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森羅継承編
幕間:受け継がれる百合、時代の百合と人の百合
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ロストアイ皇国出発の前日譚。
「そういえば今さらなんですけど、ミオさんてなんの妖怪なんですか?」
「濡女でーす♡」
「うわああエッロそんなことあっていいんですか?!どこが?!具体的にどの変がヌレヌレ女なんですか?!!」
「そうですねぇ。お酒を飲むと、ある所はすごいことになりますよ♡」
「うひょおおおおおおお!!」
リコリス機関車爆進しちゃうよぉ!!
とか、お酒片手にド下ネタで盛り上がってたときだ。
「あの、ミオせんせー!」
マリアがモジモジしてやって来た。
ん?せんせーとな?
「なんですか、マリアさん?」
「あの、あの、私にミオせんせーの剣を教えてください!」
「ミオさんの剣?」
「救世一刀流のことですか?」
「うん!ミオせんせーの剣、すごくキレイだった!私もあんな剣が振れるようになりたい!」
「お姉ちゃんの剣が好きだって言ってたのに…およよ、こうやって妹は成長していくのか」
「あわわ!違う違うの!リコリスお姉ちゃんの剣もカッコよくて好きだけど、ミオせんせーの剣はなんていうか、ビュンッでキンッて感じなの!」
なるほど、よくわからん。
「だからお願いします!ミオせんせー!」
「どうしたものでしょう。剣が美しいと言ってくれるのは嬉しいですし、弟子を取るのは吝かでありませんが、旅路が違う以上付きっきりで教えるというわけにはいきません」
「そんなぁ…」
「師らしいことはあまり出来ませんが、一つ救世一刀流の基礎を教えましょう」
そう言って立ち上がったミオさんは、酒瓶をゆっくり傾けて、雫を一滴垂らした。
腰の刀を抜いて雫を斬る。
速い上に動きに無駄が無い。
「流派の基本は刹那を逃さない神速の剣。葉の朝露でも、弾けた飛沫でも構いません。落ちる雫を斬る。この動作を一日百回、連続で繰り返してください。途切れたら初めから。慣れたら目を閉じて。何度も繰り返し身体に馴染ませてください。そうすればいつか、救世一刀流の入口が見えることでしょう」
「一日百回…うん、わかった!じゃない…わかりました!頑張ります!」
「それじゃあお下がりの剣じゃなくて、マリアの剣を打ってあげないとね。ミオさんの剣を参考にするなら刀がいいかな」
「ほんと?わーい!リコリスお姉ちゃん大好き!」
「ウヘヘヘへ」
可愛い妹に抱きつかれるためなら刀の一本や千本打っちゃいますって~♡
令和の四○崎記紀とは私のことよ。
しかしマリアが剣士…っていうか侍?に憧れるとは。
炎を操る猫耳侍美少女か。
…………めっちゃええ。
「将来が楽しみですね」
「超楽しみです」
妹の成長を肴に嗜むお酒。
いやはやなんとも、オツなものでございます。
――――――――
「~♪」
「花婿さん花婿さん。何してるの?」
「おートト。そろそろおやつの時間だから、ケーキでも焼こうかなってね」
「ケーキ!」
トトは嬉しそうに私の周りを飛んだ。
ドロシーから離れて自立出来るのか、さすが上位精霊。
「精霊も私たちと同じもの食べられるの?」
「うん!私はずっとドロシーの中にいたから、ドロシーが食べたものの味が私にも伝わってたの」
「なんかへその緒みたいだね。そっかそっか、トトは好き嫌いある?」
「なんでも食べるよ!でも一番好きなのはシチュー!」
「シチュー?」
「あのね、初めてドロシーと食べたシチューを覚えてる?」
そういえばお裾分けとか言って差し入れしたっけ。
あのときはまだ、ドロシーはぶっきらぼうだったなぁ。
「ドロシーね、あのときのシチューがすっごく気に入ってたんだよ」
「へえ。今のドロシーも可愛いけど、素直じゃないドロシーも可愛かったなぁ」
「花婿さんはドロシーのこと好き?」
「うん、大好きだよ」
「ドロシーのこと大切にしてね。約束だよ」
「もちろん。約束」
「エヘヘ」
トトは私の頭でうつ伏せになると、羽をパタパタさせて喜んだ。
ほんと可愛い精霊さんで。
「よーっしゃスポンジ焼けたぞー。クリームとフルーツをたくさん盛り付けて、ほい完成」
「わぁー!キレイ!おいしそう!」
「先に味見しちゃうか」
「味見?いいの?わーい!はむっ、はむはむはむ、んー甘ーい!おいしー!」
よく入るな…食べたらすぐ魔力に変換してるのかな?
1ピースなんてすぐ食べ切っちゃいそう。
それはそれとして。
「あむあむ、花婿さんのケーキ好きー♡」
小さい身体ながらも確かな胸の膨らみ!
自分より大きなフォークを器用に使う度にプルンプルン揺れるんだもの。
そりゃ見蕩れるて。
「あの、トト?いきなりであれなんだけど一つ訊かせてね。ノアっておっぱいどうだった?」
「ノアのおっぱい?大っきいよ!食べ頃のメロンより!」
「食べ頃のメロンより?!」
「うん!だからかな?皇族に産まれた女の子はみんなおっぱい大っきいの!」
「みんな大っきいの?!」
皇族すっげぇ…って、あれ?
じゃあドロシーは…
「そんな…」
「うおおドロシー?!いつからそこに?!」
「嘘…嘘よね…?みんな、大っきいの…?アタシ、アタシは…?アタシにはその恩恵は…い、いやいやアタシまだ100とちょっとだし!まだまだ伸び代が――――」
「ノアは100歳のときには花婿さんより大っきいおっぱいしてたよ?」
「がはァ!!」
「ドロシーぃぃぃ!!」
「アタシの…アタシのおっぱいはどこなの?どこなのよぉぉぉ!!!」
「いいって私おっぱいより尻派だから!あったらあったでいいなぁ、くらいのもんだから!私ドロシーのお尻好きだよキュッとしてて!」
「おっぱいは?」
「あ、うん…控えめで美しいっていうか、おっぱいに貴賤なしっていうか」
「おっぱいは?!!」
「デカいおっぱい超好きですでもドロシーのドちっちぇえおっぱいも本当に好きです!!」
「小さいって言うなヤク中にするわよ持てる者!!」
「どうしろってんだ持たざる者!!」
ギャーギャーギャーギャー
「おっぱいってそんなに重要なのかな。はむっ。んー♡」
私たちの悲しきおっぱい談義を他所に、トトはケーキを食べて恍惚するのであった。
――――――――
梟が鳴く頃。
みんなが寝息を立てる中でふと目が覚めた私は、馬車の外に火が灯っているのを見かけた。
「ジャンヌ?」
「わっ、アルティお姉ちゃん?」
「どうしたんですか?こんな時間にランプを点けて。夜更かしは感心しませんよ」
「エヘヘ…」
どうやら本を書いていたらしく、ジャンヌはペンを持った手で頭を掻いた。
「隣失礼しますね。何を書いていたんですか?」
「エルフの森でいろんなことがあったでしょ?それでインスピレーションが刺激されてね、物語のアイデアがいっぱい浮かんだんです。忘れないうちに書いちゃいたいなーって集中してたら、つい」
「拝見しても?」
「うん!まだ文章とか表現とか全然なんですけど」
以前、ジャンヌにと購入した白紙の本は、たった数ヶ月でびっしりと文字で埋まっている。
時折、絵を織り交ぜて物語の光景を事細かに描写されていて読者を飽きさせない。
そして、肝心な本の中身。
これがおもしろい。
「ほう…ふむ…」
読んでいてつい唸ってしまうほど。
内容事態はよくある勇者の冒険活劇だけど、軽快かつ爽快で、大人から子どもまで幅広く受け入れられるものになっている。
多少の校正は必要かもしれないにしても、素人目にはこのまま出版し書店に並べても他の本と遜色ないように思えた。
「すごいですね…正直驚きです。おもしろいですよジャンヌ」
「わぁ、やった!ほんと?ほんとにおもしろい?」
「ええ。ただこの主人公の勇者ですが、軽妙洒脱なところと女性にだらしないところはまるで…いやそれより、この度々悪人に攫われる黒髪の姫ですが、何故ことあるごとに勇者を情事に誘おうとするのですか?ここなんか完全に薬を盛って夜這いしようとして――――」
「アルティお姉ちゃんっ!!」
「は、はい」
「……そういうメタファーなとこって突っ込んじゃダメだと思います」
「そ、そうですね…すみません…」
登場人物全員私たちになぞらえておいてメタファーも何も無いような気はしますが…
この辺は順調に大人になっているのを喜べば良いのか、それともあなたにはまだ早いと諭すべきなのか…
興味を持つのは仕方ありませんよね。
私もこれくらいの頃には一人でゴホンゴホン!!
大人になるのもいいですが、ジャンヌにはもう少しだけ子どもでいてほしいものです。
そう思うのが勝手な姉心だとしても。
「そうですジャンヌ、王都の教会の子どもたちに寄付する本を書いてみてはどうですか?」
「教会の子どもたちに…うん!書いてみたいです!どんなのがいいかなぁ?うーんうーん…そうだ!川からおーきっなお肉が流れてきて、中から女の子が産まれてくる話とかどうですか?」
「に、肉の中から女の子ですか?」
奇妙奇天烈摩訶不思議。
この子の頭の中にはどんな世界が広がっているのか。
理解出来ずとも、ただ見守るのも姉の役目。
未来の文豪がペンを走らせる音を子守唄に、私は静かに夢の世界に落ちていくのでした。
――――――――
生で喰べる魔物は、酷く濁った味がする。
「むしゃむしゃ…バリ、ゴキ……まずい」
旅の途中、定期的に魔物を狩るのを忘れない。
リコリスカフェやパステリッツ商会の取引など、リコリスちゃんの定期収入やドロシーさんのポーションの売上があるとはいえ、それに甘んじてはいけないためだ。
それに私の場合、体質上多くのエネルギーを消費するから、こうして食事以外のエネルギー摂取も必要になる。
あんまり人が見ておもしろい光景とは言えないので、このときばかりは一人でこっそりしてるんだけど…
「なんじゃ、誰かと思えばエヴァではないか」
「テ、テルナさゲホゲホ!ゴホッ!」
「おおすまぬすまぬ。食事中じゃったか。ほれ」
テルナさんは軽く笑うと、手に持った革袋を投げてきた。
中の水を飲んで一息つく。
「ぷはぁ…」
「これはワイルドホーンブルか。それにレッドスネークにコカトリス」
「あ、えっと…」
「そなた大概悪食じゃの。こんなものわざわざ生で貪らずとも、リコリスに言えばうまく調理してもらえるじゃろうに。遠慮しいじゃのう」
「で、でも、これはその…私の体質の問題です、から」
「馬鹿者。誰も薄気味悪いとも迷惑とも思っておらぬよ。そんなことそなたもわかっておるじゃろうに。まあ、そなたの性格もあるじゃろうか強くは言わぬがな」
「あと…えと…心配してくれてありがとう、ござい…ます」
と、残った魔物をたいらげる。
「そ、そういえばテルナさん、は…どうしてこんな森の奥まで…?」
「うむ、それがのう」
「テルナさーん?どこですかー?」
「ひいいっ!エ、エヴァ!妾はここには来なかった!よいな!」
「あ、ちょっと?!テルナさん?!」
行っちゃった…何なんだろう…
それに今の声は…
「エヴァさん」
「シャーリーさん?」
「こっちにテルナさんが来ませんでしたか?」
「い、いえ…。どっどうかしたんですか?」
「それが、最近の飲み過ぎでテルナさんのお腹周りが少し大きくなられたような気がして。服を作る上で正確な数値が必要と、採寸をしようとしたら逃げられてしまいまして。いい服を作る上で、皆さんの健康状態も把握しておきたいのに。……万が一にでも不摂生で体型が変わるようなことがあれば締め上げる所存ですけど」
目怖っ。
だからテルナさん逃げてきたんだ。
「エヴァさんも食べすぎは厳禁ですよ。…そういえば最近エヴァさんもウエストが」
「テルナさんならさっきあっちの方へ飛んでいきました!!」
「そうですか。ご協力を感謝します」
シャーリーさんは音もなくその場から消えた。
……ゴメンなさいテルナさん。
ウエストはその…努力します…
「はぁ、はぁ…ここまで来れば安心じゃろ。まったくシャーリーめ…妾は不老不死じゃぞ…。酒など飲みすぎたところで太るわけあるまい…。さて、これで心置きなく酒盛りを…」
「見ぃつけぇたぁ」
「ふおおおおおおおおおお!!!シャシャシャシャーリー?!!びっくりして心臓止まりかけたぁ!!登場の仕方が死霊も慄くそれなんじゃが?!!」
「もう逃しませんよテルナさん。観念してサイズを測らせてください」
「だから妾は不老不死でじゃな…なんなら大人にもなれるわけじゃし…。体型の一つや二つ、のう?」
「ニコッ」
「おおう…ナイフを突き立てられているかのような殺気じゃの…。ま、万が一体型が変わっていたら…?」
「ベストな体型まで戻しますが?」
「どうやってじゃ?」
「力ずくで」
「指ゴキゴキ鳴らしとる!!待て待て話せばわかる!!ちゃんと運動とかするから!!野菜とか食べる!!だから嫌じゃ…嫌じゃあ…!!力ずくは嫌じゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
森に痛々しい嘆きが木霊した。
後、テルナさんはシャーリーさんの手腕により見事元の体型に戻ったそうです。
「妾もう絶対太らん…」
あと、ちょっとだけお酒の量も減ったとか。
私は…
「ほれ。残ったご飯でおにぎり握っといたから、お腹すいたら食べな」
「あ、ありがとう…ございます…。わざわざ…」
「気にしない気にしない。お腹すくのは誰でもそうだろ。いつでも言ってよ。エヴァのおいしく食べる顔、私めっちゃ好きなんだから」
今日も今日とて甘やかされて。
まるで砂糖菓子みたいだ。
やっぱり…好きだなぁ。
ありのままを受け止めてくれるこの場所が。
いつか私も、誰かを甘やかせるくらい優しくなれるだろうか…なんて。
手に持ったおにぎりのあたたかさに顔を綻ばせる。
「おいしいな」
――――――――
「天を覆う黒い巨人。地に燃ゆる赤き花は煌めき、聖なる光以て星々を落とす剣を振る」
風薫る街の片隅で、ライアーを爪弾く一人の少女。
彼女の蠱惑的な歌声を、ライアーの幻想的な音色を、集まる人々は微睡むかのように心地よさげに耳で堪能していた。
「嗚呼、麗しき緋色の姫君よ。願わくばその歩みを止めないで。君が射止めし乙女が望む限り」
歌が終わると周囲から拍手喝采が沸き起こった。
置いた帽子の中に銀貨や銅貨が惜しみなく投げ込まれる。
「やあやあどうもどうも。緋色の姫と森の巨人の歌は気に入ってくれたかな?」
「うん!緋色のお姫様かっこいい!」
「私も大人になったら緋色のお姫様みたいになるんだ!」
「さすが巷で噂の吟遊詩人だな。前に聞いた緋色の姫と迷宮の皇の歌も良かったが、今回の歌も痺れるなぁ。仕事中だってのに聴き入っちまったよ」
「歌声がステキなのよ。また新しい歌を思いついたらぜひ聴かせておくれよ。街の連中はみんなあんたの歌に聴き惚れてるんだからさ」
「嬉しいな。うん、ありがと。またフラッと寄るね」
手の中のライアーが輝くと、腕輪へと変わった。
少女は荷物を纏め、帽子の縁から青空を覗いた。
「ねえねえジーク」
街の子どもが裾を引っ張り少女を呼び止める。
「なあに?」
「緋色のお姫様って本当にいる人?それともジークの作り話?」
「アハハ、どうだろうねー。確かめてみればわかるかもよ。なーんてね。それじゃあ」
「あっ、ねえ次はいつ来る?」
「次の歌が決まったらまた来るよ。それまでいい子で待ってるんだよ」
「うん!わかった!約束だよ!」
少女は足に羽でもついているかのように軽やかに地面を蹴った。
「さーてと、またネタを仕入れに行かないと♪次はどんなおもしろいことがあるかな?♪」
「そういえば今さらなんですけど、ミオさんてなんの妖怪なんですか?」
「濡女でーす♡」
「うわああエッロそんなことあっていいんですか?!どこが?!具体的にどの変がヌレヌレ女なんですか?!!」
「そうですねぇ。お酒を飲むと、ある所はすごいことになりますよ♡」
「うひょおおおおおおお!!」
リコリス機関車爆進しちゃうよぉ!!
とか、お酒片手にド下ネタで盛り上がってたときだ。
「あの、ミオせんせー!」
マリアがモジモジしてやって来た。
ん?せんせーとな?
「なんですか、マリアさん?」
「あの、あの、私にミオせんせーの剣を教えてください!」
「ミオさんの剣?」
「救世一刀流のことですか?」
「うん!ミオせんせーの剣、すごくキレイだった!私もあんな剣が振れるようになりたい!」
「お姉ちゃんの剣が好きだって言ってたのに…およよ、こうやって妹は成長していくのか」
「あわわ!違う違うの!リコリスお姉ちゃんの剣もカッコよくて好きだけど、ミオせんせーの剣はなんていうか、ビュンッでキンッて感じなの!」
なるほど、よくわからん。
「だからお願いします!ミオせんせー!」
「どうしたものでしょう。剣が美しいと言ってくれるのは嬉しいですし、弟子を取るのは吝かでありませんが、旅路が違う以上付きっきりで教えるというわけにはいきません」
「そんなぁ…」
「師らしいことはあまり出来ませんが、一つ救世一刀流の基礎を教えましょう」
そう言って立ち上がったミオさんは、酒瓶をゆっくり傾けて、雫を一滴垂らした。
腰の刀を抜いて雫を斬る。
速い上に動きに無駄が無い。
「流派の基本は刹那を逃さない神速の剣。葉の朝露でも、弾けた飛沫でも構いません。落ちる雫を斬る。この動作を一日百回、連続で繰り返してください。途切れたら初めから。慣れたら目を閉じて。何度も繰り返し身体に馴染ませてください。そうすればいつか、救世一刀流の入口が見えることでしょう」
「一日百回…うん、わかった!じゃない…わかりました!頑張ります!」
「それじゃあお下がりの剣じゃなくて、マリアの剣を打ってあげないとね。ミオさんの剣を参考にするなら刀がいいかな」
「ほんと?わーい!リコリスお姉ちゃん大好き!」
「ウヘヘヘへ」
可愛い妹に抱きつかれるためなら刀の一本や千本打っちゃいますって~♡
令和の四○崎記紀とは私のことよ。
しかしマリアが剣士…っていうか侍?に憧れるとは。
炎を操る猫耳侍美少女か。
…………めっちゃええ。
「将来が楽しみですね」
「超楽しみです」
妹の成長を肴に嗜むお酒。
いやはやなんとも、オツなものでございます。
――――――――
「~♪」
「花婿さん花婿さん。何してるの?」
「おートト。そろそろおやつの時間だから、ケーキでも焼こうかなってね」
「ケーキ!」
トトは嬉しそうに私の周りを飛んだ。
ドロシーから離れて自立出来るのか、さすが上位精霊。
「精霊も私たちと同じもの食べられるの?」
「うん!私はずっとドロシーの中にいたから、ドロシーが食べたものの味が私にも伝わってたの」
「なんかへその緒みたいだね。そっかそっか、トトは好き嫌いある?」
「なんでも食べるよ!でも一番好きなのはシチュー!」
「シチュー?」
「あのね、初めてドロシーと食べたシチューを覚えてる?」
そういえばお裾分けとか言って差し入れしたっけ。
あのときはまだ、ドロシーはぶっきらぼうだったなぁ。
「ドロシーね、あのときのシチューがすっごく気に入ってたんだよ」
「へえ。今のドロシーも可愛いけど、素直じゃないドロシーも可愛かったなぁ」
「花婿さんはドロシーのこと好き?」
「うん、大好きだよ」
「ドロシーのこと大切にしてね。約束だよ」
「もちろん。約束」
「エヘヘ」
トトは私の頭でうつ伏せになると、羽をパタパタさせて喜んだ。
ほんと可愛い精霊さんで。
「よーっしゃスポンジ焼けたぞー。クリームとフルーツをたくさん盛り付けて、ほい完成」
「わぁー!キレイ!おいしそう!」
「先に味見しちゃうか」
「味見?いいの?わーい!はむっ、はむはむはむ、んー甘ーい!おいしー!」
よく入るな…食べたらすぐ魔力に変換してるのかな?
1ピースなんてすぐ食べ切っちゃいそう。
それはそれとして。
「あむあむ、花婿さんのケーキ好きー♡」
小さい身体ながらも確かな胸の膨らみ!
自分より大きなフォークを器用に使う度にプルンプルン揺れるんだもの。
そりゃ見蕩れるて。
「あの、トト?いきなりであれなんだけど一つ訊かせてね。ノアっておっぱいどうだった?」
「ノアのおっぱい?大っきいよ!食べ頃のメロンより!」
「食べ頃のメロンより?!」
「うん!だからかな?皇族に産まれた女の子はみんなおっぱい大っきいの!」
「みんな大っきいの?!」
皇族すっげぇ…って、あれ?
じゃあドロシーは…
「そんな…」
「うおおドロシー?!いつからそこに?!」
「嘘…嘘よね…?みんな、大っきいの…?アタシ、アタシは…?アタシにはその恩恵は…い、いやいやアタシまだ100とちょっとだし!まだまだ伸び代が――――」
「ノアは100歳のときには花婿さんより大っきいおっぱいしてたよ?」
「がはァ!!」
「ドロシーぃぃぃ!!」
「アタシの…アタシのおっぱいはどこなの?どこなのよぉぉぉ!!!」
「いいって私おっぱいより尻派だから!あったらあったでいいなぁ、くらいのもんだから!私ドロシーのお尻好きだよキュッとしてて!」
「おっぱいは?」
「あ、うん…控えめで美しいっていうか、おっぱいに貴賤なしっていうか」
「おっぱいは?!!」
「デカいおっぱい超好きですでもドロシーのドちっちぇえおっぱいも本当に好きです!!」
「小さいって言うなヤク中にするわよ持てる者!!」
「どうしろってんだ持たざる者!!」
ギャーギャーギャーギャー
「おっぱいってそんなに重要なのかな。はむっ。んー♡」
私たちの悲しきおっぱい談義を他所に、トトはケーキを食べて恍惚するのであった。
――――――――
梟が鳴く頃。
みんなが寝息を立てる中でふと目が覚めた私は、馬車の外に火が灯っているのを見かけた。
「ジャンヌ?」
「わっ、アルティお姉ちゃん?」
「どうしたんですか?こんな時間にランプを点けて。夜更かしは感心しませんよ」
「エヘヘ…」
どうやら本を書いていたらしく、ジャンヌはペンを持った手で頭を掻いた。
「隣失礼しますね。何を書いていたんですか?」
「エルフの森でいろんなことがあったでしょ?それでインスピレーションが刺激されてね、物語のアイデアがいっぱい浮かんだんです。忘れないうちに書いちゃいたいなーって集中してたら、つい」
「拝見しても?」
「うん!まだ文章とか表現とか全然なんですけど」
以前、ジャンヌにと購入した白紙の本は、たった数ヶ月でびっしりと文字で埋まっている。
時折、絵を織り交ぜて物語の光景を事細かに描写されていて読者を飽きさせない。
そして、肝心な本の中身。
これがおもしろい。
「ほう…ふむ…」
読んでいてつい唸ってしまうほど。
内容事態はよくある勇者の冒険活劇だけど、軽快かつ爽快で、大人から子どもまで幅広く受け入れられるものになっている。
多少の校正は必要かもしれないにしても、素人目にはこのまま出版し書店に並べても他の本と遜色ないように思えた。
「すごいですね…正直驚きです。おもしろいですよジャンヌ」
「わぁ、やった!ほんと?ほんとにおもしろい?」
「ええ。ただこの主人公の勇者ですが、軽妙洒脱なところと女性にだらしないところはまるで…いやそれより、この度々悪人に攫われる黒髪の姫ですが、何故ことあるごとに勇者を情事に誘おうとするのですか?ここなんか完全に薬を盛って夜這いしようとして――――」
「アルティお姉ちゃんっ!!」
「は、はい」
「……そういうメタファーなとこって突っ込んじゃダメだと思います」
「そ、そうですね…すみません…」
登場人物全員私たちになぞらえておいてメタファーも何も無いような気はしますが…
この辺は順調に大人になっているのを喜べば良いのか、それともあなたにはまだ早いと諭すべきなのか…
興味を持つのは仕方ありませんよね。
私もこれくらいの頃には一人でゴホンゴホン!!
大人になるのもいいですが、ジャンヌにはもう少しだけ子どもでいてほしいものです。
そう思うのが勝手な姉心だとしても。
「そうですジャンヌ、王都の教会の子どもたちに寄付する本を書いてみてはどうですか?」
「教会の子どもたちに…うん!書いてみたいです!どんなのがいいかなぁ?うーんうーん…そうだ!川からおーきっなお肉が流れてきて、中から女の子が産まれてくる話とかどうですか?」
「に、肉の中から女の子ですか?」
奇妙奇天烈摩訶不思議。
この子の頭の中にはどんな世界が広がっているのか。
理解出来ずとも、ただ見守るのも姉の役目。
未来の文豪がペンを走らせる音を子守唄に、私は静かに夢の世界に落ちていくのでした。
――――――――
生で喰べる魔物は、酷く濁った味がする。
「むしゃむしゃ…バリ、ゴキ……まずい」
旅の途中、定期的に魔物を狩るのを忘れない。
リコリスカフェやパステリッツ商会の取引など、リコリスちゃんの定期収入やドロシーさんのポーションの売上があるとはいえ、それに甘んじてはいけないためだ。
それに私の場合、体質上多くのエネルギーを消費するから、こうして食事以外のエネルギー摂取も必要になる。
あんまり人が見ておもしろい光景とは言えないので、このときばかりは一人でこっそりしてるんだけど…
「なんじゃ、誰かと思えばエヴァではないか」
「テ、テルナさゲホゲホ!ゴホッ!」
「おおすまぬすまぬ。食事中じゃったか。ほれ」
テルナさんは軽く笑うと、手に持った革袋を投げてきた。
中の水を飲んで一息つく。
「ぷはぁ…」
「これはワイルドホーンブルか。それにレッドスネークにコカトリス」
「あ、えっと…」
「そなた大概悪食じゃの。こんなものわざわざ生で貪らずとも、リコリスに言えばうまく調理してもらえるじゃろうに。遠慮しいじゃのう」
「で、でも、これはその…私の体質の問題です、から」
「馬鹿者。誰も薄気味悪いとも迷惑とも思っておらぬよ。そんなことそなたもわかっておるじゃろうに。まあ、そなたの性格もあるじゃろうか強くは言わぬがな」
「あと…えと…心配してくれてありがとう、ござい…ます」
と、残った魔物をたいらげる。
「そ、そういえばテルナさん、は…どうしてこんな森の奥まで…?」
「うむ、それがのう」
「テルナさーん?どこですかー?」
「ひいいっ!エ、エヴァ!妾はここには来なかった!よいな!」
「あ、ちょっと?!テルナさん?!」
行っちゃった…何なんだろう…
それに今の声は…
「エヴァさん」
「シャーリーさん?」
「こっちにテルナさんが来ませんでしたか?」
「い、いえ…。どっどうかしたんですか?」
「それが、最近の飲み過ぎでテルナさんのお腹周りが少し大きくなられたような気がして。服を作る上で正確な数値が必要と、採寸をしようとしたら逃げられてしまいまして。いい服を作る上で、皆さんの健康状態も把握しておきたいのに。……万が一にでも不摂生で体型が変わるようなことがあれば締め上げる所存ですけど」
目怖っ。
だからテルナさん逃げてきたんだ。
「エヴァさんも食べすぎは厳禁ですよ。…そういえば最近エヴァさんもウエストが」
「テルナさんならさっきあっちの方へ飛んでいきました!!」
「そうですか。ご協力を感謝します」
シャーリーさんは音もなくその場から消えた。
……ゴメンなさいテルナさん。
ウエストはその…努力します…
「はぁ、はぁ…ここまで来れば安心じゃろ。まったくシャーリーめ…妾は不老不死じゃぞ…。酒など飲みすぎたところで太るわけあるまい…。さて、これで心置きなく酒盛りを…」
「見ぃつけぇたぁ」
「ふおおおおおおおおおお!!!シャシャシャシャーリー?!!びっくりして心臓止まりかけたぁ!!登場の仕方が死霊も慄くそれなんじゃが?!!」
「もう逃しませんよテルナさん。観念してサイズを測らせてください」
「だから妾は不老不死でじゃな…なんなら大人にもなれるわけじゃし…。体型の一つや二つ、のう?」
「ニコッ」
「おおう…ナイフを突き立てられているかのような殺気じゃの…。ま、万が一体型が変わっていたら…?」
「ベストな体型まで戻しますが?」
「どうやってじゃ?」
「力ずくで」
「指ゴキゴキ鳴らしとる!!待て待て話せばわかる!!ちゃんと運動とかするから!!野菜とか食べる!!だから嫌じゃ…嫌じゃあ…!!力ずくは嫌じゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
森に痛々しい嘆きが木霊した。
後、テルナさんはシャーリーさんの手腕により見事元の体型に戻ったそうです。
「妾もう絶対太らん…」
あと、ちょっとだけお酒の量も減ったとか。
私は…
「ほれ。残ったご飯でおにぎり握っといたから、お腹すいたら食べな」
「あ、ありがとう…ございます…。わざわざ…」
「気にしない気にしない。お腹すくのは誰でもそうだろ。いつでも言ってよ。エヴァのおいしく食べる顔、私めっちゃ好きなんだから」
今日も今日とて甘やかされて。
まるで砂糖菓子みたいだ。
やっぱり…好きだなぁ。
ありのままを受け止めてくれるこの場所が。
いつか私も、誰かを甘やかせるくらい優しくなれるだろうか…なんて。
手に持ったおにぎりのあたたかさに顔を綻ばせる。
「おいしいな」
――――――――
「天を覆う黒い巨人。地に燃ゆる赤き花は煌めき、聖なる光以て星々を落とす剣を振る」
風薫る街の片隅で、ライアーを爪弾く一人の少女。
彼女の蠱惑的な歌声を、ライアーの幻想的な音色を、集まる人々は微睡むかのように心地よさげに耳で堪能していた。
「嗚呼、麗しき緋色の姫君よ。願わくばその歩みを止めないで。君が射止めし乙女が望む限り」
歌が終わると周囲から拍手喝采が沸き起こった。
置いた帽子の中に銀貨や銅貨が惜しみなく投げ込まれる。
「やあやあどうもどうも。緋色の姫と森の巨人の歌は気に入ってくれたかな?」
「うん!緋色のお姫様かっこいい!」
「私も大人になったら緋色のお姫様みたいになるんだ!」
「さすが巷で噂の吟遊詩人だな。前に聞いた緋色の姫と迷宮の皇の歌も良かったが、今回の歌も痺れるなぁ。仕事中だってのに聴き入っちまったよ」
「歌声がステキなのよ。また新しい歌を思いついたらぜひ聴かせておくれよ。街の連中はみんなあんたの歌に聴き惚れてるんだからさ」
「嬉しいな。うん、ありがと。またフラッと寄るね」
手の中のライアーが輝くと、腕輪へと変わった。
少女は荷物を纏め、帽子の縁から青空を覗いた。
「ねえねえジーク」
街の子どもが裾を引っ張り少女を呼び止める。
「なあに?」
「緋色のお姫様って本当にいる人?それともジークの作り話?」
「アハハ、どうだろうねー。確かめてみればわかるかもよ。なーんてね。それじゃあ」
「あっ、ねえ次はいつ来る?」
「次の歌が決まったらまた来るよ。それまでいい子で待ってるんだよ」
「うん!わかった!約束だよ!」
少女は足に羽でもついているかのように軽やかに地面を蹴った。
「さーてと、またネタを仕入れに行かないと♪次はどんなおもしろいことがあるかな?♪」
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