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精霊の章

168話

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―――――――反魔導書グリモワール組織フェイカーが創り上げたと思われる怪物たちの巣窟へ、ルースたちが侵入して数分経過していた。

チュドオオォォォォォォォォォン!!

ドォォォォオオン!!

ゴォォォォン!!

ズッガァァァァァン!!

【【【【グギャァァァァァァァァァ!!】】】】


「‥‥‥弱っ」

 孵化したてなどがいるとはいえ、見た目だけであれば恐ろしい怪物たちを駆逐しながら、ふとルースはそう口にした。

【ぬぅ、手ごたえがなさすぎるのぅ…】
【いくラなンでもオかしイような】
「これなら都市を襲ってきたあの怪物たちの方が圧倒的に強かったでアル」

 口から光線をぶっ放しながら焼き払うタキに、シャベルで殴り倒し埋め捲るヴィーラ、金棒で爆散させるミュルも、全員同じ意見のようである。



 この場所が、都市を今強襲している怪物たちの生まれた場所なのだろうが‥‥‥それにしては、皆弱すぎるのだ。


 分かりやすく言うのであれば、都市にいたのが鉄の塊ならば、ここにいるのは豆腐並みの柔らかさである。


 何にせよ、手ごたえがなさすぎるが‥‥‥‥特に問題はない。


 魔法で消し去り、光線で焼き払い、シャベルで埋め、金棒で爆散させつつルースたちが奥へ進むと、一つの扉があった。


「頑丈な金属製の扉のようだけど…‥‥ここから何処かへつながっているのかな?」
「恐らくそうでアルな。ただ、組織にいたときに知っていたアジトなどはこの辺りにはなかったはずであるから……新しく出来た場所かもしれないし、警戒するでアル」

 扉に手をかけると、案外簡単に開いた。

 鍵はかかっていなかったようで、中へ入ってみると…‥‥そこはかなり広い空間になっていた。



「全部タイル張りと言うか…‥‥なんだこれ?」

 銭湯とか風呂場にあるようなタイル張りで床も壁も覆われているようだが、一体ここはどういう場所なのか。

 先ほどの怪物たちの場所とつながっていることと考えると、何処かの実験施設にもなるのだろうが‥‥‥



 と、ルースたちが警戒し、考えているその時であった。


『ふーーーーーーはっはっはっはっはっはっはっは!!このオレ様の作戦にかかってここまでのこのこ来るとは何てマヌケな野郎共だぁぁぁぁぁぁぁ!!』

ギイイイイイイイイイイイイン!!
「うわぁぁぁぁ!?うるさぁぁぁぁぁぁい!!」
「み、耳に来たアルよ!!」
【音量がおかしいのじゃぁぁぁぁ!!】
【鼓膜がぁァぁァ!!】


 突然、大音量で声が響き渡り、あまりの煩さにルースたちは耳をふさぎ叫ぶ。

 なんというか、マイクを使って無理やり大きな音を出した時に出るきぃぃぃんと来る音があるようで、かなり耳が痛くなったのである。


『あ、設定間違っていたな…‥‥あー、あー、マイクテス、マイクテス』
「設定間違えているのなら最初から確認しておけぇぇぇ!!」

 聞こえてきたその言葉に、思わずルースはツッコミを入れた。





 周囲を見渡すが誰もおらず、どこか離れた場所から音声を飛ばしているらしい。

 まだまだジワンと痛む耳を抑えつつ、ルースたちは身構えた。

「どこに隠れているかはともかく…‥‥何者なんだ」
『ここに侵入している時点でもう大体予想が付くだろう?オレ様の名は名乗るほどのものではないが、冥途の土産に教えてやろう。我が名はボルスター!反魔導書グリモワール組織フェイカーの、期待の新幹部の一人だ!』

……堂々と言ったが、「新」幹部ってことはミュルの後任ということなのだろうか?


『ん?んんん?おや、なぜ生きているんだ、この組織から抜けたはずの…‥‥えっと、上の幹部の人!』
「何でアルかその呼び方は!?」
『ええぃ!!いちいちオレ様の出世のために蹴落とした相手の名前など憶えているかボケ!!姿だけならまだしも、その詳細までは忘れたわ!』
「…‥‥蹴落とした?」

 ミュルへのその言葉に、ふとルースは気が付いた。


「‥‥‥そう言えば、以前ミュルに襲われた時に、使われたあの怪物がミュルも襲うようにされていたっけ……てことは、その細工を施したやつなのか?」
『ギクッ!!』



……ああ、この新幹部ボルスターとか言うやつ、もしかすると、いや、もしかしなくとも、とんでもない大馬鹿野郎だ。

 今「ギクッ」とか口に出しているし、自白したも同然である。


『‥‥‥‥えええええええい!!どうもでもいいわ!!とにもかくにも、もうこの幹部でもないただのやつには興味がない!それにオレ様はこう見えても忙しいのだ!!』

 忙しいのであれば、いちいち答えずともさっさと行動に移せばいいと思うのだが…‥‥そうルースたちは思った。


『しかし、今回の都市メルドラン制圧作戦を妨害されたようだし…‥‥ここで結果を残さねば、またあの残りの幹部共にねちねち言われるのは目に見えているのだ!!ああもう、結果を出していないやつらにねちねち言われるのは癪だ!!このオレ様こそが真の幹部に、いや、この組織のトップにふさわしいはずなのだ!』
「…‥‥そうか?」

 その言葉に、思わず疑問の声をルースは上げた。

 先ほどから冗長不安定すぎるというか、無駄にだみ声ででかくて…‥‥面倒くさい。


『そこで、今回のこの作戦を二重にしていた意味が、ここで功を指す!あの怪物たちの作成部屋を潰されてしまったようだが、貴様らの行動は遅い!!もうすでに、作戦は次の段階…‥‥新たな怪物を作り上げていたのだ!!‥‥‥まぁ、思った以上に侵攻されたから、慌てて怪物たちに回すエネルギーを使用したがな』

 ぼそりと今、何か重要なことが言われたような気がした。


 どうも先ほどの怪物孵化ラッシュをしていた部屋…‥‥あの卵がかえるには何かのエネルギーがいるようであったが、その分が新しい怪物とやらに回されたようだ。

 ゆえに、不十分な状態で孵化しまくったがゆえに、かなり弱かったのだろう。


「そう考えると、さっきの怪物たちの弱さに説明が付くな…‥‥」
『何をぶつぶつ言っている!!』

 ルースのつぶやきをどこからか見ているのか、新幹部とやらからツッコミが入った。


『ここの情報を持って帰ることができなくなるよう、貴様らをこの場で始末してくれるわ!!ゆけっ、できたてほやほや最新のフェイカー製生物兵器!!』

 そう声が響いたかと思うと、部屋の奥の方に扉が出現し、何かが出てきた。

 そこから出てきたのは、とてつもなく巨大な大蜘蛛のような怪物。

 
 全部の足が毛むくじゃらであり、力強いように太く、前足は釜のように発達している。

 そしてその頭は、蜘蛛ではなく、でかいボールに一つの眼球を嵌め、左右にヤギの角のような物を生やしたもの。


 ぎょろりと目を動かし、ルースたちの方をみて口を開いた。

【ゴゲェェェェェェェェ!!】

『フェイカー製最新生物兵器…‥‥「巨大単眼牛鬼」、通称「ビッグアイスパイダー」だ!もう貴様らの命運は尽きているからどうでもいいが、最後にこの怪物の名を知れてよかっただろう!!さぁ、あいつらを喰らってしまえビッグがぶっ!!…‥‥「ビアス」よ行けぇぇぇぇ!!』
「舌を噛んだから名前を省略しやがった!?」

 思わずツッコミを入れたルースであったが、今はそんなツッコミみよりも、目の前の怪物に対処するのが先である。

 全員戦闘態勢を取り、カサカサと台所の黒い魔物と言うようなアレのような気持ち悪い動きをした生物兵器……ビアスとやらが、攻め始めてくるのであった…‥‥。
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