻突き出して」
「はい…」
「キレイだよ」
「恥ずかしいです…」
深呼吸を一つ。
「行くよ、アルティ」
「は、はいっ…リコ…来て…」
「アルティ!」
「リコ…!」
スッパァァァァァァァン!!!
「あんぎゃああああああああ――――――――!!!」
「ふぅ…♡」
身も心もツヤッツヤ♡
はぁ、潤う♡
「サンキューアル…」
ガシッ
「ティ、さん……ほぇ?あ、あの…」
「…の…を」
「は、はひ」
「あなたの罪を噛み締めなさい」
お、お……お手柔らかに…
「氷獄の断罪!!!」
「あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――!!!」
コキュられたけど、私…満足♡
「で、お前は何と勘違いしたの?」
「氷獄の断罪!!!!!」
「お代わりは聞いてな……ぐあああああ!!!」
――――――――
「姫ってどのキャラ推しだった?あたしイ○チ!」
「そんなんサス○に決まってるんだが?」
「巳!未!申!亥!午!寅!」
「火遁豪火球の術!」
「フゥー!」
ルウリ=クラウチ=ディガーディアー。
新たに百合の楽園に加わったこの少女は、リコと同じ世界、同じ国の出身らしく話が合う。
そのためよく私が知らない話で盛り上がっている。
「じゃあ一番食べてみたい料理は?私目玉焼き乗せたパン!」
食べればいいのでは?
「あたしカボチャとニシンのパイ!」
「私このパイ嫌いなのよね」
「ギャハハハ!」
どこが笑うポイントだったんですか。
「お姉ちゃーん!」
「オークですー!」
「よっしゃ晩ご飯だ!狩り尽くせー!」
「カツ丼よろ!」
パン!パン!パン!
乾いた音の後、オークたちは倒れた。
ルウリは錬金術師として類稀なる才能を光らせる反面、冒険者としてもレベルが高く、並大抵の魔物など相手にもならない。
彼女が使用しているのは銃と呼ばれるもの。
火薬を用いて鉄の弾丸を放つ武器で、獣帝国の方では多く量産されているというのを聞いたことがある。
「ルウリの銃ってゴツくてカッコいいよね」
「でしょ~。エデンズライト製の人造宝具で、アルケミーっての。ちなみに魔力を込めると」
ガシャンガシャン
「うおおお変形したー!うおおおおおー!」
「ハンドガン、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、グレネードランチャーの5つのフォームチェンジ機能付き。魔力を変質させて発射出来んの」
「貸して貸して貸して貸して!!」
「えーどーしよっかなー♪これあたしのだしなー♪」
「お願いお願い~!」
「悪いなリコ太wこの銃は一人用なんだw」
「うえーんドロえもーん!ルリ夫がいじわるするよぉー!」
「なんか知らないけどその呼び方バカにされてる気がするのよね」
まるで子どもみたいにはしゃぐリコを見て、言い様のない嫉妬に駆られることも少なくなかった。
かといって、
「ドロちぃドロちぃ!この薬めっちゃスゴいんだけど!あたしでも解析ムズい!化学式が全然わかんない!ドロシーちゃんマジ天才!」
「そ、それほどでもあるわよ」
「私も手伝ったんだよ!」
「トッティもスゴいがすぎる~。てか精霊マジかわよ~」
「エヘヘへ」
「マリアてゃ~ジャンヌたそ~。ほーら見てごらん」
「わー!お人形が動いてるー!」
「アハハッ可愛いです!」
「ルウリお姉ちゃん、私にもやらせて!」
「私も!」
「テルニャ~見て見てこれ!銅で新しいジョッキ作ったの!」
「おー!」
「これにエール注げば泡はクリーミーで何時間もシュワシュワキンッキン!ねえねえ試してみてよ~。てか一緒に飲も~」
「うむうむ。ルウリがそこまで言うならのう。まったくまだ昼間じゃと言うのに。ほんと仕方ない奴じゃあ」
「シャーリーたんの作る服マジでキレー!下着のデザインも良~!シャーリーたんマジ神~!」
「ありがとうございます。元はリコリスさんのアイデアで、それを形にしたものが多いのですけど」
「これ絶対人気出るやつ!アパレルブランド立ち上げちゃいなよ~!あたしもシャーリーたんに服作ってほしい~」
「フフ、いいですよ。どんなものを作りましょうか」
「マジ?やった超アガる~!えっとねえっとね!あたしパーカーめっちゃ好き!」
「ぱあかあ、ですか?よくわからないので詳しく教えてください」
「おけまる!」
「エヴァっち~!」
「ひいいいい!なななな、なん、なんでしょう!」
「アッハハなんでそんな震えてんの?小動物かよ~」
「すすすみま、すみますみません!お金払うので赦してください!」
「えーいらんけど。それよりエヴァっちの髪めっちゃキレイだね!ちょっといじらせてよ~。あたしヘアメとかアレンジとかめっちゃ得意だったんだよね~。陰キャで友だちいなくて一人でそういうことばっかしてたから」
「とと、友だち…いない…。ぼっち…!い、いい人だ…!ヘヘ、エヘヘ…」
「なんで同類見つけたみたいに顔明るくした?」
すぐにみんなと打ち解けるコミュニケーション能力の高さに、持ち前の人柄の良さ。
嫌いになったり遠ざけたりする理由はまったく無い。
私の心が狭いだけだ。
「嫁~」
「あのルウリ…なんですその呼び方?」
いや他のみんなも変わった呼び方をしていますけど。
「だって姫の正妻でしょ?だから嫁」
「コホン…。ま、まあ…悪い気はしません、ね」
「あたし、みんなと上手くやれてるかな?」
「上手く、ですか?」
「自分でもわかってんの。たまに距離感バグるときあるって。人付き合い下手っていうか」
そんな感じはしませんけど。
「だから姫に対しても近すぎて、それで嫁の機嫌悪くさせてたらゴメンって思って…」
「たしかに嫉妬はしていますよ。あなたはリコの知らないところを引き出しますから。けどそれであなたを嫌いになったりなんてしません。むしろ新しいリコの魅力を引き出してくれて感謝しています」
「ほんと?」
「ええ。ただでさえうちはみんな個性的なんです。リコもみんなも、そして私も。あなたを否定するなんてことはありませんよ、ルウリ」
「嫁~!いい女すぎてしゅきぴ~!一回くらいなら寝てもいい~!」
このすぐに抱きついてくるスキンシップの鬼…
どこが人付き合いが下手なのかと呆れそうになる。
「あ、そだ。でも姫とヤるときはも少し声抑えた方がいいよ♡気持ちいいのはわかるけどさ♡」
「~~~~!!ルウリ!!」
「シシシ♡」
まったく…
新たに咲いた百合の花に、私は先が思いやられそうです…
――――――――
場所はドラグーン王国。今では店舗の数が五つまで増えたリコリスカフェ。
バサッと羽音を立て、ルドナは店から飛び立った。
「店長ー今のって」
「ああ。先生の獣魔のルドナさんだ。手紙を寄越してくれたらしい。近況報告か、それとも新しいメニューの考案かな」
リコリスカフェの店長にして、リコリスの料理を正式に継承した唯一の料理人。ワーグナー=リヒャルトは届いた手紙を開けるなり、
「――――――――」
膝から崩れ落ちた。
「店長?!みんな大変店長が涙目で天を仰いでるー!」
「先生…あなたは…。ハッ!こうしてはいられない!すぐ会頭に!」
手紙には簡潔に、新しい料理を考えたので作ってみてください、とだけあった。
添付されていたのはラーメンのレシピ。
こと料理の道ではパステリッツ商会会頭アンドレアを始め、数多くの政財界の重鎮たちを唸らせてきたこの男。
レシピを見れば味が舌に伝わるほどの才覚の持ち主である。
鮮烈にして新進気鋭な味の奔流は、彼の脳を揺らし万の感動を一瞬のうちに身体中へと伝達させた。
「会頭!会頭!!」
「なんですかワーグナー。騒々しい」
「これを!先生から届いた新しいレシピです!」
「ほう。どれ――――――――」
彼もまたその場に膝から崩れ落ちた。
王国を席巻する商会の主。アンドレア=パステリッツ。
彼が動けば黄金が動き、彼が居る場所こそが黄金都市と謳われる商才の化身。通称、黄金王。
その実態は富と商業の神ヘルメスより加護を与えられた、ただ一人の最高の商人である。
故に儲けの気配に敏感で、リコリスのレシピを見た瞬間彼は聡った。
この料理が大陸を支配し、未来永劫語り継がれ、黄金の雨を降らせる輝かしい未来を。
「ワーグナー」
「はい!」
「応えようではないか。リコリスさんに」
「はい!!」
そこからの彼らの行動は早かった。
人材の確保から店舗の運営まで僅か一月足らず。
以降、リコリス発信のラーメンは王国周辺を至福と幸福で包み込んだ。
ときに…ある王女は、
「断っ然、塩!塩です!魚介と野菜の旨味を溶かした金色の透明スープ!上品なストレート麺!チャーシューは薄切りのものを二枚、煮玉子は半身で海苔を添え、アクセントに辛子味噌を加えるのが正義なのです!」
と訴え、またある女王は、
「笑止。醤油こそ王道にして正道。獣の骨から抽出した野趣溢れるスープに絡む極太ちぢれ麺。チャーシューも野菜も背脂も山盛りにしてこそ王足り得る一杯。お前はまだ何もわかっていないようだな。にんにくの秘めたる力を」
と口の周りをテラテラさせた。
「アンドレアよ」
「ここに。親愛なる女王陛下」
「貴様は以前、料理人の教育機関の是非を語ったな。王家がそれを全面的に支援しようではないか」
「ありがたき幸せに存じます」
「貴様を王都に新設するシャルラハロート王立料理専門学校の校長に任命する。国にラーメン並びに美食を普及させるため、迅速に料理人の育成に努めよ」
「はっ!女王陛下の身心のままに」
「ぶエッくしょーい!!」
「汚い。下品。うるさい。癇に障る」
「くしゃみ一つにどんだけ罵倒されんの私」
「風邪ですか?リコリスさん」
「んーもしかして、どこかのボインな美女がリコリス様抱いて♡って言ってるのかも」
「薬飲んで寝なさい」
本人の与り知らぬところで、事は大きくなっているのだが。
それを知るのはもう少し後の話である。
――――――――
ルウリが私たちの仲間になってからというもの、生活の質がドカンと跳ね上がった。
一通りの家電に機動力抜群の馬車。というかバイクとトレーラー。
それに何と言ってもボディーソープ!シャンプー!トリートメント!
「くっはァ!さいこー♡」
石鹸とは一線を画したこの安心感よ。
風呂上がりのさっぱり感が段違い。
「こんなのも作れちゃう【錬金術】マジですげぇ!」
「ドヤァ。あたし天才ですから」
「こーれーは売れる。フローラル系とかフルーティ系とか香り付けてたりしてさー。あ、ドロシーの薬混ぜてトニック系の育毛効果あるシャンプーとか作ったら爆売れするんじゃない?なーアルティ」
「たしかに。それは良さそうですね」
「うっ売れると思い、ます。サリーナにも送ってあげたいな…」
「おーいいじゃん。今度みんなで一緒にご飯行こーぜ。サリーナちゃんも喜ぶだろ」
「は、はいっ」
今日はこの四人でパジャマパーティー♡
同い年だし親交深めるのもいいんじゃない?ってことでね。
「ひゅーどっかーん♡」
ベッドもフカフカ~♡
「しかしこの広い部屋も馬車の中とは。たまに頭が混乱するときがあります」
それな。
って内装はルウリの技術だけど、広くしてるのは私の力ですけどね。
「た、ただでさえ【空間魔法】は使い手が希少、ですから。理解し難いですよね」
「だけど属性でいえば、【重力魔法】は【空間魔法】に通ずる部分がありますよね。【重力魔法】は局所的に魔力の濁流を起こすことで、空間を歪ませていますから」
「う、うん。ただ、それでいうと全ての魔法は、自分を基点に空間座標を視認して発動してる…から、その」
「なるほど。【空間魔法】に関しては天性の才能のみではなく、空間…延いては世界の理解を深めることで、誰しもに発現する可能性があるということですか。おもしろい考察ですが、立証は難しそうですね」
「ねー大賢者トークつまらんてー。もっと好きな子とかの話しようよ~。せっかくのパジャマパーティーなのに~」
「好きな子って…全員あなたで統一して終わりじゃないですか」
「モテてゴメ~ン♡ウヘヘヘへ♡」
けどそうじゃないじゃん。
もっとこう、あるだろ。
年頃の女の子が四人も揃ってたら。
「あたし経験無いんだけど、パジャマパーティーって何するの?」
「そりゃお前あれだよ。パジャマでお菓子食べたり、ゲームしたり、映画観たり?あ、映画は無いか」
「映画ってなんですか?」
「何って言われるとなぁ。劇を記録した…娯楽…?」
「疑問形で返されても」
やっぱ実物がないと説明しづらいな。
「あ、映画は無いけど代わりにこれ使う?テレレテッテテー、ビデオカメラ~」
「おーチューバーが使ってそうなやつ出てきた」
サラッととんでもないもん出したぞこいつ。
まあいいやスルーしよ。
「はーい笑って~」
「うぇーい。ほらアルティもエヴァも」
「う、うぇーい…?」
「なんですこのノリ…」
「んで、今撮ったのを再生っと」
『うぇーい。ほらアルティもエヴァも』
『う、うぇーい…?』
『なんですこのノリ…』
「絵の中で私たちが動いて…」
「これが映画、ですか?」
「これはただの動画。ざっくり説明すると、二時間くらいの劇をこういうので撮影して、でっかい布とかに投影したのが映画。前の世界じゃ、そりゃ人気のコンテンツだったんだぞ。よく行ったなぁ。コーラとポップコーン食べながらさー」
「ゴメンあたし家でDVD観ながら派だったわ」
「あーそれもアリだね。コーラ飲みたいなぁ。今度つーくろ。そうだ、せっかくだからこれ使って遊ばん?」
「遊ぶって、どうするん…ですか?」
「思いつきで言っただけだから全然思いついてないが?」
「脳と口が直結しすぎてるじゃないですか…」
すると、ルウリがパンと手を叩いた。
「あ、めっちゃいいこと思いついた!紙に表情のお題書いてさー、箱に入れて引いて一人ずつやっていくってのどう?」
「いいじゃーん楽しそう!ついでにポーズとか、セリフなんてのもいいなぁ~」
「よからぬ気配を感じたので倫理と道徳に反したものは不可とします」
遊びに倫理と道徳なんて単語持ち出してくんな。無粋だぞ。
ってなわけで早速準備。
グフフ♡楽しみ楽しみ♡
みんなを恥ずかしがらせていくよー♡
「よーし準備出来たな。誰から引く?」
「じゃん負けでいんじゃない?」
「じゃんけんはいいですが、リコ」
「んぁ?」
「【神眼】の使用、及びなんらかの不正が発覚した場合…わかってますね?」
「おお…私への信頼が地の底だな…」
チッ、バレてやがる。
「じゃーんけーん」
普通に負けた。
「なになに?足を組んで高圧的な態度を執る?」
「いつものリコじゃないですか」
「高圧的な態度執ってんの?ならゴメン」
「あたしが書いたやつだ。他の人に当たったらおもろいかなって思ったんだけど、ハズレかぁ」
なに人をハズレ呼ばわりしてんだ。
「引いたからには全力でやるから。日和んないから私」
「それじゃー姫行ってみよー」
「コホン…頭を垂れて蹲え。平服せよ」
「ブッハwww何辻様www」
「ゴメンてふざけすぎたw」
「元の世界ネタ通じないのでやめてもらえます?」
「もっかいもっかい。ゴホンッ……喜べ、今日はお前を抱いてやる」
「…………」
やったらやったでなんで黙るかね。
「うっはー♡姫イケメてるー♡」
「ま、まあ…良かったんじゃない、ですか…?」
「すっすごく、カッコよかったです…」
「ニシシ♡だろ?♡」
さてお次はー?
「あ、私ですね。えーと…全力スマイルでだーい好き♡と言うこれ絶対リコでしょう!!」
「そうだが?何か問題でも?」
シンプル故に羞恥。
しかしだからと言ってアルティは匙を投げない。
何故なら…
「はい嫁~カメラに向かって3.2.1どぞ♡」
「だ、だーい好きっ♡」
「ひゅーーーーう!!たまんねーーーー!!」
死ぬほど負けず嫌いだから。
「屈辱です…」
「ルウリルウリ、今のもっかい再生してよ」
「よし来た」
『だ、だーい好きっ♡』
「っしゃーーーーい!!あい!あい!あいあいあーい!!」
「もういいでしょう!!後で絶対消去しますからね!!ほら次!次です!」
「ほいほいっと。じゃーんけーん…お、次はエヴァか」
「ぐはァ!!」
「やる前からプレッシャーで吐血してんじゃねえ。アルティなんかこれだぞ」
ポチッとな。
『だ、だーい好きっ♡』
「暴力を辞さない覚悟はありますけど?」
「さーせん!!」
「うう…」
エヴァは泣く泣く紙を引いた。
「ほ、頬を膨らませて…………ひいっ?!こ、ここ、これをやれと…?」
「うむ」
「はーいエヴァっち可愛く~♡上目遣いちょーだーい♡」
「…私のこと、もっと構ってよ。…バカ」
「ぐっはぁぁぁ!!」
可愛いいいいい!!
約束された勝利の顔ーーーー!!
エヴァのツンデレおいちいいいいいい!!!
「はーもう楽しい♡」
「エヴァは羞恥で枕に顔を埋めてますけど」
「~~~~~~~~」
「次次~お、あたしだ!」
「行けールウリー!」
「なになに?右隣の人のマネをする…ほーん」
「あ、わ、私が書いたやつです…」
おもしろい。
いいぞエヴァわかってるね。
「右隣ってことは姫のマネかぁ。待って顔作るから」
「ビデオ持つよ」
「サンキュ。あーあー…よっしオッケー!いつでもいいよ!」
「3.2.1…キュー」
「あぁん!♡ダメぇ!♡」
「?!!!」
「アルティ、そこ、もっとぉ!!♡」
「な、な…!」
「あぁそれぇ!♡それ気持ちいいっ!♡んんんん!!♡」
「ルウリぃぃぃ!!」
「あ、ちなみにこれは昨日の夜偶然見かけちゃったやつ♡二人ともみんな寝てるからってリビングでやっちゃダメくない?♡マリアてゃとジャンヌたそが起きてきたらどうすんの~w」
「それはゴメンだけど…」
恥ずか死する…
人に自分のそういうとこ見られるって…
「もうっ!だから部屋でって言ったのに!!」
「いや待て!!このスリルがたまりませんってアルティが誘ってきて――――」
「うるさーーーーい!!」
「うおおおお部屋の中でコキュんなぁーーーー!!」
「おーおーめちゃくちゃだー」
「ル、ルウリさんがめちゃくちゃにしたような…」
「シシシ。でも、楽しいねパジャマパーティーって」
「はいっ…」
ならよかった☆
またやろうね☆
でも…
「この狂戦士なんとかしてえええええ!!」
――――――――
「ひゃっほーい!」
バイク最高!風になってる!
自分で走るのとはまた違った爽快感!
「きーもちー!ひゅー!」
「いいなーお姉ちゃんだけ」
「私も乗りたいですー」
「あれバカほど魔力消費するんだよね。姫は例外として、嫁とかエヴァっちくらいの容量無いとすぐに魔力切れ起こすよ」
「燃費が悪いのう」
「リコ、あんまり調子に乗ると怪我しますよ」
「へーきへーき!私無敵だか、ら――――うああああ!!」
「あ、崖から落ちた」
ズザザザ――――ドシン!
「うわああああ!はぁはぁ…死ぬかと思った…!」
義経は馬で崖を駆け下りて奇襲をかけたっていうけど、私がその場にいたらいや無理に決まってんだろ命大事にってぶん殴ってたな。
「ルウリに言って空飛べるようにしてもらおう」
とりあえず空間移動で戻るかって時に。
「いやーーーー!!」
絹を裂くような女の子の悲鳴が森の奥から聞こえてきた。
「はぁ、はぁ…!」
「待ちな小娘ぇ!!」
「身ぐるみ置いていけやぁ!!」
「やーだよーだ!べー!」
軽やかに森の中を駆ける一人の少女。
追いかける盗賊連中は、足止めにと石やロープを投擲する。
「よっ!ほっ!」
「なんだ?!当たらねえ!」
「当たらないよバーカ…って、きゃっ!」
「はっ!バカが足滑らせやがった!」
地面のぬかるみに足を取られた少女へと魔の手が伸びるすんでのところで。
「そぉい!」
私は男の横っ面を蹴り飛ばした。
「…!」
「なんだてめぇは!」
「通りすがりの正義の味方」
なにを女の子に乱暴してんだこの狼藉者共が!
ってことで、全員容赦なくボッコボコにしたよ☆
「ったくちょっと反省しろ。次やったらすり潰すからな。さて、お怪我はありませんか?お嬢さん」
「あ、ありがとうリコリス…あ」
「なんで名前…ゴメン、どこかで会ったことあるっけ?女の子は忘れない性分なはずなんだけどな」
「あ、いや、その!前に一度見かけたことがあって!リコリスは有名だから!」
「そう?有名だなんて照れるなぁヘヘヘ」
人気者って大変♡
おっと、転んだ怪我と汚れを【聖魔法】で…よし。
「それよりこんなところで何してるの?見たとこ一人っぽいけど。冒険者…じゃないよね?」
「うん。これでも吟遊詩人でね。世界中を旅をしてる途中なんだ。新しい歌のインスピレーションに盗賊のニュアンスを加えたくて、それでちょっとインタビューしようとしたらあんな目に…。あ、私ジークリット。ジークって呼んで」
「よろしく。吟遊詩人かぁ。昔村に来てたときによく聞いてたっけ。どんな歌を歌うの?」
「なんでも歌うよ。甘くとろける恋の歌。熱く勇ましい戦士の歌に、諸国漫遊食の歌。中でも一番人気があるのは、強く美しい英雄の……おっと、これはまだ秘密秘密。そろそろ行かなきゃ。助けてくれてありがとね」
「なんのなんの。どの辺で歌ってるの?もしタイミングが合えば聞かせてほしいな」
「さあ、どうかな。私は旅人だからね。誰にも私の自由は定められない。けど、きっとまたどこかで会えるよ」
なんだか不思議な印象を漂わせる子だ。
歳は私と同じくらいだと思うけど、大人びてるような、子どもっぽいような。
「またねリコリス。運命が交わるところで」
「うん。またねジーク」
会ったことある…?いや、無いよな?
生き別れの姉妹…………うん、無いな!
「うぉー!でっかい蜂の巣!こーれは蜂蜜いっぱいの予感!突撃ー!うわああああ!!蜂の大群がぁ!!助けてええええええ!!」
そのまま森の奥に走って行っちゃったけど…どうもあのドタバタ感には親近感を覚えるね。
ジークリットか…なんか楽しそうな子だったなと、自然に口元が緩んだ。
「お姉ちゃーん!」
「どこですかー?」
「マリア、ジャンヌ。こっちだよ」
わざわざ迎えに来てくれるなんて優しい子たちだねえ。
「アルティお姉ちゃんがね、遊んでないでさっさと戻ってきなさいだって」
「もうすぐお昼です」
「昼ご飯担当呼びに来ただけかまさか…。いいけどさ…」
「お姉ちゃんお姉ちゃん、私お昼はハンバーガーがいいなぁ」
「賛成ですー」
「おーわかったわかった。ハンバーグ二枚挟んだとびきりのやつ作ってあげるからね」
「「わーい!」」
見ればジークの姿はとっくに無い。
また会えることを祈って、私たちはみんなのところへと戻った。
ポロン
ライアーが奏でる天上の音に、人々はうっとりと聞き入った。
「秋も本番。山は赤く彩られ、冷えた空気が草花を揺らす。それに負けじと女は飾り、欲望という名の炎が街を燃やす。不夜に巣食うは人食いの鬼か、それとも金呑む蛇か。歌うは魔都を騒がす緋色の姫の、姫が愛する花園の、千夜を照らす大活劇。不夜燦然の物語。どうか最後まで聞き逃しがありませんように」
ゆっくりと、ゆったりと。
ジークリットは音に魂を揺蕩わせた。
――――――――
「アハッ♡やーん♡お客さんのすっごぉい♡気持ちいいよぉー♡もっと動いてー♡」
ベッドが揺れる最中、部屋の扉が大きく爆ぜた。
「あーヴァネッサちゃーん♡何か用~?♡」
「あんたまた他の奴の客を盗ったね。娘たちから苦情が来てるんだよ。なんとかしてくれって」
「えー?盗ってないよぉ~♡この子からモナがいいって誘ってきたんだもん♡ねー♡」
「はっはひぃ♡モナ様がいいでしゅ♡モナ様以外考えられないでふ~♡」
「やーん可愛いよぉ♡いーっぱい気持ちよくしてあげるからね♡」
「あっありが、ありがとうございまぁぁぁぁ♡」
「えーっと、名前なんだっけー?♡まあいっか♡いいよね♡」
黒いドレスを着た女性は、疲れたように頭を押さえた。
誰にも縛られず、捉えられず、また囚われることもない制御不能の欲望の塊に対し、これ以上ない毒を吐いた。
「このクソビッチが…」
ちょっとその辺にはいない完全無欠の超絶美少女だ。
私は今、旅路の途中に見つけた温泉に浸かりながら、あることでとってもとっても悩んでいる。
アルティのケツぶっ叩きてぇなぁ。
それはもう尻がブルンブルン揺れるくらい。
真っ赤になるくらい。
わかってる。わかってるって。
そんなことをすれば間違いなくコキュられると。
女の子に暴力を振るわないのが私の信条なんだけど…
「ふぅ、この温泉気持ちがいいですね。ちょっと熱いですけど」
目の前でプリップリしてんだもん真っ白いのがよぉ。
何これ天使の羽か?楽園に実った果実か?
柔らかそ…いや柔らかいよ?んでおいしいよ?知ってるもん。
触ったことも舐めたことも顔を埋めたこともあるもん。
でもな。
「あひぃぃぃ!♡」
って泣かせたいんだよ。それはもう昇天するかの如きいい声で。
ムラムラしてるかって?してるよ?年中。
「隣失礼しますね」
「くるしゅうない」
くっそマジでいいケツしてんな。
なんっ…とか合法的にケツ叩けないかな…
うーーーん…
リコが何かとてつもなく険しい顔をしている。
いつになくアンニュイな…けどリコのマジメな顔…とてもいいです!
こんなに真剣に…きっととんでもなく難しいことを考えているのでしょう。
百合の楽園の未来や、わ、私との将来について、とか…
も、もう!リコってばもう!
心配しなくても私は一生あなたの…
「~~~~!!」
なんか急にバタバタし始めたぞこいつ。
発情してんの?求愛行動か?
なんかもう、コキュられるのを覚悟でストレートにケツ叩かせてってお願いしてみようかな。
んーそれもアリっちゃアリだけど…
はーーーーいっそアルティからお尻叩いてくださいってお願いしてこないかな。
見れば見るほどキレイな顔ですね…
これは確実に高尚なことを考えています。
ま、まさか…わわ、私たちの子どもについて、とか…
はわわわわ!
こ、子ども…え?子ども?それは何度かそういうことも致してはいますし…間違いなく相思相愛ですからはわわわわぁ!
ま、まずは女の子から…
それで、立って歩けるようになった頃に、寂しくないよう弟か妹を…
それからさささ、三人目なんか…
「キャー!ハレンチです!」
「痛ぁ!!なにを以てビンタしたのお前!!」
「す、すみません…」
はしたないこのこの上ない…
けど、リコがこんなに悩んでいるんです…
それに応えるのが私の…役目です!
煩悩がダダ漏れたのかと思った…
くっそなんかエロい顔しやがって。
もうこうなったら実力行使で…
「リコ」
「ひゃい?!」
「なんで声裏返ったんですか?」
「こ、声くらい裏返るだろ!な、なんだ?どした?」
「あ、いえ。何か悩んでいるようだったので、その」
「?」
「わ、私…いいですよ!」
…………ほへ?
「リコがその気なら…その…いつでもいいっていうか」
「マジで?」
「も、もちろん正式な段階を踏んでからのつもりではいますよ?!でも…やっぱりリコを優先してあげたいというか…つまり、その…私もシてほしくある、というか。常日頃から考えてはいたというか…」
「マジで?!!いいの?!!(ケツ叩いても)」
「は、はい!!いいです!!(生殖行為しても)」
願いって通じる~!
日頃の行いの勝利!
やったぁぁぁぁ!
「アルティ、心の底からお前で良かったと思ってる。運命を感じてるよ」
「は、はいっ…。じゃあ早速、ドロシーの薬を…」
「薬?!いやそこまで鬼畜なつもりはないが?!!」
「え、いやでも使わないと…(子ども出来なくないですか?)」
「バカか(薬使うケツ叩きなんて未知のジャンルすぎて知らんわ)!いくら無茶なお願いだとしても、お前の身体を案じない私じゃないぞ!」
「リコ…」
「そんなもの使う必要ない(ケツ叩くだけだから)。わかるな?」
「愛があれば…ですか?」
「ん?あ、うん。うん?愛?」
愛はある。うん。間違いなく。
「じゃあ、いい?」
「こっここでですか?!!いきなり…というか、外…」
「我慢出来ない。はやく」
「はい…!」
「そこの岩に手付けて。お尻突き出して」
「はい…」
「キレイだよ」
「恥ずかしいです…」
深呼吸を一つ。
「行くよ、アルティ」
「は、はいっ…リコ…来て…」
「アルティ!」
「リコ…!」
スッパァァァァァァァン!!!
「あんぎゃああああああああ――――――――!!!」
「ふぅ…♡」
身も心もツヤッツヤ♡
はぁ、潤う♡
「サンキューアル…」
ガシッ
「ティ、さん……ほぇ?あ、あの…」
「…の…を」
「は、はひ」
「あなたの罪を噛み締めなさい」
お、お……お手柔らかに…
「氷獄の断罪!!!」
「あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――――――!!!」
コキュられたけど、私…満足♡
「で、お前は何と勘違いしたの?」
「氷獄の断罪!!!!!」
「お代わりは聞いてな……ぐあああああ!!!」
――――――――
「姫ってどのキャラ推しだった?あたしイ○チ!」
「そんなんサス○に決まってるんだが?」
「巳!未!申!亥!午!寅!」
「火遁豪火球の術!」
「フゥー!」
ルウリ=クラウチ=ディガーディアー。
新たに百合の楽園に加わったこの少女は、リコと同じ世界、同じ国の出身らしく話が合う。
そのためよく私が知らない話で盛り上がっている。
「じゃあ一番食べてみたい料理は?私目玉焼き乗せたパン!」
食べればいいのでは?
「あたしカボチャとニシンのパイ!」
「私このパイ嫌いなのよね」
「ギャハハハ!」
どこが笑うポイントだったんですか。
「お姉ちゃーん!」
「オークですー!」
「よっしゃ晩ご飯だ!狩り尽くせー!」
「カツ丼よろ!」
パン!パン!パン!
乾いた音の後、オークたちは倒れた。
ルウリは錬金術師として類稀なる才能を光らせる反面、冒険者としてもレベルが高く、並大抵の魔物など相手にもならない。
彼女が使用しているのは銃と呼ばれるもの。
火薬を用いて鉄の弾丸を放つ武器で、獣帝国の方では多く量産されているというのを聞いたことがある。
「ルウリの銃ってゴツくてカッコいいよね」
「でしょ~。エデンズライト製の人造宝具で、アルケミーっての。ちなみに魔力を込めると」
ガシャンガシャン
「うおおお変形したー!うおおおおおー!」
「ハンドガン、アサルトライフル、ショットガン、スナイパーライフル、グレネードランチャーの5つのフォームチェンジ機能付き。魔力を変質させて発射出来んの」
「貸して貸して貸して貸して!!」
「えーどーしよっかなー♪これあたしのだしなー♪」
「お願いお願い~!」
「悪いなリコ太wこの銃は一人用なんだw」
「うえーんドロえもーん!ルリ夫がいじわるするよぉー!」
「なんか知らないけどその呼び方バカにされてる気がするのよね」
まるで子どもみたいにはしゃぐリコを見て、言い様のない嫉妬に駆られることも少なくなかった。
かといって、
「ドロちぃドロちぃ!この薬めっちゃスゴいんだけど!あたしでも解析ムズい!化学式が全然わかんない!ドロシーちゃんマジ天才!」
「そ、それほどでもあるわよ」
「私も手伝ったんだよ!」
「トッティもスゴいがすぎる~。てか精霊マジかわよ~」
「エヘヘへ」
「マリアてゃ~ジャンヌたそ~。ほーら見てごらん」
「わー!お人形が動いてるー!」
「アハハッ可愛いです!」
「ルウリお姉ちゃん、私にもやらせて!」
「私も!」
「テルニャ~見て見てこれ!銅で新しいジョッキ作ったの!」
「おー!」
「これにエール注げば泡はクリーミーで何時間もシュワシュワキンッキン!ねえねえ試してみてよ~。てか一緒に飲も~」
「うむうむ。ルウリがそこまで言うならのう。まったくまだ昼間じゃと言うのに。ほんと仕方ない奴じゃあ」
「シャーリーたんの作る服マジでキレー!下着のデザインも良~!シャーリーたんマジ神~!」
「ありがとうございます。元はリコリスさんのアイデアで、それを形にしたものが多いのですけど」
「これ絶対人気出るやつ!アパレルブランド立ち上げちゃいなよ~!あたしもシャーリーたんに服作ってほしい~」
「フフ、いいですよ。どんなものを作りましょうか」
「マジ?やった超アガる~!えっとねえっとね!あたしパーカーめっちゃ好き!」
「ぱあかあ、ですか?よくわからないので詳しく教えてください」
「おけまる!」
「エヴァっち~!」
「ひいいいい!なななな、なん、なんでしょう!」
「アッハハなんでそんな震えてんの?小動物かよ~」
「すすすみま、すみますみません!お金払うので赦してください!」
「えーいらんけど。それよりエヴァっちの髪めっちゃキレイだね!ちょっといじらせてよ~。あたしヘアメとかアレンジとかめっちゃ得意だったんだよね~。陰キャで友だちいなくて一人でそういうことばっかしてたから」
「とと、友だち…いない…。ぼっち…!い、いい人だ…!ヘヘ、エヘヘ…」
「なんで同類見つけたみたいに顔明るくした?」
すぐにみんなと打ち解けるコミュニケーション能力の高さに、持ち前の人柄の良さ。
嫌いになったり遠ざけたりする理由はまったく無い。
私の心が狭いだけだ。
「嫁~」
「あのルウリ…なんですその呼び方?」
いや他のみんなも変わった呼び方をしていますけど。
「だって姫の正妻でしょ?だから嫁」
「コホン…。ま、まあ…悪い気はしません、ね」
「あたし、みんなと上手くやれてるかな?」
「上手く、ですか?」
「自分でもわかってんの。たまに距離感バグるときあるって。人付き合い下手っていうか」
そんな感じはしませんけど。
「だから姫に対しても近すぎて、それで嫁の機嫌悪くさせてたらゴメンって思って…」
「たしかに嫉妬はしていますよ。あなたはリコの知らないところを引き出しますから。けどそれであなたを嫌いになったりなんてしません。むしろ新しいリコの魅力を引き出してくれて感謝しています」
「ほんと?」
「ええ。ただでさえうちはみんな個性的なんです。リコもみんなも、そして私も。あなたを否定するなんてことはありませんよ、ルウリ」
「嫁~!いい女すぎてしゅきぴ~!一回くらいなら寝てもいい~!」
このすぐに抱きついてくるスキンシップの鬼…
どこが人付き合いが下手なのかと呆れそうになる。
「あ、そだ。でも姫とヤるときはも少し声抑えた方がいいよ♡気持ちいいのはわかるけどさ♡」
「~~~~!!ルウリ!!」
「シシシ♡」
まったく…
新たに咲いた百合の花に、私は先が思いやられそうです…
――――――――
場所はドラグーン王国。今では店舗の数が五つまで増えたリコリスカフェ。
バサッと羽音を立て、ルドナは店から飛び立った。
「店長ー今のって」
「ああ。先生の獣魔のルドナさんだ。手紙を寄越してくれたらしい。近況報告か、それとも新しいメニューの考案かな」
リコリスカフェの店長にして、リコリスの料理を正式に継承した唯一の料理人。ワーグナー=リヒャルトは届いた手紙を開けるなり、
「――――――――」
膝から崩れ落ちた。
「店長?!みんな大変店長が涙目で天を仰いでるー!」
「先生…あなたは…。ハッ!こうしてはいられない!すぐ会頭に!」
手紙には簡潔に、新しい料理を考えたので作ってみてください、とだけあった。
添付されていたのはラーメンのレシピ。
こと料理の道ではパステリッツ商会会頭アンドレアを始め、数多くの政財界の重鎮たちを唸らせてきたこの男。
レシピを見れば味が舌に伝わるほどの才覚の持ち主である。
鮮烈にして新進気鋭な味の奔流は、彼の脳を揺らし万の感動を一瞬のうちに身体中へと伝達させた。
「会頭!会頭!!」
「なんですかワーグナー。騒々しい」
「これを!先生から届いた新しいレシピです!」
「ほう。どれ――――――――」
彼もまたその場に膝から崩れ落ちた。
王国を席巻する商会の主。アンドレア=パステリッツ。
彼が動けば黄金が動き、彼が居る場所こそが黄金都市と謳われる商才の化身。通称、黄金王。
その実態は富と商業の神ヘルメスより加護を与えられた、ただ一人の最高の商人である。
故に儲けの気配に敏感で、リコリスのレシピを見た瞬間彼は聡った。
この料理が大陸を支配し、未来永劫語り継がれ、黄金の雨を降らせる輝かしい未来を。
「ワーグナー」
「はい!」
「応えようではないか。リコリスさんに」
「はい!!」
そこからの彼らの行動は早かった。
人材の確保から店舗の運営まで僅か一月足らず。
以降、リコリス発信のラーメンは王国周辺を至福と幸福で包み込んだ。
ときに…ある王女は、
「断っ然、塩!塩です!魚介と野菜の旨味を溶かした金色の透明スープ!上品なストレート麺!チャーシューは薄切りのものを二枚、煮玉子は半身で海苔を添え、アクセントに辛子味噌を加えるのが正義なのです!」
と訴え、またある女王は、
「笑止。醤油こそ王道にして正道。獣の骨から抽出した野趣溢れるスープに絡む極太ちぢれ麺。チャーシューも野菜も背脂も山盛りにしてこそ王足り得る一杯。お前はまだ何もわかっていないようだな。にんにくの秘めたる力を」
と口の周りをテラテラさせた。
「アンドレアよ」
「ここに。親愛なる女王陛下」
「貴様は以前、料理人の教育機関の是非を語ったな。王家がそれを全面的に支援しようではないか」
「ありがたき幸せに存じます」
「貴様を王都に新設するシャルラハロート王立料理専門学校の校長に任命する。国にラーメン並びに美食を普及させるため、迅速に料理人の育成に努めよ」
「はっ!女王陛下の身心のままに」
「ぶエッくしょーい!!」
「汚い。下品。うるさい。癇に障る」
「くしゃみ一つにどんだけ罵倒されんの私」
「風邪ですか?リコリスさん」
「んーもしかして、どこかのボインな美女がリコリス様抱いて♡って言ってるのかも」
「薬飲んで寝なさい」
本人の与り知らぬところで、事は大きくなっているのだが。
それを知るのはもう少し後の話である。
――――――――
ルウリが私たちの仲間になってからというもの、生活の質がドカンと跳ね上がった。
一通りの家電に機動力抜群の馬車。というかバイクとトレーラー。
それに何と言ってもボディーソープ!シャンプー!トリートメント!
「くっはァ!さいこー♡」
石鹸とは一線を画したこの安心感よ。
風呂上がりのさっぱり感が段違い。
「こんなのも作れちゃう【錬金術】マジですげぇ!」
「ドヤァ。あたし天才ですから」
「こーれーは売れる。フローラル系とかフルーティ系とか香り付けてたりしてさー。あ、ドロシーの薬混ぜてトニック系の育毛効果あるシャンプーとか作ったら爆売れするんじゃない?なーアルティ」
「たしかに。それは良さそうですね」
「うっ売れると思い、ます。サリーナにも送ってあげたいな…」
「おーいいじゃん。今度みんなで一緒にご飯行こーぜ。サリーナちゃんも喜ぶだろ」
「は、はいっ」
今日はこの四人でパジャマパーティー♡
同い年だし親交深めるのもいいんじゃない?ってことでね。
「ひゅーどっかーん♡」
ベッドもフカフカ~♡
「しかしこの広い部屋も馬車の中とは。たまに頭が混乱するときがあります」
それな。
って内装はルウリの技術だけど、広くしてるのは私の力ですけどね。
「た、ただでさえ【空間魔法】は使い手が希少、ですから。理解し難いですよね」
「だけど属性でいえば、【重力魔法】は【空間魔法】に通ずる部分がありますよね。【重力魔法】は局所的に魔力の濁流を起こすことで、空間を歪ませていますから」
「う、うん。ただ、それでいうと全ての魔法は、自分を基点に空間座標を視認して発動してる…から、その」
「なるほど。【空間魔法】に関しては天性の才能のみではなく、空間…延いては世界の理解を深めることで、誰しもに発現する可能性があるということですか。おもしろい考察ですが、立証は難しそうですね」
「ねー大賢者トークつまらんてー。もっと好きな子とかの話しようよ~。せっかくのパジャマパーティーなのに~」
「好きな子って…全員あなたで統一して終わりじゃないですか」
「モテてゴメ~ン♡ウヘヘヘへ♡」
けどそうじゃないじゃん。
もっとこう、あるだろ。
年頃の女の子が四人も揃ってたら。
「あたし経験無いんだけど、パジャマパーティーって何するの?」
「そりゃお前あれだよ。パジャマでお菓子食べたり、ゲームしたり、映画観たり?あ、映画は無いか」
「映画ってなんですか?」
「何って言われるとなぁ。劇を記録した…娯楽…?」
「疑問形で返されても」
やっぱ実物がないと説明しづらいな。
「あ、映画は無いけど代わりにこれ使う?テレレテッテテー、ビデオカメラ~」
「おーチューバーが使ってそうなやつ出てきた」
サラッととんでもないもん出したぞこいつ。
まあいいやスルーしよ。
「はーい笑って~」
「うぇーい。ほらアルティもエヴァも」
「う、うぇーい…?」
「なんですこのノリ…」
「んで、今撮ったのを再生っと」
『うぇーい。ほらアルティもエヴァも』
『う、うぇーい…?』
『なんですこのノリ…』
「絵の中で私たちが動いて…」
「これが映画、ですか?」
「これはただの動画。ざっくり説明すると、二時間くらいの劇をこういうので撮影して、でっかい布とかに投影したのが映画。前の世界じゃ、そりゃ人気のコンテンツだったんだぞ。よく行ったなぁ。コーラとポップコーン食べながらさー」
「ゴメンあたし家でDVD観ながら派だったわ」
「あーそれもアリだね。コーラ飲みたいなぁ。今度つーくろ。そうだ、せっかくだからこれ使って遊ばん?」
「遊ぶって、どうするん…ですか?」
「思いつきで言っただけだから全然思いついてないが?」
「脳と口が直結しすぎてるじゃないですか…」
すると、ルウリがパンと手を叩いた。
「あ、めっちゃいいこと思いついた!紙に表情のお題書いてさー、箱に入れて引いて一人ずつやっていくってのどう?」
「いいじゃーん楽しそう!ついでにポーズとか、セリフなんてのもいいなぁ~」
「よからぬ気配を感じたので倫理と道徳に反したものは不可とします」
遊びに倫理と道徳なんて単語持ち出してくんな。無粋だぞ。
ってなわけで早速準備。
グフフ♡楽しみ楽しみ♡
みんなを恥ずかしがらせていくよー♡
「よーし準備出来たな。誰から引く?」
「じゃん負けでいんじゃない?」
「じゃんけんはいいですが、リコ」
「んぁ?」
「【神眼】の使用、及びなんらかの不正が発覚した場合…わかってますね?」
「おお…私への信頼が地の底だな…」
チッ、バレてやがる。
「じゃーんけーん」
普通に負けた。
「なになに?足を組んで高圧的な態度を執る?」
「いつものリコじゃないですか」
「高圧的な態度執ってんの?ならゴメン」
「あたしが書いたやつだ。他の人に当たったらおもろいかなって思ったんだけど、ハズレかぁ」
なに人をハズレ呼ばわりしてんだ。
「引いたからには全力でやるから。日和んないから私」
「それじゃー姫行ってみよー」
「コホン…頭を垂れて蹲え。平服せよ」
「ブッハwww何辻様www」
「ゴメンてふざけすぎたw」
「元の世界ネタ通じないのでやめてもらえます?」
「もっかいもっかい。ゴホンッ……喜べ、今日はお前を抱いてやる」
「…………」
やったらやったでなんで黙るかね。
「うっはー♡姫イケメてるー♡」
「ま、まあ…良かったんじゃない、ですか…?」
「すっすごく、カッコよかったです…」
「ニシシ♡だろ?♡」
さてお次はー?
「あ、私ですね。えーと…全力スマイルでだーい好き♡と言うこれ絶対リコでしょう!!」
「そうだが?何か問題でも?」
シンプル故に羞恥。
しかしだからと言ってアルティは匙を投げない。
何故なら…
「はい嫁~カメラに向かって3.2.1どぞ♡」
「だ、だーい好きっ♡」
「ひゅーーーーう!!たまんねーーーー!!」
死ぬほど負けず嫌いだから。
「屈辱です…」
「ルウリルウリ、今のもっかい再生してよ」
「よし来た」
『だ、だーい好きっ♡』
「っしゃーーーーい!!あい!あい!あいあいあーい!!」
「もういいでしょう!!後で絶対消去しますからね!!ほら次!次です!」
「ほいほいっと。じゃーんけーん…お、次はエヴァか」
「ぐはァ!!」
「やる前からプレッシャーで吐血してんじゃねえ。アルティなんかこれだぞ」
ポチッとな。
『だ、だーい好きっ♡』
「暴力を辞さない覚悟はありますけど?」
「さーせん!!」
「うう…」
エヴァは泣く泣く紙を引いた。
「ほ、頬を膨らませて…………ひいっ?!こ、ここ、これをやれと…?」
「うむ」
「はーいエヴァっち可愛く~♡上目遣いちょーだーい♡」
「…私のこと、もっと構ってよ。…バカ」
「ぐっはぁぁぁ!!」
可愛いいいいい!!
約束された勝利の顔ーーーー!!
エヴァのツンデレおいちいいいいいい!!!
「はーもう楽しい♡」
「エヴァは羞恥で枕に顔を埋めてますけど」
「~~~~~~~~」
「次次~お、あたしだ!」
「行けールウリー!」
「なになに?右隣の人のマネをする…ほーん」
「あ、わ、私が書いたやつです…」
おもしろい。
いいぞエヴァわかってるね。
「右隣ってことは姫のマネかぁ。待って顔作るから」
「ビデオ持つよ」
「サンキュ。あーあー…よっしオッケー!いつでもいいよ!」
「3.2.1…キュー」
「あぁん!♡ダメぇ!♡」
「?!!!」
「アルティ、そこ、もっとぉ!!♡」
「な、な…!」
「あぁそれぇ!♡それ気持ちいいっ!♡んんんん!!♡」
「ルウリぃぃぃ!!」
「あ、ちなみにこれは昨日の夜偶然見かけちゃったやつ♡二人ともみんな寝てるからってリビングでやっちゃダメくない?♡マリアてゃとジャンヌたそが起きてきたらどうすんの~w」
「それはゴメンだけど…」
恥ずか死する…
人に自分のそういうとこ見られるって…
「もうっ!だから部屋でって言ったのに!!」
「いや待て!!このスリルがたまりませんってアルティが誘ってきて――――」
「うるさーーーーい!!」
「うおおおお部屋の中でコキュんなぁーーーー!!」
「おーおーめちゃくちゃだー」
「ル、ルウリさんがめちゃくちゃにしたような…」
「シシシ。でも、楽しいねパジャマパーティーって」
「はいっ…」
ならよかった☆
またやろうね☆
でも…
「この狂戦士なんとかしてえええええ!!」
――――――――
「ひゃっほーい!」
バイク最高!風になってる!
自分で走るのとはまた違った爽快感!
「きーもちー!ひゅー!」
「いいなーお姉ちゃんだけ」
「私も乗りたいですー」
「あれバカほど魔力消費するんだよね。姫は例外として、嫁とかエヴァっちくらいの容量無いとすぐに魔力切れ起こすよ」
「燃費が悪いのう」
「リコ、あんまり調子に乗ると怪我しますよ」
「へーきへーき!私無敵だか、ら――――うああああ!!」
「あ、崖から落ちた」
ズザザザ――――ドシン!
「うわああああ!はぁはぁ…死ぬかと思った…!」
義経は馬で崖を駆け下りて奇襲をかけたっていうけど、私がその場にいたらいや無理に決まってんだろ命大事にってぶん殴ってたな。
「ルウリに言って空飛べるようにしてもらおう」
とりあえず空間移動で戻るかって時に。
「いやーーーー!!」
絹を裂くような女の子の悲鳴が森の奥から聞こえてきた。
「はぁ、はぁ…!」
「待ちな小娘ぇ!!」
「身ぐるみ置いていけやぁ!!」
「やーだよーだ!べー!」
軽やかに森の中を駆ける一人の少女。
追いかける盗賊連中は、足止めにと石やロープを投擲する。
「よっ!ほっ!」
「なんだ?!当たらねえ!」
「当たらないよバーカ…って、きゃっ!」
「はっ!バカが足滑らせやがった!」
地面のぬかるみに足を取られた少女へと魔の手が伸びるすんでのところで。
「そぉい!」
私は男の横っ面を蹴り飛ばした。
「…!」
「なんだてめぇは!」
「通りすがりの正義の味方」
なにを女の子に乱暴してんだこの狼藉者共が!
ってことで、全員容赦なくボッコボコにしたよ☆
「ったくちょっと反省しろ。次やったらすり潰すからな。さて、お怪我はありませんか?お嬢さん」
「あ、ありがとうリコリス…あ」
「なんで名前…ゴメン、どこかで会ったことあるっけ?女の子は忘れない性分なはずなんだけどな」
「あ、いや、その!前に一度見かけたことがあって!リコリスは有名だから!」
「そう?有名だなんて照れるなぁヘヘヘ」
人気者って大変♡
おっと、転んだ怪我と汚れを【聖魔法】で…よし。
「それよりこんなところで何してるの?見たとこ一人っぽいけど。冒険者…じゃないよね?」
「うん。これでも吟遊詩人でね。世界中を旅をしてる途中なんだ。新しい歌のインスピレーションに盗賊のニュアンスを加えたくて、それでちょっとインタビューしようとしたらあんな目に…。あ、私ジークリット。ジークって呼んで」
「よろしく。吟遊詩人かぁ。昔村に来てたときによく聞いてたっけ。どんな歌を歌うの?」
「なんでも歌うよ。甘くとろける恋の歌。熱く勇ましい戦士の歌に、諸国漫遊食の歌。中でも一番人気があるのは、強く美しい英雄の……おっと、これはまだ秘密秘密。そろそろ行かなきゃ。助けてくれてありがとね」
「なんのなんの。どの辺で歌ってるの?もしタイミングが合えば聞かせてほしいな」
「さあ、どうかな。私は旅人だからね。誰にも私の自由は定められない。けど、きっとまたどこかで会えるよ」
なんだか不思議な印象を漂わせる子だ。
歳は私と同じくらいだと思うけど、大人びてるような、子どもっぽいような。
「またねリコリス。運命が交わるところで」
「うん。またねジーク」
会ったことある…?いや、無いよな?
生き別れの姉妹…………うん、無いな!
「うぉー!でっかい蜂の巣!こーれは蜂蜜いっぱいの予感!突撃ー!うわああああ!!蜂の大群がぁ!!助けてええええええ!!」
そのまま森の奥に走って行っちゃったけど…どうもあのドタバタ感には親近感を覚えるね。
ジークリットか…なんか楽しそうな子だったなと、自然に口元が緩んだ。
「お姉ちゃーん!」
「どこですかー?」
「マリア、ジャンヌ。こっちだよ」
わざわざ迎えに来てくれるなんて優しい子たちだねえ。
「アルティお姉ちゃんがね、遊んでないでさっさと戻ってきなさいだって」
「もうすぐお昼です」
「昼ご飯担当呼びに来ただけかまさか…。いいけどさ…」
「お姉ちゃんお姉ちゃん、私お昼はハンバーガーがいいなぁ」
「賛成ですー」
「おーわかったわかった。ハンバーグ二枚挟んだとびきりのやつ作ってあげるからね」
「「わーい!」」
見ればジークの姿はとっくに無い。
また会えることを祈って、私たちはみんなのところへと戻った。
ポロン
ライアーが奏でる天上の音に、人々はうっとりと聞き入った。
「秋も本番。山は赤く彩られ、冷えた空気が草花を揺らす。それに負けじと女は飾り、欲望という名の炎が街を燃やす。不夜に巣食うは人食いの鬼か、それとも金呑む蛇か。歌うは魔都を騒がす緋色の姫の、姫が愛する花園の、千夜を照らす大活劇。不夜燦然の物語。どうか最後まで聞き逃しがありませんように」
ゆっくりと、ゆったりと。
ジークリットは音に魂を揺蕩わせた。
――――――――
「アハッ♡やーん♡お客さんのすっごぉい♡気持ちいいよぉー♡もっと動いてー♡」
ベッドが揺れる最中、部屋の扉が大きく爆ぜた。
「あーヴァネッサちゃーん♡何か用~?♡」
「あんたまた他の奴の客を盗ったね。娘たちから苦情が来てるんだよ。なんとかしてくれって」
「えー?盗ってないよぉ~♡この子からモナがいいって誘ってきたんだもん♡ねー♡」
「はっはひぃ♡モナ様がいいでしゅ♡モナ様以外考えられないでふ~♡」
「やーん可愛いよぉ♡いーっぱい気持ちよくしてあげるからね♡」
「あっありが、ありがとうございまぁぁぁぁ♡」
「えーっと、名前なんだっけー?♡まあいっか♡いいよね♡」
黒いドレスを着た女性は、疲れたように頭を押さえた。
誰にも縛られず、捉えられず、また囚われることもない制御不能の欲望の塊に対し、これ以上ない毒を吐いた。
「このクソビッチが…」
応援ありがとうございます!
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