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迷宮探究編
42.いらっしゃいませ!
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「今日はいよいよプレオープンだ。手抜くことは許さんのでよろしく。気合い入れてけよお前ら」
「はい!!」
店の第一印象はプレオープンで決まる。
って、転生前にバイトしてた喫茶店の店長が言ってた。
調理も接客もプロフェッショナルが揃って予行も何も無いとは思うけど、アンドレアさん曰く、招待客を募ることで店に箔をつけることが目的らしい。
にしてもだけど、ほとんどアンドレアさんが選んだ招待客だから、誰が来るかとか知らんのよね。
有名な貴族に商会の重鎮…らしい人たちと立て続けに握手を交わしたけど、男の顔って覚えられないんだよなぁ…
しかも、
「話には聞いていたが随分若いな」
「パステリッツ氏が太鼓判を押す程の才覚らしいが」
「はたしてどこまで本当なのやら」
「色目を使って取り込んだのでは?」
なんて陰口を叩く連中の多いこと。
失礼すぎてぶん殴ってやろうかとも思ったけど、そんな陰口はすぐに収まることとなった。
「い、いらっしゃいませ!」
「うむ」
「こんにちは、リコリスさん」
女王陛下と王女殿下、この二人を来店によって。
「本日はお招きいただきありがとうございます。開店祝いのお花です」
「サンキューリエラ。王族の方の口に合うかはわからないけど、ゆっくりしていって。……ヴィルさんも」
「ほう?我を愛称で呼ぶかリコリスよ」
「ええ、まあ。翻弄されたんで意趣返し的なもんと思ってもらえれば。何なら敬称も取って差し上げましょうか?ヴィル」
「ククク、ハハハ。おもしろい女よ。許す、好きに呼べ。給仕よ、席に案内するがよい」
「ははは、はい!ただいま!」
フン、頑なに気取りやがって。
今日はせいぜい私の料理に舌鼓を打つことだな!
「女王陛下と王女殿下が揃って…?!」
「しかもあんなに親しそうに…!」
「女王陛下を呼び捨てにするとは、いったい何者なんだ…!」
ただのスーパー美少女でーす。
「リッコリッスーーーー♡」
「おわっ!」
「きゃー久しぶり♡元気だったー?♡んーーーー♡」
「いきなりスキンシップが激しすぎる…久しぶり、フィーナ」
フィーナ=ローレンス。
私とは2コしか変わんないお姉さんだけど、これでもれっきとした公爵様。
花の神フローラから加護を授かった、ちょっとすごい人。
アンドレアさんとも知り合いで、その伝手で招待を受けたらしい。
「リコリスがお店を出すって知ってれば私がいーっぱい融資したのに。リコリスのためならお金なんていくらでも使っちゃうよ」
「ハハ…なら迷惑にならない程度に売り上げに貢献して」
「うんっ♡その代わり、今度デートしようね♡」
はいはい、と軽く流しておく。
「ローレンス公爵?!」
「稀代の女傑と名高く、奔放で気難しいあの方があれほど好意を向けているなんて…!」
「いったい何者なんだ…!」
だからただのスーパー美少女だって。
しかし王族に続いて公爵様…招待客が重鎮すぎはせんか?
ていうか、
「なんでお前らも招待客側なんだアルティ、エヴァ」
「箔を付けるなら大賢者である私たちも居た方がいいとアンドレアさんが」
「ま、まあ私みたいな世間に認知されてない影の薄い根暗女に価値があるかはわかりませんけどね…ヘヘ」
「お、おお…。まあいいや。一応招待客扱いみたいだし。お席へどうぞ、お嬢様方」
「……カッコいいと思ってしまう自分が悔しいです」
「す、すごく、魅力的…です」
お前らは特別じゃ。
「あ、あれは銀の大賢者!アルティ=クローバー!」
「史上最年少で大賢者の称号を得た天才か!」
「大賢者とも交流を持つ人脈をあんな娘が…いったい何者なんだ…!」
いったい何者なんだおじさんおるて。
うるっせーな。
「アルティ=クローバーの隣にいるのは…誰だ?」
「知ってるか?」
「いや、知らん」
「いったい何者…いや、べつにいいか」
「う゛っぷ!!」
エヴァの承認欲求が暴れてる…
「あ、あのリコリスさん。私まで本当によかったんですか?」
「おーサリーナちゃん。いらっしゃい。ドレス可愛いね、めっちゃ似合ってる」
「こんなすごい人たちの中に、ただの宮廷魔法使いの私が…」
「気にすんなよ。宮廷魔法使いも大した立場だろ。それに、うちは可愛い子大歓迎だぜ♡」
「はぅ…」
「女性なら誰でも落としにかかるんですから」
アルティの冷たい視線をスルーしたところへ、アンドレアさんが話しかけてきた。
「いよいよですね」
「まだプレオープンですけどね。失敗はしませんよ。あ、孤児院の件ありがとうございます」
「いえいえ。他にも必要なものがあれば手配しておきますよ。それより、そろそろ招待した方々はお揃いになります」
「そろそろってことは、まだ来てない人が?」
「ええ。以前この店を営んでいた私の知人が」
例のパン屋をやってたっていう。
「遣いを出してはいるのですが、何分田舎に引っ込んでしまったものですから。少し遅れているのかも」
タイミングよく、とは変かもしれないけど。そんな話をしていると、通りの向こうから馬車が近付いてきた。
「ああ、よかった。来てくれたみたいです」
馬車から降りてきたのは、仕立てたばかりの真新しい一張羅に身を包んだ老夫婦だった。
「やれやれ、王都は遠くて敵わないな。腰が痛いよ」
「そうですね。けど懐かしい。王都もすっかり様変わりして」
仲睦まじいその姿を見て、私は思わず駆け寄っていた。
「エラルドお爺ちゃん!リリカお婆ちゃん!」
「おや、リコリス…リコリスちゃんか!」
「まあまあお久しぶり。元気でしたか?」
「うん!めっちゃ元気!アルティ、来いよ!エラルドさんとリリカさんだぞ!」
「お二人ともお久しぶりです!」
エラルド、リリカ老夫妻。
二人とは私たちが王都を出発してすぐ、旅の途中で出逢った。
宿を探していた私たちを、ミムレット村で厚く歓待してくれた恩人でもある。
「やあ懐かしいな。もう5年…いや10年ほど前になるのかな」
「いや、何なら半年も経ってないけど」
「まさかお二人がエラルドさんたちとお知り合いだったとは。何という奇縁でしょう」
「おおアンドレア。息災のようだな。すっかり立派になって」
「ええ、お陰様で。リコリスさん、お二人には私がまだ商人として駆け出しの頃、よく面倒を見ていただいたんです」
「フフ、あの頃はよく店の売れ残りのパンをもらいに来ていましたね。お爺さんったら、若いもんは腹いっぱい食べなきゃいかん!なんて、よくアンドレアを連れ回して」
「ハッハッハ、アンドレアは酒が強かったな」
「エラルドさんに鍛えられましたから」
話が弾んでいるようで何より。
「いやしかし、すっごい偶然…」
「本当に…」
「けど、久しぶりに会えて嬉しいな」
「はい。お元気そうで何よりです」
「ハハハ、ありがとう。そうだ、アイファのこともだな」
「アイファから手紙で何があったのか聞いたんです。その節は本当に」
「ただの成り行きですから」
「そうそう。辛気臭い話は無しにしよ。っていうか、まずはオーナーとして挨拶しないと。改めて、こちらの店舗で経営をさせていただくことになりました、リコリス=ラプラスハートと申します」
「リコリスちゃんがこの店を…。後のことはアンドレアに任せて、好きにしてくれればいいと思っていたが。うん、こんなに嬉しいことはないな。大事に使ってあげておくれ」
「はいっ!もちろん!」
「さあさあ、ゲストが揃ったところで食事にしましょう。今日は記念すべき日です」
シッシッシ。俄然やる気出てきた。
今日のプレを成功させて、絶対繁盛させてやる!
やるぞーおー!
「これがこの店の名物のカレーという料理か」
ヴィルは目の前のカレーを掬って口へと運んだ。
「ふむ…鼻から抜ける香辛料の複雑かつ玄妙な香り。辛味の中にも甘みを感じる奥深い味わいを持ったスープ。それらをこの純白の米が纏め上げている。横に添えられた副菜がいい味を出している」
福神漬けな。
なんかいい感じの材料でいい感じに作ったやつ。
私はらっきょうより福神漬け派なのだ。
「フフ、なるほど。これは良いものだ」
食レポにすら気品を感じるのさすが女王。
悔しいけど褒められるのは嬉しい。
「こちらのハンバーグも、肉厚でジューシーで…はむ、んん♡幸せで顔がニヤけてしまいます♡」
ヴィルとリエラの反応を見て和らいだのか、他の方々もおそるおそるながら料理を口にした。
まあ、余裕で即堕ちさせてやったんだけど、ヤローの反応なんか見ても楽しくないので割愛。
それよりは大賢者二人が揃って食事している方がよっぽど眼福だ。
「何度食べてもリコの料理は素晴らしいですね」
「そ、そうですね…おいしい…。こんな料理を毎日食べられたらいいのに」
「プロポーズみたいになってますよ」
「ふぇっ?!!」
あーーーー可愛い!!
毎日でも毎分でも作っちゃいますけどー。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、どう?おいしい?」
「ああ、堪能しているよ。元だが自分の店が生まれ変わったみたいで」
「すっかり田舎暮らしが肌に合ってきたと思っていましたが、こんなおいしい料理が食べられるなら、足繁く通うのも悪くないと思ってしまいますね」
今までは仲間のために料理をしてきたけど、こうやって誰かに喜んでもらえるのは違った嬉しさがある。
料理はもちろん、接客も好評で出だしは上々。
あとは、
「なんだなんだ?いい匂いさせてるな」
「ここは何の店だい?」
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!王侯貴族が認める確かな味!リコリスカフェ、近日オープンよ!」
表では何事かと集まってきた野次馬に対し、ドロシーたちがビラ配りをしている。
「おいしい!安い!お姉ちゃんの料理は最高だよー!」
「誰でも気軽に入れるお店!リコリスカフェをよろしくですー!」
ちなみに同時刻、ちょっとしたアルバイトってことで、サリュミエール孤児院の子どもたちが、王都各所で同じような宣伝をしてくれている。
もっともっと盛り上がるぞ。
「師匠、頼んだ!」
「うむ。任せよ」
手に魔力を集め上空に翳す。
放出された魔力が大気中で弾け、真っ赤な花火になった。
「プレオープンにしては少し派手ではありませんか?」
「派手なくらいが人の印象には残るよ。それよりシャーリー」
「はい」
「シャーリーが手がけた店の制服、超可愛い。ありがとね」
「お褒めに預かり光栄です」
シャツにスラックス、それにサロン。
白と焦げ茶のコントラストが、シックな感じでよき。
デザインから裁縫まで全部シャーリーが手がけたんだけど、なかなか私好みに仕上がってる。
品を保ちながら過度に着飾らず、貴族、平民両方から好印象を受けるだろう。
個人的には丈の短いスカートも推したかったんだけど、それはまた別の店をやるときにでも採用しよう。
っと、今は目の前のことに集中だ。
「おいしそうなお店だけど、貴族様が通うようなお店なら入りづらいわね」
「そうね…。それにお値段だって高そう」
「お姉さんたち、興味ある?うちは誰でも歓迎だよ。メニューは豊富。値段だってこのとおり」
「あら、思ってたより…」
「というか、他のお店よりも安いんじゃないかしら」
「味は女王陛下のお墨付き。お姉さんたちが来てくれたら、私すっごく嬉しいな♡」
「は、はい…」
「絶対行きますぅ…」
あ、これ営業スマイルじゃないから。
女の人には全力で愛想振りまいてるから。
その後プレオープンは滞りなく終了。
お客さんは満足げな顔で帰っていった。
数日後には、王国貴族の間で店の話題が持ちきりになっていること請け合いだろう。
「リコリスさん、ごちそうさまでした。料理もデザートもとてもおいしかったです。公務が無ければ毎日でも通うのに」
「サンキュリエラ」
「そうだな。リコリス、店の料理人を一人よこせ。城の専属料理人にしてやる」
「ハハハ、マジふざけんな」
中指立てんぞ♡
まあ引き抜きは許さんけど、出前くらいなら人を雇えばいけるか?ウーバー的な。
ん?ウーバー…
「それだ!アンドレアさん!アンドレアさーん!」
私はアンドレアさんを呼びつけるなり、すぐさま頭の中の構想を実現しにかかった。
リコリスカフェ、デリバリーサービス。
まずそれ用のバッグを開発。
【付与魔術】で防水、防塵、保冷、保温、料理の状態を維持。更にエヴァとキスすることで新たに得た【重力魔法】でバランスをキープ。絶対に倒れない、傾かない、こぼれない魔法のバッグを完成させる。
ついでに盗難、強盗の防止に、警報と軽い電気ショック的なやつも付与した。
そしてこれを運んでもらうのが、孤児院の子どもたち。
日替わりで数人を雇うことでお給金を支払う仕組み。
「ってことで力を貸してほしいんですけど、どうでしょう院長先生」
「それは願ってもない話です。院を整備してくれて更に仕事もいただけるなんて。ぜひ協力させてください」
事後了承だけど話はついた。
後日商業ギルド立ち会いの下、正式に契約。それと並行して、商業ギルドから読み書きと計算の指導員も派遣してもらえることになった。
デリバリーを初めることで厨房の負担は大きくなるし、人を増やすことも考えたんだけど。
「先生の料理を作らせていただいている身、それくらい何ともありません!」
「あっしらにお任せくだせえ!」
料理人たちの気合いがエグい。
まあ…キツかったら自分たちで人雇うか。今後の実質的な経営権はワーグナーさんたちにあることだし。
この人数で、休憩と休日をうまいこと出来るのはありがたいけど、無理はしないでね。定休日とか勝手にしてくれていいから。
ノーモアブラック企業。
それから、プレオープン後によからぬ噂が聞こえた。
あの店の料理には女王陛下を誑かす秘密がある、なんて面白可笑しいものだ。
何がどうなのかというと、レシピを狙いに貴族やそれに仕える料理人が店に押し入るということが起きた。
これがまたテンプレみたいな高慢ちきな連中だったようなんだけど。
「何か御用で?」
ジョセフさんたちの一喝で蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ってしまったらしい。威圧するのは全然許すんだけど……他のお客さんは怖がらせないでね?頼むから。
正面からは無理だと覚ったのか、夜間店に忍び込もうとする連中も現れた。冒険者崩れとかチンピラとか。
全員もれなくシバいて広場に宙吊りで晒してやったよ☆
ていうか我伯爵ぞ?
「次やったら不敬で処すぞ」
どこぞの貴族も小金欲しさの物取りも、不埒な輩たちが消えてリコリスニッコリス。
「ねえねえリコリス、他の街に出店の予定は無いの?」
とは、王都を去る前のフィーナの言葉だ。
公爵って忙しいんだな。
「元々この店だってアンドレアさんの勧めで出しただけだから。私たちはまだ旅の途中だし。気が向いたら、かな」
「そのときは私にも相談してね。リコリスのスポンサーになってなーんでもしてあげちゃうから♡」
「私のスポンサーになってどうすんだって。なるなら店のスポンサーだろ」
「いいのっ!♡だってリコリスのこと愛してるんだもん!♡」
まるで歌劇でも観てる気分だ。
大仰すぎて照れる気もしない。
好きなのは素直に嬉しいありがとう。
「程々にしなきゃ破産しちゃうよフィーナ」
「リコリスのためならそれもいいなって思っちゃう♡」
貢ぎ癖がすげぇ。
「ま、ほんとに私の力が必要になったらいつでも言って♡またね、リコリス♡チュ♡チュッ♡」
「ん、またね」
他の街に出店かぁ。
やりたいことは色々あるんだけどね。
お姉さんを集めた夜のお店とか。
そういうお店に研修に行くのはありだよねぇ~♡
ヴィオラさんのお店また行きたいなー。
オープン前日になって、エラルドさんたちはミムレット村に帰ることになった。
なんでも村で飼ってる牛がそろそろ産気づく頃なのだとか。
「わざわざ来てくれてありがとう。久しぶりに会えてめっちゃ嬉しかった」
「ああ、こちらもだよ」
「元気でね。またフラッと遊びにいらっしゃい」
「その頃には墓参りになってるかもしれんがな。ハッハッハ」
お年寄り特有の笑えないブラックジョークやめてくんない?
「リコリスちゃんなら心配要らないだろうが、店を長くやるコツは楽しむことさ。あれだけの料理を出すんだ。嫌でも客は集まる。次はアイファたちを誘って来ることにするよ」
「うん、二人ともありがとう」
エラルドさんと握手を、リリカさんとはハグを交わす。
激励を受け取り、店がオープンしたのは王都滞在6日目の正午。
噂が噂を呼び、開店前から長蛇の列。お客さんたちは今か今かとオープンを待ち侘びていた。
「いらっしゃいませ!ようこそリコリスカフェへ!」
嬉しい悲鳴…いや、実際みんなヒィヒィ言ってないからその表現は適切じゃないんだけど、初日にして大金貨2枚に及ぶ売り上げを記録した。
そんなもんだからアンドレアさんは、
「さっそく次の店舗の開業について相談を」
なんて逸った。
名前とレシピだけは貸すから好きにして~ってことにしといたけど、アンドレアさんなら大丈夫だろ。
ていうかこっちにかまけてばっかだと、自分の商会の営業が疎かにならんかね?
「ハハハ、その際はリコリスさんの傘下で働かせてもらうことにしますよ」
あなた商業の王様的な人だろって。
なんかこの2、3日は異様に忙しかった気もするけど…バタバタしてるのは私らしいか。
しっかし、王都の一等地に屋敷をもらって店も繁盛して…勝ち組の生活してるなぁ。
しかも美女たちに囲まれた悠々自適生活。
こりゃ笑いが止まらんてハッハッハ。
「よし、そろそろ出発すんぞ!」
「怒涛の感情」
「もう少しゆっくりしてもバチは当たるまいに」
「ここでダラダラしてるのに飽きた!私たちは冒険者だぞ!冒険してなんぼじゃーい!」
「持つ者故の贅じゃの」
「リコリスさん、次の行き先はどちらへ?」
「それなんだよなー。王都を東へ出発して、南回りでまた戻ってきたから…次は北かな」
【世界地図】使って、と。
「ざっくりと行き先は3つってとこか。獣人の国、サヴァーラニア獣帝国。砂の国ラムール。ドワーフの国ディガーディアー…」
サヴァーラニアは、マリアとジャンヌにとってあんまり良い思い出は無さそうだしなぁ。
ラムールは砂漠越えが面倒そう…
となると…
「この中ならディガーディアーかなぁ」
技術国家なんて、なかなか楽しそうな響きだし。
見たことないものいっぱいありそう。
「ディガーディアーですか。いいと思います。各国との争いを持たない完全中立国で治安が良いですし。私も一度行ってみたいと思っていたんです」
「あの国は酒も美味いしのう。それに道中、酒の名産地であるバルト村を通るではないか。そろそろバルトエールの新酒の時期じゃ。リコリスよ、必ず立ち寄るのじゃぞ」
「おう。思ったよりパッと決まったな。みんなもそれでいいな?」
「私はお姉ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
「私もです!新しい国楽しみです!」
「ではさっそく、出発の準備を」
「頼むよシャーリー」
出発が決まってみんなが揚々としている中で、一人…ドロシーだけはまだ地図に目をやっていた。
あまりにも虚ろに。寂しそうに。
「ドロシー?」
「……え?あ、ゴメンなさい。ボーッとしてたわ。なに?」
「いや、目的地が決まったから出発の準備をって…」
「ああ…わかったわ。コラ、マリア!ジャンヌ!遊んでないでさっさと支度する!忘れ物しても知らないわよ!」
「「はーい!」」
いつもどおりだ。
さっきのは気のせいだったのか、と。
そのときの私は気付いていなかった。
ディガーディアーへ向かう途中に通るであろう、地図にぽっかりと空いた小さな穴。
ロストアイ皇国という今は滅びたエルフの国…ドロシーの故郷があることに。
「はい!!」
店の第一印象はプレオープンで決まる。
って、転生前にバイトしてた喫茶店の店長が言ってた。
調理も接客もプロフェッショナルが揃って予行も何も無いとは思うけど、アンドレアさん曰く、招待客を募ることで店に箔をつけることが目的らしい。
にしてもだけど、ほとんどアンドレアさんが選んだ招待客だから、誰が来るかとか知らんのよね。
有名な貴族に商会の重鎮…らしい人たちと立て続けに握手を交わしたけど、男の顔って覚えられないんだよなぁ…
しかも、
「話には聞いていたが随分若いな」
「パステリッツ氏が太鼓判を押す程の才覚らしいが」
「はたしてどこまで本当なのやら」
「色目を使って取り込んだのでは?」
なんて陰口を叩く連中の多いこと。
失礼すぎてぶん殴ってやろうかとも思ったけど、そんな陰口はすぐに収まることとなった。
「い、いらっしゃいませ!」
「うむ」
「こんにちは、リコリスさん」
女王陛下と王女殿下、この二人を来店によって。
「本日はお招きいただきありがとうございます。開店祝いのお花です」
「サンキューリエラ。王族の方の口に合うかはわからないけど、ゆっくりしていって。……ヴィルさんも」
「ほう?我を愛称で呼ぶかリコリスよ」
「ええ、まあ。翻弄されたんで意趣返し的なもんと思ってもらえれば。何なら敬称も取って差し上げましょうか?ヴィル」
「ククク、ハハハ。おもしろい女よ。許す、好きに呼べ。給仕よ、席に案内するがよい」
「ははは、はい!ただいま!」
フン、頑なに気取りやがって。
今日はせいぜい私の料理に舌鼓を打つことだな!
「女王陛下と王女殿下が揃って…?!」
「しかもあんなに親しそうに…!」
「女王陛下を呼び捨てにするとは、いったい何者なんだ…!」
ただのスーパー美少女でーす。
「リッコリッスーーーー♡」
「おわっ!」
「きゃー久しぶり♡元気だったー?♡んーーーー♡」
「いきなりスキンシップが激しすぎる…久しぶり、フィーナ」
フィーナ=ローレンス。
私とは2コしか変わんないお姉さんだけど、これでもれっきとした公爵様。
花の神フローラから加護を授かった、ちょっとすごい人。
アンドレアさんとも知り合いで、その伝手で招待を受けたらしい。
「リコリスがお店を出すって知ってれば私がいーっぱい融資したのに。リコリスのためならお金なんていくらでも使っちゃうよ」
「ハハ…なら迷惑にならない程度に売り上げに貢献して」
「うんっ♡その代わり、今度デートしようね♡」
はいはい、と軽く流しておく。
「ローレンス公爵?!」
「稀代の女傑と名高く、奔放で気難しいあの方があれほど好意を向けているなんて…!」
「いったい何者なんだ…!」
だからただのスーパー美少女だって。
しかし王族に続いて公爵様…招待客が重鎮すぎはせんか?
ていうか、
「なんでお前らも招待客側なんだアルティ、エヴァ」
「箔を付けるなら大賢者である私たちも居た方がいいとアンドレアさんが」
「ま、まあ私みたいな世間に認知されてない影の薄い根暗女に価値があるかはわかりませんけどね…ヘヘ」
「お、おお…。まあいいや。一応招待客扱いみたいだし。お席へどうぞ、お嬢様方」
「……カッコいいと思ってしまう自分が悔しいです」
「す、すごく、魅力的…です」
お前らは特別じゃ。
「あ、あれは銀の大賢者!アルティ=クローバー!」
「史上最年少で大賢者の称号を得た天才か!」
「大賢者とも交流を持つ人脈をあんな娘が…いったい何者なんだ…!」
いったい何者なんだおじさんおるて。
うるっせーな。
「アルティ=クローバーの隣にいるのは…誰だ?」
「知ってるか?」
「いや、知らん」
「いったい何者…いや、べつにいいか」
「う゛っぷ!!」
エヴァの承認欲求が暴れてる…
「あ、あのリコリスさん。私まで本当によかったんですか?」
「おーサリーナちゃん。いらっしゃい。ドレス可愛いね、めっちゃ似合ってる」
「こんなすごい人たちの中に、ただの宮廷魔法使いの私が…」
「気にすんなよ。宮廷魔法使いも大した立場だろ。それに、うちは可愛い子大歓迎だぜ♡」
「はぅ…」
「女性なら誰でも落としにかかるんですから」
アルティの冷たい視線をスルーしたところへ、アンドレアさんが話しかけてきた。
「いよいよですね」
「まだプレオープンですけどね。失敗はしませんよ。あ、孤児院の件ありがとうございます」
「いえいえ。他にも必要なものがあれば手配しておきますよ。それより、そろそろ招待した方々はお揃いになります」
「そろそろってことは、まだ来てない人が?」
「ええ。以前この店を営んでいた私の知人が」
例のパン屋をやってたっていう。
「遣いを出してはいるのですが、何分田舎に引っ込んでしまったものですから。少し遅れているのかも」
タイミングよく、とは変かもしれないけど。そんな話をしていると、通りの向こうから馬車が近付いてきた。
「ああ、よかった。来てくれたみたいです」
馬車から降りてきたのは、仕立てたばかりの真新しい一張羅に身を包んだ老夫婦だった。
「やれやれ、王都は遠くて敵わないな。腰が痛いよ」
「そうですね。けど懐かしい。王都もすっかり様変わりして」
仲睦まじいその姿を見て、私は思わず駆け寄っていた。
「エラルドお爺ちゃん!リリカお婆ちゃん!」
「おや、リコリス…リコリスちゃんか!」
「まあまあお久しぶり。元気でしたか?」
「うん!めっちゃ元気!アルティ、来いよ!エラルドさんとリリカさんだぞ!」
「お二人ともお久しぶりです!」
エラルド、リリカ老夫妻。
二人とは私たちが王都を出発してすぐ、旅の途中で出逢った。
宿を探していた私たちを、ミムレット村で厚く歓待してくれた恩人でもある。
「やあ懐かしいな。もう5年…いや10年ほど前になるのかな」
「いや、何なら半年も経ってないけど」
「まさかお二人がエラルドさんたちとお知り合いだったとは。何という奇縁でしょう」
「おおアンドレア。息災のようだな。すっかり立派になって」
「ええ、お陰様で。リコリスさん、お二人には私がまだ商人として駆け出しの頃、よく面倒を見ていただいたんです」
「フフ、あの頃はよく店の売れ残りのパンをもらいに来ていましたね。お爺さんったら、若いもんは腹いっぱい食べなきゃいかん!なんて、よくアンドレアを連れ回して」
「ハッハッハ、アンドレアは酒が強かったな」
「エラルドさんに鍛えられましたから」
話が弾んでいるようで何より。
「いやしかし、すっごい偶然…」
「本当に…」
「けど、久しぶりに会えて嬉しいな」
「はい。お元気そうで何よりです」
「ハハハ、ありがとう。そうだ、アイファのこともだな」
「アイファから手紙で何があったのか聞いたんです。その節は本当に」
「ただの成り行きですから」
「そうそう。辛気臭い話は無しにしよ。っていうか、まずはオーナーとして挨拶しないと。改めて、こちらの店舗で経営をさせていただくことになりました、リコリス=ラプラスハートと申します」
「リコリスちゃんがこの店を…。後のことはアンドレアに任せて、好きにしてくれればいいと思っていたが。うん、こんなに嬉しいことはないな。大事に使ってあげておくれ」
「はいっ!もちろん!」
「さあさあ、ゲストが揃ったところで食事にしましょう。今日は記念すべき日です」
シッシッシ。俄然やる気出てきた。
今日のプレを成功させて、絶対繁盛させてやる!
やるぞーおー!
「これがこの店の名物のカレーという料理か」
ヴィルは目の前のカレーを掬って口へと運んだ。
「ふむ…鼻から抜ける香辛料の複雑かつ玄妙な香り。辛味の中にも甘みを感じる奥深い味わいを持ったスープ。それらをこの純白の米が纏め上げている。横に添えられた副菜がいい味を出している」
福神漬けな。
なんかいい感じの材料でいい感じに作ったやつ。
私はらっきょうより福神漬け派なのだ。
「フフ、なるほど。これは良いものだ」
食レポにすら気品を感じるのさすが女王。
悔しいけど褒められるのは嬉しい。
「こちらのハンバーグも、肉厚でジューシーで…はむ、んん♡幸せで顔がニヤけてしまいます♡」
ヴィルとリエラの反応を見て和らいだのか、他の方々もおそるおそるながら料理を口にした。
まあ、余裕で即堕ちさせてやったんだけど、ヤローの反応なんか見ても楽しくないので割愛。
それよりは大賢者二人が揃って食事している方がよっぽど眼福だ。
「何度食べてもリコの料理は素晴らしいですね」
「そ、そうですね…おいしい…。こんな料理を毎日食べられたらいいのに」
「プロポーズみたいになってますよ」
「ふぇっ?!!」
あーーーー可愛い!!
毎日でも毎分でも作っちゃいますけどー。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、どう?おいしい?」
「ああ、堪能しているよ。元だが自分の店が生まれ変わったみたいで」
「すっかり田舎暮らしが肌に合ってきたと思っていましたが、こんなおいしい料理が食べられるなら、足繁く通うのも悪くないと思ってしまいますね」
今までは仲間のために料理をしてきたけど、こうやって誰かに喜んでもらえるのは違った嬉しさがある。
料理はもちろん、接客も好評で出だしは上々。
あとは、
「なんだなんだ?いい匂いさせてるな」
「ここは何の店だい?」
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!王侯貴族が認める確かな味!リコリスカフェ、近日オープンよ!」
表では何事かと集まってきた野次馬に対し、ドロシーたちがビラ配りをしている。
「おいしい!安い!お姉ちゃんの料理は最高だよー!」
「誰でも気軽に入れるお店!リコリスカフェをよろしくですー!」
ちなみに同時刻、ちょっとしたアルバイトってことで、サリュミエール孤児院の子どもたちが、王都各所で同じような宣伝をしてくれている。
もっともっと盛り上がるぞ。
「師匠、頼んだ!」
「うむ。任せよ」
手に魔力を集め上空に翳す。
放出された魔力が大気中で弾け、真っ赤な花火になった。
「プレオープンにしては少し派手ではありませんか?」
「派手なくらいが人の印象には残るよ。それよりシャーリー」
「はい」
「シャーリーが手がけた店の制服、超可愛い。ありがとね」
「お褒めに預かり光栄です」
シャツにスラックス、それにサロン。
白と焦げ茶のコントラストが、シックな感じでよき。
デザインから裁縫まで全部シャーリーが手がけたんだけど、なかなか私好みに仕上がってる。
品を保ちながら過度に着飾らず、貴族、平民両方から好印象を受けるだろう。
個人的には丈の短いスカートも推したかったんだけど、それはまた別の店をやるときにでも採用しよう。
っと、今は目の前のことに集中だ。
「おいしそうなお店だけど、貴族様が通うようなお店なら入りづらいわね」
「そうね…。それにお値段だって高そう」
「お姉さんたち、興味ある?うちは誰でも歓迎だよ。メニューは豊富。値段だってこのとおり」
「あら、思ってたより…」
「というか、他のお店よりも安いんじゃないかしら」
「味は女王陛下のお墨付き。お姉さんたちが来てくれたら、私すっごく嬉しいな♡」
「は、はい…」
「絶対行きますぅ…」
あ、これ営業スマイルじゃないから。
女の人には全力で愛想振りまいてるから。
その後プレオープンは滞りなく終了。
お客さんは満足げな顔で帰っていった。
数日後には、王国貴族の間で店の話題が持ちきりになっていること請け合いだろう。
「リコリスさん、ごちそうさまでした。料理もデザートもとてもおいしかったです。公務が無ければ毎日でも通うのに」
「サンキュリエラ」
「そうだな。リコリス、店の料理人を一人よこせ。城の専属料理人にしてやる」
「ハハハ、マジふざけんな」
中指立てんぞ♡
まあ引き抜きは許さんけど、出前くらいなら人を雇えばいけるか?ウーバー的な。
ん?ウーバー…
「それだ!アンドレアさん!アンドレアさーん!」
私はアンドレアさんを呼びつけるなり、すぐさま頭の中の構想を実現しにかかった。
リコリスカフェ、デリバリーサービス。
まずそれ用のバッグを開発。
【付与魔術】で防水、防塵、保冷、保温、料理の状態を維持。更にエヴァとキスすることで新たに得た【重力魔法】でバランスをキープ。絶対に倒れない、傾かない、こぼれない魔法のバッグを完成させる。
ついでに盗難、強盗の防止に、警報と軽い電気ショック的なやつも付与した。
そしてこれを運んでもらうのが、孤児院の子どもたち。
日替わりで数人を雇うことでお給金を支払う仕組み。
「ってことで力を貸してほしいんですけど、どうでしょう院長先生」
「それは願ってもない話です。院を整備してくれて更に仕事もいただけるなんて。ぜひ協力させてください」
事後了承だけど話はついた。
後日商業ギルド立ち会いの下、正式に契約。それと並行して、商業ギルドから読み書きと計算の指導員も派遣してもらえることになった。
デリバリーを初めることで厨房の負担は大きくなるし、人を増やすことも考えたんだけど。
「先生の料理を作らせていただいている身、それくらい何ともありません!」
「あっしらにお任せくだせえ!」
料理人たちの気合いがエグい。
まあ…キツかったら自分たちで人雇うか。今後の実質的な経営権はワーグナーさんたちにあることだし。
この人数で、休憩と休日をうまいこと出来るのはありがたいけど、無理はしないでね。定休日とか勝手にしてくれていいから。
ノーモアブラック企業。
それから、プレオープン後によからぬ噂が聞こえた。
あの店の料理には女王陛下を誑かす秘密がある、なんて面白可笑しいものだ。
何がどうなのかというと、レシピを狙いに貴族やそれに仕える料理人が店に押し入るということが起きた。
これがまたテンプレみたいな高慢ちきな連中だったようなんだけど。
「何か御用で?」
ジョセフさんたちの一喝で蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ってしまったらしい。威圧するのは全然許すんだけど……他のお客さんは怖がらせないでね?頼むから。
正面からは無理だと覚ったのか、夜間店に忍び込もうとする連中も現れた。冒険者崩れとかチンピラとか。
全員もれなくシバいて広場に宙吊りで晒してやったよ☆
ていうか我伯爵ぞ?
「次やったら不敬で処すぞ」
どこぞの貴族も小金欲しさの物取りも、不埒な輩たちが消えてリコリスニッコリス。
「ねえねえリコリス、他の街に出店の予定は無いの?」
とは、王都を去る前のフィーナの言葉だ。
公爵って忙しいんだな。
「元々この店だってアンドレアさんの勧めで出しただけだから。私たちはまだ旅の途中だし。気が向いたら、かな」
「そのときは私にも相談してね。リコリスのスポンサーになってなーんでもしてあげちゃうから♡」
「私のスポンサーになってどうすんだって。なるなら店のスポンサーだろ」
「いいのっ!♡だってリコリスのこと愛してるんだもん!♡」
まるで歌劇でも観てる気分だ。
大仰すぎて照れる気もしない。
好きなのは素直に嬉しいありがとう。
「程々にしなきゃ破産しちゃうよフィーナ」
「リコリスのためならそれもいいなって思っちゃう♡」
貢ぎ癖がすげぇ。
「ま、ほんとに私の力が必要になったらいつでも言って♡またね、リコリス♡チュ♡チュッ♡」
「ん、またね」
他の街に出店かぁ。
やりたいことは色々あるんだけどね。
お姉さんを集めた夜のお店とか。
そういうお店に研修に行くのはありだよねぇ~♡
ヴィオラさんのお店また行きたいなー。
オープン前日になって、エラルドさんたちはミムレット村に帰ることになった。
なんでも村で飼ってる牛がそろそろ産気づく頃なのだとか。
「わざわざ来てくれてありがとう。久しぶりに会えてめっちゃ嬉しかった」
「ああ、こちらもだよ」
「元気でね。またフラッと遊びにいらっしゃい」
「その頃には墓参りになってるかもしれんがな。ハッハッハ」
お年寄り特有の笑えないブラックジョークやめてくんない?
「リコリスちゃんなら心配要らないだろうが、店を長くやるコツは楽しむことさ。あれだけの料理を出すんだ。嫌でも客は集まる。次はアイファたちを誘って来ることにするよ」
「うん、二人ともありがとう」
エラルドさんと握手を、リリカさんとはハグを交わす。
激励を受け取り、店がオープンしたのは王都滞在6日目の正午。
噂が噂を呼び、開店前から長蛇の列。お客さんたちは今か今かとオープンを待ち侘びていた。
「いらっしゃいませ!ようこそリコリスカフェへ!」
嬉しい悲鳴…いや、実際みんなヒィヒィ言ってないからその表現は適切じゃないんだけど、初日にして大金貨2枚に及ぶ売り上げを記録した。
そんなもんだからアンドレアさんは、
「さっそく次の店舗の開業について相談を」
なんて逸った。
名前とレシピだけは貸すから好きにして~ってことにしといたけど、アンドレアさんなら大丈夫だろ。
ていうかこっちにかまけてばっかだと、自分の商会の営業が疎かにならんかね?
「ハハハ、その際はリコリスさんの傘下で働かせてもらうことにしますよ」
あなた商業の王様的な人だろって。
なんかこの2、3日は異様に忙しかった気もするけど…バタバタしてるのは私らしいか。
しっかし、王都の一等地に屋敷をもらって店も繁盛して…勝ち組の生活してるなぁ。
しかも美女たちに囲まれた悠々自適生活。
こりゃ笑いが止まらんてハッハッハ。
「よし、そろそろ出発すんぞ!」
「怒涛の感情」
「もう少しゆっくりしてもバチは当たるまいに」
「ここでダラダラしてるのに飽きた!私たちは冒険者だぞ!冒険してなんぼじゃーい!」
「持つ者故の贅じゃの」
「リコリスさん、次の行き先はどちらへ?」
「それなんだよなー。王都を東へ出発して、南回りでまた戻ってきたから…次は北かな」
【世界地図】使って、と。
「ざっくりと行き先は3つってとこか。獣人の国、サヴァーラニア獣帝国。砂の国ラムール。ドワーフの国ディガーディアー…」
サヴァーラニアは、マリアとジャンヌにとってあんまり良い思い出は無さそうだしなぁ。
ラムールは砂漠越えが面倒そう…
となると…
「この中ならディガーディアーかなぁ」
技術国家なんて、なかなか楽しそうな響きだし。
見たことないものいっぱいありそう。
「ディガーディアーですか。いいと思います。各国との争いを持たない完全中立国で治安が良いですし。私も一度行ってみたいと思っていたんです」
「あの国は酒も美味いしのう。それに道中、酒の名産地であるバルト村を通るではないか。そろそろバルトエールの新酒の時期じゃ。リコリスよ、必ず立ち寄るのじゃぞ」
「おう。思ったよりパッと決まったな。みんなもそれでいいな?」
「私はお姉ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
「私もです!新しい国楽しみです!」
「ではさっそく、出発の準備を」
「頼むよシャーリー」
出発が決まってみんなが揚々としている中で、一人…ドロシーだけはまだ地図に目をやっていた。
あまりにも虚ろに。寂しそうに。
「ドロシー?」
「……え?あ、ゴメンなさい。ボーッとしてたわ。なに?」
「いや、目的地が決まったから出発の準備をって…」
「ああ…わかったわ。コラ、マリア!ジャンヌ!遊んでないでさっさと支度する!忘れ物しても知らないわよ!」
「「はーい!」」
いつもどおりだ。
さっきのは気のせいだったのか、と。
そのときの私は気付いていなかった。
ディガーディアーへ向かう途中に通るであろう、地図にぽっかりと空いた小さな穴。
ロストアイ皇国という今は滅びたエルフの国…ドロシーの故郷があることに。
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