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今頃気が付いても後の祭りだよ

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SIDEタボーメン国王陛下


「お前たちは何てことをやらかしてくれたのだこの馬鹿者たちがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 城内、謁見室にてタボーメン国王は全身を震わせて、これだけでも少しやせたという位の物凄い怒声を放った。

「な、何をそこまで怒るのでしょうか父上!!わたしはこの麗しのエリザベートとの真実の愛に目覚めただけなんですが!?大体権力を持って肥大化しているようなディア公爵家などさっさと潰して、その領地を我々の直属に置き、金を搾り取ればいいのですよ!!」

 自分が間違ってもいないというように言うヒース・カック第1王子と、その横でうんうんと同意するあのようにうなずく、事の元凶であるエリザベート・ミッシャル男爵令嬢に、その他取りまきの者たちの様子を見て、タボーメンは頭を抱えたくなった。


「大体、王族の相手が務まるのは公爵ほどであり、その他の者たちを迎えようとしても、良くて側室ぐらいしかないのだぞ!!取り返しのつかぬ今回のような堂々とした婚約破棄をしなくても、そのエリザベート男爵令嬢とやらを側室に、マテラ公爵令嬢を正妻に置くだけでも十分だったではないか!!」
「ですがそれでは、マテラが自身に向かぬ寵愛の嫉妬を抱いて、エリザベートに対していじめを行う可能性があるではないですか!!一番丸く収まるのはあのマテラを追い出すことだと結論付けて…‥‥」


 ペラペラと、力説するヒース王子の様子を見て、この王子の無能さに気が付き、去れどももう後悔しても遅いとわかっているタボーメンは溜息を吐いた。


「はぁ、良いかよく聞け!!我が王族はなぁ、すでにあのディア公爵家の援助金がなければすでに家計は火の車となっており、相当な借金を抱えていたのだぞ!!お前があのマテラ公爵令嬢と結婚さえすれば、その借金も軽くされて、今後さらなる援助を見込めた物を、お前はたった一度過ちで失わせたのだ!!」


 びしっと、太りながらも腐っても王族の威厳を醸し出しながら指を突きつけるタボーメンの迫力に、ヒースは一瞬ひるんだ。

「今後既にあてにしていた収入も入らず、また公爵家はこのカック王国から出て行ってしまった!!」
「でしたら、その空いた公爵家の収入を王家に持って来れば!!」
「無理だ!!そもそもあのマテラ公爵令嬢はただの公爵令嬢ではなかったんだぞ!」
「はぁっつ!?」

 その言葉に、疑問の声を上げるヒースと取りまきたち。



 言い争っているまさにその時、緊急の連絡を持ってきた者が飛び込んできた。


「陛下!!緊急連絡です!!」
「どうした!!まさかもうすでに‥‥‥」
「はっつ!!元ディア公爵家が治めていた領地が‥‥‥ミストライ帝国にあるはずの『死の沼地』へと変わり果てています!!既に周辺にはその影響で毒素があふれ出し、もはやかつての豊かな地はどこにも‥‥‥」
「な、なんだと!?馬鹿などうやって領地が帝国の『死の沼地』に!?」




‥‥‥ミストライ帝国には、『死の沼地』と呼ばれる猛毒で汚染された沼地があった。

 その場所は年がら年中病を広げるような害となる毒を吹き出し続け、じわじわと国内へ広がろうとしていたのだ。

 きっかけは誰かが薬品を廃棄したのが原因らしいのだが‥‥‥死しかもたらさないその沼地が、王子たちが搾り取ろうとしていた公爵家の土地に突然出現したのである。


「いや、あり得ぬ話ではないな‥‥‥あのマテラ公爵令嬢の力によるものだろう」

 その報告を聞き、もはや絶望の顔しかないタボーメンはそのまま脱力して椅子に寄り掛かった。

「どういう事ですか!?あの女が何をどうやって‥‥‥?」
「いいかよく聞け。あのマテラ公爵令嬢はな‥‥‥近年まれにみるとんでもない魔法を扱う物だったんだ。どうやら彼女は物を遠く離れた場所へ瞬間移動させたり、場所を交換出来たりしたようだ。その有用性を悪事に使われぬように、特に阿呆なお前には話していなかったようだがな‥‥‥」
「はぁっつ!?」

 意味が分からないと言いたげなように叫ぶヒースに、タボーメンは馬鹿でもわかるように説明した。





 ものを移動させるだけの魔法と言うが、大規模なものをマテラ公爵令嬢は扱える。

 そしてその魔法だが、様々な有用性があるのだ。

 遠く離れた地の産物を新鮮な状態で届けてもらったり、むしろ自ら向かって手に入れたり。

 土地すらも交換できるようなので、どこかの領地とこっそり交換し、裕福な大地を手に入れたり。


 果ては戦争の際に敵地の真ん中に行き成り軍を送ったり、敵軍を海の上などに転送して厄介払いしたりと様々な事ができたはずなのである。



 そして、そのマテラがこの国を去って、そのディア公爵家があった場所がミストライ帝国の負の場所とも言えるような死の沼地と入れ替わったことから‥‥‥


「もし、かの国が責めてくるようなことがあれば我々は負けるだろう。何しろ軍を動かしても帝国へはいけずにどこか見知らぬ場所へ放り出されたり、いきなり大将の目の前に敵軍が湧き出たりなどもできるはずだ。ミストライ帝国で貧しい土地を、こちらの豊かな土地と入れ替えたりもできるだろうな。領地を奪ったと言っても、おそらくは聞く耳を持たぬだろうし、そもそもそんな人材手放した国が悪いのだ」
「な!?ならばマテラを指名手配して帝国へ行く前に」

「もう遅いは馬鹿者がぁぁぁぁぁぁ!!もうすでに帝国へ行っているだろうし、捕まえようにも自身を転移させて捕まらないだろう!!そもそも今回このようになったのは、お前が婚約破棄を突きつけ、さらに大衆の面前でありもしない冤罪をかぶせようとしていたことはすでに調べがついておる!!というか、他の貴族家もすでに周知の事実のようで、もはや王家を見捨てようとしてしまうだろうな!!」

 もはや自暴自棄のような吐き捨て方で、国王は怒声を放ったあと、疲れたように息を荒くした。

「と、ともかく本来であればお前は廃嫡だが‥‥‥もはやそれでは済まない状況となっておる。精々最後の国王としてあがくのだな。隠居してとっとと退位してやるから、残り少ない人生をどうとでも過ごせ!!金はもうなくなっているがな!!」

 そう叫び、国王は王冠をヒースの顔に投げつけ、そのまま去っていった。



 残されたのは、事の重大さを未だによく理解していないような脳内お花畑たちであり、会話を聞いていた城仕えの者たちは、もうここを見捨てて逃げようかと考え、決断してその日の夜のうちに、城からいなくなったのであった‥‥‥
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