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迷宮探究編

36.奈落の大賢者

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 硬い樹皮で出来た爪が赤く濡れる。
 小川の側まで転がった二人を見て、私の神経は酷く逆撫でされた。
 眉間に皺を寄せ剣を握り、今すぐにでもあのくそったれをぶっ飛ばしてやりたかった。
 だけど、師匠せんせいが腕を伸ばしてそれを止めた。

「手を出すのは許さぬ。面倒を見ろと頼んだのはそなたじゃ」
師匠せんせい…」
わらわらが手を下せば、あんな魔物どうということは無い。が、それでは二人の成長の糧にはならぬ。ここは静観せよ。二人を信じておるならば」



 ――――――――



 身体が痛い。熱い。
 手をついて起き上がると、地面が赤くなってた。
 草も花も真っ赤で息をするのがつらい。

「ジャン、ヌ…」
「マリア…つっ!」

 油断はしてなかった。
 してなかったと思う。
 なんだか頭が重い。回らない。
 大丈夫だって思ってた。
 勝てるって思ってた。
 それが油断なら。悪いのは私たちだ。

「いつまでも呆けるでない。敵は待たぬぞ」

 テルナお姉ちゃんの声が聴こえたときには、グリーンシードタイガーが大きな口を開けてジャンヌに迫ってた。

「【電光石火】!」

 間一髪でジャンヌを助けたけど、勢いがつきすぎて足が滑った。
 地面を転がって木に身体をぶつけて、また身体が痛くなる。

「マリア、ポーションを…!」

 ポーチからドロシーお姉ちゃん特製のポーションを取り出して一気に飲む。
 血が止まって身体の痛いのがスーって無くなった。
 けどフラフラなのは変わらない。

「ジャンヌ、大丈夫?」
「うん…マリアは?」
「立てる。まだやれる」
「じゃあ…やろう。私たちがやるって決めたんだもん」

 そうだね。
 立とう。戦おう。
 強くなるんだ。強くならなきゃいけないんだ。
 私たちはいつまでも弱くないって証明するために。
 私たちを大事にしてくれるお姉ちゃんを守るために。

「行くよ、ジャンヌ」
「うん、マリア」

 深く息を吸って、私たちは魔力マナを高めて走り出した。
 グリーンシードタイガーは、咆哮と一緒に種を飛ばしてくるけど、それをジャンヌが【見えざる手】で弾いた。

「はああっ!!」
「じゃから、油断するなと言うのに」

 剣に炎を纏わせて飛びかかったら、テルナお姉ちゃんの声が聴こえた。
 それから虎の背中の蕾と弾き飛ばした種から硬い木の触手が生えて、私のお腹を突いて、ジャンヌの肩と足を刺した。

「かは――――ッ!」
「あああっ!」

 痛い。苦しい。怖い。
 痛い。苦しい。怖い。
 痛い。苦しい。怖い。
 痛い。苦しい。怖い。
 今にも大声で泣きそうになる。
 でも…でも…!!

「ガアアアアアアア!!」

 グリーンシードタイガーが、今度はお姉ちゃんたちに襲いかかった。
 お姉ちゃんたちなら心配無い。
 私たちよりずっと強いんだもん。
 だけど私たちは、お姉ちゃんたちと虎の間に割って入った。

「う~~にゃあぁっ!!」

 力いっぱい蹴って虎を吹っ飛ばす。
 全然効いてないけど、お姉ちゃんたちが無事で良かった。

「ジャンヌ…まだまだやれるよね…!」
「うん…まだまだだよ…!こんなのより、奴隷だったときの方がずっと痛かった!ずっと苦しくて、ずっと怖かった!!」
「そうだよ…だからこんなの全ッ然!へっちゃらだもん!!」

 ポーションを使って、隣でハァハァって息をするジャンヌに言う。

「ジャンヌ、やってみよう。二人で考えた超必殺技」
「いいよ、やろう」

 身体から魔力マナが立ち昇る。
 血がボコボコしてるみたいに熱くなるのを感じて、また地面を蹴った。
 さっきよりも速く、もっと速く。

「灼熱の天輪、燃え盛る万丈の赤き壁!!」
「雲霄より落ちる命の恵み、冥き大海に逆巻く渦よ!!」
「……!!」
完全詠唱フルキャストか…!!」

 魔法の威力を高める完全詠唱フルキャスト
 それを戦いながら、相手を押さえながら。
 無茶だって後で怒られるかもだけど、それでも。

「猛れ、荒くれ、迸れ!!紅蓮に染まれ牙の獣!!全ての敵を燃やし尽くせ!!」
「鉄の併呑!!地平の渇きを満たす爪!!十重とえ二十重はたえに潤い散らせ!!」

 私の右手に、ジャンヌの左手に、爆炎と激流が宿る。
 上から下に。
 下から上に。
 私たちの牙が、爪が交錯した。

「「双牙絶爪ダブルブレイク!!」」

 グリーンシードタイガーは、最後まで吼えて私たちを攻撃してきたけど。
 私たちの魔法は攻撃ごと虎を切り裂いた。
 人生は楽しいことばっかりじゃない。
 だけど、楽しいことが多い方がいいに決まってる。
 何でも出来たら、楽しいことは多くなる。
 人生は楽しく出来るんだって、リコリスお姉ちゃんが教えてくれたから。
 私たちはもっと強くなるんだ。

「やった…」
「うん…やった…」

 私たちはボロボロの姿に笑い合って、パン――――と掌を合わせた。



 ――――――――



 魔法の衝撃で視界が遮られても、私の目は魔物の消滅を、妹たちの勝利をしかと捉えた。
 傷だらけでも尚、大手を振って爛漫の笑顔を向けるマリアとジャンヌ。
 成長著しいとか、よくやったとか、そんな言葉じゃ到底足りない。

「自慢の妹だ」

 私は駆け寄ってくる二人を力いっぱい抱きしめた。



「40点じゃな」

 二人に回復ヒールをかけている間、師匠せんせいが戦いを酷評した。

「よかったのは動きと最後の魔法だけで、勢いに任せ、戦略性の乏しい部分が目立った。ギリギリ落第回避といったところじゃろう。まあ、妾らを守ったあの瞬間と、完全詠唱フルキャストを揃えたあの技は、褒めて然るべきじゃがな」
「むぅー、頑張ったのに」
「テルナお姉ちゃんひどいです」
「そうだ!二人は頑張ったぞ!こののじゃロリババアめ!もっと労れブヮーカ!アホ!クソダサセンス!」
「一滴残らずその血吸い尽くしてやろうか貴様!わかっておろうが、ここはまだ迷宮ダンジョンの一階層なのじゃ!階層主フロアボスといえど、このレベルの敵に苦戦しては先が思いやられようが!わらわはマリアとジャンヌを思ってじゃな!」
「んーよしよし二人とも可哀想にねー。いっぱいがんばったもんねー。あー怖い怖い。歳は取りたくないねえ」
「妾のみを悪者にしおって…あーもう知らぬ!知らぬ知らぬ!ふーんだ妾拗ねちゃうのじゃー!勝手知らぬ迷宮ダンジョンで朽ち果てるがよいわ短命種どもー!」
「長命種のダダみにくっ。ん?何か出てきた。宝箱と、魔法陣?」

 師匠せんせいを無視してそっちの方に向く。
 階層主フロアボスを倒したドロップ的なやつか。

「マリア、ジャンヌ、中身を見てごらんよ」
「うん」
「何かの…種?」
「ハ、ハウスシードみたい、ですね…」

 エヴァちゃんが種を見て言った。

「ハウスシード?」
「えと…魔力マナを込めて植えると、急成長して家になる種でっちゅ!!」
「エヴァちゃん?!今思いっきし舌噛んだけど?!回復ヒールする?!」
「もう師匠ってば。20文字以上の言葉を喋るときは口の運動してからじゃないと」
「いひゃい…」
「大丈夫そうならよかったよ…。ていうかエヴァちゃん植物に詳しいんだね。花とか育てるの好き?」
「い、いえ、その、前に食べたことがあるだけで」
「へーそうなんだ。…………んん?」

 聞き間違いかな?
 まあいいや。
 こっちに出てきた魔法陣は、ダンジョンのテンプレなら外に出られる的なやつかな。
 乗ってみたら外に出た。
 …………あれ?帰りは?

「うおおおおおおおおおおお!!」

 来た道全力疾走したよ☆
 めっちゃ早く合流した。

「はぁはぁ…一方通行とは聞いてねえ…」
「逸って勝手に出ただけじゃろ。とはいえこれでこの階層は魔物の出現も無くなり平和に資源の回収が出来るようになったわけじゃが」
「そういえばここに来るまで魔物は見なかったっけ。これが迷宮ダンジョンの特性か。ていうか迷宮ダンジョンて何階層まであるもんなの?」
「不定数じゃな。一つの階層のみのものもあれば、十を超える数のものもある。妾が体験した最大のもので五十いくつじゃったか」
「今の階層だけでも一時間近くかかってんのに、そんなにあると日跨いじゃうな」
「こればかりは先へ進むしかない。どのみち攻略が目的ならそうせざるを得ぬ。階層が進むごとに出てくる魔物は強くなるが、出土するアイテムもレアリティの高いものになる。そなたには充分なワクワクじゃろう?」
「まあね」

 こんなとこで立ち話してても始まらん。 
 マリアとジャンヌも全快したみたいだし、とりあえず次の階層へ行きますか。
 私たちは木のうろの奥にあった、下へ続く階段を降りていった。

「この迷宮ダンジョンか…」
「どうかしましたか?テルナ」
「いやなに。迷宮ダンジョンの造りは一定ではなく、階を上がるタイプと階を下るタイプがあるのじゃがな。妾の経験上、階を下るタイプの方が攻略の何度が高いのじゃ。侵入者を是が非でも排除しようという殺気が濃いというかの。まあ、ただの経験則なんじゃが」

 亀の甲より年の功ということなのだろうけど。
 何事もなく迷宮ダンジョン攻略出来たらいいよね。
 


 続く第二階層は、第一階層と同じ代わり映えのしない風景が続いていた。
 しかし敵は強くなり、道はより複雑に入り組み、罠の数も増え、私たちの足取りをこれでもかと阻んだ。
 が、そこで自由神の加護がいい仕事をした。
 その道中で私は歩いた道を正確に地図化出来る【マッピング】と、正確な情報を記憶出来る【探索】、それに【罠感知】と【罠解除】のスキルを入手したのだ。
 これは好機とすぐに【管理者権限アドミニストレートスキル】でそれぞれを統合し、エクストラスキル【世界地図】、スキル【盗賊】へと有効化アクティベートした。
 【世界地図】は、未踏の地も含めた完全な地図を、二次元、三次元的に表示出来る超お役立ちスキル。
 しかも自分の現在地、相手の位置、数まで把握出来るロケーション機能付き。
 あ、この迷宮ダンジョン三階層っぽいよ。
 【盗賊】は文字通りのスキル。
 効果は罠の発見と解除に加えて、手癖の悪さが増すというもの。
 持っていて気持ちのいい字面ではないけど、こと迷宮ダンジョンにおいては必須の能力だ。
 でも外では使わないようにしようっと。……なるべく!

「リコリスさんは本当に何でも出来てしまうのですね」
「天☆才!美少女!なんでね。もっと褒めてくれてもいいんだよ。たとえばその慎ましくも美しいお胸にそっと抱いてくれたりなんか」
「ええと、アルが許すなら私はいいですけど」
「マジで!やったぜ!アルティアルティ、リエラのおっぱいにダイブしても――――」
「いいわけないでしょうその頭ひしゃげられたいんですか?」
「ですよねさーせん!!」

 私はアルティに対し90度お辞儀をぶちかました。

「見れば見るほどすごいパーティーですよね、百合の楽園リリーレガリア。子どもながらにして戦力の一角を任されているマリアさんとジャンヌさん。しろがねの大賢者アルティさん。特に驚きなのは、そこに真紅の女王ブラッディクイーン、テルナさんが加わっていることです」
「ほう、わかっておるな小娘。褒めてつかわす」
「当然です。テルナさんと謂えば、吸血鬼ヴァンパイアの真祖の血族。気高さと品格、知性と力を兼ね備え、比肩する者無しと謳われた美貌の持ち主ですから」
「フフン」
「ドヤ顔でこっち見んな。褒められて気持ちいいのはわかるけど」
「こんなすごいメンバーをまとめているなんて…それに王族ともコネクションがあって、自身は名誉子爵…。さっきもサラッと【聖魔法】を使ってましたし。強く多彩で美しくて、リコリスさんっていったい何者なんですか?」
「さあ。幼なじみの私ですら判別がつきません」

 そこは最愛の幼なじみです♡くらい言ってくれよ。

「お姉ちゃんはお姉ちゃん!」
「優しくてキレイでカッコいいお姉ちゃんです!」

 そうそう、こういうのよこういうの。
 やっぱ妹たちしか勝たん。
 私は腕を組んでウンウンと頷いた。

「ただのバグじゃろ」

 バグ代表のくせにバグって言うな。
 
「強くてキレイで何でも出来て地位も富も人望もある…ハヘヘ…違う世界の出身の人だ…。すみません、同じ空気を吸って…」

 うーん違う世界の出身ってとこだけ正解っ。
 なんか一人だけ周りの空気ベンタブラックで塗ってんの?みたいに暗いけど。
 エヴァちゃん、私と話した後とかの目が死んでるんだよなぁ。
 ハイライトが仕事してないっていうか。

「師匠今日はいっぱい喋ってて偉いですね」
「エヘヘ、そ、そうかな」
「いっぱい喋ってるの?これで?」
「はい。いつもは私以外だとお店の人相手に」

『あ、袋…いいです』

「くらいしか話しませんから」

 言語アーカイブがコンビニ仕様。
 しかもパターンが少ないっ。

「ま、まあ私じつは喋るの好きだし。得意だし。今日は最初から頑張る気でいたし。よ、よーしこのまま私が迷宮ダンジョン攻略しちゃうぞーなんてヘヘッウヘヘヘへ」
「わかりやすく調子に乗ってて可愛いね」
「師匠褒められるの超好きなんです」
「ヘヘヘへあぶっ!!」

 あ、転んだ。

「湿り気大好きキノコのくせに調子に乗ってすみません…」

 感情が0か100。
 エヴァちゃんは地面に溶けそうな勢いで沈んでいった。



「あ、見て見て!こんなところに隠し部屋!」
「宝箱がありました!」

 さっきから何度か宝箱を発見はしてるけど、中身がガラクタなんだよな。
 折れたナイフとか、割れたお皿とか。
 金貨や銀貨、宝石も中にはあったけど、ハズレの宝箱の方が割合としては多めだ。
 ていうか宝石はまだわかるけど、自然発生の迷宮ダンジョンで貨幣が湧いてるのはどういうことなんだ。

「どれどれ中身は…革の水袋?」
「わっ!それ水精の泉ですよ!魔法が使えない人でも使える、無限に水が湧く宝具アーティファクトです!それ一つで屋敷の一つでも買えるくらいの値がつきますよ!」

 サリーナちゃんは興奮気味にそう言うけど、水なら自分で出せるんだよなぁ。
 魔法が使えない人向けのアイテムみたいだし、これもハズレかな?
 一応【アイテムボックス】にしまっておこう。
 そんな感じで道中鉱石やアイテムを収集し、休憩を挟みながら進むこと数十分。
 【世界地図】のおかげであちこち迷うことなく、第二階層のボス部屋へはスムーズに到着した。
 今度の空間は鍾乳洞みたい。
 いやに静かで、滴ってくる水音が大きく聞こえる。

「よっし!今度も頑張るぞー!」
「おー!」
「ダメですよマリア、ジャンヌ。次は私の番です」

 意気込む二人より先に、アルティが前に出た。

「ここまで何もしてこなかったので、そろそろ暴れさせてもらいます。いいですね、リコ」
「お好きなように。心配はしてねえ」
「どうも」
「では、私も失礼して」

 アルティの隣にリエラが並び立つ。

「遊び気分でのこのこ付いて来た、なんて思われては心外ですからね。少しは役に立つところを見せないと」
「おてんばなお姫様ですね」
「人間味があっていいでしょ?」

 美少女二人が並んでるの見るの好きぃ。
 幸せ空間~百合百合チュッチュして混ざらせてくれぇ~。
 百合に挟まる男は滅びて然るべきだけど、私は百合に挟まっても許される。
 何故って?美少女だからですけど?
 と、そんなバカなことを考えていたら、ようやく階層主フロアボスがお出ましだ。

「アーマーバットですね」

 片方の羽が大人二人分ほどあり、鎧みたいな外皮を纏った巨大なコウモリ。
 巨体に似合わない軽快な飛行と、闇に紛れての奇襲、それに加えて超音波による範囲攻撃も強力の一言。
 並の相手なら苦戦は必須だろうけど、如何せん相手が悪い。

氷結結界フリージングスクエア

 両羽をピンポイントで凍らされたアーマーバットは、ズシンと重い音を立てて地面に落ちた。
 そこへリエラの剣が炸裂する。

音速の光剣ペネトレイトソニック

 光り輝く高速の刺突。
 リエラの剣技に、エクストラスキル【光魔法】を纏わせることで、威力と速度を跳ね上げる技。
 たった二撃。
 たったそれだけでアーマーバットは潰え、宝箱と転移の魔法陣が出現した。

「お見事です」
「アルもですよ」
「圧巻じゃな。アルティは元より、王女の洗練された魔力マナには高貴さとたゆまぬ研鑽を濃く感じた。大賢者程とは言わぬが、その力は凄まじい。誇ってよいぞ王女よ」
「ありがとうございます」

 師匠せんせいに褒められてリエラは嬉しそうにした。
 魔力マナの感じから強いのはなんとなくわかってたけど、ここまでとは思わなかった。
 剣だけ、魔法だけの戦いなら、マリアとジャンヌにも肉薄するんじゃないだろうか。
 いやいや本当に見事なことだ。

「王女殿下にも働かせておいて何もしない私の存在価値ってなんなんだろう…」

 二人が活躍してるのを見てエヴァちゃんは隅っこで死にかけてるけど。

「宝箱の中身は?」
「ええと…真っ黒なローブみたいですね」
「あ、それ透明マントですよ」
「透明マント?ハリーのポッター的なやつ?」
「ハリーのポッターが何かわからないです」

 そんなら使い方なんてこうだろ。

「お姉ちゃん消えちゃった!」
「匂いはわかるのに…」
「リコ?」
「おーこれ便利だな。こんな至近距離でアルティのおっぱいガン見しても全然バレな絶対痛い殴り方のやつ!!」
「それは私が管理します」

 そげな…
 うう、そんなんあったら女湯覗き放題なのに…って私女だった☆てへっ☆
 さ、茶番はここまでだ。

「さあ、いよいよ最後の階層だ」

 階段を降りようとしたとき。

「――――――――!!」

 ブワ――――っと言いようのない悪寒と、今まで耳にしたことがないような叫び声が私たちの全身を叩いた。

「何、今の…」
「あぅ…」
「…マリア、ジャンヌ、それにリエラも。二人はここで地上に戻った方がいい」
「リコリスさん…」
「何か嫌な予感がする」
「それが賢明じゃの。この下から感じるプレッシャーは、今までの比では無さそうじゃ。足手まといとまでは言わぬが、そなたらを守りながら戦うのは骨が折れるやもしれぬ。万が一が起きてからでは遅いのじゃ」

 退くことも勇気。
 師匠せんせいはそう言うけど、マリアとジャンヌは納得してない顔をしてる。

「私たちも!」
「行きます!」

 危険なのは間違いない。
 だから本当にみんなを思うなら、無理矢理にでも転移の魔法陣に乗せるべきだ。
 そうしなかったのは、私も師匠せんせいも甘いからだろう。

「弱いねぇ…」
「弱いのう…」

 折れたのは私たちの方。
 そんな顔されたら、ねえ。

「わかったよ。けど約束だ。無茶はしない。ヤバいと思ったらここまで退いて地上に戻る。いいね?」
「うん!」
「はい!」
「よしよし。リエラもだぞ。国のお姫様が倒れましたーなんて帰ったら、陛下直々に打ち首にされるんだから」
「フフ、はい。死なないように心がけます」
「あ、あのじゃあ…私はここで帰っても…」
「いいわけないです。行きますよ師匠」
「ぁい…」

 みんなの心構えが出来たところで、じゃあいっちょ攻略といきますか。



 第三階層。
 第二階層から続く階段を降りた先は、そのまま広いドームになっていた。
 1.5メートルほどの底が見えない溝を隔てて、円柱状のステージが
 階層そのものがボス部屋ってことかな。楽でいい。
 ドームの中心には台座があって、一本の鎌が突き刺さっていた。
 私たちが近付くと、鎌がスゥッと抜けて宙に浮かんで、青白い手がそれを掴んだ。

「ァ、アア…」

 淡い燐光を放つ透けた身体の幽霊が、落ち窪んだ眼窩でこちらを睥睨した。

「マリスシャープリッパー。奴がここの迷宮皇ダンジョンマスターか」
「見たことない魔物だけど、強い?」
「強いことは強い。が…こやつがあれだけのプレッシャーを放てるとは思えんのじゃが…」

 師匠せんせいは怪訝に顎に手を置いたけど、倒さなきゃいけないのには変わらない。
 私はステージに飛び乗った。

「ほらほら、そろそろ師匠も活躍するとき、です、よっ!」
「い、いや、私はべつにほぁぁぁぁぁぁあああ!へぶち!」

 エヴァちゃん思いっきり投げられたな…
 サリーナちゃん案外フィジカル強めだよね。

「大丈夫?」

 って手を伸ばしたら、急に溝から青い炎が吹き上がった。

「逃亡防止か侵入防止か…そっちは平気?」
「はい、全員無事です!」

 炎の向こうからアルティの声が飛んできた。
 向こうは魔物の心配無さそうだし、人数制限のギミックってとこか。
 ゲーム感覚か知らないけど、ヒリつく暇なんかあげないよ。

「急な2v1になっちゃったけど、よろしくねエヴァちゃん」
「よよよろしくお願いいたします…足を引っ張らないようにするので命だけは…」
「私をなんだと思ってんだ。怖くない、よっ!」

 霊体の腕を伸ばしてきたけど、そんなもんちゃんと見えてる。
 アンデッド系の魔物なら、がら空きの腹に【聖魔法】ぶち込んで終わりだろ。

強制ターン…!がっ?!」 

 マリスシャープリッパーの腹を叩くより速く、骨の尻尾が私の腹にめり込んだ。

「いや、そんなの生えてなかったろって…!」
「り、リコリスさん…!」

 奴は私たちの前で形を変えていった。
 人型だったはずが骨の尻尾と翼を生やしている。
 この魔物がそういう特性を持っているのか、迷宮ダンジョンという特異な環境がそうさせたのか。
 そんなことに脳の一部を使っていたせいか、振り下ろされる鎌への反応が遅れた。

「危ない…!」

 右腕が斬られる。そう思った瞬間――――――――

引力グラビテイション

 マリスシャープリッパーの身体が、エヴァちゃんの方に引き寄せられた。

重力核グラビティコア
 
 空間に現れた大きく真っ黒な球体が敵を押し潰す。
 透けた身体がひしゃげ軋み、円柱のステージを大きく揺らした。

「エヴァ…ちゃん?」
「あのえっと…危なかったのでその、余計なことかとは思ったんですけど…身体が動いたというかすすすすみません差し出がましくて」
「めっちゃカッコよかったのに土下座しちゃったよ」

 なんだなんだ…クールな顔もいいじゃない、エヴァちゃんよ。



 ――――――――



 ズシン!!

「何でしょう、今の震動…」
「お姉ちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫ですか?」
「リコリスですから心配はいりません。それよりもエヴァさんの方が」
「ああ、師匠も心配しなくて平気です。伊達に奈落の大賢者なんて呼ばれていませんから。まあ、大賢者って呼んでるのは女王陛下とお城の一部の人と私くらいですけど」

 面白可笑しくサリーナさんは笑って、青い炎の向こうに羨望の眼差しを向けた。

「師匠の魔法は大賢者随一。こと破壊に於いて、師匠の右に出る魔法使いは存在しません。それに」
「それに?」
「ああいえ!何でもないです!アハハ」

 何かをごまかすように見えたけれど、気のせいでしょうか。
 私もまた、炎の向こうのリコに思いを馳せた。



 ――――――――



「いやすっごいねエヴァちゃん。耐性ガン無視で魔法で殴るとか。今のって【闇魔法】?」
「あ、と…闇系統の魔法で、【重力魔法】っていいます。一応…私のユニークスキルで…」
「ほうほう【重力魔法】」

 引き寄せたり押し潰したりはそれか。
 重力操作と、超高密度に圧縮された重力による破壊…こっちの方が奈落の二つ名の本当の由来ってことね。

「エヴァちゃんやるんだぁ。めっちゃカッコいいじゃん。もっと自分に自信持てばいいのに」
「カッコいい…サ、サリーナ以外にそんなこと言われたの、初めてです。へへへ…」

 私はふと、うつむき猫背でモジモジと笑うエヴァちゃんの頬に手をやり、顔を上げて視線を交わした。
 
「うん、やっぱめっちゃ可愛い」
「あ、え、ほへ…」
「ねえエヴァちゃん、迷宮ダンジョンから帰ったらデートしようよ」
「デデデデデデデ!!デー?!」
「狼狽えすぎだって。ちょっとお茶しながらお話しよってこと。エヴァちゃんのこと、もっと知りたいからさ」
「あ、えっと…」
「その前にこの魔物にとどめを…って、おいおい」

 マリスシャープリッパーは、ひしゃげた身体を高く浮かばせた。
 霊体だもんな。そりゃ身体がひしゃげてても関係ないか。

「ァ、アァ、アァァァァ!!」

 怨嗟の声を上げつつ、背中から四本の腕を、口からは蛇みたいに長い舌をうねらせる。
 見た目は夢に出てきたらおねしょ確定の怖さ。
 けど、所詮は形が変わっただけだ。

「まだいけるよね、エヴァちゃん」
「ははは、はい…」
「じゃ、でっかいのよろしく!」

 低い体勢から思いっきりジャンプして、マリスシャープリッパーの上を取る。
 乱暴に振り回される鎌も、突き出してくる尻尾も、拳の壁も全部剣で捌いて、最後に脳天目掛けて振り下ろした。

「そぉい!!」

 高速で落ちるマリスシャープリッパーに対し、エヴァちゃんは魔力マナを集中させた。
 それはさっきよりも深く、重い、息苦しくなるような濃密な破壊の力。

暗黒天星ダークマター

 とてつもない衝撃が空間を震わせる。 
 黒いエネルギーが辺りを蹂躙し終わった後には、もう魔物は姿を消していた。

「ほいっと。連携ばっちし。やったね」
「へっ?あと…」

 いつものノリでハイタッチとかしようと手を上げてみたんだけど、エヴァちゃんは慣れてないらしく、猫みたいに中途半端な位置で手を止めた。
 そんなポーズもかわヨさんで、私はエヴァちゃんの手に自分の手を合わせた。

「はいニャーンニャンっ♡」
「ニャガぁ?!」
「ニシシ、エヴァちゃんとタッチしちゃった♡」
「ふゴっフッ!!」
「うおお吐血した!!なんで?!エヴァちゃん無傷でしょ?!」
「人との交流が少なすぎて…未知のコミュニケーションには耐性が無くごはぁ!!」

 精神が不安定すぎる。
 わちゃわちゃしてる間に炎の壁が消えて、アルティたちが合流した。

「さすがじゃのリコリス」
「いやいや、倒したのはエヴァちゃんだよ。エヴァちゃんすっげーの。師匠せんせいもわかったっしょ?」
「うむ。重くも曇り無き魔法は見ておらずとも総毛立った。魔力マナだけでわらわを震わせるとはのう。やるではないか」
「あり、あら、あじゃじゃしゅ!」
「何語じゃ?」
「す、すみま…あ、そ、そうだ…。階層主フロアボス討伐記念に名前彫っとこう…。奈落の大賢者…参、上…エヘヘ」

 自己顕示欲が。
 てか迷宮ダンジョンって自然消滅しちゃうんじゃないの?

「それにしても…あれだけのプレッシャーを放った割にはあっけなく事が済んだものじゃな」
「それな。正直、迷宮皇ダンジョンマスターってこんな感じかーくらいに思ってる」

 ま、終わったからいいんだけど。
 んー疲れた疲れた。
 帰ってご飯でお風呂でおやすみだ。

「さて、これで迷宮ダンジョンも攻略完了。もう充分楽しませてもらったし、そろそろ帰って――――」
「待ってくださいリコ」
「どした?」
「転移の魔法陣が…出現していません」

 …………はい?

「いやいやそんなわけ…あった!へ、なんで?どゆこと?確かにマリスシャープリッパーは倒したよ?エヴァちゃんの超魔法で跡形もなく消し飛んだんだから。間違いないよ」

 まさか、迷宮ダンジョンのバグで外に出られませんとか?
 運営デバッグしっかり。
 
「まあいっか。二階層の魔法陣が近いし、そっちを使えば」
「……………………ぁぁぁ」
「なんだ?今の声…」

 上を振り向くと。

「……ぁぁぁぁああああああああああああ!!」

 空からドロシーたち居残り組が降ってきた。
 ……なんで?



 シャーリーは軽やかに着地して、ドロシーはあたふたじたばたした挙げ句、リルムのクッションで一命を取り留め、その反動で私の腕にすっぽりとお姫様抱っこの形に収まった。

「し、死んだかと思った…漏らしかけた…」
「よーしお姉さんがパンツ着替えさせてあげるねハァハァ。じゃねーよ何しとんだここで」
「何って、アタシたちも迷宮ダンジョンに潜ったのよ。あんたたちが潜った後にね」

 涙目を拭うドロシーを地面に下ろすと、落ちた帽子を被り直した。
 ん?いや、おかしくない?

「ちょっといろいろあって私一回外に出ちゃったんだけど、みんなとはすれ違わなかったよ?」
「そりゃそうでしょ。なんせ入り口が違うんだから」

 ピクリと師匠せんせいの耳が動いた。

「入り口が、違う?」
「そうなのよ。あんたたちが迷宮ダンジョンに入ったあと、すぐ近くで違う迷宮ダンジョンの入り口を見つけたの。中に入ってみたら案の定、こうして繋がってたみたいだけど」
「ドロシーお姉ちゃんとシャーリーお姉ちゃんも、魔物を倒してここまで来たの?」
「私たち、二人で階層主フロアボスを倒したんですよ。エッヘン」
階層主フロアボス?」
「じつは私たち迷宮ダンジョンに入ってすぐ、長い落とし穴に落ちて、小一時間ほど滑り落ちてきたんです」
「暗いわ怖いわお尻痛いわで、しかも最後は放り出されるし。もう散々よ」

 そこまで聞いて、私もそれはおかしいって思った。 

「そなたらは階層主フロアボスを倒さずここまで来たというのか…いや、それはありえぬ。階層主フロアボスを倒さぬ限り、次の階層へはけして進めぬようになっておる。そもそも迷宮ダンジョンの入り口が二つあるということ自体がおかしい。未だかつてそんな現象は聞いたことがない」
「解明されていないが故の新発見、ということは?」
「だとしても迷宮ダンジョンの定義は変わらぬ。そなたらが階層主フロアボスを倒しておらぬということは」

 ゾワッ――――――――
 またあの冷たいプレッシャーが私たちを襲った。

「テルナ、もし…もしもです。迷宮ダンジョンの入り口が二つ…それは同じ迷宮ダンジョンの入り口なのではなく、別の迷宮ダンジョンのものだとしたら」
「なんじゃと?」
「たまたま、偶然にも近くで発生した迷宮ダンジョン同士が重なっている状態なのだとしたら」

 ドロシーたちが入ってきた方の階層主フロアボス…ないし迷宮皇ダンジョンマスターはまだ倒せてない。
 そんな可能性に鳥肌が立った。
 そして、その予想はマリアの【直感】により現実となった。

「みんな、危ない!!」

 咄嗟の出来事。
 乗っていた足場がひび割れ、退避の間もなくステージが崩落し、私たちは地の底へと落ちていった
 
「チッ!」

 【風魔法】でみんなを浮かせようとしたとき、エヴァちゃんが制止した。

「リコリスさん…わ、私が…。反重力場アンチグラビティフィールド闇大穴ブラックホール

 私たちの身体が落下を止め、降り注ぐ瓦礫が真っ黒な渦に呑み込まれていく。

「おお…!すっげー…!サンキュ、エヴァちゃん」
「こ、このまま下まで降ろします…」

 ゆっくりと降りること約3分。
 何百メートル落ちてきたのか、底に足をつけたときには、上の方の光はもう微かにしか見えなかった。
 炎を出して周囲を照らす。
 上より広い空間に、荒廃した遺跡が重々しく鎮座している。

「ひとまず全員無事みたいだね。ここが迷宮ダンジョンの最下層か」
「魔物が現れる気配は無さそうですし、やはり奥に進めということなのでしょうね」

 ギュッ
 マリアとジャンヌが私の服の裾を掴んで震えた。

「お姉ちゃん…ここ、なんかいやだ…」
「奥、何かいます…」

 確かにヤバい感じがする。
 【危機感知】がこんなに働いたのは久しぶりだ。

「オレンジ髪の娘」
「あ、は、はい!」
「そなたの【空間魔法】は転移は出来るかの?」
「小物くらいの大きさなら…魔力マナの総量が大して多くないので、人間となると一人か二人が限界です」
「ふむ、そうか。リコリスよ、事態が緊急性を孕んでおる故、撤退するならば妾が上まで皆を送ろう。なんせ二つの迷宮ダンジョンが重なるなどという事象、この妾ですら聞いたことがない。進むも退くもそなたの判断に準じよう」

 それを私に決めさせるってことは、師匠せんせい自身はやっぱり戦ってくれる気は無いらしい。
 それは、今回の迷宮ダンジョン攻略が非常事態でないからだ。
 師匠せんせいはこと戦闘において、非常時こそ私たちに手を貸してくれても、それ以外は手を出さない。
 師匠せんせい自身はそれを怠慢と言うけれど、最強はむやみに力を振るわない、振るってはいけないという矜持だということを、私は知っている。
 そんな師匠せんせいが言うんだから、この先は本当に危険なんだろう。
 そして進む選択肢を与えてくれているのは、私なら…と信じてくれてる証でもあるわけだ。

「うーん」

 しかしどうしたものか。
 みんなの安全を考えるなら、間違いなく撤退した方がいい。
 女王陛下からの依頼は失敗ってことになるけど、みんなの命には変えられない。
 事情を説明すればわかってくれるだろう。
 第一、ろくに準備時間を設けてくれなかった向こうに非があるよ。うん。
 そうやって、元来根付いた怠け癖が発揮されようとしているところ。

「あの…それじゃ、私だけでも行ってきます」

 エヴァちゃんがおずおずと手を挙げた。

「誰この存在感薄い娘」
「死っ!!」
「やめろデリケートなところだぞ!見ろ卒倒してんじゃねーか!てか迷宮ダンジョン入る前に見てんだろーが!ゴメンねエヴァちゃんうちのツンデレが!ねえ、ここは無理しないで一度戻った方が」
「あ、いえ、えっと、でも…異常事態なら、尚更存在してるうちにわかることだけでも解明しておかないと…。その、またいつこんなことがあるかもわかりませんし…自然消滅するまでに、他の誰かが危険な目に遭うかもしれませんし…。歴史的発見とかになったら有名になれるかもしれないしボソボソ…だ、だからその…」

 視線は泳ぎっぱなしだし、モジモジウジウジと声は小さくて聞き取りづらい。
 そんなエヴァちゃんを立てたのは、弟子のサリーナちゃんだった。

「もう、仕方ないですね師匠は」
「サリーナ…」
「自己顕示欲を満たそうとしてるのはともかく、師匠が行くって決めたんなら、弟子の私はそれについて行くだけです」
「ア、ヘヘヘ…じゃ、じゃあ…そういうことで…」

 なけなしの勇気を振り絞っているようには見えなかった。
 虚勢を張っているようにも。
 全然頼りないのに、その足はまっすぐ遺跡の奥へと進んでいく。

「彼女は、ちゃんと大賢者なんですね。私と違って」

 歩を進める背中を見つめ、アルティは言った。

「リコ」

 手を握って目で訴えかけてくる。
 お前はここで引き返してもいいのか、と。

「……らしくないか」

 ドロシーはやれやれといった風に。
 シャーリーはどこまでもお供しますと。
 マリアとジャンヌは震えながらも勇気を出して。
 アルティは私を信じて。
 ここに、逃げ出したい奴は一人もいない。

師匠せんせい、リエラをお願い。それにリルムたちも連れていって」

 ここから先は守りながら戦う余裕は無い。
 リエラの強さは承知の上で、王女殿下を危険に晒すのは無益だと判断した。
 リエラもそれを察し、黙って撤退を受け入れた。
 リルムたちも強さを信じてないわけじゃないけど、迷宮ダンジョンでやられた魔物は消滅する以上、万が一も無い方がいい。

『リルムたちもお留守番ー?』
「ゴメンね。帰ったらおいしいご飯いっぱい作ってあげるから」
『約束ねー』
「うん、約束」
「行くのじゃな。義理があるわけでもあるまいに」

 義理も高尚な理念もあるわけじゃない。
 退くよりかは、進んだ方が私らしくあるってだけだ。
 それに何より、可愛い女の子たちだけ行かせて逃げるなんて、そんなのは私のプライドが許さねえ。

「死ぬではないぞ、リコリスよ」
「死なないよ、私だもん。いざとなったら切り札もあるしね」

 ニシシと笑って踵を返す。

「ラストステージだ。気合い入れてけよ私の女たちおまえら
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