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精霊の章

161話

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―――――今いるこの空間そのものが、精霊王自身。

 その事実は皆驚愕したが、精霊王が説明をして納得した。


 精霊と言うのは自然そのものの存在であり、精霊王の娘でルースの母でもあるアバウトのように人の姿をとっているような者もいる。

 だが、あえて姿を取らずにいたらどうなるか。

 その答えが、この空間そのものになるということだと言うのだ。



 その驚きの事実にルースたちは目を丸くしつつも、今回訪れた目的を思い出し、会談の場をすぐさま整えた。


……とは言っても、魔法で簡単な会議室にあるような机や椅子を用意しただけであるので、非常に簡単な造りとなっている。


 背の高い爺さん……パッと見、赤い服を着ればサンタのようにも見える爺さんの姿を精霊王がとり、改めて会談の本題へ移った。


「精霊王様、これが今回の題にした精霊薬なのですが‥‥」

 机の上に置くのは、あの地下で見つけてしまった精霊薬。

 正式名称が言いにくいので省略しているが、まぁ問題はないはずだろう。



 その薬をじっと見ながら、精霊王は口を開いた。

『ふむ、確かにこの薬はこちらで密かに隠していた品だが‥‥‥‥良く見つけたな』
「ええ、割とあっさりと」

 元々ヴィーラが掘っていた地下通路、その傍に隠れていたのがこの精霊薬の隠し場所だったのである。


【元々その薬はあタいが求めていタもノだったけれドも…‥‥色々アりまシて、いらナくなったノだ】

 ヴィーラがちらりとエルゼ達を見つつ、そう説明をする。

 
 強くなりたくて精霊薬を求めたのは良かったのだが、この世には強さでは計り知れないような恐怖があると学び、求めても意味がなくなってしまったのである。

 と言うか、ほぼその恐怖の原因がエルゼ達だという理由は複雑なところがある。

 まぁ、ミュルのような前例はあるのだが、割と短期間で立ち直ったメンタルは充分強い気がする。



 何はともあれ、必要性の無くなった精霊薬。

 それをどうするかと言うのが、今回の会談の目的であった。

「精霊王様、この薬をどうかできないでしょうか?」
『うむ、今度は誰も立ち入れぬようなところに保管しておこう。誰も知らぬ場所など、この世界にはゴロゴロあるからな』

 ゴロゴロあるって…‥‥具体性がなさすぎて検討が付かないな。


『というか孫よ、儂の血縁じゃし、わざわざ「様」づけしなくても良いのじゃが』
「え?」

 考えていると、唐突に精霊王がそう口にした。

『そもそも、儂が孫に会えたのはこの間の、孫の昏睡時じゃよ。こういう時にこそゆっくりと話し合いたいのに、なんでそんなに固いのじゃ』
「いや、でも仮にも精霊王に相手だと‥‥」
『王でしろなんにしろ、お前は儂の孫じゃ。なんといおうとも勝手にしていいのじゃ』

 ふんすっと鼻息を荒くして、精霊王はそう告げた。


…‥‥こんな人、いや、精霊が本当に祖父だと考えると‥‥‥


「あ、ルース君が複雑な表情になっているわね」
「まぁ、自身の祖父が威厳ある精霊王だと思っていたら、思った以上にフランクでイメージが一致しないのだろうな」
――――――前ニ見タ私達ハ分カッテイタケドネ。
【祖父のぅ、しゃべり方がどうも被っているから話しにくいのぅ】


 ルースの後方で、エルゼ達がひそひそと話す一方で、バルション学園長たちも微妙な表情になっていた。

「あーれが精霊王‥‥‥途中までは威厳あったーのに、なんか普通のお爺さーんになったわね」
「精霊は自然そのもの‥‥‥ゆえに、アレが素なのだろうな」
【‥‥‥今更だケど、あの薬ッテ効果あルかな?なんか見ていタら疑いタくなったわね】


 とにもかくにも、その場にいた全員が複雑な気持ちになるのであった…‥‥
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